撃破! アトラーカブテリモン

 脚本:浦沢義雄 演出:今沢哲男 作画監督:八島善孝
★あらすじ
 ゲンナイを探して旅をしていた光子郎とテントモンでしたが、ピコデビモンの手引きで心の宇宙商人・ベーダモンにつかまってしまいました。
 「知りたがる心」をうばわれ、言われるがままに与えられた教義を実践しはじめる光子郎に、テントモンは悲しい気持ちになります。そのせいで、ついにはモチモンを通り越し、幼年期1のバブモンになってしまいました。が、その涙が光子郎の目をさまします。

 一方、紋章を手に入れたベーダモンとピコデビモンの間で、交渉のあげくに悶着が起きていました。そのスキをねらって紋章をとりかえしたふたりは知りたがる心もとりもどし、対決のときがやってきます。しかし完全体のベーダモンがほこる必殺技の前に、カブテリモンは大ピンチ。光子郎の願いを受け、超進化が発動しました。アトラーカブテリモンの登場です。ベーダモンの本気をもうちくだき、ついにそのぶきみな世界から脱出したのでした。

 ヤマトたちと合流した光子郎の頭上に、ゲンナイの声がひびきます。彼のパソコンに、新しくデジモンアナライザーが追加されていました。



★全体印象
 24話です。タイトルコールは櫻井孝宏さん(テントモン)。影絵はもちろん今回初登場のアトラーカブテリモンです。

 下ネタ連発と人文字体操がある意味すべてといってもいい回ですが、思考停止した光子郎はいままでのお話や、前半におけるテントモンとのやり取りをおぼえているとギャグの裏になかなか深いものがあるでしょう。それも込みで、今回の光子郎はいつになく弱々しい表情を見せることが多いので必見かもしれません。集団行動のときはとかく冷静な参謀役になりがちな彼ですが、テントモンと単独チームで動いてるときはいろいろ幅が出ます。逆に言えば、彼らふたりは単独の時と集団のときとで行動パターンが際だってちがうタイプ。だからこそ、この回や31話のようなエピソードが成り立つんでしょう。

 ただまあ、印象にはものすごく残るけれど、完全体進化のお話としてはややアレかもしれません。
 もともと浦沢さんのお話はそういうのが多くて、感動というより「な、何でそーなるの!?」とひっくり返ってしまうことがよくあります。波長が合って、それを笑いにつなげられるならいいんですが、でないとガックリきてしまうかもしれません。それでもこの01ではうまく機能していると思いますし、この回にしたって光子郎とバブモンのやり取りみたいに、はっとさせられる場面があります。

 浦沢脚本があれこれ言われだしたのは、好評だった1年めを受けてのスタートということで注目を集めだした02あたりからでしょうか…。
 今村隆寛さんとのコンビが光りまくる名篇「デジモン牧場の決闘」のようにおもしろいお話も残してるんですが、なぜか進化にかかわるエピソードを担当することが多かったため、当初からのファンにはかなりきついことも言われてました。特に、引っ張ったあげくのオチみたいな扱いで36話「鋼の天使シャッコウモン」が来たときには、バカ笑い派と萎え萎え派とでまっぷたつに別れていたおぼえがあります。むしろ後者が優勢だったかも。
 このへんはもう少し語れそうなので、02について書く機会ができたときのために取っておきましょうか。

 作画の八島さんはもうお馴染みですね。またしても原画を一人でやってます。
 そして、浦沢脚本= 八島作画の公式がなりたつのはこの24話まで。後は降板まで02の22話しかありません。
 いっぺんでいいから浦沢脚本・八島作画・今村演出の回を見てみたいもんです。たしか、デジモンシリーズじゃ一度もなかった組み合わせですし。

 浦沢さんは2005年4月現在、「幻星神ジャスティライザー」でその脱力パワーをおおいに発揮しています。
 


★各キャラ&みどころ

・光子郎
 「知りたがる心」をうばわれたときの呆けたような表情と、バブモンを抱きしめるときの表情がポイント。
 空や丈などとちがい、彼の行動は多分に好奇心という、個人的理由もふくんでいるはずです。はた目に見ると、太一に負けないくらい無茶でそれ以上に勝手。そのわりに太一ほどあれこれ言われないのは、基本的に他者へ接するときは距離をおく(つまり、ヤマトなどとも衝突が起こりづらい)基本姿勢と、恐らくは自分の行動に問題があるとわかった上でそれでも行動しているイコール、何を言ってものれんに腕押しという公式が成り立つから…かもしれません。
 ある意味ではいちばんタチが悪いかもしれないなあ(^^;)

 とはいえ、彼の魅力はその貪欲なまでに強い知識欲と、それに従うかぎりつきることがない猛烈なバイタリティです。
 求められていたのは多少なりともバランスを取ることで、貪欲さを捨てることじゃありません。むしろ視野を広げることは彼自身にとってもメリットがあるし、少し目を外にむけるだけで、持って生まれたおう盛な探求心が最高の武器になるのですから。

 行動原理を探求の心と考えれば、超進化も説明がつきます。「知りたがる心」を捨てて悲しませてしまったすまなさと、それを踏まえ、ともに何もないこの世界を抜け出して発見の旅をつづけようという、新たな決意が彼のなかに芽生えたからでしょう。
 たぶん彼が前にすすむ根本の理由はどこまで行っても知識欲で、それをよい方向に向けることがすばらしい力を呼び起こすんですね。
 ちなみに小説版では、超進化の理由がよりわかりやすく描かれていました。


・テントモン←モチモン←バブモン
 あまりにタフな光子郎にバテ気味になったり必死でイヤな想像をふりはらったり悲鳴をあげたり、前半では少しトホホな場面が目立ちました。
 後半では完全体の圧倒的パワーより、むしろ退化したときの愛らしさが心に残ります。口がきけないかわりに仕草でけんめいに自己主張するバブモンや、光子郎に抱っこされて照れたり、アトラーカブテリモンのデータを見てちょっぴり得意顔になるモチモンなど、じつにいい感じ。
  バブモン状態でありながら、ベーダモンのスキをついて紋章を取り返すというすごい事もやってました。

 基本状態がテントモンなので、光子郎がもとに戻ればその段階まではすぐ進化できるようですね。テントモン側の体調にもよるでしょうけど。


・アトラーカブテリモン
 進化してよりゴツくなった、カブテリモンの完全体。パワーと防御力の上昇が視覚的にわかりやすい姿になっています。
 カブテリモンが一方的に弾かれるばかりだった隕石を次つぎとくだくシーンで、力の差がわかるでしょう。巨大隕石も必殺技・ホーンバスターの前ではなんの意味もありませんでした。ただ、ここではまだ必殺技の名前を言っていないので、ハッキリどんな技かわかるのは28話になってからとなります。

 シリーズ通しての出番は案外と少ない印象。光子郎のポジションが参謀なので、必要なときにしか超進化しないからかもしれません。
 移動役として、負担の小さいカブテリモンのほうがよく出てきていたイメージがあるほどです。これはバードラモンにもいえる現象。
 その分、強敵にもダメージを与える描写があるんで安売りされてないとも言えるんですが。


・ヤマト、タケル
 最後の合流シーンでちょっとしゃべっていましたが、今回は光子郎組の独壇場なので出番はそのくらいです。
 そういえば、アニメ版じゃ即答でタケルと行くことを選んだヤマトが小説版では、はじめ丈と行こうとしてその丈と太一の計らいで、結局タケルと行動することになるという一幕がありました。細かいことですが、そっちの方がおもしろいかもしれません。脚本段階ですでに入ってたのかもしれませんけど。


・ ベーダモン
 下品な趣味を持つ宇宙人型デジモン。これでも完全体なので、本気を出せばかなり強いです。口調が「クロノトリガー」のマヨネー将軍みたい。
 光子郎を嵌めて知りたがる心をうばい、商品として棚に置いていたんですが、別にピコデビモンと事前の示し合わせをしていたわけではないようです。このへんは根回し不足というか、手を回しきれなかった結果なのかもしれませんが、おかげでつけいるスキができたというもの。

 最後はホーンバスターで吹っ飛んでいましたが、消滅していないので生きている可能性もあります。ただし、小説版では思いっきり死んでます。
 なお、その小説版で一番ちがうのは、光子郎がベーダモンの考えに賛同して自分から修業に入ってしまう点でしょうか。アニメでは半分パニック状態で仕方なくだったので、ずいぶん異なってます。光子郎って裏を返せば、変な宗教に引っ掛かりやすいタイプだったんでしょうか…。
 まあ幼少の段階でこういう経験をしている以上、もはやそんなことにはならないでしょうけど。


・ ピコデビモン
 今回は使いっパシリの悲哀がにじみ出ていました。そのため、前2回での悪印象が和らぎます。その分下品になってるけど、作風ということで。
 いいかげんなことを言って事態をこじれさせ、あげくに全部パーにしてしまう醜態も、これまでを思うと詰めが甘いどころかダメダメです。2体目の完全体を出現させてしまった上、ヴァンデモンにせっつかれて焦ってたのかもしれませんが、やはり光子郎に関してはだいぶ後回しになってたのかもしれません。

 ただ、光子郎の前には直接あらわれていません。彼に言葉でのウソは通じにくいので、これは正しい判断でしょう。
 つまりヒカリをのぞけば、光子郎だけがピコデビモンとまともな会話をしていないことになります。

 それにしても、ヴァンデモンとの関係はベルトサタンとキノッピーを思いおこさせることしきりです。


・ ヴァンデモン
 ついに名前が出てきました。姿もだんだんハッキリしてきています。
 次回ではどこまで明かされるんだったかな?


・ 日数経過
 いろいろアタマをひねったんですが、なんか小説版だと太一がいなくなってからは3か月ってことになってるみたいです(^^;)
 たしかにこのあたりが1番妥当なんですが、そのまま鵜呑みにするのもなんだかなあ、というひねくれ心も湧いてきました。だって、テントモンが「もう2か月も…」という発言をしてます。仲間の離散がはじまったのが1か月半め以降ですから、それでは計算が合いません。

 加味して3か月半=105日とし、ここに20話までの20日、太一が来た以降の3日(例によって、とくに何日も経ってる描写がない場合1話=1日と数えます)を加えて、太一とヒカリ以外の現在の体感時間をとりあえず128日とすることにします。そうか、4か月も経ってるのか。
 …でも意外と時間経過がわかりにくいんだよなあ。A地点からB地点までの移動に何日かかってるのかなんて、実は見当もつかないし。



★名(迷)セリフ

「たとえ何か月かかろうともです!」(光子郎)

 こと調べごとに関するかぎり、彼は超人的な体力と根気を発揮します。
 パートナーであるテントモンさえ、ついていくだけで精いっぱいなことがあるんですよね。今回はややいきすぎですが。


「わたしのこの目を信じてください! ヴァンデモン様」(ピコデビモン)


 これほどこのデジモンに似合わない言葉はないんじゃないでしょうか(^^;)
 機会をあたえるヴァンデモンも実は愉しんでるんじゃ…?


「ワテ、光子郎はんのそういう何でも知ろうとする、探求心があるとこ、好きやで」 (テントモン)
「よしてください、照れるじゃない」 (光子郎)
「変な意味やあらへんで」 (テントモン)


 こういう事をへろっと言えるあたりがテントモンの魅力。ただ、それでも光子郎を照れさせてしまいました。
 それと、後からただし書きみたいにそんなことを言うと誤解をまねくので避けたほうがいいと思います。


「そうですか…じゃあ、ここには…戻ってこないんですね。でも、連絡はください」 (プカモン)

 なんとも軽く流されてますが、これが21話とのつながりです。
 本当は「戻ってくるな」なんて言ってなかったってことがわかる、それなりに重要なシーンなんですが。
 ツメで妙に手際よくパソコンを取り出すテントモンがいい感じです。


「いま、宇宙パワーを身につけるための修業をしているんだから、じゃましないでくれ!」 (光子郎)

 Wがどんな風なポーズだったのか今でも気になっています。


「退化させちゃって…ごめんね…」 (光子郎)

 光子郎のこういうシーンはめずらしい。本当にここ一番でしか泣かない子ですから。
 それゆえ、見ているほうはよけい感じ入ることになります。


「何も知りたがらない僕なんて、僕じゃない。なんでも知りたがるから僕なんです!」
「僕は知りたい……」 (光子郎)


 彼の行動原理は、このセリフに体現されているのかもしれません。それも、自分で求めて手に入れることを望んでいる。
 思考停止して与えられたものをただ受け入れるだけのアタマの使い方なんて、彼には本来縁がないことだったんです。
 それにしても、バブバブとうなずくバブモンが愛らしい。


「カブテリモン、立って!」 (光子郎)

 こういう風に直接はげますようなことを言うのもめずらしいです。これでカブテリモンも奮起したのかな?


「モチモン、お前抱っこされて赤ん坊みたいだなぁ」 (ツノモン)
「光子郎はん、下ろしてくんなはれ〜」(モチモン)
「いいんだよ、疲れてるんだから」(光子郎)


 光子郎の腕で恥ずかしがってジタバタしてるモチモンがとても可愛らしいシーンです。
 この直後いきなりゲンナイさんが出てきてびっくり。ベーダモンの住み処の下にプロジェクターが隠れていたのかな?



★次回予告
 本放送ではじめて見た回です。そのため、けっこう思い出深いお話。ミミが3割増しくらい美少女です。
 …それにしても太一と丈はなんで冒頭スワンボートに乗ってたんだろう。