踊る亡霊!バケモン

 脚本:浦沢義雄 演出:芝田浩樹 作画監督:八島喜孝
★あらすじ
 太一とヤマト、光子郎とミミの安否は確認されましたが、丈と空はどうしていたでしょう?
 どうやら海の上に落っこちたらしい丈とゴマモンは、ベッドの船で漂流していたところをオーガモンに襲われていました。間一髪でイッカクモンが登場し難をのがれるのですが、力尽きて進化もとけ、溺れかける破目になってしまいます。
 そんな二人を救ったのは、近くの分島で食糧確保の釣りをしていた空とピヨモンでした。

 苦境にすっかり意気消沈している丈を励ます意味もあり、ゴマモンたちは彼をリーダーとして持ち上げようと内緒で話しあいます。結果、なんとか元気をとりもどす丈でしたが、ゆくての霧の中からふしぎな教会があらわれました。そこには怪しげな仮面をつけた人々が…今度こそ人間に会えた! と喜んだのもつかのま、村人は幽霊デジモン・バケモンの正体をあらわしました。この教会こそバケモンの住み処・オーバーデル墓地だったのです。パートナーたちは腹ペコで進化できず、なすすべなく捕まってしまう一行。

 そのまま生け贄にされそうになる丈と空でしたが、看守をだまし食べ物をうばって脱出したゴマモンたちが、進化をしてかけつけます。しかしバケモンたちが合体したバケモン様は、強力なヘルズハンドを使う難敵でした。そこで丈が祖母から教わったありがたいお経をとなえると、なんとバケモン様が弱体化。その隙にイッカクモンたちの必殺技が炸裂し、なんとか危機を脱することができたのです。

 そのとき、地下から黒い歯車があらわれ、動きを止めました。見ると、彼方にはまだムゲンマウンテンが見えます。
 あそこにみんながいるかもしれない…。意を決し、丈と空はパートナーとともに、分島を脱出するのでした。



★全体印象
 新年一発目の感想、第11話です。タイトルコールは菊池正美さん(丈)。背景の影絵はバケモンです。

 この回、ひさしぶりに見たんですけどやっぱりいろんな意味ですごいお話だ(^^;)
 全編ハイテンションというか無茶だけど無茶なりに笑えるというか、デジモン全体でみてもこれほど浦沢さんの色が良い意味で出まくってるエピソードはないんじゃないかってくらいです。おかげでファイル島分散篇では浮いてますが、それもまた味のひとつ。

 今回ぶっちぎりで殊勲賞なのはやっぱり丈。持ち上げられてハイになってるというか、状況に頭ひっかき回されて脳内麻薬だだ漏れ(というかヤケクソ)になってるというか、どうしたんですか先輩ってくらいにモーレツなセリフと行動が目立ちました。そのためか、ふだんは冷静な押さえ役の空も今回ばかりはびっくり役とツッコミ役に徹してた印象です。まあそのくらいぶっ飛んだ展開なんですが。
 ゴマモンのボケも切れ味を増していました。八島さんの絵だとかなり崩れた表情も見せるんですが、お話には合ってたかと。
 同様のノリはこの先も17話や24話でみられるんですが、心に残るのはやっぱりこの11話ですね。

 こうして今見てみると、浦沢さんのノリは01の時点じゃうまく作用してたんだなあと感じます。結果論でしょうけど。
 これがやや方向性の変わってきた02になると、時として逆効果になる面もあったんでしょう。「テイマーズ」だと本来とくいとしていた不思議シリーズに舞台設定が近づいた(現実世界主体)ためか、前半から中盤にかけ名篇も残してますしそれほど浮いてもいないんですが。

 それにしてもなんでシリーズの最後まで書いてくれなかったんだろう、と思って少し調べてみたら、テイマーズの同時期にパラッパラッパーのシリーズ構成もやってたんですね。さらに秋からは「オコジョさん」にも参加してたようなので、このあたりを機会にシリーズから離れたのかも。で、これも調べてみて確認したんですが、この人の師匠は大和屋暁さんの父・大和屋竺さんなんですね。となると、フロンティアから大和屋暁さんがもどってきたのは浦沢さんが抜けたことと関係がありそう。穴を埋める人材として、東映か浦沢さんが呼び戻したってところでしょうか?

 作画は上で書いたとおり、6話と同様八島さんです。
 というか、30話以前の浦沢脚本は全部八島作画だったりします。これがまたよく合うんだ。
 後半はこの図式がくずれ、シリアスなお話もふえてくるので、また違った側面が出てくるのですが…それは別の機会に。



★各キャラ&みどころ

・太一・ヤマト・光子郎・ミミ・タケル
 今回はお休み。アバンタイトルのみの出演です。


・ 空
 何はともあれ、食糧を確保しようという姿勢はいかにもしっかり者といった風情です。
 丈に押されてそんなに目立ってませんが、要所要所で的確なツッコミを忘れないあたりはさすがというか何というか。

 またこの回では、帽子を木魚のかわりとして丈へ渡してましたが、東京篇ではとてもポクポク叩けそうにない布製になっており、一部に混乱をまきおこしました。いわく、「あれはデジタルワールドだからできたんだ」「いや、あれは東京篇になってから帽子を変えたんだ」などなど。まあ、その場のノリでああいう風になったと捉えるのが無難なんですが、つまんない解釈ですね。
 でもなぜか彼女、中学からは制服でも私服でも帽子をかぶらなくなってますね。なんか心境の変化でもあったんでしょうか。
 単に卒業したのかもしれませんが、これもつまんない解釈だなあ。

 …しかし、まさかこの回のお経が東京篇でまた活かされるとは思わなかった…。


・丈
 意気消沈から持ち上げられて大暴走してました。
 というより、このお話の先輩はどっかブレーキが外れてます。前半から何をするにもオーバーリアクションで後半は無気味なくらいハイテンションでしたし。あまり状況がぐるぐると変わるので心境がついていけず、壊れ気味だったのかもしれませんが…(^^;)

 まあともあれ、彼もやっと常識はずれなファイル島の冒険に適応してきたようです。無理矢理でも無茶でもいいから現実を受け入れ、とにかく自分にできることをやる。大ピンチの連続でこの境地に達することができたといえるんじゃないでしょうか。20話以降からの右肩上がりな成長を考える意味でも、今回の一種荒療治なできごとはなにげに重要かもしれませんね。
 最後の「行ってみよう!」はちょっとかっこよかったぞ。


・デジモンたち
 ゴマモンのボケ可愛さがとても心に残ります。水中での陸とは比較にならない敏捷な動きや、小石を牢屋の隙間から的に当てる意外な器用さも、ひさびさに見るとけっこう新鮮なオドロキ。もちろん、丈への思いやりも忘れてません。
 それにくらべるとピヨモンはちょっと地味だったかな…。彼女、甘えん坊なのをのぞけばわりと優等生ですし。空と似てる。


・バケモン
 オーバーデル墓地に住むゴースト型デジモン。成熟期ですが、見たところ一体一体はあんまり強くないようです。ただし、複数が合体すると「バケモン様」になりこちらは本物の強さ。バードラモンとイッカクモンの二体がかりでも苦戦をしたほどです。
 お経に弱いのは、念仏と称するように自分を追い払おうとする人間の念が苦手ってことなんでしょうかね。

 で、よくよく考えるとふしぎな事をしてます。バケモン様が本体でふだんは分離してるのか、それとも弱い個体があつまって強いバケモンを成立させてるのか、はたまた自分たちのデータを依り代に別個体の強いバケモン様を呼んでるのか…ふーむ、色々考えられる。
 もちろん、ああした霊魂が寄り集まってより強力な怨念の塊になるというケースはありがちなので、それに倣ったともいえますが。

 ところで「オーバーデル墓地」とは字のごとく「お化け出る」をもじった地名でしょうが、それだけじゃ詰まるまいと調べてみたら、[dell]という言葉には「(小さな)谷」という意味があることがわかりました。オーバーを「over」だとすれば、オーバーデル墓地とは「谷の上にある墓地」「谷を越えたところにある墓地」などという意味があるのかもしれません。
 …日本の地名にならうなら「越谷墓地」ってところなんでしょうか。あんまり怖くないなあ。


・ オーガモン
 前半のみの出番。なぜか木箱に乗って流れてきました。カナヅチということが判明しています。
 …ということは木箱を船に棍棒を櫂に、えっちらおっちら漕ぎ進んできたんでしょうか…。デビモンの命令だろうとはいえ、気の遠い話です。まあ彼くらいの体力があれば肉体的には大した苦じゃないんでしょうけど、内心うんざりだったろうなあ。

 そもそも、子供たちに出会えなかったらどうするつもりだったんだろう。方向感覚に聡いほうじゃなさそうですし…。
 あとで出て来た時は時間的にずいぶん経ってるので、そうとう苦労してたどりついたにちがいありますまい。


・ デビモン
 出番は冒頭だけ。ボスっぽい雰囲気を醸し出しつつ、高いところで笑ってます。
 レオモンも側にいないので、もう古代境に向かったんでしょう。



★名(迷)セリフ

「だからキャンプに行くのはイヤだって言ったんだー!! 来年は偏差値の高い私立中学を受験するというのに…」 (丈)
「そんなコトおいらに言われても、困るんだけど…」 (ゴマモン)
「じゃあ誰に言うんだー! ここにはぼくとゴマモンしかいないんだぞー!」 (丈)
「んあ、そうだけどー…もーちょっと希望を持ってただよっていたほうが船酔い…じゃなくて、ベッド酔いもしなくてすむ…」(ゴマモン)
「希望と船酔いとどーゆー関係があるんだー!!」 (丈)


「ひょっとしたら食糧かも!? カンヅメとか、レトルト食品とか!」(丈)
「まさかぁ」(ゴマモン)
「今希望を持てって言ったばかりじゃないかー!!」(丈)
「おこるなよぉ」 (ゴマモン)


 このへんが私的に最高です(笑) 丈先輩のぶっ壊れたリアクションが笑えてしょうがありません。
 船酔いでゲーゲー吐いてる先輩の背を、ゴマモンが自然なしぐさでさすってるのがまた好み。


「正真正銘の悪のデジモン、オーガモンが海の小魚にやられてる…!」(丈)

 ものすごい説明セリフです。でもこれも味のひとつになっちゃってる。


「食糧でも確保しようと思ってね」(空)
「えらーい!」 (ピヨモン)


 4話あたりだったら「えらーい!」じゃなく「すごーい!」だったにちがいない、と言ってた人がいます。
 私もそう思いますね。


「木の根っこにだまされたでかい魚がかかったー!」 (空)

 超・説明セリフその2。妙に笑えます。


「これからも何が起こるかわからないのに、このままじゃ冒険できない」 (ゴマモン)
「どうすればいいの?」 (ピヨモン)
「リーダーにして、自信をつけさすんだ」 (ゴマモン)


 丈が聞いてない場面というのがミソ。もちろん聞いてるときに言っちゃ意味がないですが、こうした気遣いもゴマモンの味です。


「…ぼくがリーダーになった記念の鐘?」 (丈)

 地味にえらいボケを飛ばしてます。


「え、塩分はひかえめにしたほうがいいんじゃない?」 (空)

 いやお嬢さん、そんなツッコミをしてる場合じゃありませんがな。
 なんか大輔の「襲う前に手を洗ってくれェ!」を思いだします。


「鼻水で鼻ちょうちんを作って眠るデジモンくらい、だまされやすいデジモンはいない!」(ゴマモン)
「そんな断言しちゃっていいの?」(ピヨモン)
「いい!」(ゴマモン)


 こういうまるで根拠のない理由(しかもなぜか当を得ている)で作戦を立てたりするのも浦沢さんのお話ではよくある事です。
 ときにはこっちの想像を絶するようなやり方で危機を脱するケースも…。


「田舎のおばあちゃんから、テストができるようになるありがたいお経を教わったことがある!」(丈)
「……バケモン様に効く?」(空)
「ありがたいお経だ、効くにちがいない!!」(丈)
「なんなのその自信…ちょっとこわい…!」(空)


 なんとなくですが、丈ってけっこうおばあちゃんっ子なのかもしれませんね。
 そんなおばあちゃんから教わったお経ならまちがいがないという思いが、あの自信につながったんでしょうか。
 というかここの丈はもう完全にやぶれかぶれになってたんですが…。

 で、そのお経が実は「てすとよくできる」の逆読みなデタラメだったのは周知の事実(笑)


「木魚ッ!!!」(丈)
「はいッ! え、ええと、えと、えっと… あ」(空)


 問題のシーンです。帽子をはずすときの「キュポッ」という効果音がポイント。どう見てもヘルメットだ…。


「ホントにバケモン様のパワーが弱まった!」 (空)

 超・説明セリフその3。どんなときでも指摘されないうちは様づけなあたり、「私のレオモン様」を思いだします。


「なんだかわかんないけどすっごーい!」(空)

 空もいいかげん、やけくそになったようです。

 そういえば、この回ははじめて実際にデジモンを倒した回なんですね。相手がお化けなんで、実感うすいけど。
 エテモン篇あたりからはもっとバンバン倒すようになってきます。



★次回予告
 1クールめ屈指の名エピソード、タケル&パタモン篇を語る時がきたようですね。
 こうして見ると、直井作監の絵もわかりやすいなあ。