闇の城ヴァンデモン

 脚本:まさきひろ 演出:早川啓二 作画監督:伊藤智子
★あらすじ
 ゲンナイから「仲間がまだ他にいる」と知らされた子供たち。
 しかし、この事実は悪いことにヴァンデモンも承知するところでした。城にあるゲートをくぐって「8人目」がいるという日本へ侵攻し、使命に気づく前に始末してしまおうと画策していたのです。食い止めるべく、子供たちはヴァンデモン城に潜入しました。

 敵地では、今まさに大軍勢が出発しようとしているところでした。
 追いかけようとする太一たちですが、ヴァンデモンの部下・テイルモンが立ちはだかります。その上石像から次つぎとデビドラモンが出現してくるではありませんか。猛攻の前に、とうとうひとりも通れないまま、現実世界へのゲートは閉じてしまいました。

 このままでは、「8人目」はヴァンデモンに倒されてしまう…!



★全体印象
 27話です。タイトルコール、影絵ともにヴァンデモン(声:大友龍三郎さん)担当。

 なんといっても、今回から採用される新ED「Keep on」が目玉。曲・画像ともにデジモン関係のエンディングでは出色のできです。くわしくは後述にて。
 もうひとつの重要ポイントはやはりテイルモンの初登場です。この頃は少しキャラが違ってておもしろいですね。

 でも、この2点を抜かすと実はあんまり見どころのないお話です。
 あらすじがやたらと短いのは、要約するとこれくらいしか特筆すべき点がないということ。ナニモンのくだりは実のところ蛇足です。
 第3クールではたぶん一番つまらないエピソードでしょう。この後の展開でガンガン挽回されていくので、たいした問題ではないというだけです。
 もちろん上述のとおり、テイルモンファンにとってはとても大事な回ですけど…。

 見どころの少なさは、戦闘シーンのまずさにもあるものと思われます。
 作監が伊藤智子さんだとはとても思えないほど厳しいカットや、タイミングの悪い動きが目立ち、初見ですらつらい印象を受けました。しかもその戦闘がだらだら長引くので、再見には向いていない回です。28話の戦闘シーンがいい意味で心に残ったのを思うと真逆の意味で記憶に残ってしまっているんですね。
 ですが、これでもまだ作画が崩壊しているとはいえません。ほんとうの作画崩壊はもっと凄まじいものです。
 東映作品って、質は落ちても最後の一線はたいてい守ってるんですよね。絵がラフでも動きでカバーするケースが多いし。マクスハー11話とか。



★ED
 今回からあの木根尚登さん作曲「Keep on」にバトンタッチしました。
 ゆえに前半の「I wish」のみならず、デジモンシリーズ全体からみてもかなり異質なメロディラインを持った曲になっています。たしかなのは疑いなく名曲であるという事実。この歌を「Butter-fly」とならんでデジモンソングの双璧に挙げる人も知っています。

 さて曲もさることながら、映像でもヒカリを加えて豪華になったオールキャストによる大進撃が描かれ、非常に見応えのあるものになってます。当時、本編を見ずにこのEDだけ何度も何度も巻き戻して見返していたのを思い出しますねえ(そういえば、この頃はまだDVDレコーダーが一般化していなかったっけ)。
 前にもどっかで書きましたが、21話でほとんど陥落していた私はこれで完全にデジモンジャンルへスッ転んでしまいました。業の深い映像です、まったく。
 …そういえば、最初に出てくる百面相ではまずヒカリに目がいっていたなあ…うわあ、この服装可愛らしい〜って(駄目だ…)。

 ただ問題なのは思いっきりネタバレしているという点。
 ヒカリが8人目なのはわかりきったことだからいいんですが、パートナーがテイルモンであることや完全体の姿かたち、あげくウォーグレイモンとメタルガルルモンの存在まで明かしていたのですから、やりすぎの感があります。ホーリーエンジェモンなんて、出てきたの52話ですよ? これほど早く公開されたとあっては、もっと早く出てくると想像してもぜんぜん不思議じゃありますまいに。

 …まあ、主役の進化形態なんてディスティニーガンダム並みに先行公開されてたと思いますけど。
 テイマーズの時だって、デュークモンの存在はそうとう早くからわかっていたはずだし。



★各キャラ&みどころ

・子供たち
 今回はとくに集団で行動しているイメージがつよいため、個々の見せ場は大してありません。
 そんな中、新たな側面を見せた丈とタケルについては記しておかねばならないでしょう。詳細はセリフコーナーにて。


・デジモンたち
 何かあげろといわれたら、無難にパンクアグモンとレゲエパルモンですね。あらためて見ると、レゲエパルモンはけっこう可愛い。
 パンクアグモンのほうはなんかもうどうしようもないですけど。
 でもこのふたり、意味わかっててこういう風に名乗っているのかなあ…太一あたりに仕込まれてそう。

 「よーし、いまからお前はパンクアグモンだ!」


・メタルグレイモン
 25話にひきつづいての登板。さすがに完全体ではいちばん出番が多いです。
 ただよく見るとこの形態になった後って、あんまり動かないんですよね。たいていギガデストロイヤーを撃って終わり。
 グレイモンにくらべ作画が面倒なのはたしかですが、複雑なデザインのデジモンなら他にもいるはず。これは登場回数と関係がありそうです。

 テイマーズだとベルゼブモンが断トツで大変だったはずですが、頑張ってかなり動かしてましたね。
 レジェンズみたいにはいかなかったけど。


・ ヴァンデモン
 手下の多さと巨大な居城が、悪の首魁らしさをふんだんに演出していました。
 選ばれし子供を前にしても余裕の表情をくずさずに計画を優先するあたり、大物感が出てます。


・ テイルモン
 初登場です。この回にかぎっては、ちょっと小悪魔的なしゃべりでした。34話あたりを思い出すと、かなり違和感があります。力が衰える02でも年長者っぽい描かれかたはそのままですから、なおさらのこと。ま、この頃はまだキャラづけを決めかねていたというのが本当のところでしょう。なお、彼女が連れてきたデジモンたちの中にはちゃんとウィザーモンの影も見えます。

 お辞儀をする時、右手を軽くくるっと回す動きがけっこう凝っていますね。


・ ピコデビモン
 どうやらまたウソをついて兵隊を集めてきたようです。
 でも誰かをだますのは得意でも説得するのはかなり苦手っぽいので、結局あんなメンバーしか集まらなかったわけですね。
 そこらへん、テイルモンとの裁量と人望の差が見えます。これでは、ヴァンデモンが彼女を重用するわけだ。


・ナニモン
 ピコデビモン傭兵部隊で隊長を務めていたデジモン。
 いちおう成熟期ですが、たぶん戦闘力は低いです。おまけに臆病の空威張りで下品な飲ん兵衛ですから、ヌメモンにも負けない嫌われ者でしょうね。
 むしろ、だまされた恨みとはいえ協力してくれたヌメモンにこそ好感を持ってしまいます。

 そういえば、このデジモンには以降にまともな出番がありません。
 見慣れれば味があると言えなくもないヌメモンとくらべてすら、あまりに無気味な容姿がいけなかったのかもしれません。

 声をアテていてた乃村健次さんは、のちにアルボルモンを演じています。
 「ナージャ」のロッソ、「ゼノサーガ」のマシューズなどやはり中年役が多い人ですから、「キン肉マン2世」のスカーフェイスはかなり異色。
 とはいえ、同時にバッファローマン先生も演じていましたけど。



★名(迷)セリフ

「使えるだろ、この袋。レストランでくすねておいたんだ」(丈)
「へぇー。マジメだけが取り柄と思ったら、丈もやるじゃん」(ゴマモン)
「まぁね♪」(丈)


 ひどい目に遭ったなりに、いろいろ学習してるようですね。こういうのはマジメじゃなくなったのではなく、強かになったといいます。
 成長が見えるや、すかさず茶々を入れる…フリをして丈をヨイショするゴマモンもいい感じ。


「ねぇねぇ、それってわたしたちの仲間ももう一匹いるってこと?」(ピョコモン)


 なにげに伏線。それにしてもこのカットのピョコモンは妙にでかいです。


「アハハハハ。あいつらを兵隊って呼べるのかしらね」 (テイルモン)

 正真正銘、テイルモンの初ゼリフです。この頃は、まだ女の子言葉主体。
 そのため、のちに確立されるやや突っ慳貪な姐御肌はあまり感じられず、相手を突っついて楽しむイタズラ好きの小悪魔に見えます。
 いや、小悪魔はピコデビモンのほうなんですが…言葉のアヤというやつで。


「どれほどのものか、楽しみにしているぞ」 (ヴァンデモン)

 ピコデビモンへの対応とずいぶん違うことから、ヴァンデモンは少なくともテイルモンの実力は評価していることがわかります。
 テイルモンはまちがいなく、普段からピコデビモンよりずっと上の実績をあげているはずです。当然ピコデビモンにしてみればおもしろくない話なので、事あるごとにちくちく主人へ報告を入れては足をひっぱろうとしてましたね。ただし、そんな浅知恵がヴァンデモンに通用するはずないわけで…。なぜなら、ヴァンデモンにとっては役に立つ者であれば出自がどうであれ関係ないし、実績をあげられない者を重用する趣味はないからです。

 そういえば、テイルモンは小説版だとあのエテモンより立場が上だったみたいですね。


「ヴァンデモンが僕たちのことをピコデビモンにまかせきりだったのは、ゲートを開く準備で忙しかったからですね」 (光子郎)

 ははあ、なるほど。こういう理由も語られていたか。
 でも、ヴァンデモンがゲートの準備をしていた本来のねらいは人間界侵攻のはず。他の子供たちがいるのにそれを放置してまで、このタイミングでゲートを開こうとするとはおかしな話ですが、ここからヴァンデモンが8人目に寄せる尋常じゃないこだわりが読み取れます。
 エンジェウーモンが出てきた結果何が起こったか思い出してみると、ヴァンデモンはやはり心のどこかでずっと8人目への恐怖を抱いていたのかもしれず、居場所がわかりしだい最優先で始末をしようと決めていたのかもしれません。


「あたりめえだ。オラたち、メシぬきでアタマにきてるだ」 (ヌメモンA)

 ヌメモンはここでも協力してくれます。多分に個人的な理由ながらも、やっぱり結構いいやつらだ。
 これを頭に入れておけば、49話の展開も少しは納得がいくかもしれません。
 ちなみにこのヌメモンはたぶん平田さんがアテてます(笑) 。


「ねぇ、こんなヤツ早いとこやっつけて、先に進もうよ」 (タケル)

 さあ、そろそろ言動が黒くなってきました(^^;)
 とはいえ闇の勢力にはさんざんひどい目にあわされているし、目の前のピコデビモンにも腹がすえかねているでしょうから(しかもヤツが口ばかりで実力が全くともなっていないことも思いっきり割れている)、しかたがない面はあるでしょうね。
 そして直後にヤケクソ気味で放ったピコダーツは、エアショット一発で押し返されるありさまでした。嗚呼。


「嘗めてくれるわね。見てなさい」 (テイルモン)

 声が一段下がってドスがきいたセリフです。後年の姉御キャラへの萌芽が見える。
 直後のネコキックでなんと成熟期3体をまとめて吹っ飛ばし、グレイモンとイッカクモンについてはダウンまで奪いました。
 見かけと戦闘力がまるで一致しません。ピコデビモンとはあまりに実力がちがいすぎる…。
 よく見ると、頭部の防御力が特に高いカブテリモンはたたらを踏む程度で済んでいます。けっこう細かい。

 この後もガルルモンとトゲモンを2体同時に相手取ってまったく引けを取りません。「鍛えてます」と自分で言うだけありますな。


「じゃーねー♪」 (テイルモン)

 最後はこんな人をおちょくったセリフで締め。
 東京篇とのキャラのちがいをいろいろ考えてみるのもおもしろそうです。今回のこれは、文字通り猫をかぶっていたのでしょうか?



★次回予告
 スピード感ある戦闘シーンと目まぐるしく入れ替わる場面が、いやでも盛り上げてくれます。
 この回は重要なポイントがたくさんあるので、気合いを入れて書くとしましょう。