幻船長コカトリモン!

 脚本:浦沢義雄 演出:芝田浩樹 作画監督:八島喜孝
★あらすじ
 砂漠を彷徨う太一たち。蜃気楼と暑さに惑わされ、みんなはもうダウン寸前です。
 連絡をとってきたゲンナイの話では、パートナーを正しく進化させねば正しい進化はできない、ということなのですが…子供たちにもパートナーたちにもまるで実感が湧きません。これからの戦いに、不安はつのるばかりです。太一もいつになく弱気になってしまっていました。

 そんなとき、とつぜん目の前にあらわれたのは巨大な豪華客船。疲れがピークに達していた一行は、ここで休ませてもらうことになりました。
 ところが、これは例によって罠だったのです。船長に扮していたのは、エテモンの手下コカトリモン。彼の技によってパートナーたちは石にされ、紋章もうばわれてしまいました。そして捕まった男の子たちは、あわれ日干しの刑に…。

 大ピンチを救ったのは、空とミミの女の子コンビでした。空を飛べないコカトリモンの弱点を突き、みごと勝利をおさめたのです。
 しかし、ヌケた顔と仕草のわりにしぶといコカトリモンは客船を動かし、子供たちにぶつけようと追いかけてきました。必死で逃げるみんなの行く手には、蜃気楼で見た巨大サボテンが…いや、これは蜃気楼じゃない!

 巨大サボテンの弾力にはね飛ばされ、空中で爆発する客船。コカトリモンは炎の中に消えていきました。
 そのショックでなのか何なのか、巨大サボテンの上に花が咲き、紋章があらわれます。そして紋章は、ミミのタグの中へ…これで3つめ。
 が、ミミには自信が湧きません。それは、全員の気持ちでもあったのでした。



★全体印象
 17話です。タイトルコールは園部啓一さん(コカトリモン)。レギュラーのボス級ならともかく、ゲストが担当するというのはあまり例がありません。
 背景の影絵も、もちろん今回の敵であるコカトリモンになっています。

 浦沢脚本ということもあってミョーに印象に残るものの、16話にくらべるとそれほど重要なお話ではありません。ミミが紋章を手に入れたりしてますが、もともと紋章は入手して即なにかが起こるようなアイテムじゃないので、見つけることそのものは大してドラマにならないんですよね。
 ゲンナイの忠告さえ心に留めておけば、すっ飛ばして18話へ行ってしまっても構わないかもしれません。ただ、そうするとミミの別の意味での活躍やトゲモンのアッパーが見られなくなるのが惜しい。ま、主役ってほど大袈裟な扱いじゃないんですが…。

 もう少し付け加えるなら、この回の本来の役目は18話へのワンクッションだと思われます。
 ゲンナイの言葉にあったとおり、正しい進化へは正しい育てかたが必要。でも、みんなには実感がありません。精彩を欠く太一を中心に、漠然とした不安が蔓延している時期です。そこのところを押さえていれば、18話がより理解しやすくなるのはたしかでしょう。

 しかしこうして見ると、太一がこけりゃ皆こけるぐらいの勢い。行方不明になってた時は完全にバラバラになってしまってたので、太一という少年が知らないうちにどれだけ全員の求心力になっていたかってことです。双肩にかかる責任の重さがうかがえる。

 作画・演出的には、かなり安心して見られる部類です。
 浦沢脚本のときのヤマトは、やっぱり普段よりも雰囲気がやわらかい感じ。ギャグっぽい表情も目立ちます。



★各キャラ&みどころ

・太一
 今回はとにかく弱気な表情ばかりでした。16話のカンチガイ状態よりはマシですが、反動が強すぎてまだいつもの調子ってわけにはいかないようです。
 その上何もできないままあっさり捕まり、空とミミに助けられるなど受難の回になってますね。次回における挽回を待つしかありますまい。

 コロモンのことを過剰なほどに心配するようなセリフも目立ってます。こういうところ、浦沢さんは上手い。


・ 空
 トゲモンアッパーにくらべるとあんまり印象ありませんが、一緒にコカトリモンと戦ってます。
 客船に入ったとたん、ミミと仲良くシャワーへ駆け込むあたりはいかにもキレイ好きの女の子といったところ。6話でもそういう面が描かれてました。
 ただそんな時でも敏感に危険を察知し、機転をきかすあたりはさすがです。…というか、アレは絶対に彼女の指示でしょう。ミミと一緒でよかった。

 …ところで、ぬいだ帽子が地面に落ちたとき思いっきりポコンと音を立ててます。
 いつフツーの布帽子になるか、目がはなせません(笑)。


・ヤマト
 ガブモンが思わずこぼした言葉にあわてたり、今回はそうとうのギャグ調です。
 食い物を目の前にしたときの反応はアレですが、ああいう描写も大切なんですよね。食事というのはもっとも生活に根ざしたものですから、それをきっちり描いていくというのは生活感とかキャラの人間くささを出すにはいちばん手っ取り早いのかもしれません。


・光子郎
 ヘリクツで無理矢理手付かずのごはんを食べる理由をつけてしまうあたり、いかにも彼らしいと思いました。
 どんな時でも最低限の理論武装は忘れない、それが光子郎なのです。
 

・ミミ
 めずらしく、太一をはげます場面が見られました。久しぶりに見てびっくりしたのは、その場面です。
 …まあ逆に言うと、彼女にすら心配されるくらい太一が弱気だったってことですが。ふだんなら、会話そのものがあんまりないし。
 
 いつのまにかヌメモンを篭絡する術を身につけていたのにもびっくりしましたが、シナを作るあたりは完全なギャグ調。ルックスは可愛いのに、こういう仕草がとことん似合いません。彼女らしくサバサバしてたほうが何倍も魅力を発揮するというものです。
 でも注意力は散漫そうなので、空と一緒でなかったらほぼ確実に捕まっていたんだろうなあ(^^;)


・タケル
 今回はとくにこれといって目立った出番がありません。ゴハンを目の前にヨダレを垂らすあたりは、年相応の表情でしたけど。


・丈
 太一をはじめ、今回の男性陣はなさけない表情が目立ちます。
 特に自信なさげなひとりがこの丈で、ゴマモンにもツッコミを入れられていました。


・デジモンたち
 誰か一人あげろと言われたらパルモンですかね。暑さで妄想ぎみになってましたが、あのへんが今見ると伏線になってます。
 なにしろ、後にそのまんまの進化をするのですから。ただこれが伏線なのか、それともこの回を参考に35話でのリリモン進化をあのようにしたのか、それはわかりません。どちらにせよ、かかわりがあるのは間違いないと思いますが。

 それにしても、デジモンワールドにも蜃気楼があるんですねえ…。細かいところでは、どうやらサボテンも普通に生えているようだし。
 こういう現実世界にもあるような動物や植物はデジモンに関係なくて、デジモンワールドという舞台の構成物として存在しているのかもしれませんね。これらは言わば現実にあるものの引き写しにすぎず、電子生命体としてのオリジナリティがあるのはデジモンたちだけなんじゃないんでしょうか。デジモンワールドってことは、デジモンたちの世界、デジモンが主役の世界ということですし。

 ただこの呼称も、とちゅうでデジタルワールドに変わるんですが。もしかして、ターニングポイントは19話?


・コカトリモン
 わりとギャグ調ですが、なかなか狡猾でしぶといのが持ち味な今回の刺客。
 不意をついたとはいえ五人までをあっさりと捕らえ、パートナーを石にしてしまうあたり、なかなか手ごわい相手です。

 でもその後が良くない。みすみす残りふたりを取り逃がしたうえ、勝利を確信したのか真っ正面からあらわれて自分の能力までべらべらバラしてしまってます。しかも追いつめたつもりがバードラモンに空から攻撃され、その隙にトゲモンの強烈アッパーを食らってしまうのですから、詰めが甘いです。ホントは子供たちもつかまえた時点で日干しなんて時間をかける必要はないし、パートナーもたたき割っちゃえばすむ話なんですが、そこまでツッこむのは野暮でしょう。
 直接的な戦闘は得意じゃないようなので、不意打ちで敵を無力化するのが常套手段なんじゃないでしょうか。気絶すれば石からもとに戻るのもお約束です。

 園部さんの奇声がやけに心に残る個体でもありますね。なぜか似非名古屋弁をしゃべりますが、アルマジモンとは仲良くなれそうもありません。


・ エテモン
 ダークネットワークが混乱しているせいで、コカトリモンとは連絡が取れませんでした。
 コカトリモンは子供たちのだいたいの位置を伝えられてただけで、見つけたら教えるように言われていたんでしょう。ケガの功名でしたが、スカルグレイモンの大暴れは結果的に時間稼ぎの役割をはたしてくれたみたいです。

 ときどき意味もなく歌って踊りだすので、ガジモンたちは即応体制でヨイショをするようですね。でも作業中にそれをやると今回のように怒られるし、かといって無視してもやっぱりゲンコツをくらうことでしょう。手下たちの苦労がうかがえます。


・ ヌメモン
 浦沢脚本によく顔を出す常連。謎の食い物をもらってバイトをしていたようです。あんまり敵っぽい描かれかたはされてません。
 ミミに簡単にメロメロになっちゃうってことは、彼らの好みは世界共通なんでしょうか?


・ ゲンナイさん
 いきなり連絡をとってきました。あのマシンは結構そこらじゅうに仕掛けてあるんでしょうか?
 でもダークネットワークのせいで、通信状態はすこぶる悪いみたいですが。
 彼の発言にはちょっとした含みがあり、のちにフォローがあります。


・ 砂漠の豪華客船と巨大サボテン
 不条理シリーズはまだまだ続きます。いったいどうやって運行してるんだろうとか、細かいことを気にしてはいけません。
 その巨大客船の重量をまるごと受け止め、あまつさえ空中へはじき飛ばす巨大サボテンに至ってはとんでもない存在です。なんちゅう弾力だ。
 しかしあの爆発を見るに、ダークネットワークは使いかたをまちがえたり事故をおこしたりするとえらいことになるみたいですね。トラブルには弱そうだ。


・ 日数経過
 実はこのあたり、よくわかりません。何日も経ったと名言がないってことは、一話=一日でいいんでしょうか?
 とすると16話は14日めで、この17話は15日めってことでいいんですかね。二週間がすぎたわけだ。
 



★名(迷)セリフ

「太一さん、こんなところでいくら後悔したって、どうしようもないわ」(ミミ)
「ミミちゃん…」(太一)
「コロモンのためにも、太一さんが元気出さないと!」(ミミ)
「…うん」(太一)

 わりと数少ない面と向かっての会話シーン。
 答える表情がなんとも曖昧なあたり、ミミから見ても落ち込みようはそうとうのもんだったんでしょう。


「あたしが巨大なトゲモンになって、みんなに日陰つくってあげたい…」(パルモン)


 あまりの暑さに脳がやられぎみになったんでしょうか…(^^;)
 ま、浦沢脚本ではみんなが妄想がちになるんでこれがデフォルトともいえますけど。02じゃ6話で京さんが妄想してますし。


「オレたち…正しい育てかたされてるのかなあ?」 (ガブモン)
「ガブモン!? ちょっと待て!」 (ヤマト)

 微妙に聞き流し気味だったヤマトがあわててツッコミを入れる場面です。
 でも、9話とかみてるとガブモンが言いたいことなんとなくわかる気がする…。


「ぼくもまったく、全然、少しも自信ない。自信0%……」(丈)
「おいおい」(ゴマモン)


 初見からミョーに印象的なんで殿堂入り。投げ槍ぎみなゴマモンのツッコミがいい味です。


「せっかくの料理が冷めてしまっては、作った人に悪いですよねえ!?」(光子郎)

 無断は悪い悪いといいながら、必死に理由をみつけて食べてしまおうと画策しているのが表情から丸分かりです。
 この場のみんなが引きつり笑いを浮かべているのにはこちらも思わず苦笑しがち。
 でも腹ペコのときに一気に詰め込むのは身体に良くないですよ?


「コロモンには手をだすな!」(太一)

 うーん、15話や16話とくらべてみると、極端なくらい逆のリアクションを取っているなあ…。
 ただ、マイナス面に振れすぎるのもよくないのでバランスをとる過程が必要になってくるわけです。


「欲しくなかったのに……あたし、パルモンを正しく育てられるかしら…」(ミミ)

 このセリフは、全員の気持ちを代弁するもの。
 次回は太一だけでなく、全員の不安に対する答えが秘められた回になるのでしょう。



★次回予告
 ピッコロモンが登場。太一に課せられた第一の試練は、力を得ることへの恐れに立ち向かう心。
 第二の試練はその先に秘められていますから、ここからは太一篇といってもいいかもしれません。そこに空がかなり絡んでくるので、それもあってこの二人を応援してる人が多いんでしょう。もちろん、決定打になったのは映画だと思いますが。