冒険!パタモンと僕
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脚本:まさきひろ 演出:今村隆寛 作画監督:直井正博 |
★あらすじ
バラバラに分断された子供たち。最後のひとり、タケルもまた割れた島へ墜落していました。もちろんパタモンもいっしょです。
あてもない道中の先にあらわれたのは、デジモンたちが産まれるはじまりの町。数え切れないほどおおぜいの赤ん坊たちがいます。
なりゆきで世話をはじめてしまうタケルたちでしたが、そこへあらわれたのはエレキモンでした。
赤ん坊たちの保護者を自称するエレキモンは、ふたりを賊とカン違いして襲ってきます。応戦をしようとしたパタモンにタケルが割って入るのですが、どうやら収まりがつかない様子。そこでタケルが提案したのは、綱引き相撲でした。
夕焼けのなか、力くらべをする二匹のデジモン。勝ったのはパタモンでした。同時に、エレキモンの誤解もとけたのです。
やがて、ベビーたちの一匹が進化をしました。それを見てパタモンは思いを馳せます。
自分もいずれ進化するだろうけど、そうなってもタケルは友だちでいてくれるだろうか?
タケルが望むのなら、ずっとこのままでもいいのではないか? と。
しかし、事態はそんなふたりの思惑を越え、残酷な現実を突きつけようとしていたのです…。
★全体印象
12話です。背景の影絵はパタモン。タイトルコールは小西寛子さん(タケル)と松本美和さん(パタモン)のふたりです。
こうして見るとひと目でわかる今村演出に、これもひと目でわかる直井作画、それにタケルとパタモンの年少組らしい舌ったらずなやり取りが可愛らしい、全体的に静かなほのぼのムードの回ですね。特にパタモンはかなりかわいい。進化もはでな戦いもないので、ある意味じゃ第1クールどころか、01全体からみてもかなりの異色エピソードといえるかもしれません。
しかしそんな中にあってもタケルの過去と、悪のデジモンとさえ争いを避けようとする性格形成の理由は容赦なく挟まれていました。後者はヤマトや彼自身のセリフと、断片的なイメージで類推するしかないのですが、こうして見るとタケルもまだまだ頑是ないというか…後年の彼からはあんまり想像のつかないことを言ってたりして、なんだか切なくなります。13話のできごとはもしかすると、タケルの中のある一面を何か根本的に変えてしまったのかもしれません。つくづく罪な男です、デビモンというのは(誤解をまねくような言いかたはよしなさい)。
もし伊織がこの頃のタケルを見たらどーゆーリアクションを取るのか、かなり興味がありますね。
映像的には心に残るカットがいっぱいあります。野っ原の中に唐突にあらわれる踏切、ゆれるダンデライオン、タケルとパタモンの影。はじまりの町の木立にゆれる子供用のおもちゃ、真横からのカットで見たスパークリングサンダー、少しずつ少しずつ上がっていってすーっと下がっていく進化ゲージ、舞い散る羽根。幻想的ですらある数々のイメージは、どこか寂しげでもありました。
彼らベビー…いや、デジモンたちはもともとひとりで生まれ、ひとりで学び、ひとりで生きていくすべを学ぶのでしょう。野性の動物がそうであるように。時に連帯をしたとしても一時的なもので、共生とまではいかなかったのでしょうね。
となると、子供たちの来訪はそうしたデジモンたちの意識ですら、少しずつ変えていったのかもしれません。いや、変わろうとしていたからこそ子供たちが必要だった。そうは考えられないでしょうか?
ミミを中心に団結したファイル島の仲間たちを思いだすと、そんな考えも頭に浮かんできます。
ところで冒頭、オーガモンが叱責をうける場面がありましたが……あれは丈の始末に失敗した咎でしょう。
この場面のオーガモンは見てられねーくらい卑屈で泣けてきます。デビモンに完全にびびってたんだろうなあ。
さて、これまでの事実を総合すると
オーガモンが木箱に乗ってせっせと漕いでいき丈を攻撃 →逃げられて叱責 →レオモンがミミと光子郎を襲撃 →失敗
→そのまま夕方までのんびり →状況を確認 →タケルを襲わせる
こうなるんですが、なぜかレオモンも「申し訳ありません」と言ってます。
たしかレオモンがダイノ古代境に行ったのは明るくなってからだったんですが……あれ?
★各キャラ&みどころ
・太一、空、ヤマト、光子郎、ミミ、丈
今回はお休み。ただ、そろそろ第1のクライマックスなので全員の顔出しはあります。
・タケル
さすがに直接的には描かれてませんがたぶん彼、物心ついて最初に見たのが父と母の喧嘩してる姿だったんでしょうね。回想シーンの積み木くずしは、その暗喩でしょう。そんなとき、手をさしのべてくれたまだ小さな兄の手が、それだけがふしぎに印象的で、あとはもしかしたら言葉であらわすには茫洋としていて、それでも感覚的に「争い」そのものを忌避しようとする気持ちが根っこに育っていた、と。
ひょっとしたらアレなんでしょうか。彼、自分が原因で親が別れたとでも、どっかで思い込んでたのでしょうか。
争いの原因となった自分が早くしっかりすれば、全てがもとどおりになるかもしれない。そう考えていたのでしょうか。
でも物事がこじれる理由というのはそんな単純なものではなくて、もっといろんな事情がひどく複雑に、子供が理解するにはすぎるほど複雑に絡みあっていて、そんなに簡単にはいかない。タケル自身のことは、遠因のほんの一部でしかないでしょう。
そんな怪奇で、ある意味醜悪な世界を知ってもなお、希望を持ちたいと願う心。それがタケルの紋章の力だと思います。
だから彼はいつしか、そんなささやかな希望さえをも断とうとする力を激しく憎むようになったのかもしれません。
「02」の19話を書いたのが同じまさきひろさんだというのは、興味深い事実です。
・パタモン
こんなにしゃべるのはほぼ初めて。そのため、やや希薄だったパーソナルが一気に補填されました。
しかし放映当時も言われてましたが、けっこうナマイキで喧嘩っぱやいですね(^^;) 02前半の描写に違和感が少なかったのは、やっぱり01の時点からそういう面をちょくちょく覗かせてたからなんでしょう。というか、良くも悪くも子供っぽさがあるんですね。
その一方、タケルに対してはどこまでも率直で素直…と見せかけて、この時点では「我慢している」感情がありそうです。ただそれも、タケルが望むのならという、あくまで彼の気持ちを考えてのもの。でも、そんな小さな「望み」
さえ覆いつくし、摘み取ろうとする力が襲ってきたとき、彼は大好きなタケルを護るために、みずから小さな姿を振り捨てて白い翼を身にまとうことになるのです。
ですがそれはすなわち、タケルの存在というより大きな希望のため、小さな願いを捨てる行為にほかなりません。
こうして見ると悲壮感さえ感じるのに彼やタケルが笑顔を絶やさないのは、紋章に象徴されるその心がそうさせるのでしょう。
闇に負けないように。希望を捨てないように。
・エレキモン
はじまりの町で(たぶん勝手に)子供たちを世話していた成長期デジモンです。
少々思い込みがはげしくて喧嘩っぱやいようですが、もちろん悪いヤツじゃありません。むしろ、ハッキリしないことがキライでそそっかしいところがちょっと大輔にも似てます。そういえば、大輔も赤ちゃんたちに好かれまくって「大輔だよねぇ〜」なんて言われてたっけ。
声を担当する高戸靖弘さんは、この時間帯じゃもうお馴染みの人です。どっちかというとお人よしで真っすぐな役どころが多い印象。
のちに「フロンティア」で十闘士にあこがれる一本気なゴツモンを演じてますし、「金色のガッシュベル」 のビョンコも、臆病なだけで根っこは悪いヤツじゃありませんでした。拍車をかけていたのが高戸さんの声なのはまちがいありますまい。
・デビモン
部下の失敗を目の前にしても、まだ泰然としてます。なんか余裕ぶっこきすぎな噂もありますが、次回で本気を出すということで…。
にしても、あんなにハッキリ状況がわかるんならもうちょっと的確に動けよ(^^;)
・ 野原の踏切
不条理シリーズその10。このあたりは後々つながってきます。
…それにしてもタンポポやふつうの魚が当たり前のように出てくるなあ。デジモンとは直接関係ない生態なんでしょうけど。
ゴマモンが呼ぶのは、これらとは全然ちがう魚なんでしょうね。どっちかというとデジモンっぽい姿だし。
★名(迷)セリフ
「なにに進化するって、そんなの進化してみなきゃわかんないよぉ」(パタモン)
あらかじめわかってるわけじゃないんですよね。
アグモン→グレイモンあたりなら、もしかしたら推測がついたかもしれませんが…天使型はデジアド世界じゃレア中のレアだからなあ。
「んー…たぶんこんなモン!」
「じゃ、きっとこんなモン!」
(タケル)
かわいらしい場面ですが、もしホントにこんなのへ進化したらタケル、逃げそうだなあ。
それ以前にパタモンが全力で拒否してる以上、ありえない話です。
ちなみにタブンコンナモンとキットコンナモンのタイプは「想像型」デジモンみたいですね。
ほっといたら、ヒョットシテコンナモンとかモシカシテコンナモンなんてのも出てきたかも…。
「どっちに行ったらいいと思う?」 (タケル)
「どっちでも。ボクはタケルについてくだけ」(パタモン)
電車もこないのになんとなく待ってるふたりの影絵と、パタモンのなにげないセリフが心に残ります。
直後、靄がはれるようにすーっとあらわれるはじまりの町もまた、不思議なイメージ。
「楽しいね、タケル」 (パタモン)
「うん」(タケル)
これといって危険もなく愉しげなはじまりの町を満喫しています。状況のわりにタフな二人組だ。
それにしても、まさにこの瞬間にヤマトと太一が殴りあいしてたのかもしれないと思うと可笑し…いやいや、悲しくなりますね(^^;)
「『わたしをなでなでして』?」 (パタモン)
なぜか手紙が置いてあるあたり、すぐに思いだすのは「不思議の国のアリス」。
この場合、なんでとか誰がとか考えるのは意味がないんでしょう。あるものはあるんだから仕方ないのです。
「赤ちゃんのときのことはおぼえてないよ。タケルはおぼえてる?」 (パタモン)
「うーん…………よくわかんない。おぼえてないかも」(タケル)
これはウソをついたというより、稚い言葉にあらわすにはあまりに断片的でよくわからなかったからなんだと思います。
私自身、乳飲み子のころの記憶はおそろしく断片的ですから。
「…やめてよ君たち。ケンカはよくないよ。ベビーたちも怖がってるじゃないか」 (タケル)
これって、やっぱりもっと小さいころに味わった「恐怖」からきてるのかもしれないなあ。
「ねー、君たち知ってる? ほんとうのガキほど大人ぶるんだって。やだねー」 (パタモン)
「く、くううう…なんでえ、なんでえ! 文句があんなら直接言えばいいじゃねえか!
表面じゃいい子ぶって、影で悪口言いふらすって口かぁ!?」(エレキモン)
うわー、パタモン性格悪い(^^;)
エレキモンもなかなか言いますね。
この後夕暮れになって相撲対決になるんですが、あの行司服とまわしとヒモはどっから調達してきたんでしょう。
まさか衣装棚があったとも思えないし、といって自前で作ったわけでもないでしょうし。ふしぎだ。しかも一瞬でもとに戻ってるし。
…深く考えないようにしよっと。
「子供のケンカならいいよ。すぐ仲直りできるから。でも、大人のケンカは……」 (タケル)
初見でいちばん印象に残ったセリフです。
弱冠7歳にこんなことを言わせるようなことをしたという事実だけで、私は親御さんたちをろくでなしだと思い込んでました。
もちろん、ほんとはそうじゃなかったんですが、おかげで当時はかなり驚きました。ま、私も子供だったってことでしょうか。
なら今は大人なのか、とおっしゃる? いや、まあ…ははは。
「さっきの気持ち、思いだして。みんな一緒に笑ったよね」
「なにかが起きる気がするんだ。ボクたちの心が、ひとつになったとき…」
(タケル)
率直な気持ち。きっと、タケルがほんとうに望むものはああした一時なんです。
だってこの言葉、「いつかは家族がみんな戻ってきて、いっしょに笑えると信じたい」彼の気持ちをそのまま体現したものですから。
しかしデビモンのような闇や絶望の前に、それはあまりにも小さくて脆い希望。だから彼は口に出すよりも胸に秘めて、笑顔だけなくさないようになっていったのかもしれません。言葉に出して形にしてしまうと、闇の爪に切り裂かれてしまいそうだから…。
「…ボクもいつかは進化するんだ。…それはいいんだけど、そうなっても、タケルと友だちでいられるのかな?」 (パタモン)
「やっぱり君も進化したいの?」 (タケル)
「そ、そんなことないよ! ボクはこのままでいい。ずっとこの姿のまま、タケルのそばにいる」(パタモン)
「うん! やくそくだよ。ボクたち、ずっと友だちだからね!」
(タケル)
この頃のタケルは、別にパタモンの進化をいやがってるように見えません。進化しても友だちでいられると信じ、疑ってすらいません。
戦いと進化が別であるという認識だったのでしょうか。でも、この01に関するかぎり戦いと進化は切っても切り離せず、パートナーが進化するということはイコール、敵と争い倒すことにほかなりません。彼は次回、そのことをいやというほど思い知らされることになるのです。
それでもなお、彼とパタモンの友情が失われなかったのは正しく、最後に残った希望なんでしょうね。
★次回予告
ついにデビモンとの決戦です。数々の戦いに勝利してきたパートナーたちを圧倒する絶望的な強さは、まさにボスの風格。
エンジェモンの背中越しの横顔とタケルの涙が、悲劇を予感させる仕上がりです。