デジモン東京大横断!
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脚本:前川淳 演出:志水淳児 作画監督:出口としお |
★あらすじ
子供たちも東京に来ていることを知ったヴァンデモン。「8人目」を一刻も早く見つけるよう部下に指示を飛ばします。
いっぽう、「8人目」もまた自分たちと同じくお台場に引っ越しているかもしれないと考えたわれらが選ばれし子供たちは、何はともあれ地元へもどることにしました。ですが途中でトラブルが起こってお金がなくなってしまったため、ヒッチハイクまがいの真似までしなければならなくなります。
そうこうしているうちに、川の中からゲソモンが出現しました。水のなかのデジモンならイッカクモンの出番です。
まわりは大勢の目撃者がいてたいへんな騒ぎになりましたが、子供たちは戦いのあいだに姿をくらますことができたのでした。
結局、イッカクモンの力を借りてお台場に向かうことになった子供たち。どうやら無事帰り着けそうです。
8月1日は夜をむかえようとしていました。
★全体印象
30話代突入です。背景の影絵はゲソモンで、タイトルコールは引き続き藤田淑子さん。
とくに指定がないときは藤田さんが担当するとみてよさそうです。
お話としてはわりに短く説明できる単純なものなんですが、
今回の醍醐味はやはり「東京」という見慣れた風景にデジモンという異質なモノが入り込むというギャップが最大限に活かされている点につきます。今後の展開で大々的に侵攻が開始されますが、それよりももっと現実味があって、爆笑できると同時に唸らされることしきり。ある側面で、これぞデジモンアドベンチャーといえそうな回のひとつです。
よく考えてみれば、まだまだ幼い子供たちにとっては今日のような単なる移動でさえ冒険といえるのかもしれません。複雑怪奇なネットワークを潜り抜け、ときには非常手段をとり、あらゆる手を使って目的地に向かうというその意味において。
困った事態におちいってもなんだかミョーに和やかでマイペースな子供たちも印象的です。
上ではああ書きましたが、いままでの冒険をくぐり抜けてきただけあってみんなに余裕が見えますね。この程度はどうってことないというより、むしろトラブルを楽しんでいる風にさえ見えます。ここが住み慣れた東京で、家からはなれているとはいっても以前のことを思えばもはや目と鼻の先ですから、どこかでものすごく安心してるんでしょう。人がいっぱいいるし、いざとなったら頼れそうな対象が多いというのもあります。
とはいえ、結局最後に頼りになったのはパートナーデジモンだったので、デジモンアニメとしての基本ははずしていません。
それにしても、デジモンワールドとは違ってしっかり描きこまれた現実世界の背景といい、穏やかな乗車アナウンスといい、寝過ごしという都会でいかにもありがちなトラブルといい、みんなの日本の子供らしいジャンクフード嗜好といい、食事程度ですぐに底をついてしまう「ああ、小学生だなあ」と思わされるとてもささやかなお小遣いといい、はじめは大騒ぎしても勝手に納得してくれる通りすがりの人々といい、細かいところが実によく利いてます。
女の子にだけ妙になれなれしいいかにもそのへんにいそうな頭の弱い茶髪にーちゃんという、イヤな意味のそれらしさもありました。乗っているのがおねいさんの乗っていたようなはでなスポーツカーじゃなく、どっちかというと地味なワゴンというのがまたそれっぽい。
こうしたリアリティの積み重ねは、ドラマ進行に影響をあたえるきわめて大事な要素です。抜け落ちてると三文ファンタジーになってしまう。しっかりした現実感があるからこそ、東京篇は名シリーズになったと断言してかまわないでしょう。まあ、1話からしっかりしてたってことですが。かたちだけの設定ばかりで、それをうまく確立できない作品というのは、たいてい最後まで対象に説得力をもって訴えることができないものです。
ぶっちゃけて言えば、嘘のつきかたがうまいかヘタっぴかで全然ちがってくるということですよ。
また今後は、親との再会や交流というドラマも待ってます。子供を輝かせるのにもっとも必要な一つは親の存在。
その親御さんたちにも見てなんとなくわかる個性があるため、彼(女)らの世代にあったドラマをも想像させてくれ、ゆえにデジアドは大河ドラマ的と評されることが多いのかもしれません。デジモンワールドの長い冒険をふまえ、東京から来た選ばれし子供たちはこうして人間として完成したといえるでしょう。
で、今回の脚本は前川淳さん。この方も荒唐無稽な世界観へ人間の息吹をあたえることに成功したひとりです。
01の脚本陣はいま思うと、とんでもない人ばかりですね。前川淳、西園悟、吉田玲子、大和屋暁、まさきひろ、吉村元希、浦沢義雄…。
シリーズ構成をこなせる実力者ばかりです。ここまで揃ってるのはシリーズ中、01だけでしょう。
★ED
今回から完全体大行進で、エンジェウーモンが少し早く画面へ出るようになりました。
はじめはテロップを見せたいからなのかと思っていたんですが、よく見返すとそこだけ出るタイミングが少し遅いのです。
よってタイミング調整の意味が大きそう。ただその代わり、背景だけで何もない画面が映る時間がふえてます。といっても一秒かそこらですが。
★各キャラ&みどころ
・太一
今回は全員の出番がわりに均等なので、そこそこ目立ってる程度です。
あのメンバーがハンバーガーを食べに行ってしまったのは、そこに彼がいたからなのかもしれません。
リーダーのお墨付きなうえ、みんなで行ってしまえば怖くないというわけです。よっぽど「いつもの食事」に飢えていたんでしょう。
・ 空
なんだか今回はヨゴレ役入っててかわいそうでしたが、赤ん坊連れに率先して席をゆずるあたりはさすがです。
いつもだったら太一を止める役回りなのに、いっしょにハンバーガーを食べに行ってしまうというめずらしい一幕もありました。目的はあるものの切迫した状況というほどでもないので、気がゆるんでしまったのかな。上記のとおり、それだけみんな切実な気持ちをかかえていたんでしょうけど。
・ヤマト
タケルが一緒だったこともあって、彼までバーガーショップへ行ってしまいました。もう誰も止められない。
ヒッチハイクの場面では持ち前のシャイな性格を存分に発揮しており、言っちゃ悪いけど大爆笑です。といっても、あんな見るからにアレげなおねいさんが手招きしてきたらヤマトじゃなくても後ずさりすると思いますが…。それにしてもあのおねいさん、何者でしょう。
あ、太一かタケルならホイホイ乗って行ってしまいそうですね。危ない危ない(…何が?)。
連れが少ない時にかぎるでしょうけど。
・光子郎
パソコンを活用してもはや人間ナビゲーションシステムと化しています。
その一方、機械にたよらなくても必要な情報がしっかり頭に入っていて即答できるのが素晴らしい。彼がいなかったら電車に乗るどころじゃなかったかも。
・ミミ
そういえば、彼女って普通のハンバーガーもちゃんと食するんですね。
あまりにも異様な嗜好にだまされてましたが、ただ単に変な味つけが好きだというだけで味覚が崩壊してるわけじゃないのかもしれません。
むしろ美味のストライクゾーンが異常に広いと考えたほうがよさそうです。
それにしても彼女、ひとりで東京にほうり出されていたら絶対迷ったでしょうね…。
・タケル
今回は年少者っぽく、みんなへついて回るだけでせいいっぱいな感じでした。
東京って人込みが多いから気を抜くとすぐはぐれてしまうので、ちいさな子供にとっては別の意味で冒険です。
・丈
初期を彷彿させる常識派らしい絶叫が聞けます。
その直後腹の虫が鳴って完全に開き直るあたりでああ、逞しくなったんだなと、そう思うわけですね。
・デジモンたち
舞台が東京ということで大人しくしようと努力してましたが、ついしゃべってしまったり腕から飛び出してしまったりと、そう思い通りにはいきません。
特にパートナーがピンチの時や危険が迫ってきそうな時は、制止するまもなく即、行動にうつるのでどうしようもないのです。
海のデジモンと見るや勇んで飛び出していくゴマモンは、もはや完全に衆目を無視しています。
・ゲソモン
ウィルス種の水棲型。川をめぐって「8人目」の反応を探っていました。
頭が悪そうに見えますがああ見えて知能は高い設定なので、ちゃんと考えて行動してるんだと思います。
ですが、あそこで姿をあらわしてしまったのはまずかったですね。あんな浅い川では水中戦をこなせませんし、必殺のデッドリーシェードも効果がないでしょう。対してイッカクモンは陸上でも行動できるし、技の威力も落ちません。これでは負けて当然です。もう少し様子をみて、たとえば海ぎわで襲うようにすればかなり勝率が高まったと思うんですが…相手がイッカクモンだった場合、それでやっと互角ってところかな。
結局、ズドモンを登場させるにはメガシードラモンくらいの強さを持った敵でないと無理だったんでしょう。
…ところであれはどこいらへんの川だったんでしょう。八丁堀とか?
・ ヴァンデモンほか
今回も大ボスは動かず。部下は子供たちの遭遇したゲソモンをはじめ、紋章のコピーを携えて「8人目」探索に精をあげています。
建物の間を目にもとまらぬ速さでかけめぐるテイルモンの動きがすごい。この動きはたしかに成長期のものではありえません。
成長期でわずかに匹敵するのはレナモンくらいでしょうか。
ウィザーモンがはっきり画面に出たのは今回がはじめて。手品で子供の気をひいて紋章の反応をみるという、けっこう効率的なことをやってます。
ピコデビモンはなんかさぼり気味に見えますね。
・ 茶髪にーちゃん
藤山先生につづき、たぶん櫻井孝宏さんがかけもちで演じてるちょっと軽いあんちゃんです。
よって、櫻井さんの役が突き飛ばしたはずみで落ちそうになった光子郎を櫻井さんの役が助けるという現象がおこりました。
彼くらいあけすけにスケベだと、女性としてはかえって扱いやすいのかもしれないなあ。
相手は子供ですが、こういった手合いは年齢とかあんまり関係なさそうだし(偏見)。
・ 駅と電車のアナウンス
「電車がまいります」は菊地正美さんで、「〜です。お出口は右側です」は藤田淑子さん…かな?
どちらも大人っぽい整った声色ですね。
★名(迷)セリフ
「ちっ…『8人目』はまだ見つからんのか」(ヴァンデモン)
舌打ちがあまりにも舌打ちっぽかったので、思わず殿堂入り。
「まちがいない、きっとヴァンデモンの手下だ!」(ツノモン)
…って、この路線急行があるんですね(よく知らない)。
「ね……練馬のダイコンデパート!!
」 (空)
練馬ダイコンからの連想でしょうか…く、苦しすぎる。信じるほうも信じるほうですが。
今までのお話とはまったく別種の苦労が、カルチャーギャップに似た笑いを誘ってくれます。
ひょっとしたら、この30話でいちばん有名なセリフかもしれません。
「なかの…さか…あれ? ここで降りるんじゃ…」 (パタモン)
パタモンが中野坂上なんて発音してるのはとても珍しいので、初見の時点から印象的でした。
「げっ! 寝過ごしたァ!」 (太一)
しかし、おかげでテイマーズの舞台に超接近。貴重な場面です。
「いえ、たしか新宿からでも丸ノ内線に乗り換えできるはずです」 (光子郎)
頼もしいなあ。
…ところで、あのころはまだ南口近くにまんがの森があってパソコン館もあったので、よく利用したもんです。
どちらも駅の側からなくなってしまってからは、さっぱりですけど。
「ああっ! あんなところに!」 (丈)
太一たちがいたのは、間違いなくファーストキッチン新宿南口店ですね。そばにルミネがあるし、でかい時計台も見えます。
マクドでもロッテリアでもなくファーストキッチンなのは…単に脚本上の地理問題で、べつに他意はないものと思われます。
なお商標をそのまま使えないのはお約束なので、ルミネは「ルルネ」、ファーストキッチンは「セカンドバーガー」になってますね。セカンドバーガーの看板は、あの見慣れた三角形のなかに「2」というとてもわかりやすいもの。予備校通いをしてたころは代々木店のお世話になったっけ。
店内にはちゃんと「なつのおすすめ」とポスターが貼ってあり、季節を演出しています。そういえば29話のミニストップにも、ハロハロの広告が…。
画面上の方には「ゆうじんくん」が…。人がいるのか?
「ごめーん。どうしてもハンバーガーの誘惑に勝てなかったのよ」 (空)
空がこういう状態ではもう駄目です…。
「食べてやる…あり金ぜーんぶ食べてやるーっ!!」 (丈)
そして丈も陥落。食べものの誘惑を育ち盛りが堪えるのは無理というもんです。
「こっちの世界では、近距離しか反応しないのかも…」 (光子郎)
まあこの設定は、かんたんに「8人目」を発見させないための方便なんでしょうね。
「やっぱり女の子ですもんね」 (光子郎)
「そうそう、男やったら放っときませんて」(モチモン)
「そーゆーもんなの、太一?」(コロモン)
「まあな」(太一)
うっかりスルーしそうになりましたが、モチモン、あなたなんでそんなこと知ってますか。
「…というか、ほんとうにお台場まで行くんだろうね、この車…」(丈)
けっこう怖いセリフではあります。パートナーデジモンがいるからたぶん大丈夫だろうとはいえ。
02夏映画における子供たちだけの行動は、さらに危険きわまりないですね。
海外版ではそこらへんが考慮され、乗り合わせたドライバーはみんな知りあいってことになってたみたいですが。
「あ、あたし! あたしがしたの!」(空)
さすがに度肝ぬかれました。いや、あなた、そこまで言わなくたって…。
微妙に偏見入った視点によって即刻ウソ認定されたのが、まだしも幸いだったかもしれません。
「海のデジモンはオイラに任して!」(ゴマモン)
すいちゅうデジモンが出たとなれば、勇んで前に出る姿勢が顕著に出てますねえ。
実はほんとうの意味で水中戦をやったのって、02だけだったりするんですが。基本的にパートナーがひっついてたせいかな。
「やだ、かわいい!」(OL)
喫茶店の窓からイッカクモンとゲソモンの格闘を目撃したOL三人娘のひとりが発したセリフです。
…世の中、いろんな視点があるもんです。そういえば、加藤さんもギルモンの第一印象は…。
他の観衆も実にのんきな反応で、現実認識がまるでできてない感じ。まあ、今はそれでいいんでしょうけど。
★次回予告
家族との再会。喜びにつづいてやってくるのは、心の片隅でふるえていた幼き日の自分。
光子郎もさることながら義父母のいい人ぶりや夫婦仲のよさも印象的なお話でした。
レアモンがディスコクラブを襲うのはやっぱり「ゴジラ対へドラ」のオマージュなんだろうな。