完全体進化! メタルグレイモン

 脚本:西園悟 演出:早川啓二 作画監督:伊藤智子
★あらすじ
 さらわれた空を救おうと、作戦を練る子供たち。特に太一は、今度こそと勇気に燃えていました。
 ナノモンがまだ逆さピラミッドにいるとわかったため、ヤマトたちが囮になってエテモン軍の目をひく間に太一と光子郎がピラミッドに侵入します。

 ナノモンの隠し部屋への入り口は、以前の通路と同じく電流が流れていました。しかし、こんどは勇気をふりしぼって通過してみせる太一。
 そこには空そっくりのデータが…ナノモンが空をコピーし、紋章を使わせようとしていたのです。アイテムは奪い返しますが、すべてを吸い取るダークネットワークの中枢へ落とされようとする空。太一は必死で彼女にデジヴァイスを届け、バードラモンの力を借りてなんとか脱出しました。
 万策尽きたナノモンは追撃してきたエテモンを道連れに、暗黒の大穴の中へ…。

 なんとか逃げおおせていたほかの仲間たちと、ぶじ合流する太一たち。ところが、 消えたはずのエテモンがダークネットワークの中枢と融合、ふたたび立ちはだかりました。圧倒的破壊力に逃げ道を破壊されてしまい、絶体絶命と思われたとき、みんなは気付きました。太一の勇気の紋章が、ずっと光っていることに。
 グレイモン超進化! メタルグレイモンの登場です。必殺技・ギガデストロイヤーで、みごとにエテモンを倒すことができたのでした。

 しかし、ふたりはダークネットワークが生み出した空間のゆがみの中へ吸い込まれてしまいました。気がつくと、そこは……
 そこは、東京だったのです。



★全体印象
 ついに完全体が登場の第20話です。タイトルコールは坂本千夏さん(アグモン)。背景の影絵はメタルグレイモンです。
 絵はおそらく本編の流用。

 さあ、とうとう紋章集め〜エテモン対決篇もクライマックスをむかえました。
 前回が冒険なら、今回はまさに激闘。それぞれが出来ることを最大限に発揮してがんばる子供たちとパートナー軍団、ますます傍若無人のエテモン、そしてそのエテモンを倒すためなら消滅すらいとわないナノモンと、三者三様の思惑が砂漠に激突し、二転三転する状況に見ているほうはハラハラし通しです。
 非常によくできたエピソードなので、これが初見であってもいい印象をえることができるかもしれません。

 とくに、本調子へもどった太一の大活躍は見どころです。空だけでなく、置きわすれてきた自分の戦う勇気をも取り返す奮闘ぶり。ナノモンの奸計にもいち早く飛び出す姿はとても頼もしく、これぞまさに主役の風格です。16話のときの彼とは別人のようですね。というより、これが本来の太一なのです。その太一を応援し、後詰めを駆って出るアグモンもかっこいい。決戦ではふたりの気持ちがひとつになっていたといっていいと思います。

 それにしても、紋章を集めはじめてからここまで五話ちょっとしか経ってないんですね。ほかと比較されがちなこのあたりのお話ですが、振り返ってみると思っていたよりずっと密度があり、見応えのある構成に仕上がっていました。こりゃあ今後も楽しみです。

 作画監督は伊藤智子さん。そろそろ本領を発揮してきました。基本的にはキャラデザに忠実なんですが表情に特徴があって、ことに憂いのある表情などはかなりの絶品もの。また、アップなどで髪を細かくバラけさせて描く傾向があるのも特色です。そのおかげで、ますます表情に磨きがかかってますね。
 動き的には安定した中程度なんで、演出次第ともいえる人です。今回はいい感じですね。

 そういえば、この前後編はもともとシリーズ構成の西園さんが担当していたんですね。
 その西園さんが抜けたあとを受けて小説を描いたのがまさきひろさんですが、ここでのナノモンはアポカリモンを呼び寄せてしまうという、とんでもない役割まであたえられていました。このデジモン、そういう意味ではやはり全編とおして非常に重要な個体のひとつといえます。
 (付け加えるとアポカリモンとダークマスターズの関係はアニメほど明言されていないのですが、これは解釈しだいかもしれません)


 さて、今回は各キャラばっちり活躍してるのでちょっと重点をおいて見てみましょう。



★各キャラ&みどころ

・太一
 16話や19話での失態や、そのせいでしばしば見せた弱気を払拭する活躍でした。ついに彼は弱い自分へ打ち勝ったのです。
 呼応するように、グレイモンも完全体へと進化しました。言い得て妙というか、まさしく完全体になったという表現が似付かわしい展開。

 注目は、自分を押さえることを身につけている点です。空を助けたいという気持ちが強いことはとてもよくわかるのですが、けっして自分一人で突っ込もうとはせず、むしろ単独ではムリだということを理解して仲間たちに協力を請う場面があります。そして動かなければならないときにはものすごい早さで行動し、一瞬の判断が明暗をわける場面において、みごとに空を助けることに成功しているのです。汚名返上は完全になされたといえるでしょう。

 そして、彼を空のもとまでたどりつかせたのは仲間たちの力。太一の勇気がみんなにも勇気をあたえ、それぞれの頑張りが太一自身にも勇気をあたえたのです。16話と比較すれば、進化に必要なものがなんだったのか、おのずと見えてくる図式になっている寸法。そう、このデジアド世界ではパートナーの成長そのものが、デジモンの進化に直接影響をあたえるのです。そのテーマは紋章集め篇でしっかり描かれ、作品の根元に腰をおろしました。

 今回ではさらに、選ばれし子供たちの結束がより強くなったと感じることができました。
 お袋さんである空がさらわれたことが、結果的に功を奏したのかもしれません。


・ 空
 のっけから囚われのヒロインだった彼女。そんな状況でも、虚勢ながら怯えを見せないようつとめているあたりは肝っ玉があります。
 後半の救出劇はボーイミーツガールの王道ですが、この二人にさまざまな意味でしっかりとした絆があることは描かれてきているので抵抗はありません。むしろここらへんの描写がかなり親密なので、踏まえたうえで映画を観ていると、02でふしぎに思うくらいのものです。

 西園さんとしては、やっぱりこの二人でいきたかったんでしょうか?
 もっとも、ああなったことへもそれはそれでドラマを感じますし、それを可能にさせるだけの厚みがあるキャラたちだったこともまた事実なんですが。

 それにしても、彼女を欠いたメンバーで行動する子供たちにはなんかこう、違和感をおぼえます。
 やっぱり選ばれし子供はひとりでも欠けちゃダメなんですね。影に日向にみんなを支えてきた空がいないとなれば、なおさらです。


・ヤマト
 前回につづき、裏方をつとめました。けっして目立ってはいませんが、現状でできる役目はしっかりこなしています。
 スポットが当たると(お話上必要とはいえ)途端にクールが崩れるので、そうでないほうがまともに動いてるように見えがちな彼。不憫ですね。
 もちろん、それさえ魅力に変えてしまうところがヤマトのキャラクターとしての地力ってやつなんですが。


・光子郎
 もう完全に参謀としての地位を確立しています。サブリーダーとは少し違うと思うので、この肩書きがいちばんしっくりくるでしょう。
 しかも、冷静沈着ながら時にはびっくりするくらい無茶な提案をするため、つくづく引き出しが多いキャラです。


・ミミ
 「やっぱりみんなが心配…」という気持ちに正直に動き、隠れていてもいいのに強敵・エテモンへ戦いをいどみました。
 戦うべき理由があり、そこに自分の気持ちが合致するならば決してためらわない彼女。その真っすぐさは太一に勇気をもらうような形で、より敢然とかがやいていたのかもしれません。そして彼女の行動は、タケルをも動かしたのでしょう。


・タケル
 カモフラージュに使ったシーツを利用し、エテモンに追いつめられたヤマトたちを助けました。地味ですが、大活躍といえます。
 力のある者を知恵で煙に巻くのは、ちいさな子供の得意技なのです。
 太一にかわって、デジモンたちに可愛らしい檄をとばすシーンもありました。


・丈
 ヤマトとタッグを組み、エテモン軍をおびき出す役目をはたしました。これも欠かせない役割です。
 太一の自責をいさめ、自分も責任を背負おうとする場面もあります。


・デジモンたち
 太一にエールをおくり、背中を守ろうとエテモンに立ち向かったアグモンがMVPです。
 このふたりの気持ち、これまでの失敗談から考えると通じ合いに歴然の差がありますね。しっかり経過を踏まえられた描写がなされてます。
 彼らはこの時点をもって、本当にほんとうのパートナーとなったのでしょう。そう感じ取ったうえで次回を見ると、少し違った見かたができそう。


・ナノモン
 エテモンもしぶといですけど、彼もおそるべき妄執です。差し違えようとまでするんですから。
 ただ初見では気に留めてなかったんですが、あそこまでする理由はちゃんと示されていました。彼、エテモンに負けたという以外の記憶をほとんどなくしていたんですね。つまり、蓄積してきた情報も、記憶もすべて失ってしまったのです。そうしたものを何より大事にするであろうナノモンのこと、奪いさった上に自分をさんざん利用したエテモンは絶対に許せない仇…しかも、自分自身への仇なのです。…そうか、彼は草加雅人だったのか…。

 ただそのわりに、空のコピーを作っただけで紋章を使えると思い込んでいたなど、パートナーデジモンと子供たちについてまるで理解してなかったようです。
 結局、情報という見地だけからしか物事を見られていなかったんですね。何をすれば何が起こるか知ってはいても、本質がわかっていない。
 でも、その名と特性にふさわしい独特の見地です。わずか二回の出演でありながら、キャラ立ちが明確ですね。  ところで空コピーは結局使わないまま廃棄してしまったのですが、もし本当に紋章を持たせていたらどうなったんでしょう。
 口ぶりからすると、なにか策がありそうにも思えたんですが。


・ エテモン
 今回はけっこう悪辣でしたねえ。舎弟ぶっとばして単独で向かってきたり、のしたガルルモンたちにさらにラブセレナーデで追い討ちをしたり(そのせいで逃げやすくしてしまったのですが)、まがまがしい姿に変貌したり、これぞ悪役といったアバレっぷりです。
 闇のデジモンたちのなかでは比較的憎めない側面のある彼ですが、この回をみるとやはり極道だなと思わされますね。ただ自分の力に絶対の自信を持っているから、どんな時でも自分が前に立って目立ちたいというだけなんでしょう。まあ、悪いヤツなんだからそれでいいとも感じましたが。

 最後はダークネットワークと融合しましたが、アレで空間ごとを吹っ飛ばす力は得たものの、絶対的な戦闘力ではさほど変わってなかったようです。
 小説版じゃテイルモンに対抗意識を持っていたため、恐らくその上にいるヴァンデモンもよくは思ってなかったはずですが、どっちみちメタルグレイモン一体にやられるようではサシじゃ勝負にならないでしょう。しかも、まだダークマスターズもいます。つまり、かなわない者がいるという憂さを舎弟いっぱい引き連れて晴らしていたわけで…結局のところ、お山の大将だったってことなんでしょうね。合掌。

 …じゃなかった、まだ出番があるんでした。といっても、ゲストみたいなもんですが。本当にしぶといなあ。
 小説版でも復活こそしませんでしたが、かわりに太一とメタルグレイモンを捕まえて相討ちにもちこんでいます。消えたのは自分だけでしたけど。


・空コピー
 ナノモンが空をスキャンして作り出したデータです。うつろな目がこわい。
 見たところ自分の意志はまったく持っていません。デジモンと違い、人間をコピーすることは不可能ってわけですね。子供たちはやっぱり死んだら終わりなのです。こういうところからも太一たちがただのキャラクターではない、リセットのきかぬ存在だということが示唆されてるってことでしょう。

 それにしても、スキャニングの場面は奇妙なエロチシズムを感じます。手塚漫画っぽいというか…。



★名(迷)セリフ

「みんなはしっかり食べて、いつでも戦えるようにしておくんだ」(タケル)

 こういう小さい子がいっちょまえのことを言っているのは可愛らしいものですが…そーか、こういうことも普通に言うようになっていくんですね。
 慣れていくのね…自分でも分かる…というやつ。
 そのくせトコモンと寄り添って眠っていたりして、これがまた可愛らしい。


「オレがあのとき、空を助け出していれば…」(太一)
「自分ばっかり責めるなよ。ぼくたちだって…」(丈)


 彼の場合、純粋に太一の自責を見かねての発言と信じることができます。
 うがった見方をすれば、太一のセリフは自分だけが空を救えると思っていたとも取れるんですが。あるいは無意識にそうだったんでしょうか。
 だとすれば、今回はさらにそこからの脱却なんですね。

 この場面のミミは眠そうです。あんまり作戦とか考えられるタイプじゃないし、おのずと発言も減ろうというもの。


「みんな、危険なのはわかってる。でもオレ、どうしても空をこの手で助けたいんだ。だから…」 (太一)
「わかってるよ、太一」(丈)
「おれたちだって、同じ気持ちさ」(ヤマト)
「空さんは、ここにいるみんなの仲間なんだもん!」(ミミ)
「いっしょに助けようよ!」(タケル)


 こういうふうに、ハッキリ横の絆が示されるエピソードはわりと初めてです。
 みなまで言わずとも、心はひとつ。今ここに、選ばれし子供たちは新たな団結を結んだといえるでしょう。
 準備期間がしっかりしていればいるほど、効果のある手法です。太一の顔がまた嬉しそうだこと。

 間接的にみんなの結束を強めるなんて、空はやっぱりみんなのおふくろさんなんですね。


「オマエタチハマダ紋章ノチカラヲマッタク引キ出セテイナイ。
 ダカラワタシガコノこぴーヲツカッテ、チカラヲ引キ出シテヤロウトイウノダ」 (ナノモン)


 なんでここまで自信まんまんだったんでしょう。なにか裏技でも使うつもりだったんでしょうか? 今となってはたしかめようもありませんが。


「ひきょうもの! 自分がかなわないからって、ほかの力を利用しようだなんて!」 (空)

 それに対する空の答えがこれ。
 つきつめれば子供たちもパートナーという、自分以外の力をあてにしているのですが、そもそもデジモンたちだって子供たちがいないと進化できません。
 ギブアンドテイクとただの一方的な利用とは根本的にちがうというわけです。ナノモンはそこのところがわかっていません。

 普通に「エテモンを倒したい、紋章をわたすからちからを貸してくれ」と申し出れば、子供たちだっていやな顔はしなかったでしょうに……。
 でもそれはやっぱり無理かな。まだ紋章を使えないということまで知っているし、使えるようになるかどうか賭けに出るような思考が彼にあるとも思えません。不確定なものに頼るタイプじゃないはずだし。逆にいうと、やはりナノモンにはなにか紋章を利用できる秘策があったのかもしれません。


「丈さんたちこそ、無理はさけてください。エテモンが出てきたら、みんな逃げてかまいません」(光子郎)

 発言がもはや作戦参謀状態です、光子郎。
 やっぱり、かなわない敵がいるなりの戦い方ってものはあるんですよね。ただ正面からぶつかりゃいいってもんじゃありません。


「やっぱり、丈先輩たちが心配だわ。行きましょ、パルモン
「ここでじっとしててね」 (ミミ)


 戦い向きな性格じゃないけど、いざってときはガンガン行動するのがミミクオリティです。タケルにはしっかり上級生してるし。
 …って、めずらしく「丈先輩」と呼んでますね。空だけじゃなかったんだ。


「太一さん! ここは僕とテントモンでなんとかします! はやく空さんを!」(光子郎)

 冷静に考えてカブテリモン一体でなんとかなる相手じゃないんですが、それを完全に度外視したこの発言。いやはや、無茶なことを言います。
 でも、ほかに方法がないのも事実。この瞬間の行動力、太一から学んだものなんでしょうか。


「この壁の向こうには、オレの大切なものがあるんだ」(太一)
「空?」(アグモン)
「…ああ。でもそれだけじゃない。オレがあのとき失ってしまった…なにか大切なものがあるような気がするんだ」(太一)


 とらわれてしまったもの、それは大切な仲間。置きわすれてしまったもの、それは賭けに出てでもそんな仲間を護りたい、戦う勇気。
 太一は差し出した手の中に、失いかけたそれをしっかり掴み取ろうとしていたのでしょう。
 そしてこのセリフは、太一と空を応援していた人たちにとってはとくに重要なものとなったみたいです。


「がんばれ、太一! 勇気を出して!」(アグモン)

 そしてアグモンもこの時太一の背中を見て、なにがあってもこの背中を守りたいと、あらためて強敵と戦う勇気を得たのかもしれません。
 だから呼びかけたんです。ボクがここにいる、ボクがきみの後ろにいるからと。だから迷わず、前を見て勇気を掴み取るんだと。


「なにを…寝ぼけたことを言ってんだよ! オレは空を助けにきたんだッ!」(太一)
「バカナ!」(ナノモン)
(…! 太一…!)(空)


 太一の空を想う気持ちとここまで来た勇気。それを受けた空もまた勇気をふるい立たせ、ピヨモンを進化に導いた。そう見えます。
 しかしとんでもなく危険なことをしますね、太一も(笑)。 アレをもし空が落っことしてたらと思うとぞっとします。
 まあナノモンには理解不能な行動でしょうから、おかげで虚をつけたともいえるんでけど。


「オレは逃げない! ぜったいに!」(太一)

 力を持つことへの恐怖。失敗への恐怖。そして戦い傷つくことへの恐怖。それらすべてを越えてでも、守らなければならないものがある。
 太一の宣言は、まさに勇気の紋章を持つものの誓い。そして、この世界をおびやかすものすべてへの宣戦布告だったのです。


「メタルグレイモンが光ってる!」(ミミ)
「光のエネルギーだ!」(タケル)
「聖なるちからだよ!」(トコモン)


 タケルとトコモンがこう言うってことは、つまりエンジェモンと同種のちからがメタルグレイモンから出ていたってことですね。
 よく見るとこの時、紋章だけではなくデジヴァイスまでもが光っています。これはただの完全体進化じゃなかったのかもしれません。
 何かこう、世界の歪みというか傷みを修正しようというはたらきが作用していたような…

……光の心と光の意志?


「……ここは……」(太一)

 すでに空気がぜんぜん違ーう!




★次回予告
 とうとうここまで来てしまった…。
 予告のヒカリにさっそく七転八倒している私がいます。何回見りゃ慣れるんだ。