出航・新大陸へ!
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脚本:吉田玲子 演出:今沢哲男 作画監督:信実節子 |
★あらすじ
はるか海の向こうからコンタクトを求めてきた謎の老人、ゲンナイ。
彼からサーバ大陸の位置や、パートナーがさらに進化する助けとなるタグと紋章の情報を得た太一たちは、腰を落ち着けて相談したすえ新たな冒険に出る決意を固めます。レオモンたちにも手助けしてもらって筏を完成させ、いよいよファイル島をあとにしました。
そんな彼らの前に、とつぜん巨大なホエーモンが姿をあらわします。たちまち呑みこまれてしまう一行。見ると、胃袋に黒い歯車が…。
太一が近づくと、デジヴァイスの光が歯車を破壊しました。正気にもどったホエーモンは、壊れてしまった筏のかわりにサーバ大陸へ連れていってあげると申し出てくれます。しかも彼は、デビモンが海底に何か隠したことを知っていました。ゲンナイの情報と一致します。
ホエーモンの力を借りて海底の洞窟にやって来てみると、そこにはなぜかコンビニが。番人のドリモゲモンと戦いになりますが、混乱のなか、タケルのデジタマから生まれたポヨモンがタグの一揃いをさがし当てました。これで、あとは紋章を見つけるだけ。
七日目の日没を前に、子供たちは意気を上げるのでした。
★全体印象
さあ新展開、14話です。タイトルコールはひさびさの藤田淑子さんで、背景の影絵は今回のゲスト、ホエーモン。
新しい大陸の情報と子供たちの新たな決意、ファイル島との別れ、さらには後にも身を賭した大活躍を見せてくれるホエーモンの登場と、内容的には盛りだくさんな回です。節目にはふさわしい展開になっているといえるでしょう。戦闘もきっちりあります。
また挿入歌「SEVEN」がはじめて流れた回としても、印象的なエピソードといえます。
この歌、一度は主題歌の候補に上がっただけあってかなりの名曲。のちに28話でも使用されますが、すぐ「EIGHT」になりますからこれがぎりぎりの使用期限でした。といって、視聴者がキャラに馴染まないうちから流してもピンとこない歌ですから、初出がこの14話というのはベストのタイミングだったと考えています。
それにしても、こうして一話一話つぶさに見ていってみるとファイル島の実像がなんとなく掴めてきますね。
この島にかぎらず為政者はいませんから、それぞれ勝手にやってるようですが、かといって動物社会のような弱肉強食とはいえず、そもそも決定的にちがう点があります。それは異種族であっても積極的に守ろうとする「勇者」の存在。レオモンです。
恐らくはファイル島最強の力を持つ彼が島のルールを監視し、みだりに弱者を虐げたり極端な破壊行動をとるような輩を成敗していくことで、島のバランスはより良く保たれていたのでしょう。匹敵する力を持つデジモンといえばユニモンとケンタルモンですが、前者は意味もなく暴れるタイプではないし、後者は盟友でそもそも遺跡から動きません。あとはオーガモンですが、彼とてレオモンとの勝負以外にはあまり興味がなく、乱暴者ということで恐れられてはいたものの、島を追い出されるほどの悪行は犯してなかったものと思われます。
…というか追い出されたら行く場所がないのですから、今回まったく姿を見せなかったのは袋だたきに遭うのを恐れてでしょうか。
ところがそこに邪悪な意志を持ち、レオモンを凌ぐ力を持つデビモンがやってきたころから、島には不吉な空気が流れはじめたものと思われます。その前後あたりからですかね、選ばれし子供たちの噂が流れはじめたのは。流布したのが、本編のセリフにもあった例のうわさ好きデジモンでしょうか? でもこれまで見てきた中に、それと分かるパーソナルを持った個体はいません。…ということは、彼ら以外にそういう輩がいることになりますね。ただ、あの中の誰かに意外な一面がある可能性も捨て切れませんが。
とはいえ、そのデビモンももう斃れたわけですから、より以上の危険を冒すことへ躊躇いを見せる子がいたのも頷けます。丈が遠回しに言っていたとおり、一部のデジモンに気をつければ暮らすには悪くない環境でもあるのですし。
そんな彼らの心を動かしたのは、誰よりも幼いタケルの言葉でした。
きっと、彼なりにその小さな胸をいっぱいにして考えていたのでしょう。パタモン=エンジェモンが、なにを守ろうとして…なにを願っていたのかを。暗黒の力が広がっているのを放置して家に帰る事もあきらめ、ただ安寧と暮らすことは、命を賭けてくれたパタモンへの裏切り以外のなにものでもないのではないか? と。それは、希望を捨てることでもあるのですから。
それに考えてみれば、デビモン以上の力を持つ闇がファイル島に手を伸ばしてこないという保障はどこにもないんですね。むしろその可能性のほうがはるかに高いくらいです。そして、のっぴきならない事態というのはそっちの方。タグも紋章も探し当てていない子供たちが、エテモンやヴァンデモンに勝てるとはとうてい思えません。つまり結局ただ時が延びるだけのことで、待っているのは100%の破滅なのです。
ならば、その前に危険でも自分たちからサーバ大陸に乗り込み、敵に対抗する力を手に入れたほうが勝算があるというもの。というより、ほんとうの意味での希望はそこにしかないのです。生きたいと願うのならば。
タケルはきっと直感的に、それを感じ取っていたのでしょう。
そして彼が、あれほど争いをきらっていた彼が選んだ希望の道は同時に、闇とのたたかいを意味するもの。やはりデビモンとの戦いは彼の心になにか…決定的ななにかを残していったのかもしれません。嫌な例えですが、なんだか新雪が踏み荒らされるのを目の前で見たような気分です。
脚本は吉田玲子さん。このへんの心理はある程度計算していたんでしょうか…。印象的なシーンを綴ってくれました。
絵と演出の安定も、当エピソードの評価を高めています。
そうそう、この回もタイトルにデジモンの名がありませんね。最終二話だけだと思っていたら見落としがありました。
★各キャラ&みどころ
・太一
最初から大陸行きへは積極的でした。というか9話の時点で気になってしょうがないようすでしたし。
ホエーモンのときもまっさきに危険を冒す役を選んだし、行動隊長ぶりは健在です。この時の身のこなしも見事なもんで、さすがはサッカー部のエースといったところ。運の悪い丈だったら落っこちていたかもしれません。
サーバ大陸ではそんな彼にも試練が待っているのですが、その経験がさらなる成長とリーダーとしての求心力を高める礎になるのです。
・ 空
彼女は慎重派でした。不安もあるでしょうが、みんなの安全を慮ってという部分もありそうです。
それでも最後には決意したあたり、子供たちの胸のうちには共通して「帰りたい」という願いが目立たず、それでいて狂おしいまでに燃えていたのでしょう。タケルは、その気持ちを揺り動かしたのです。
・ヤマト
どっちかというと行きたがってるように見えました。ただみんなの、特にタケルの意志をたしかめようとしていた感じです。
もしタケルが拒否していたら彼もそっちへ廻り、意見がまっぷたつに割れて出発が遅れまくっていたでしょう。ここでの遅れは致命的になりかねません。その意味では、タケルが覚悟完了していてよかったと言うべきなんでしょうか…嫌な理論ですけど。
ただ、13話の経験がなくてもタケルは深く考えず、新大陸に行く道を選んだかもしれません。そしたら、もっと酷い経験をした可能性もあって
…やっぱりあそこでああなっておいてよかったってことになっちゃうんだよなあ。
・光子郎
彼もたぶん行きたくてしょうがなかった口です。未知のエリアに彼が好奇心を示さないはずがありません。地図までもらっているとあってはなおさらです…さっそくチェックもしていましたし。このへんは10話を見ても類推できますね。
ただ、太一ほど押せ押せにはなれないし問題も山ほど思いつくので、あまり積極的には言いだせなかったんでしょう。
それにしても彼の冷静ぶりには驚くばかり。ホエーモンのときの場合は単にズレているともいいますが。
・ミミ
あんまり行きたくない→置いてきぼりはイヤ、という流れ。完全に感情で動いてます。それでこそミミという気もしますけど。
とはいえ、ホエーモンのときにきっちり受け答えをしているあたりけっこう余裕があります。
・タケル
デジタマを撫でながら無言で池をながめているシーンに少しゾクリときました。ついぞ見られなかった表情です。
彼はこのとき、なにを想っていたのでしょう…。
そして今回、いえ、あるいはシリーズ全体においてもっとも重要な発言と役割を負いました。
勇気だけで引っぱり切れないあの夜の会議で、彼の発した希望のひと声がなかったら、みんながああも簡単にまとまったかどうか。そして思い返してみれば、新大陸出発と聞いて仲間を募ってくれたのはレオモンだけでなく、エレキモンもそうだった可能性があります。かくして知らないうちにつながりができてゆき、そこにひとつの輪を感じたとき、ポヨモンが卵から孵ったのかもしれません。
…なるほど。つまり、希望のつながりは天使の輪ってわけですね(ハズカシー)。
・丈
だいぶ落ち着いてきました。デビモンとの対決という滅茶苦茶怖い状況を越えて、だんだん耐性がついてきたんでしょう。
彼の意見は弱気ですがもっともな部分もありますし、それにみんなの中にも多かれ少なかれそうした気持ちはあるはず。
一通り吐露した上で、それでも固いみんなの決意を確認し「ぼくも行く」と宣言する彼はかっこよかったと思います。これまでの冒険から、彼も「力を合わせる」という大仕事が一歩進むごとにできるようになる、と信じはじめているのかもしれません。
仲間を信じそのために力をつくすのが、彼の個性ですから。
・デジモンたち
今回はわりと子供たち寄りのお話ですが、出番はちゃんとあります。
中でもパルモンはいい味を出してましたね。ホエーモンのときといい、細かく活躍もしています。
角突きドリルに立ち向かうイッカクモンに、五話と同様の作戦で勝ちを拾ったカブテリモンも忘れてはいけません。
もちろん、タグを見つけたお手柄のポヨモンもですね。
・ホエーモン
成熟期の水棲型です。今はリヴァイアモンという桁外れの化け物がいますが、放映時点では水棲系最大級の大きさをほこってました。
テントモンは獰猛なヤツだと言ってましたが、どうやらそれはゆがんだ情報だったようですね。おそらくあまりにも巨大なためにちょっと動いただけでえらいことになってしまい、それで怖がられていたんでしょう。じっさいは紳士的な知性派です。
彼が本領を発揮するのは42話。ダークマスターズ支配の過酷な環境でも生きのびた強さと知恵で、子供たちをおおいに助けてくれました。その決死のはたらきは、遠回りとはいえ太一たちの団結をかためるきっかけになっています。けっして無駄ではありません。
のちに02でも別個体か転生と思われる同名がゲスト出演していますし、フロンティアにも出てます。優遇ぎみなのは移動手段にも使える巨体とそこから生み出される悠然とした雰囲気、究極体をも揺るがす圧倒的な質量のおかげでしょうね。
・ドリモゲモン
デビモンがタグの隠し場所に置いていった番人。当然、黒い歯車が刺さってます。これで最後かな?
操られてるわりには普通にしゃべって襲ってきましたが、いかんせん多勢に無勢。たいして苦戦もせず勝ててしまってます。
本来は内気で臆病な恥ずかしがり屋みたいですね。のちに02にも同種の個体が登場してます。
…しかしデビモン様も、重要アイテムだというのになんともぞんざいな扱いをしてます。
まあ、タグは単品じゃなんの意味もないアイテムですし、隠し場所そのものが防壁みたいなものなので、ドリモゲモン自体は保険でしょうけど。それに、そもそも選ばれし子供たちが来ることは想定してなかった可能性もあります。その前にデビモン自身がかたづける気まんまんだったのですから。そこらへんにもアバウトさが見えますね。
……デビモンって結構いい加減なヤツなのかもしれない。
・ 海底のコンビニ
不条理シリーズその11。ホントに唐突に出て来ます。でも妙に違和感がないのは不思議。コンビニ=どこにでもある、というイメージのせい?
見たところ多少の食糧はあったようですがたぶん賞味期限切れでしょう。
無造作に突っ込まれたタグの箱が哀愁をさそいます。「まあ、このへんでいいか…」というデビモン様の声が聞こえてくるかのよう。
・日数カウント
分散〜デビモンとの決戦〜新大陸行きの決意。これ、たぶん全部6日目です。おそろしく長い1日でした。特にタケルにとっては。
出発したのは7日目の日中ってところでしょうか。レオモンたちのおかげでそうとうに短縮されたはずですし。
で、ホエーモンと会い、タグを探している間に夕方になったようなので、これで7日目が終わることになります。
次回、新大陸に着くのはたしか朝ですから、寄り道したぶんを差し引いても13日めの朝? けっこう経ってますね。
下世話な話ですが、この間生理現象はどうしていたんだろうか…。
とりあえず、この数字はおぼえておくとしましょう。
★名(迷)セリフ
「…タケル?」(ヤマト)
「…ううん。ボクのデジタマも、早く孵って大きくなるといいな、って」
後ろから遠慮がちにかけるヤマトの声は、見返せば見返すほど心に残ります。
答えるタケルはもう泣いていません。言葉は「自分はだいじょうぶ、心配いらないよ」という意味でしょう。
あらためて本当にすごい子だと思わされます。むしろ怖いくらい。
ヤマトとしては、もっとガンガン悲しみをぶつけてきても望むところなんでしょうけど、そうはならないんですね。
「…だって、ゲンナイとか言うヤツのこと、かんたんに信じていいのか? ほんとうに、サーバ大陸なんてあるのか?」(丈)
「おい、なんだよ!? ここにいても、もとの世界には戻れないんだぞ?」(太一)
「デビモンを倒すのも大変だった…でも、さらにすごい敵が待ち受けてるのよね」(空)
「もう少し、ここで様子をみてもいいかもな…」(ヤマト)
首の皮一枚で切り抜けたばかりというだけあって、みんな少々腰が引け気味です。
戦う前も戦った後もやる気まんまんな太一がある意味異常なのかもしれませんけど。
微妙に地面を見てると見せかけてタケルを向いてるようにも取れる、ヤマトの視線が気になります。タケル次第ってことか。
「…行こうよ!」 (タケル)
「えっ!?」(全員)
「タケル!?」(ヤマト)
「どんな敵が待ってるのかわからないけど、やってみようよ!
きっと、エンジェモンもそう言うと思うんだ……だから、ボク……
」(タケル)
もっとも小さく、もっとも庇護に甘んじているはずのタケルのこの言葉が、みんなを動かしました。
たった一言で空気を変えてしまうとは、これがこの子の持って生まれた長所なんでしょうか?
直後に流れ始める「SEVEN」が、いやが上にもファイル島最後の場面を盛り上げていきます。
「頭数ならたくさんいるぜ」 (レオモン)
いかにもレオモンらしい、さり気なくもかっこいいセリフです。
ベタといえばベタな場面ですが、積み重ねができているのですんなり受け入れられますね。
でも面識がないはずの相手を見ただけでそれと判別して名前を呼ぶシーンがある……。謎です。
エレキモン以外は名が体をあらわしてるので見りゃ分かるだろと言う反論は受けつけません。
「7人の子供たちは、自分の力で生き抜くことを憶え…あるデジモンとは戦い、また、あるデジモンとは友情を育み……
そして、そのファイル島を子供たちは後にした」 (ナレーター)
ファイル島。滞在期間はわずか1クールですが、そこには狭いなりに、いやむしろ狭いからこそ、他にもまして確固たるコミュニティと実在感がありました。じっくり見てきてみて、私はこの始まりの地にこそどこのデジタル世界よりも「どこかにありそうな、手が届きそうな」場所としての認識を持つことができるようになったのです。それこそ、本が一冊書けそうなくらいに。
ほんと、不思議な島でした。そう思います。
それにしても今見ると、まるでFlashアニメみたいな波の動きが気になる…。わざとやってるのかもしれませんが。
「きっとこれはホエーモンの食道です! もちろんレストランという意味の食堂ではありません!」 (光子郎)
「そんなことわかってるよ!!」(丈)
「出口はお尻でしょう!」(光子郎)
「そんなところから出るのなんてヤだぁ!」(ミミ)
なんでこんなに冷静なんだこの子は(笑)。丈にすらツッこまれています。
「黒い歯車を取り除いてくださったお礼に、わたくしがお送りしましょう」(ホエーモン)
おお、なんていい人…じゃなかった、デジモンでしょう。誰だ、獰猛なんて言ったのは。
まあ、大きすぎる体躯と力を持ったものは誤解されやすいってことでしょうかね。
「ヘン! そんなドリルなんて怖かないやい!」(ゴマモン)
ドリモゲモンと対峙して。これも負けん気と愛嬌がたっぷりで、実にゴマモンらしいセリフ。初見から心に残っているひとつです。
「カブテリモン! 黒い歯車をねらえ!」(アグモン)
めずらしいことにパートナーではなく、アグモンが指示を飛ばしてますね。変わったケースなので記しておきます。
02では一話から姐さんがやってましたっけ。
★次回予告
おーっと、ついに出た! あのスーパースターが、とうとうやって来る!