妖精! ピッコロモン

 脚本:前川淳 演出:今村隆寛 作画監督:清山滋崇
★あらすじ
 あてどなく砂漠をさまよい続ける子供たちの前に、いきなりあらわれた小さな完全体・ピッコロモン。なぜか一行のことを知っていた彼は、自分のところで修業をしろとなかば強引に住み処の結界の中へ案内します。太一とアグモンだけには、特別メニューがあてがわれました。ふたりの精神的ダメージが特に深かったからです。なにしろ、暗黒進化のことを思いだして戦いの中ですら萎縮してしまうほどだったのですから。
 連れて行かれた洞窟の中のふしぎな空間にいざなわれ、ふたりは古い記憶のなかに流されていきます…。

 いっぽう、眠れずにいたヤマトと光子郎はタグの反応に気付き、ふたりで紋章をさがしに出かけていました。
 夜も明けるころにようやく見つけるのですが、そこは結界の外。復旧したばかりのダークネットワークに引っ掛かってしまいます。子供たちの居場所に気づいたエテモンは、すぐさまティラノモンを差し向けてきました。あわてて応戦しようとするパートナーたちですが、エテモンの歌のせいで進化できません。ピッコロモンは単身子供たちを守りながら、ひたすら太一とアグモンを待ち続けます。

 漂流のはてに太一が目の前にみたものは、過去の自分でした。
 何度挑戦しても自転車に乗ることができず、「自分なんかどうせ、自転車に乗れっこない」と思いかけていた小さな、いまよりももっと小さな自分の姿。それを見て、太一の心には忘れかけていた気持ちが戻ってきました。一度や二度の失敗であきらめてはいけない、大事なのは自分を信じぬくことなのだと…。

 勇気凛々、もどってきたグレイモンがティラノモンを一気に倒します。お礼を言って立ち去る一行を、ピッコロモンは激励を秘めて見守るのでした。



★全体印象
 18話です。タイトルコールは田の中勇さん(ピッコロモン)。背景の影絵も当然ピッコロモンですが、太一とアグモンも貼られています。明らかに修業中のイメージですが、自分から漕いでいるところからすると戻ってくるときでしょうか?

 今回はもう四話ばりに「これぞ今村演出」な回でした。
 サーバ大陸に入ってからでははじめてになりますが、それだけに今までと画面がぜんぜん違って見えます。おなじみのロング多用に錯覚、ピンポイントで動きまくる戦闘などなど、心に残るシーンがいっぱい。割り込みでバシッと入ってくるカットも印象的です。超アップで話題の中心になってる事柄や、今起こってることの一部……ときには視点をはずして、周辺の目立ったシンボルを映すことも……をはさみ入れるわけですが、これを顔も分からないくらい引いた視点からいきなり使うのが今村流。まあ範となるものがあるのかもしれませんが、置いといて。
 こういう手法って、考えてみたら動画の節約にもなるんですね。浮いた分を回しているから戦闘シーンに凝れているのかもしれません。

 また、このお話はテレビ版ではじめて「ボレロ」が流れた回でもあります。
 過去の太一がまんま劇場版デザインなので、正しくそれつながりで流したのでしょう。

 お話に目をむけてみると、自信の喪失から過去の気持ちを思いだし、立ち直るあたりはオーソドックスでかつ、それ自体はわりにあっさりした描写。かわりに肩ひじ張った感じがしないため、あまり抵抗なく見ることができるようになってます。中心はもちろん太一組ですがヤマトに光子郎というめずらしいやり取りもありますし、けっこう全員がしゃべってる感ありで脇にまわるメンバーもないがしろにされてはいません。

 暗黒進化で太一が知ったのは、力を持ちすぎることへの恐れ。そして今回知ったのは、自分を信じる勇気でした。このふたつがセットだということは、今ならよくわかります。正しい進化を知るためには、手にした力に振り回される恐怖と、思うにまかせない精神的壁を体験しなければならなかったのでしょう。知らないものを克服できるはずがないからです。恐怖や焦燥に立ち向かい、自分のものにしてこそほんとうの勇気。ピッコロモンは、それを教えたかったのかもしれませんね。
 「勇気」とは「怖さ」を知ることッ!「恐怖」を我が物とすることじゃあッ! というセリフを思いだしました。
 つまりどんなに強くても、恐怖を知らない闇のデジモンたちはノミと同類なのです。なんつって。

 そしてここで太一が得た勇気は知らず他のみんなへも伝播し、進化への布石となっていくはずです。勇気の紋章はみんなの勇気に火をつけ、それぞれの紋章を輝かす力さえをも持っているのでしょう。紋章にそうしたはたらきがあることは、後のヤマトのセリフによっても実証されています。

 ところで、今回も演出補佐に地岡公俊さんがいます。今村さんがワンピに行ってしまったあとのガッシュを支える一人ですが、どうもこうして見てみると、今村さんの下であれこれ勉強していたように推測できますね。その経験はどうやらしっかり活きているようす。
 また、作監は作画陣のなかじゃ普通レベルに位置する清山さん。ですが、補佐の竹田欣弘さんや演出のおかげで、いつもより数段キレイに見えます。



★各キャラ&みどころ

・太一
 ああ見えて、小さい頃はなかなか自転車に乗れなかったんですよねえ…。

 ひょっとしたら、うまく乗れずにケガをしてしまったことだってあるかもしれません。また同じ結果になるかもしれない、なんて萎縮しかけたこともあるでしょう。でも性格から考えて、半べそかきながら必死で練習し乗れるようになったんでしょうね。きっとすり傷と打ち身だらけになったことでしょうが、そんなものは忘れてしまうくらい大きななにかを得たにちがいないのです。そのときの気持ちを思いだしたんですね。

 私も小さい頃は自転車に乗れませんでしたから、よくわかりますよ。まあ、乗れるようになったのはさらにだいぶ後でしたが…。


・ 空
 小説版では落ち込む太一に声をかける場面も用意されてるんですが、こちらでは特になんか言ってるわけじゃありません。
 まっさきに彼の身を案じて駆け寄るのはたしかですが、彼女の場合全員に対してそうするだろうし…。アニメ版だけみた場合、太一の方からアプローチしたのってウォーゲームくらいなのかもしれないなあ。ナノモンに捕まったのを助けるのだって、太一だったら誰が対象でもそうするだろうし…あれ、似た者同士?

 でも太一、空に対する時にかぎって誤解をまねくような発言が多いんですよね(^^;)
 この時点じゃ誤解じゃなかったという説もあるんですがそれはまた別の話。

 そういえば丈先輩をミミと一緒になってからかうという、意外な行動も見せてました。


・ヤマト
  紋章捜し篇は全体的に大人しくしていてあんまり描くことのない彼なんですが、今回の発言は重要です。
 いままでの話をじっくり噛みしめた上でこのセリフを見ると、いろいろと考えさせられるものがあるはずですから。

 彼としても、太一の苦悩を見ていろいろ思うところがあったんでしょうね。


・光子郎
 好奇心のためなら危険の可能性があるってくらいじゃひるみません。あいかわらずです。完全体進化が早めだったのもうなずける気が。
 ある意味太一ばりに暴走しそうな人物だと思うんですが、前例がないならともかく一度暗黒進化を見てしまった以上、そのへんは抑えをきかすわけです。
 運もよかったんでしょうけど、ソツのなさも感じるあたりそれも「らしさ」なんでしょうね。


・ミミ
 このところ、ゲンナリし続けです。過酷な環境も考えに入れると、彼女にとってはこのあたりの時期がいちばんつらかった一つなのかも。
 救いといえば、前回曲がりなりにもお風呂に入れたことでしょうか。15話でも入ってるし、身だしなみを忘れないのはやっぱり女の子。描かれてはいませんが、たぶんピッコロモンの住み処にも風呂くらいあったんじゃないですかね?


・タケル
 わりと最年少っぽい、無邪気なセリフが目立ちました。すぐに気持ちを切り替えてトコモンと競争する姿には、ヤマトも目を細めています。


・丈
 オロオロすることの多い役どころなのは、デフォルトですからしかたないのかもしれません。
 それでもテンパりまくっていた序盤にくらべれば遥かにたくましくなってるんで、見てて不安にはならないんですが。


・デジモンたち
 まるで太一の怯えが伝播したように進化を忌避するアグモンが印象に残りました。やっぱりパートナーがダメだとデジモンもダメになるんですね。
 納得して立ち直るのもまったく同時だし、まさに「僕はきみ、きみは僕」って感じです。

 それ以外のデジモンたちにもちょこちょこ出番がありますね。微妙になさけないガブモンやいい味出しまくりのテントモン、「めしー!」発言がかわいらしいゴマモン、あいかわらず言いたい事はハッキリ言うパルモンなどなど。ただ、アグモン以外は残念ながら進化しません。


・ピッコロモン
  完全体の妖精型。子供たちを住み処に案内し、進化の修業と紋章さがしを促しました。口うるさいけどいいデジモンです。
  強力な魔法技「ビットボム」を持っていますが、太一が来ると期待してぎりぎりまで待つなど、まさに導き手としての役割を果たしていますね。

  その強さと不可視の結界を張るほどの魔力を持っていることから、エテモン支配下のエリアにあっても悠々と暮らしていたのでしょう。直接やりあったとしてもそう簡単にはやられますまい。ゲンナイとつながりを持っていることが明確なので、選ばれし子供たちがあらわれた時手を貸せるよう、エテモンやヴァンデモンの目から身をかくしながらひたすら待ち続けていたにちがいありません。それができたのは、そもそも聖なるデバイスや紋章をつくったのがゲンナイの一派であり、ピッコロモンはその話を聞いていたからでしょう。つまり彼らにとっては伝説でも噂でもなく、いずれかならず起こる事実だったのです。

 彼らふたりはダークマスターズの暴虐にあっても雌伏をつづけ、義憤に耐えながら太一たちを待っていたのですね。
 表にこそ出しませんが、愛する故郷を蹂躙されながら何もできないというのは想像を絶するつらさだったことでしょう。

 声は田の中勇さん。言わずと知れた目玉オヤジです。ちんまりとした年輪のあるキャラを演じることが多いのは、やっぱりその声質が理由ですか。


・ ティラノモン
 離れたところにいるエテモンが差し向けた刺客。どうやらピッコロモンの結界に気付かないまま、周辺を縄張りにしていたようです。
 といっても成熟期ですから、あの場の全員でかかれば何とかなる相手。本当におそろしいのは遠距離ラブ・セレナーデを使うエテモンでしょう。といっても、最初から進化してきたうえに勇気バリバリのグレイモンには通用しませんでしたから、気魄充分の相手には効きづらいのかもしれません。

 ビジュアル的には全身と地上をつなぐケーブルがひじょうに印象的。
 しかし、グレイモンとならぶ恐竜型成熟期が初登場でこういう扱いというのは、生粋のファンには納得がいかなかったかもしれないですね。


・エテモン
 相手を弱体化させてから戦うあたり、弱いものいじめが好きだと言われてもしかたないですね(^^;)
 でもこの戦い方そのものはやはり恐ろしいので、悪賢いやつです。


・クワガーモン
 ファイル島の個体よりはるかに強いとされており、成長期の技はおそらくほとんど効きません。でもピッコロモンの技であっさり消滅してしまいます。
 そのせいであんまり印象がよくないのですが、逆に言えば成熟期と完全体にはそれくらい戦闘力に差があるってことでしょう。
 巨体が砂漠の広さを教えてくれています。


・砂漠のど真ん中の井戸
 不条理といえば不条理な光景。知識と友情の紋章がかくされていました。
 ピッコロモンは何かの方法でこれらふたつを発見したか、または結界の中で隠される場面を目撃した可能性がありますね。



★名(迷)セリフ

「いまね、デジモンについてのとっても大事な重要会議してるの! すぐ行くからちょっとまってね!」(タケル)
「ねー」(トコモン)


 太一も思わず相好を崩す、かわいらしい返答です。


「も…もし、今度も進化に失敗したら…」(太一)
「グレイモンになれなかったら…」(アグモン)


 このシーンはセリフがつながっているので、ますます気持ちがつながっているように見えます。
 そもそもグレイモンになれるかどうかすら自信がなかったようなので、これはそうとうの重症。


「あたし、努力ってキライ…」 (パルモン)
「どーせオイラ、根性ないよ…」 (ゴマモン)


 根性はともかく、このふたり努力は好きじゃなさそうだなあ(^^;)。


「トコモン、どっちが早いか競走だよ!」 (タケル)
「うん! ボク負けないよ!」 (トコモン)

 うーん、可愛らしい。ヤマトも思わず表情を緩めています。
 みんなが少し落ち込みがちな道中において、このふたりの逞しさと無邪気さは癒しになってます。


「…なあ、光子郎はなんで紋章がほしいんだ?」 (ヤマト)
「なんでって、それはカブテリモンから今度はなにに進化するか、見たいからじゃないですか。そういうヤマトさんは、どうしてなんです?」 (光子郎)
「おれは…おれはもっと自分をみがきたい。
 進化して強くなるのは、デジモンたちだけじゃない。おれも一緒に成長して、今までとはちがう何かをつかみたいんだ」(ヤマト)


 ほぼ即答する光子郎に対し、ヤマトは考えながら答えをさがしていたふうです。
 いま考えると、実はここらへんに差ができていたのでしょうか?
 まあ光子郎の場合、かなり行動規範がハッキリしてるので多少の事じゃ揺らいだりしないのですが。

 ヤマトは太一が壁を越えて、アグモンと進化できるようになると信じていた…というより、どこか確信に近いものを持っていたのかもしれません。
 だから自分もそれに負けないように、タケルの兄として恥ずかしくないように自分をもっと鍛えたかった。そう感じていたんでしょうね。


「忘れてたよ、アグモン。へこたれちゃダメだってこと。オレ、またアグモンが変なデジモンに進化しちゃったらって、弱気になってた」 (太一)
「ボクだって同じだよ。だからグレイモンになれなくなっちゃったんだ。でも自転車に乗れたみたいにさ、ふたりで力をあわせれば…
 ボク、もう一度進化できるような気がするよ! 」 (アグモン)


 進化するためには、パートナーとデジモンのふたりが心を合わせなければなりません。それがハッキリわかるセリフです。
 心なき進化の先にあるものは勝者も敗者も救いもない、ただ破壊だけ。でも一人で手にあまる力でも、ふたりで分け合えば……そう、何とかなるんです。

 立ち直るのまで同時だなんて、シンクロ具合抜群ですね。


「いくぞー!」 (太一)
「いっしょに! 」 (アグモン)


 すっかり自信回復したふたりですが、次回でいきなり思わぬ試練に逢うことに…なんとも過酷です。
 彼らにとっては、それが事実上最後の試練となるんですけどね。



★次回予告
 小説版では「ヤツら」にかかわる重要エピソードに化けていたナノモンを巡る戦いが、いよいよ幕を開けるようです。
 20話を入れた前後篇では太一と空だけでなく、光子郎の大活躍も大きなポイント。デジモンワールド→デジタルワールドとなるきっかけに…!?