ささやく小悪魔ピコデビモン

 脚本:まさきひろ 演出:川田武範 作画監督:海老沢幸男
★あらすじ
 仲間たちをさがして行動を開始した太一とアグモン。
 デジヴァイスの反応をたよりに辿りついた湖でトコモンを見つけるのですが、タケルの姿はどこにもありません。
 ほかの仲間たちもバラバラに行動し、行方がわからないというのです。とりあえずトコモンの案内で、タケルのいる遊園地へ向かうことになりました。

 タケルに讒言をふきこんで惑わせ、トコモンとの友情にさえひびを入れたのはピコデビモンのしわざでした。
 それでもトコモンを気にかけているタケルに、ピコデビモンは忘れキノコを食べさせようとします。間一髪、なぞの声に教えられたアグモンのおかげですべての嘘が露見。希望をとりもどしたタケルの心にこたえ、進化したパタモンがピコデビモンを追い払いました。

 もとの世界に帰る前に、デジモンワールドのゆがみを正さなければならない…。そのためには、仲間と力をあわせることが必要です。
 太一たちの新たな冒険が始まろうとしていました。

 そして、ピコデビモンの背後にゆらめく影の正体は…。



★全体印象
 22話です。タイトルコールと背景の影絵は今回初登場、長いつきあいになるピコデビモン(宮田始典=現・宮田幸季さん)。

 ものすごく個人的なことをいえば、21話の直後にビデオで見たのもあって少しばかり印象の弱い回です。
 それでもタケルの問題発言やヘタレピコデビモンの初登場、パタモン再登場と特筆すべき要素があるので、お話的には落とせません。
 まあ、全54話中落としてもかまわないお話なんてほとんどないんですけど。
 そーいえばエテモンの舎弟たちも出てたんでしたねえ。すっかり忘れてました。報われないなあエテモン…自業自得ですけど。

 それと、これまた長いつきあいになるヴァンデモンも影だけならこの回から登場しています。
 かなり勿体つけた登場なので、今まで以上の強敵にちがいないと初見からドキドキしましたっけ。出てみたら案外おもしろい人だったけど。

 作画と演出については地獄の二重奏を奏でています。これ以上はノーコメントで。



★各キャラ&みどころ

・太一
 タケルへの接しかたがものすごくお兄ちゃんしています。が、やっぱりどっかで遠慮があるようにも見える。おもしろい描写です。
 ヒカリへの態度とあわせて考えると興味深いところ。

 ピコデビモンが油断できないヤツと知っていても、食べ物ときくと警戒心がゆるんでしまうあたりはご愛嬌です。


・タケル
 これまでの彼を知っていると、らしくないほどに荒っぽい行動や言動がめだったのが今回のエピソードです。
 でもそれはピコデビモンの讒言ですっかり自暴自棄になってしまい、希望をなくしかけていたから。もちろん、それ以前に仲間や兄とはなればなれになってたいへん心細かったというのも大いにあることでしょう。なにしろ2ヶ月近くも迷走していたことになるのですから、小さな心と体にはこたえます。

 ですから、ピコデビモンの嘘をかんたんに信じてしまったのもある程度はしかたないでしょうね。
 ヤマトの件にしたって彼なりの根拠があって、あんなことを言ったのだし。けっこう鋭くまわりを見ています。その根拠が誰にかかわっているものかと考えれば、太一という少年がどれだけみんなの求心力になっていたか、今さらながら思い知らされるというものですね。

 26話までつづく一連のエピソードは、その求心力を失って迷走するほかの子供たちが自己の個性を見つめなおして成長を遂げ、ふたたび集結してより結束を強めるために必要な試練だったのでしょう。太一の正式リーダー化は、それを踏まえたうえであらためて選ばれてのことだったわけです。


・離散した子供たち
 太一がいなくなったことでみんな弱気になったり、自分の目的しか見えなくなったりしてバラバラになってしまいました。
 とくに、太一をさがすことに最後までこだわっていた空がまっさきに抜けてしまったのはかなり痛いといえるでしょう。彼女と丈が二人揃っていてこそ、曲がりなりにも一ヶ月半、みんなをまとめてこられたはずなのです。一行の離散は、空がいなくなった時点で加速度的に進んでしまいました。

 このようにして見ると、 空の存在もまた求心力としてかなり重要だということを思い知らされます。
 そして空自身、みんなに後ろめたさってものがあったにちがいありません。その不安はある決定的なものを目撃したことでますます大きくなり、それで影ながらサポートへ回るようになったのでしょう。このへんは、26話でもっとくわしく語れると思います。


・デジモンたち
 今回はトコモンでしょう。パタモンへの進化もして大活躍でした。ただ、いかんせん作画がよくない。そのせいであんまり可愛くないし…。
 それでもパタモンのときの作画はかなりマシなほうです。 後半は諏訪可奈恵さんらしきカットが多く見られたので、そのおかげでしょうね。

 なにげにお手柄のアグモンは、またしてもトイレで功名のきっかけを得てました。彼のトイレに救われたのはこれで2回目です(笑)


・ピコデビモン
  成長期の小悪魔型デジモンです。善良なふりをして讒言を吹きこみ、人間関係を破綻させる典型的な煽動者。
 かなり悪辣なこともやってるんですが、いまいち憎めないのはてんで弱いことと、 すぐにボロを出す詰めの甘さからでしょうか。

 とはいえ結構あちこちにタメ口をきいているので、地位だけは高めなのかもしれません。いるんですよね、こーゆー輩って(^^;)
 3クール目になると使い魔としての出番が多くなりますが、口数はいっこうに減りませんでした。

 声は宮田始典(現・宮田幸季)さん。いかにも底意地の悪そうな、それでいて小者っぽいしゃべり(褒め言葉)がとても印象的です。
 その一方「爆竜戦隊アバレンジャー」ではトリケラ役で優しい声を出しており、プロとしての幅がうかがえました。


・ ヴァンデモン
 厳密にいえば今回が初登場です。ただし、声はまだ。
 初見でもデジモンにくわしい人なら、あのシルエットと蝙蝠を見ただけで「おっ、今度はヴァンデモンだな」とわかることでしょう。

 静観しつつ、ピコデビモンを使って結束を弱めようとしていたようですが、そもそもなぜこんな回りくどいことをしたのでしょうか。
 彼ほどの実力があれば、いきなり攻撃を仕掛けてもよさそうなのに……でも考えてみればデビモンとエテモンが敗れ、選ばれし子供が現実にかなり厄介な力を持っていることは認識しているわけで、もし下手に攻撃をしかければかえって結束を強めてしまい、逆効果になると判断したのかもしれません。

 そこで彼が何をしたかというと、子供たちの目的意識をうばうところからはじめたんでしょう。
 自分が表に出なければ、子供たちは闇のデジモンがいなくなったと思い込む。でも、帰る方法はわからない。そのくせ考える時間がふえ、だんだんと疑念や諦念をいだくようになる…。仕上げにピコデビモンが糸を引いて苦境に追い込み、決定的な一言を投げれば、紋章の輝きを失った選ばれし子供のできあがりというわけです。そうなれば、あとは安心して一人ずつ始末すればいい。いかにもヴァンデモンらしい、狡猾なやり口だといえるでしょう。

 まあ誤算は空に意図を知られたことと、ピコデビモンがヴァンデモンの思ってた以上に間抜けだったことですが、それでも太一の帰還がもう少し遅れていたら現実にそうなっていたかもしれないのです。まったく恐ろしい話ではありませんか。

 ほんとうの危機とは平穏の中にひそんでおり、善人の皮を被ってやってくる。
 どっかの国の本にそんなことが書いてありましたっけ。スイスだったかな?


・ガジモン
 どうやら、エテモンの舎弟が生き残ってたようです。あの状況でよく逃げられたもんだ。
 でも仕えるべき主人がいなくなって、むしろせいせいした様子。人望ないなあ、エテモン様。一応かたき討ちしようかなあと考えてたみたいですが、これはガジモンのほうが案外義理がたいというだけ。別にエテモンが慕われていたというわけじゃありません。賢明な判断ですけど。

 なんかもうここへ来て、私内部でのエテモン評価はがた落ちになってしまいました。仕方ないんですけどね、結局は悪役だから。
 思い起こせば、マミーモンあたりのほうがよほど好感が持てるわけだし。


・遊園地
 これも一応不条理シリーズってことになるのかな?
 砂漠のはずれに突然ひっそりとした佇まいをあらわしていました。遊園地につきものの観客がいないだけで、ずいぶんと寂しく見えるものです。
 …それにしても、ヤマトは何を根拠にここが安全だと思ったんでしょう。隠れられそうなところがいっぱいあるから?


・スワンボート
 なぜか1隻だけ用意されていました。キコキコと大真面目に漕いでるヤマトとガブモンがちょっと可笑しい。
 でも、ここでタケルを置いていってしまったのはヤマトの失敗だったかも。少し無理をすればあと一人分くらいはどうにかなりそうだったんですが…。
 タケルの安全を考えたのかもしれませんが、それが裏目に出た感じです。


・日数経過
 とりあえず、太一の体感はまだ21日程度。
 あとのみんなはそれプラス一ヶ月半(45日)+α。この+αがどの程度なのかにもよりますが、大ざっぱにみて二ヶ月半(75日)くらいでしょうか?
 ずいぶん差があるなあ…もし21話の件がなかったら、もっと早く完全体進化してたかもしれません。

 …だんだん計算がややっこしくなってきた…。


★名(迷)セリフ

「こんにちは、ぼくピコデビモンです」(ピコデビモン)

 うわぁ…うさんくさいなあ…。
 名前にデビモンがつく時点でもう少し警戒しなさいよとも思いますが、この状況じゃ無理もないか。


「あ、ヤマトこうも言ってたよ。キミの泣き虫なところもだいっ嫌いだって」(ピコデビモン)


 本来、この年齢にしちゃタケルはものすごく泣かない子なんですけどね…もちろん、このセリフはウソですけど。
 ところでこの言葉でなぜかフェニックス一輝を思い出してしまいました。
 

「ボクだって…ボクだって…! お兄ちゃんのことなんか大っきらいだぁー!」 (タケル)

 この場にヤマトがいなくてよかった。本当によかった。でないと彼、湖に身投げしかねません。いやむしろ即死するかも…。
 なおタケルが走るところで9話と同様の変な反復があり、変な意味で「ああ、川田演出だな」とわかります。
 

「知ってるかい? そういうの、名誉棄損というんだよ? 場合によっては裁判を起こせるんだ。
 どうだい、法廷で争うかい? やってみるかい? キシシシ 」 (ピコデビモン)


 うわぁ…イヤな感じだあ(^^;)
 でもこれでは、手を出したほうが人権委員に突っかかられることに…やりづらい話です。
 まあトコモンの攻撃自体は予想外だったにせよ、ピコデビモンにとってはつごうのいい展開になりました。


「みんな…ボクがキライなんだ! すぐ泣くから…! 子供だから…!」 (タケル)

 そうならないよう、泣かないぞとつとめていたのがタケルという子だったんですが、この回はそれがすっかり崩れてしまっています。
 自分を置いていったみんなより、こんな風になってしまった自分自身を責めているようにすら見えました。
 つまり、自分をキライになりかけていたんでしょうね。それでは紋章が機能するはずもないというわけです。


「でもお兄ちゃん、ボクと太一さんが仲良くしてたら、そばで嫌な顔してたし…太一さんを探しに行こうっていったときも、反対した…。
  ボクが太一さんのことばっかり言うんで、それでキライになったんだ…!」 (タケル)


 ドキリとするくらい鋭いセリフです。表に出しちゃいけないと直感的にさとって、笑顔でいつづけていたんでしょうか。
 このへんは生まれた時から夫婦の軋轢を目にし、この年齢にしてはそぐわないほど空気を読む能力を身につけさせられたゆえかもしれない。
 そう思うと、なんだか切ない気持ちになります。


「ねえ太一さん! ボクを太一さんの弟にして!」 (タケル)

 出ました問題発言。このあと「だめなの?」とさらにコンボが重ねられます。これには、さすがの太一もタジタジ。
 いやあ…ヤマトがこの場にいなくてほんとうによかった。血ぃみますよ、へたすると。
 今回のタケルは不安からか、とにかくダッシュ→はぐはぐの連続攻撃が目立ちますね。


「もし今の話がホントだとしたら…太一がたいへんだァ!」 (アグモン)

 呼んだのは太一の名前だけ。
 でもべつにタケルを心配してないわけじゃなくて、これがパートナーデジモンというものなんでしょう。


「がんばれ、パタモーン!」 (タケル)

 直後のロングに連続で出る変な音が、視聴者を萎え萎えにしてくれます。
 どーん! って感じにしたいんでしょうけど明らかに外している…。



★次回予告
 かなり久々に丈とヤマトのお話です。丈先輩まだ体張ってるし、コレ以来ヤマトは彼に足を向けて寝られなくなるんじゃ…。