エンジェモン覚醒!

 脚本:西園悟 演出:角銅博之 作画監督:海老沢幸男
★あらすじ
 デビモンの差し金で、闇のレオモンとオーガモンに襲われたタケル。
 間一髪でヤマトと太一がかけつけますが、レオモンは飛来した黒い歯車の力が上乗せされて手がつけられない強さです。
 そこへトゲモンとカブテリモンが加勢。光子郎の提案でデジヴァイスの力が発揮され、レオモンを操る闇はふたたび除去されました。

 正気にもどったレオモンは、デジモンワールドに伝わる伝説とその噂について語りはじめます。この世界が闇におおわれたとき、デジモンを進化させ暗黒をはらう聖なるデバイスを持った子供たちがあらわれ、救世主となってくれると。…もしもそれが本当なら、もとの世界にもどるためにはデビモンを倒さなければなりません。子供たちは対決の決意を固めます。

 そのとき、ありったけの黒い歯車を集め、オーガモンをも取り込んで超巨大化したデビモンがあらわれました!
 彼の力はすでに、グレイモンたちが束になってかかってもまるで歯が立たないほどです。たちまち追いつめられる子供たち。
 そして、デビモンはいまだパートナーが進化していないタケルへねらいを定めます。彼を守ろうと必死に攻撃するパタモンでしたが、圧倒的な闇の前にはあまりにも無力でした。ついに最後の希望が覆いつくされようとしたそのとき、デビモンの手のなかからまばゆい光が……。
 パタモンがついに進化を遂げたのです。その名はエンジェモン!

 デジヴァイスの光をすべて自らに集め、相討ち覚悟のヘブンズナックルをはなつエンジェモン。巨大な闇をも跳ね飛ばし、ついにデビモンを倒すのですが、それでもなお奴は笑っていました。海の向こうには自分をも凌ぐ闇のデジモンがいるというのに、ここで斃れてどうするのだと。
 消滅したエンジェモンは、デジタマとなって戻りました。タケルは、その卵を大切に育てることを誓います。

 海の向こうには、さらに恐ろしい闇のデジモンがいる…。
 落胆する子供たち。と、にわかに地面がくずれて奇妙なプロジェクターがあらわれました。そこには謎の老人の姿が…。



★全体印象
 第1クール最後をかざる13話です。タイトルコールは松本美和さん(エンジェモン)。背景ももちろんエンジェモンです。
 今さら言うまでもありませんが、このお話は第一の節目であると同時に、デジモンアドベンチャーおよび同02という、一連のドラマ全体においてもきわめて重要なエピソードでしょう。なにしろ02でよりクローズアップされた「光と闇の相克」が本格的にフォーカスされただけではなく、両作でもっとも長くメインを張ったタケルという少年にとって、忘れられない事件が起こっているのです。

 もちろん他のメンバーも続々と集結して、かぎられた出番でやれるだけの奮闘を見せていますし、デビモンとの決戦にさいしては一人ひとりがパートナーの背中に声をかける場面も用意されているため、まさにこれまでの冒険の総決算、第一のクライマックスにふさわしい展開に仕上がっているといえるでしょう。スタッフも自信をもって送りだしたものと思われます。

 それにしても、タケルとパタモンへの比重がなおも強いこの回にあってさえ、太一の影が薄れないのは大したものです。
 じっさいの戦いではタケルを除くほかのみんなと似たりよったりだというのに、出てきたとたんに第一の主役の貫録と存在感を発揮しているではありませんか。その不敵な行動力、決断力、勇敢さ、すべてが自然と彼をリーダーの座へ導いているのです。
 …まあ、後年の事情を思うとこのへんは「タケルの贔屓目」だったのかもしれませんが。

 脚本は西園悟さん。これまでの担当回をみると、全員にまんべんなく出番があるお話を高いレベルで仕上げてきてますね。シリーズ構成の仕事をしっかりやってるってことでしょう。また、デビモンが全面的にかかわるお話は両方ともこの方がつくったことになりますから、離散篇でタケルのお話を担当しているまさきひろさんがあの02・19話をまかされたのは偶然じゃなく、必然なのかもしれません。
 もっとも、02のタケルがあのようになっていったのにはプロデューサーの意向も入ってるっぽいのですが…。

 絵については、初見で思っていたより美麗なカットが多いですね。よく見ると原画にとみながまりさんも参加してます。この方もたいへんな腕ききとして知るひとぞ知る存在ですから、当然といえば当然だったのかもしれません。東映作品では「セーラームーン」後半で何本か作画監督を担当しているので記憶している人も多いでしょう。また、同氏は「名探偵コナン」キャラクターデザインも務めているようですね。

 そういうわけですから、本来の作画監督である海老沢さんの画は相対的にかなり減ってます。そんでもって、出てくると一発でわかる度合いもパワーアップしているので、注意してればすぐに見分けられるでしょう。
 同じスタジオということで諏訪可奈恵さんとはほぼ必ず連名で参加していますから、自分で何もかもやるのではなく、補佐の手も全面的に借りて仕事を仕上げていくタイプなのかもしれませんね。「ボンバーマンジェッターズ」あたりではさらに自分で描く度合いが減少してたっぽいので、作監に名前を見つけたときは目をうたがったものです。



★デジモンたちの世界
 12話を見て思いましたが、01のころはまだデジモンワールドと呼ばれてたんですね。
 どのへんから「デジタルワールド」になったのでしょう? やっぱり02からかな。



★各キャラ&みどころ

・太一
 自分を囮にレオモンを引きつけ、至近距離でデジヴァイスの光をぶつける度胸は並たいていじゃありません。
 この行動のおかげで、せっかく駆けつけたヤマトの影が瞬時に薄くなってしまいました。

 また、デビモンを倒そうと最初に言いだしたのも彼でした。彼の音頭がみんなを勇気づけてくれたのはたしかでしょう。
 この段階ではほかに手がなく先が見えないということもあって、みんなの同意を得られています。
 ただタケルの無言が少し気になる…。


・ 空
 丈とともに後から到着し、みんなが進化するまでの時間稼ぎをしました。
 たとえ進化してもデビモンに勝てるわけではなかったのですが、彼女たちの働きがなければその進化さえできなかったのですから、間接的に重要なはたらきをしたといえるかもしれません。ただ遅れたぶん、あんまり作画にめぐまれてませんね。


・ヤマト
  タケルの危機にはまっさきに駆けつけ、苦境にあっても最後までタケルを庇おうと頑張ってはいます。
  ……でもなんかこの回においては影が薄いですね。パートナーの出番はグレイモンとならんで多めなんですが…。


・光子郎
 レオモンを正気にもどす策を太一にさずけ、さらに「打倒デビモン」の結論へ道しるべをつけました。
 彼が状況をまとめ結論を導きだし、太一が最終決断をする。この形はわりにスタンダードという気がしますね。
 さすがはシリーズ随一の参謀役といわれるだけのことはある。 立ち位置的にもいちばん動きやすいところにいます。


・ミミ
 デビモンを倒すことには同意したものの、やはり恐ろしい戦いには忌避の気持ちを持っているようですね。
 海の向こうにいるという敵の存在を知ったときのやり切れなさげな口調が、それを物語っていました。


・丈
 空とともに決戦に遅れて参加、加勢をしました。
 いい位置から奇襲攻撃を当てたまではよかったのですが、真っ向相対で気を張ってるデビモンには通用しませんでした。
 これからもまだまだ続くであろう冒険に、ミミと同じくらい落胆の声をあげてます。


・タケル
 今回はほんとうに守られてばかり。エンジェモンが身を捨てて戦うのを、ただ見ていることしかできませんでした。
 友として認めた存在が何もしてあげられないまま目の前で消えていくというのは、どんな気持ちなのでしょう? 想像もつきません。

 しかし、底なしにも思われる無力感と絶望に襲われながら、彼はそれでもパタモンとの再会を信じ、けっして膝を折りませんでした。力を持たない自分にとって、それが己を捨てて自分を守ってくれたパタモンにしてあげられる唯一のことだと、信じつづけていたのでしょう。そしてそれこそがタケルの強さであり、希望の紋章の持ち主としての力だったのです。

 が、タケルの心はどこかであの時点のまま、止まってる部分がありそうですね。
 後年この事件についての述懐が聞けますが、三年という時間が経ってもなお、この時のトラウマから脱しきれていません。同時に見せた彼らしからぬ怒りの表情は、闇そのものよりもむしろデビモンという存在へ向かっているように見えました。というよりデビモンを見たことが、彼から正常な感覚をうばっていたのかもしれません。賢に対してああいう態度に出たのも、暴走しがちな自分の気持ちを無理矢理押さえ込んだゆえのものであったと推測しています。笑顔は激情を相殺する、リアクターのようなものでしょうか。

 というわけで、もしもタケルに弱点があるとしたらそれはデビモンの再来でしょう。
 ありえるとは信じがたい事態ですが、その時こそ彼は完全にキレて冷静さを失うでしょうね。きっかけだけで正気を失う人がいるように、デビモンの存在を感じることは彼にとって、長らく毒であり続けたにちがいないのですから。
 …条件的にみてこれは一種のPTSDだったのかもと思いましたが、医学にはくわしくないので断言はよしておきます。


・デジモンたち
  言うまでもなくパタモンとエンジェモンが独壇場を演じてます。
 ほかのパートナーたちも頑張っていますが、いかんせん今回ばかりは引き立て役でしかありません。

 パタモンが最終的に求めたものは、タケルの望むまま小さな姿であり続けて消えることではなく、大好きなパートナーを守れる力でした。
 それはタケルが本当に求めていたものとは剥離するけれど、彼という存在が消されてしまうのはもっと嫌だった。だからパタモンは、それくらいなら自分が消える道を選んだのでしょう。人間であるタケルは、消えればそれっきりの存在。それを本能の深い深いところで察知していたにちがいありません。なぜできたのかと言われれば、たぶん基本データに織りこまれた使命が可能にしたのでしょうけど…。

 …しかし、このことが何を生んだか。
 デビモンはタケルを殺すことには失敗しましたが、この時点をもって彼らふたりに穏やかな日々ではなく、闇をはらうために戦わねばならない使命をたたきつけてしまいました。ふたりのささやかな願いは、デビモンの爪によってむしり取られたのです。

 だからタケルは、そして恐らくはパタモンも叫ぶんでしょう。憎むべき闇の爪と同類の魔物へ向かって。
「なぜ出てくる!? なぜ放っておいてくれない!!」と。


・ レオモン
 なんでデビモンが彼に目をつけたのかといえば、やっぱり強いからでしょう。
 たぶんデビモンやパートナーデジモンたちをのぞけば、彼はファイル島でもっとも強いデジモンのひとりだったはずです。デジヴァイスの光を何度も浴びたからとはいえ、のちに瞬間的ながら究極体の力を出せるようになっていますし。だからこそ、デビモンの目にとまったのではないでしょうか。黒い歯車をあれだけ取り込んでまともに動くことができたのも、それだけ彼の肉体が強靱だったからです。
 
 それに、彼は恐らく勇者としてファイル島の住人には信頼されている存在のはず。そんな彼が敵に回るとなれば、もとからの住人は動揺を隠せますまい。その隙が命取りになるというわけです。ケンタルモンがいい例。

 でも本来の彼は、どんな事態もどんな敵も決して恐れず、いささかも退かずに勇敢に立ち向かいつづける強い心を持っています。
 何度闇に侵されても、彼の獅子の心だけはだれにも折ることができませんでした。だから彼は勇者なのです。


・デビモン
 どうもエンジェモンの出現を予感していた節があります。本編にセリフがありますし、小説版でもそれっぽい描写がありました。
 本気を出せばあれだけの力を出せるのに、わざわざ回りくどい方法を取ったのは確実に仕留めるためだったのでしょう。その場では仕損じましたが、子供たちを離散させた時点でまっさきに彼自身が動いていれば、かなりの確率で目論見どおりの結果をつかめたはずです。
 しかし、彼はそれをしなかった。あとは手下がかたづけてくれると、みずから動くのをやめてしまった。ここに敗因があります。

 これは前にも書きましたが、子供たちが彼の目から見てあまりに弱々しく、孤立さえさせてしまえばまちがいなく倒せるとあなどったからに相違ありません。たとえ全員を消すのが無理でも、ひとりでも始末すれば選ばれし子供は機能をなさなくなる。しかもすぐに黒い歯車を使って、刺客をそこらじゅうに放っています。まず九分九厘、自分の勝ちは動かないと判断したのでしょう。
 ですが、その慢心こそが彼の誤算でした。闇の住人の最大の弱点は、強い力を持つゆえの高すぎるプライドと敵を見下す姿勢なのです。
 ダークマスターズも結果的にその弱点を突かれ、逆に各個撃破されてしまったのではないでしょうか。

 ところで、たしか小説版ではダークマスターズの尖兵だったらしい彼。しかし、そんな立場に甘んじていたとはどうしても思えません。
 海の向こうの世界=サーバ大陸に進出しようとしていたことから考えても、エテモンやヴァンデモンを駆逐してのし上がるつもりだった…そう想像しても、あながち間違いはないかもしれません。


・ オーガモン
 デビモンと一体になっていい気になってましたが、最後はすっかり弱気になって遁走してしまいました。
 おまけに、エンジェモンにすっ飛ばされたことでデビモンの体に欠損ができ、そこを一気に打ち破られているので、彼を取り込んだことは結果的にデビモンにとって命取りとなったことになります。

 このようにして見ると、彼がレオモンに勝てなかったのにはやはり精神面の問題があるようです。
 見たところ実力的には互角なんですが、最後の一押しがどうしても足りなくて勝てない。そんな勝負がずーっと続いていたんでしょう。自分こそがファイル島最強と信じたいであろうオーガモンにとって、レオモンはどうしても勝ちたい壁のようなものです。しかし彼の誤りは、力だけで勝とうとしたこと。ほんとうに鍛えなければならなかったのは、彼自身の心だったのです。

 もともと、オーガモンは自分より強い敵にも立ち向かうという、荒くれながらも恐れを克服したハンターのはずです。
 そのように彼がなっていくには、長い時間が必要となりました。


・ ゲンナイさん
 あ、やっと出て来ました。
 この時点ではまさか彼がああいう姿になるとは思いもよらなかったなあ。



★名(迷)セリフ

「レオモンの黒い歯車を吹き飛ばせられれば、きっとレオモンはオーガモンと戦ってくれるはず…
 でも、もしボクが失敗したら……そうなったら、ボクはタケルを守り切れるんだろうか…? 」(パタモン)


 冒頭、レオモンたちの襲撃から身をかくしているときのモノローグ。
 抜き差しならない事態におちいったときの、自分の力のなさが歯がゆい。
 パタモンの葛藤はここから加速度的に深刻さをましていきます。


「レオモン! お前のねらいはオレたちなんだろ? オレを捕まえてみろよ!」
「…いまだ!」 (太一)


 この状況でも笑ってます。あきれた子だ。


「ジョーダンじゃねえ…オレひとりであいつら全部にかなうわけねぇだろ!?」 (オーガモン)

 カメラ目線でそうのたまって逃走。なんか初見から印象に残ってるセリフです。
 こういうところがある意味憎めないポイントでもあるんですけどね、オーガモンの場合。


「やろうぜ、みんな! あいつを倒さなきゃ、オレたちは生きのびることはできないんだ!」 (太一)

 生きのびる。この重みのある言葉が、太一の基本姿勢につながってます。セリフに迷いは感じられません。
 こうした強さはスタッフによると、たとえ相手が同じ人間のデジモンカイザーでも変わらないだろうとのこと。
 逆に言えば賢が立ち直るためには、大輔が必要だったってことになるんですが。


「そうだな…やるしかないな……」 (ヤマト)
「………」(タケル)


 正確にいうとタケルは「……」にあたる音声すら発してないんですが、表情はうかがえました。
 12話ラストではつよく戦いを拒否していただけに、そのやや複雑な表情からはいろいろ想像できます。
 このままなにも知らず、ぶじに家へ帰れればよかったのかもしれないのですが、運命はすぐそこまで迫っていました。


「すまない、太一…」 (グレイモン)
「もとの世界に…もどしてあげたかったけど…」(トゲモン)


 彼らが帰る=別れなんですが、そういうことはいっさい口にしません。彼らはいつでもそうです。


「どうしてボクだけ……どうして進化できないんだよーー!」(パタモン)

 魂の叫び。このとき彼は思ったのでしょう。力が欲しい、大好きなタケルの盾となって戦うための力が。たとえ自分がどうなっても…。
 そしてタケルはきっとこの時に悟ったのです。デジモンたちはパートナーを決して見捨てない。いざとなれば喜んで犠牲になるのだと。
 だからこそ彼は、そんな道をパートナーに歩ませてしまった自分と、そうさせざるをえないまでにパタモンを追い込んだ運命と、ただ共に歩もうというだけのささやかな願いを切り裂いたデビモンをのろい、あるいは永久に赦さないのかもしれません。


「すまない、タケル……」(エンジェモン)

 そしてエンジェモン=パタモンも悟っていました。どんなに願ってもかなわない望みがあるならば、それを振り捨ててでも守らなければならないものがあるということを。この世界が悪意に満ちているというならば、大好きなタケルだけはその手から守らねばならないことを。そして、今から自分がやろうとしていることが、タケルを大きく悲しませるだろうことを。


「愚かな…愚かだぞエンジェモン! こんなところで力を使い果たしてどうする? 暗黒の力が広がっているのはこのファイル島だけではない。海の向こうには、わたし以上に強力な暗黒の力を持ったデジモンが存在するのだぞ。
 おしまいだよ、お前たちは……ははははははは! 」(デビモン)


 悪魔は天使の覚悟を嘲笑し、高笑いとともに去っていきました。
 私には、こいつがいずれまたタケルの目の前にあらわれるのではないかと思えてなりません。
 ただ言葉の内容はなんだかラディッツみたいで少し情けないですね。


「タケル……きっとまた会える。君が……望むなら…… 」(エンジェモン)

 それでもエンジェモンは、タケルの事を信じてみたいと思ってすべてを賭けたのでしょう。
 もちろん、タケルが彼の思った通りの子だったということは、のちに証明されています。

 有名なセリフですが、内容的にもこれほど希望の紋章を象徴するセリフはないかもしれません。


「…たいせつに育てるからね… 」(タケル)

 最後に残ったもの。それは、希望の誓いでした。



★次回予告
 第2クールと同時にいよいよ新展開。
 初見のとき、せいぜい半年で終わるだろうと根拠もなく思っていたのでこの予告を見た時は「まだまだ楽しめそうだ」と心が踊ったものです。
 海底のコンビニという、不条理きわまりない舞台も健在ですね。