迷宮のナノモン!
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脚本:西園悟 演出:角銅博之 作画監督:直井正博 |
★あらすじ
エテモンのネットワークを調べていた一行のもとに、「助けて!」という言葉からはじまる謎のメールが届きました。
協力してくれれば、のこり2つの紋章のありかを教えてくれるというのです。そして実際、指示どおりの場所に希望の紋章がありました。
紋章が消えたあとにはまた通路が…そこに書かれていたプログラムを光子郎が解析したところ、地図が表示されました。さらに今までもらったデータを追加すると、浮かび上がってきたのは地球とまったくおなじ大きさの世界! 今いるデジモンワールドはもとの世界の影、ネットワークそのものであり、地球そのものと同じ位置にあって同じ位置になく、自分たち自身もまたデータになっているというのです。衝撃を受ける子供たち。
さらにデータを追加すると、空間を飛び越えて進む通路が出てきました。メールの送り主は、その先にある逆さピラミッドの中。子供たちは作戦を立て、万が一のために二手にわかれて行動を開始します。隠し通路のおかげで首尾よく目的地に近づいていくのですが、自分たちがデータ=ゲームの中のキャラクターのようなものだと解釈した太一の軽率な行動に、ほかの先発隊はハラハラし通し。空のイライラはつのるばかりです。
さて高圧電流の抜け道をくぐり、先発隊はついに謎の救援者・ナノモンとの対面を果たしました。ところが、彼をとじこめていた封印を解こうとしたところでエテモンが登場! 太一の軽挙が監視カメラに写っていたのです。グレイモンたちが時間をかせぐ間に封印を解く太一でしたが、ナノモンはそんな彼らをも巻き込んでエテモンを攻撃しはじめます。自由になるため、はじめから子供たちを利用するつもりだったのです。その上正面からでは不利とみるや、利用しようと空を拉致しました。あわてて後を追う仲間たちでしたが、お構いなしに高圧電流の壁をくぐろうとする太一を、光子郎が強い言葉で制しました。データ化しているとはいっても、今も現実世界と同様生きているのと同じ。つまりここで死ぬことはすなわち、ほんとうの死をも意味するのだと。
死。その言葉をとつぜん突きつけられて急に恐怖におそわれた太一は、壁の先へ踏み出すことができませんでした。
そうこうしているうちに、グレイモンたちを圧倒したエテモンが追ってきます。間一髪、後詰めのヤマトたちが間に合い、その場は切り抜けて退却することができたのですが、目の前でみすみす空をさらわれ助けにもいけなかった悔しさに、太一は涙を流すのでした。
★全体印象
第2クール最初の山場のひとつ、ナノモン前後篇パート1の19話です。
タイトルコールは宇垣秀成さん(ナノモン)で、影絵もナノモン。ゲストデジモンがタイトルコールは珍しいと思ってたら、けっこういるもんですね。
メールのやり取りからはじまる顔の見えない相手とのやり取り、明かされるデジモンワールドの全体像とその本質、エテモンとナノモンの確執、太一と空、死への恐れという試練。ひじょうに密度のたかい一篇です。これぞデジモンアドベンチャーといえるお話のひとつに挙げられるかもしれません。はじめて見た時もかなりの感銘を受けましたが、あらためて視聴してみてもいろいろ新しい発見があり、新鮮な感覚をおぼえることができます。これだからこの作品のファンはやめられない。
回を追うたびにクレバーになっている子供たちにも注目です。正体不明の相手はまず疑うことからはじめているし、ひとまず信用して行動を開始するときも後詰めを残しており、おかげで退却が可能になっています。生き延びるための知恵というやつですね。それを台なしにしたのが求心力たるべき太一というあたり、彼に課せられたリーダーとしての最後の試練が強調されているともいえるでしょう。
対するナノモンも非常に狡猾です。サーバ大陸のすべてを把握しているという豪語は伊達じゃありません。おそらく紋章があと残りふたつというタイミングをねらって連絡を入れたのも、残りひとつである愛情の紋章は手元にキープしておきたい手前、まずはタケルの紋章を餌にして子供たちの信用を得たかったからでしょう。それどころか、サーバ大陸へ無事に入れたのもナノモンのおかげだと確認できました。確かに、15話でエテモンの見ていたネットワークは最新の情報に更新されていません。となれば、16話のスカルグレイモン大暴れに便乗して情報を混乱させ、エテモンの目から子供たちを隠していたりもしてたのでしょう。
つまり、太一たちは結果としてナノモンの復讐心に助けられていたことになります。完全体に対抗する手段が集まりきらない以上、ある意味ではこの紋章集め篇がもっとも危険な道程。そんな子供たちを支援する形になったナノモンは、ゆえに一連の影で立て役者を張っていたわけですね。
さて、さきに述べたとおり、この前後篇は太一にとって最大最後の試練となってます。
スカルグレイモン暴走で得たものは、力を持つことへの恐怖と自戒。過去への旅でその恐怖を克服し、立ち向かう勇気を得ました。
ところが彼は、前回得たものをまたしても暴走させています。恐怖を克服した自分自身への過信と、「失敗してもやり直せばいい」という前向きさの履き違えがそれ。後者はまあ認識不足といってもいいんですが、今回の彼はいささか自信過剰のように見受けられました。結局その気持ちは完膚なきまでにへし折られ、20話であらためて真価を問われることになります。自分がなんのために戦い、なんのためにアグモンと共に進化するのか、そのためになにが必要なのかを。
…それにしても、ダークマスターズ篇に蔓延する死の匂いはすでにここからマーキングされていたんですね。
太一は誰よりもハッキリ死への恐怖を味わっているからこそ、それを越え命を賭けて盾になってくれたデジモンたちの勇気へ絶対に応えようという覚悟をきめたのでしょう。あの苛烈な戦いに且つには、だれかが子供でなく戦士にならねばならない。彼はたとえ罵倒されることになろうと、その道を選んだのです。そしてそれは、太一にしかできないこと。彼にはファンにある意味での怖さを感じさせてもなお揺るがない、磁石のような人間的求心力があるのですから。
このように考えてみると、後年あのようになっていったのも納得がいくというものです。選ばれし子供たちの代表として表舞台=矢面に立ち、さまざまな障害にあらゆる局面で丁々発止を繰り広げられるのは、私の知る限り太一しかいません。それに、だからといって彼はひとりじゃないのですから。
ところで今回の作監は直井正博さん。あいかわらずひと目でわかる直線的な絵柄に質のたかさが秘められてます。
この人もフロンティアには参加してないんですよね。残念。映画ぐらいには参加してたかもしれないけど。
★各キャラ&みどころ
・太一
いつも通りになったと思ったら、今回はやたらと軽率な行動が目立ちました。
光子郎の説明がなかったらもう少し気をつけてたと思うんですが……でもこれはやっぱり認識不足と、ふたたび進化できるようになったばかりですからどっかで過信みたいなものがあったのかもしれません。そして、正しかろうが間違いだろうがすぐ実行にうつしてしまうのも長所であり悪いクセ。そのせいで事態を悪化させ、空を助けられなかったのですから、あれは自分のふがいなさへ向けての成分が多くを占める涙でしょうね。
たまに冷たいと言われることもある彼ですが、今回やのちの45話といい、見せるべきところではちゃんと感情を見せています。
淡泊なのはたしかですけど、けっして非人間的ではないでしょう。まあ、どっかで突き抜け過ぎたのもたしかだと思いますが…。
・ 空
意外にめずらしい太一とふたりきりの会話や、丈を押さえにまわらせるほどの剣幕を見せるシーンでさらに彫りを深めています。
のちに得る紋章が示す意味から考えれば、彼女はみんなの安全を第一に考える性格。必要もないのに危険なことをする太一の行動は我慢ならなかったのですね。つきあいが長いわけですから、太一がある時点から発しはじめた危うさってものにいち早く感づいて、それで気をもんでもいたことでしょう。きっと、知りあったころからわりとこんな調子だったにちがいありますまい。ストレス溜まってそう。
この前後篇は彼女がヒロインのようなものです。そのせいか、いつもとちょっと違って見えるような気も。
太一と空を応援している人にとっては、とても重要なエピソードになってるはずです。
・ヤマト
今回は後詰め。先週だいじな発言をした彼ですが、紋章集め篇ではタケルと同じく総じて薄めです。
でも、ぼう然としている太一を連れだすあたりの行動の速さは注目に値しますね。自分の役割をしっかり果たしています。
・光子郎
のっけからエテモンのダークネットワークを調べるという危険なことをしてました。18話の引きからするといきなりの展開なので、けっこう驚きます。
長々とぶち上げた推測はたぶん、この時点じゃほぼ当たりだったんでしょう。02あたりになるとだいぶ怪しくなってきますが、それは彼の責任じゃありません。ただ、データだからといってリセットはきかないという事実だけは不変のはずです。少なくとも彼ら選ばれし子供はデジモンとちがって死んだら終わりですから、パートナーたちは進化をさせてもらうかわりに前に立って盾となり剣となる、もう一人の戦う自分なのでしょう。
ところで、彼の推測と主張はあくまでも得られたデータに即したものですが、そんな光子郎に質問をした空は恐らく感覚から「本当に自分たちがただのデータだと思っていいのだろうか、何かがおかしい」という違和感をつかんだのでしょう。これはさまざまな可能性を慮り、いつも心を砕いている空だからこそできたこと。危機感は一致していてもその認識のしかたが違うというわけです。私がこのように感じとることができるのも、子供たちの個性のなせるわざです。
・ミミ
ヤマトやタケルと同じくお留守番。彼女自身にめだった出番はありません。
・タケル
お留守番組です。今は戦力に数えることができませんから、これは妥当な判断。
で、彼が残ればヤマトも残る、と。
・丈
危なっかしい太一やイライラをつのらせる空の間に立ってひたすら調整役に終始していました。いつのまにか、空でもテンパってしまうような状況にすら対応しはじめています。また太一には上級生らしい釘のさしかたで忠告をしており、仕切るよりも押さえに回ってきていることがよくわかりますね。そして、やはり彼はその位置に立っていたほうがハッキリした意見を言えるように見えます。
・デジモンたち
今回はどっちかというと子供たちが前面に出ているので、そんなに特筆すべき出番はありません。
むしろ、進化した彼らを3体同時に相手にしてもまるで意に介さぬエテモンの圧倒的強さのほうが心に残る始末。
・ナノモン
小説版ではさらに重要な役目をになう、紋章探し篇影の立て役者。
機械的な狡猾さと緻密さを持つ反面、エテモンには狂的な怨みをいだいており、そのためには何でもするダーティさが身上。エテモンも彼の性格をよく知っており、だからこそ自我をうばって能力だけを利用したのでしょう。彼らふたりは持ちつ持たれつではなく、一方的なだけのまさに一触即発な関係だったわけです。ですが、もしナノモンがエテモンの要請に従っていたなら、子供たちに逃げ場はなかったでしょう。ここでも、力を合わせることのできない闇の勢力の弱点が露呈しています。亀裂にまんまとつけこまれる破目になったのですから。ある意味、パートナーと子供たちの対極に位置する関係かもしれません。
それにしても行動のタイミングといい、選ばれし子供たちはやはり天運ってものを持っているんですねえ。
要するに、サーバ大陸到着は早すぎても遅すぎてもダメだったわけだし。
ちなみに、彼のメールはちゃんと読めるようになっています。DVDの画質でも視認がちょっと難しいですけど。
そこからすると、タケルの紋章のところまで行くのには日中まるまるを使ったことになるみたいですね。
・ エテモン
小説版では、ダークネットワークの構築が重要な役目のひとつであるとされる彼。
恐らくナノモンを使わなくても、時間と労力をかければ不可能じゃなかったものと思われます。しかし悪賢くもせっかちで面倒くさがりであろう彼のこと、面倒なことは全部ナノモンに押し付けて自分は遊び回っていたかもしれませんね。それがナノモンに恨みという致命的エラーを生じさせるほどの屈辱だったのは想像にあまりあります。結局、誰かを一方的に利用するだけならばいずれは代価を支払わねばならないということですね。それも、ときには最悪の形で。
ところで、お仕置きにきたといいながらなぜかなんにもしないで一晩泊まってました。いったいなぜ?
ナノモンがとぼけているか起きてないフリをしていたかもしれませんから、動くまでようすを見ようという肚だったんでしょうか。
・ 逆さピラミッド
不条理シリーズの極みみたいな建物です。あのありさまでバランスを保ってるのも凄いし、内部は機械だらけでちっとも遺跡っぽくありません。
建物全部が巨大なサーバであると解釈してもよさそうですね。
そういえば彼方から通じているあの通路の出口は…! ス、スフィンクモンがこんなところに!
・ 日数経過
とくに描写がない以上は一話=一日と数えるので、そこから計算していくと16話が14日め、17話が15日め。18話で二日たってますから16日と17日め。そしてこの19話でも一日経ってますから、ラスト時点で19日めということになります。つまり、ほぼ3週間経った状態で21話をむかえるってわけでしょうか。
このへんは21話のセリフなどで確認し、それしだいでは修正をしないといけません。
エテモンって、日数的にはデビモンよりずっと長く子供たちの脅威であり続けたんですね。伊達により上位を張ってるわけじゃないか。
★名(迷)セリフ
「じゃあ、ホントの自分はどこにいるんだ?」(ヤマト)
「おそらく…まだ、キャンプ場にいるのでは…」(光子郎)
もちろん、これは間違いです。なにしろすぐ後に太一がお台場へワープする現象が発生するのですから。
ですから、彼ら自身のデータが変換され、デジモンワールドに存在していると考えるのが自然でしょう。忠実な写し身どころか本人そのものなわけで、だからこそ空も言いようのない違和感と不安をおぼえたのでしょう。データだと今さら認識するには、感覚がナチュラルすぎるでしょうから。
つまりデジモンワールド=デジタルワールドとは、子供たちが思っていたよりもさらにとんでもない仕組みを持つ世界なのです。たとえ全てがデータだとしても、そこで起こったことはそのまま自分の経験になるのですから、これはもう現実世界と区別をつける意味がありません。
…そもそも後付けとはいえ、念を現実化すると思しき世界の力を借りて成り立っているトンデモな世界ですから、子供たちの思い入れが増すとともにそれ自体のありようも変質していった可能性すらありますね。再統合と復活はそのための重大な契機となりえたはずです。
「つまりこのデジモンワールドは、僕たちの世界と同じ場所にある…地球の影といってもいい世界なんです!」(光子郎)
「現代のナルニア国ものがたり」と言われることもあるこのデジアドシリーズ。
その中にも「影の世界」という言葉が出てきた事があるのを鮮明に思いだしました。
ただし、影なのは主人公たちがもといた現実世界のほうでしたが…。
ほかにも多数の世界へのはざまがあったりなど、デジアドに通じる要素がいっぱいある物語です。読んどいてよかった。
「もとの世界に戻ったとき、この世界で出あったデジモンや体験したことを、憶えているのかしら…」(空)
「…さあな…」 (太一)
直前のやり取りもいいんですが、ここをピックアップ。
空にとって、ピヨモンたちとのことはもう決して忘れたくない体験になってきているんでしょうね。
「今回はあくまでも差し出し人を助けて、空くんの紋章を手に入れることが目的だからな。よけいな戦闘は 絶 対!しないように」(丈)
16話でもそうですが、自分の立場から太一を諌めることができるようになってきてますね。
丈自身も、なんとなく太一が何かやらかしそうな空気を感じ取っていたのかもしれません。
「邪魔よ!」 (エテモン)
ただのパンチでグレイモンを壁まですっ飛ばす滅茶苦茶な格闘能力です。素で全力のデビモンと同等以上だとわかりますね。恐ろしい。
「今度もあちきの勝ちね♪」 (エテモン)
「戦闘力ダケノさるガ…! コイツ(空)ノ真ノ力ヲ利用スレバ、キサマナド絶対倒セル! 覚悟シテ待ッテイルガイイ!」(ナノモン)
正反対ゆえうまく連携すれば恐るべき力を発揮するであろうだけに、この仲の悪さは救いですらあります。
ところでなぜかフリーザを思いだしました。
「どうせオレたちはデータなんだろ!? 失敗したらやり直すだけさ」 (太一)
後半は前回得たものですが、前半の認識不足のせいで悪いほうに暴走しているわけですね。
「僕たちは…ここで生きているのと同じなんです! ここで死ねば……ほんとうに、死ぬんですよ!?
」 (光子郎)
本当のバトルは命がけ。リセットできない、厳しい勝負なのです。
(ど、どうしちまったんだ…!? 空のピンチなんだぞ…!?) (太一)
とつぜん恐るべき事実を突きつけられ、勇気が凍りついてしまった太一。ムリもありません。
彼ほどの少年でも、さすがに即乗り越えていくにはハードルが高すぎる現実だったようです。わがものとするには、もう少し時間が必要でした。
「ちくしょう…ちっくしょう……! ううっ、うう…」 (太一)
男泣きに泣いています。彼にしてはめずらしい…それだけ挫折感が大きかったのでしょう。立ち直った矢先の二度目ですからダメージも大きい。
進化に失敗し、仲間をみすみす目の前でさらわれ、死の恐怖にさらされる……あらためて見るとほんとうに厳しい試練ばかりです。でもこれだけの経験をしなければ、勇気の紋章の持ち主として、リーダーとしてみんなを引っ張っていくことなど覚束なかったのでしょう。お話的にも説得力が生まれにくかったはずです。
失敗は成功の母といっても、やり直しのきかないことがある。にもかかわらず、賭けてでも守らなければならないものがある。
あなたはなにかを守るため、自分を賭ける覚悟はありますか? 太一はそう問われていたんだと思います。
★次回予告
デジモン黎明期の象徴ともいえる旗頭、メタルグレイモンがついに登場です。
圧倒的な強さに酔い、そして目の前に迫る東京大激突篇に刮目せよ!