暗黒進化! スカルグレイモン

 脚本:まさきひろ 演出:川田武範 作画監督:出口としお
★あらすじ
 エテモンの圧倒的パワーから逃れるため、ひたすら歩き続ける子供たち。
 紋章を手に入れた太一だけは張り切っていましたが、つきあいの長い空や光子郎はそんな彼のようすに不安をおぼえるのでした。

 そんな時、丈のタグが反応を示します。見ると、ゆくてに闘技場のような建物が…。
 勇んで足を運ぶ一行でしたが、エテモンの罠はそこにも張られていました。閉じこめられ、さらに巨大な刺客が迫ります。その姿は…グレイモン!
 ただ一人動けるアグモンがグレイモンに進化して立ち向かいますが、太一が無理にゴハンを食べさせていたため動きが重く、いつもの力が出せません。
 なんとか脱出して紋章も手に入れた子供たちでしたが、太一はあくまで進化にこだわり、自分を危険にさらすことでより確実性を高めようとします。

 そしてついにグレイモンの進化がはじまったのですが…紋章が放ったものは、どす黒い光でした。
 その中からあらわれた他をさらに圧する巨体は…全身から戦いの執念と死の匂いを撒き散らす、スカルグレイモンだったのです。
 敵グレイモンをたった一撃で消滅させたスカルグレイモンは、 パートナーであるはずの太一にも襲いかかってきました。もはや敵も味方もわからないのです。あわててガルルモンたちが応戦しますが、彼らの力もまったく通用しません。エネルギーを切らして退化するまで、なすすべもなかったのです。

 スカルグレイモンが退化した姿は、コロモンにまで戻ってしまっていました。エネルギーを消耗しすぎたのです。
 ことの顛末を見、パートナーの言葉を聞くことで、太一は自分のあやまちに気付きました。いつしか自分一人で戦っている気持ちになっていたのだと…。
 太一は仲間に詫び、何よりコロモンに詫びたのでした。



★全体印象
 さて16話です。タイトルコールは坂本千夏さんで、背景の影絵はタイトル通り、スカルグレイモン。

 02をのぞく各シリーズ定番、 暗黒進化エピソードの元祖がこの16話です。その試練を受けるのはつねに主人公格、というのも共通した事実ですね。
 主役ということはもっとも強くなる可能性を秘めているってことですから、だからこそ時にはこうしたお話が効果を発揮するのでしょう。

 もう少し言えば、太一のように勇気の塊みたいな主役は、つねにこうした破壊との矛盾を背負って戦っているのだと思います。
 勇気があるということは、強い意志があるということ。ですが、その強い意志をなんの支えもないまま突っ走らせれば、どうなるか…。ぶっちゃけ、ただ暴れ回るだけのチンピラ同然になります。なぜなら誰かのためにとか何かを賭してとか、弱い己に克つためといった昇華をなして、強い意志ははじめて勇気と呼びうるからです。それが無いまま暴走をすれば、待っているものは暴力と破壊、露骨な欲望。しまいには、孤独と自暴自棄がやってくるだけです。
 何かの作品で心に残っている言葉に「勇気の対義語は欲望」というのがありますが、両者はゆえに紙一重なのでしょう。

 そもそも太一はのちに政治の世界にも携わるくらいですから、かなり大局を見られる素質を持った少年です。でも、今回の彼からはそれがまったく感じられません。アグモンを進化させるという、目の前のことしか見えていないのですから。空をして「人が変わったよう」と言わせるのもわかります。

 それに、アグモンとの気持ちや呼吸も完全にズレてしまってます。光子郎の言葉を鵜呑みにしてムリヤリ食糧を詰め込ませたり、ピンチになっても策を講じるでもなく進化しろ、進化しろの一辺倒。しまいには無謀にも敵グレイモンの目の前に立ちますが、これも結局はアグモンを思ってというより、進化の方法論にただ乗っかっただけの行動でしょう。だいたい本来の太一なら、グレイモンを独りだけで戦わせるようなことは余程でないかぎり、しないはずなのです。

 恐らくは誰より違和感を感じながらも、期待に応えようとけんめいに戦ったアグモン。
 ほんとうは彼こそ太一を止めなければいけないんですが、ワームモンを見ていればわかるように、パートナーデジモンたちは相方に表立ってさからうような事をしないのがデフォルトです。思い切った行動をとったとしても、それはパートナーを思いやってのこと。拗ねることくらいならありますが、その程度はご愛嬌でしょう。彼らの献身は、それくらい徹底しているんです。

 だからこそ、コロモンの詫びる言葉が太一の心を抉ったのでしょう。ただ無心にパートナーへ応えようとするがゆえに、あんな姿に進化してしまったのだと。それをさせたのは、自分なのだと……子供たちにとって、パートナーとは生き残るための力。それにかぎりなく近く、しかし同義ではないということです。進化がパートナー次第ということであれば、彼らの無邪気な献身に胡座をかくことは許されないのですから。
 パートナーデジモンとは人の心を映しだす鏡、映し身なのです。

 …とまあ、ドラマ的にもデジモン的にも、パートナーシップ的にも重要な回ですが絵と演出はだいぶメタメタでした。
 スカルグレイモンの張り手はしっぺにしか見えませんし、敵グレイモンの吹っ飛び方ときたらギャグ漫画。小説版のほうが断然見応えがあります。
 まあ、ローテーションが地獄の二重奏を奏でているからやむを得ないところでしょう。 お話がすべての回といえます。



★各キャラ&みどころ

・太一
 そんなわけで、紋章捜し篇は彼の試練がメインです。今回はその一発め。
 立場からか他の誰よりも苛烈な試練となりましたが、このあたりのお話があるからこそ、のちの凄まじいリーダーっぷりに説得力が出てくるというもの。
 また紋章の意味から考えても、暗黒進化には誰より彼が適任だったと言わざるをえないでしょう。ミミが暗黒進化すると言われても誰も信じますまい。

 太一の魅力は抜群の行動力と勇気、洞察力、身内への面倒見の良さ、それに肉親への人一倍な愛情です。
 ここから先は、その再確認となっていくことでしょう。


・ 空
 太一とサッカーの試合に臨むシーンがありました。光子郎とならんで、太一とのつきあいの長さをとても良く示してくれています。この頃は肩をならべてスポーツをしていたわけですね。うーん、02〜ディア逆までに何があったのでしょう。誰より女性になっていくのが早かったであろう彼女のこと、太一やヤマトへの気持ちがどのように揺れ動いたのか、これは純粋に興味がありますね。

 太一の失敗が多い20話までは、彼女との触れ合いがもっとも多い流れです。
 そのためこの二人を応援していた人たちにはだいじな規範であると同時に、思い出になったようですね。


・ヤマト
 太一がああだったので、かえって冷静になったようです…というかまあ、他のみんなと同じく腫れ物扱いしてましたね。
 とはいえ、あのまま放っておいたらそのうち衝突していたかもしれません。おとなしくしていたのは、タケルに累がおよばなかったからかな。

 彼が太一たちと一緒にスポーツをしていた姿は確認されてませんが、サッカーくらいならたいていの小学生が標準装備。普通にやってたと思います。
 なにしろ、私でさえそうだったのだから。


・光子郎
 たしかこの回のセリフで、光子郎にとっての太一がサッカー部の先輩だったと確定したんだったかな?
 空ほど表に出してはいませんが、いつもと違う太一にはおおいに不安をかき立てられていたようす。
 はじめて見る暗黒進化の危険性をすぐに理解する、その呑み込みの早さはさすがです。

 ただ同時に、わけのわからない現象にもっともらしい理屈をつけて説明しちゃう役でもあるのだと再確認もしてるんですが…(笑)


・ミミ
 へとへとなのかどうなのか、今回はあんまり元気がありませんね。
 特筆すべきセリフもほとんどなかったと思うし…。


・タケル
 今回は特に目立ってません。というか彼、意外な活躍こそしてますが紋章集め篇では全体的に地味です。


・丈
 なんというか、序盤のテンパリ具合がずいぶん抜けてきてます。
 前よりも自然な言葉でミミを促したり、太一を諌めてアグモンを休ませたり、さりげないところで確実に成長していることがわかりますね。
 むしろ、太一が一時的にスランプに陥ったことで成長が早まったのかもしれませんが、そこに気負いがないのがポイント。

 今回で紋章もゲットしましたが、進化はずいぶん先になります。


・デジモンたち
 なんといっても、太一の失敗で暗黒進化しながらそれを責めないコロモンの言葉が、いちばんのインパクトです。
 初見でもこの段階で「ああ、パートナーたちの立場はつまり、そういうことなんだな」と実感させられたおぼえがありますね。

 あとゴマモンの必殺技の秘密が微妙に明かされたりしてますが、場面としてはあんまり意味がありません。


・敵グレイモン
 グレイモンとまったく同じ姿をした、今回の刺客。というか、同種です。
 基本的に味方グレイモンと同じ姿ですが、頭の殻についたいくつものキズや巻き付いたダークネットワークのケーブルで見分けることが可能。

 何しろサーバ大陸で生き抜いてる個体ですから、見かけの歴戦ぐあいともあいまってかなり強そうです。恐らく首のケーブルで制御されているのでしょうが、ということはエテモンに負けて捕まっても屈服しなかった例でしょうか。従わせるにはケーブルを巻くしかなかったものと思われます。
 そうした手間をかけてでも、負かしたデジモンを処分せず利用するあたりにエテモンの考え方が見えるというもの。

 で、それだからこそスカルグレイモンの恐ろしさに気付き、脱兎のごとく逃げ出そうとしたのでしょう。自分より強い敵と戦わないのが野性の知恵です。
 それにしても本意でないのに戦わされたあげく、コナゴナにされたのですからなんとも不幸な個体ですね…。
 どっちにしろ、以後どんどんデジモンを倒すようになっていくので、彼はその本格的犠牲者・第1号なんですが。


・ エテモン
 今回は観客でしたが、ノリの軽さはあいかわらず。
 ダークネットワークがメチャメチャになったことでパニック状態になってましたが、敷設にはやっぱりそうとう手間がかかるみたいですね。
 あと毎年コンサートをやってるようなので、かなり長い間支配者として君臨していたものと思われます。

 まあ、彼ならキングやスターと呼ばれたほうが喜ぶでしょうけど。


・コロッセオ
 不条理シリーズ…といっていいのかな?
 古めかしい遺跡にいきなりサッカーゴールやオーロラビジョンがあるあたり、冷静に考えるとわけがわかりません。
 エテモンがコンサート場をはじめ、いろんな趣向をこらす場として独占使用してるようですね。



★名(迷)セリフ

(まずいわ…みんなすっかり弱気になってる…)(空)

 自分になにができるかはともかく、心を配らずにいられないのが彼女のサガ。
 ダークマスターズ篇でもそうした気遣いが随所に見られます。こりゃストレスが溜まるわけだ…。
 後半は丈先輩も成長してきますが、その頃になると別行動も多いですから。


「できるさ! なあ、アグモン?」(太一)
「うーん…」(アグモン)
「シャキッとしろよ、シャキッと!」(太一)


 さっそくズレが発生しています。


「いいか? みんなが貴重な食べものをお前にくれたのは、お前の進化に期待しているからだ。そうだよな、みんな!」
「あー」(ヤマト)
「食べもの『あげた』というよりも『とられた』というほうが…」 (ミミ)


 食糧ぶんどって食わせたのか(^^;) 一歩間違えるとここまで無茶苦茶なことやるんですか…。
 しかも周りのみんなは、トラブルを避けてイエスマン化。これは悪循環ですね。

 ヤマトの恐ろしく気のない返事がちょっと笑えます。


「太一さんって、クラブのときとか…僕たち後輩にやさしかったんですけどね」 (光子郎)
「太一って…ひとりで突っ走るタイプに見えるけど、あれでけっこう周りの状況を冷静にみてるんだ…それが今は…
 紋章を手に入れてからの太一…なんだか人が変わっちゃったみたい」
(空)

 サッカーしてる場面がまともに出た回想シーンは、たしかこれが初めてだったはずです。
 この頃は男女混合でやることも多いんだったかな?

 このセリフから読み取れるのは、ふだんの太一が見せる面倒見の良さ。みんなを自然にひっぱれる求心力が、彼にはあったはずです。
 それをよく知っているからこそ、彼女たちの胸には言い知れぬ不安が黒雲のようにわき上がってきてたのでしょう。
 その予感は、悪い意味で的中することになります。


「休ませてやれよ。手がかりはこのタグだけだし…ぼくとゴマモンで捜すから、みんなは休んでてよ」 (丈)

 いつも心を砕いてるのは空というイメージですが、困った時にスッと助け船を出してくれるのは彼の良さです。
 11話のアバレっぷりから一周して、成長がつぎの段階に進んできたのかな。


「こんなときにサッカーなんて、よくそんなことやってられんな!! 状況を考えてみろよ!!
 丈が紋章を見つけたら、すぐに出発するんだからな!! 」 (太一)


 いつもなら真っ先にサッカーへ興ずるぐらいなんですが、この発言。
 せっかく空が気を遣ってみんなに息抜きをさせようとしたのに、台なしです。ピンチにすら笑顔を見せる彼にしては、やはり余裕ってものがありません。
 あと、テンパルとリーダー風の風速が増しますね、彼。それも悪い意味で。アグモンも不安そうな顔です。


「ニセモノなんかに負けないで!」(タケル)

 いや、ニセモノじゃなくて単に同種なんですが…(^^;) 
 でもまあ、ニセモノに見えるわな。子供にとっては。


「なんであんなところから魚が出るんだよ?」(丈)
「そんなこと言われたって、オイラ難しいことわかんないよ」(ゴマモン)
「多分アレですよ。異次元空間の切れ目があそこにあるんです」 (光子郎)
「だってさ」(ゴマモン)
「そうか…」
(丈)

 「そうか」じゃないって。アレって何ですか光子郎。


「絶対進化する…! いや、させてみせる!!(太一)

 「させる」か…。


「こ、こりゃあかん!(カブテリモン)

 勇んで進化したまではいいけど、びびって後退。
 どうやらスカルグレイモンには、相対した者を恐怖させる何かがあるようです。


「う、うん…でも、みんなにひどいことしたみたい…自分でもどうにもできなかったんだ…
 みんなの期待に応えられなくて…ごめん…
(コロモン)

 ってことは、ボンヤリ程度に意識はあったんですね。でも、どうにもならなかったと。
 小説版では、進化直前にどう思っていたか語られているのですが、そこにあるのは純粋であると同時に強烈な願い…というより、進化したいという欲望。
 太一が進化を戦うために望み、彼もまたそれになんとか応えようとしたのです。

 …そしてその先にある姿は、戦いのための戦いに死しても生きようとするスカルグレイモンでした。
 なんともどす黒い話です。タカトもベルゼブモンに怒るあまり、目の前のすべてを破壊してでも絶対に殺したいと思った結果がメギドラモンですから、つまり先のことや周りのこと、パートナーのことを考えず、ただその場の衝動にまかせて進化を望むのは非常に危険だってことなんでしょうね。
 力を持つ者は、その力を自覚しろってやつです。なんちゃって。


「オレ…知らず知らずあせってた…紋章を手に入れてから、何か自分ひとりだけで戦ってるような…そんな気になってたんだ…
 悪かったな、みんな……ごめんな……
(太一)

 最後の一言は、コロモンへ向けたものです。コロモンの嬉しそうな表情に、なぜか私は切ない気持ちになりました。
 太一にかぎらず、この作品の子供たちは自分の非をきちんと認めて謝れる子ばかりなんですね。
 だからこそ、成長の手ごたえというものが視聴側にも伝わるんでしょう。



★次回予告
 次回は中休み気味のギャグ篇になります。トゲモンのアッパーが初見の最大インパクト。