レアモン! 東京湾襲撃
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脚本:まさきひろ 演出:芝田浩樹 作画監督:八島喜孝 |
★あらすじ
なつかしきわが家。ひさしぶりに帰宅した子供たちは、ひとときの安らぎを噛みしめていました。
そんな中、光子郎は義父母に感謝しながらも、心の中に残る大きなしこり─自分がほんとうの子ではない─を流し去ることができずにいたのです。
義母はどこか距離を取るような光子郎の態度や、とつぜんの変化へ不安をおぼえるのでした。
さて、夜に光子郎が手持ちのPCを調べてゲンナイが追加してくれたプログラムを確認していると、その中のひとつから東京湾にレアモンが上陸したという情報が入りました。既にみんな眠っていて連絡がつかず、やむなくテントモンと2人だけで現場に向かうこととなります。ところが思いがけず、デジヴァイスに反応が…8人目が近くに!? レアモンをパートナーにまかせ、光子郎は反応を追いかけて単身走るのですが、ピコデビモンにハチ合わせしてしまいました。
レアモンに海中に引きずりこまれて苦戦したカブテリモンでしたが、脱出して振りむきざまのメガブラスターにより一本勝ち。
窮地に立たされた光子郎も、彼がかけつけたおかげで無事、家に帰りつくことができたのでした。
しかし、義父母は光子郎がなにか隠し事をしていると確信して、ふたりで相談していました。
立ち聞きした光子郎は心配をかけたことを、心の中で詫びるのでした。
結局、8人目の居場所はわかりませんでしたが、新たな手がかりが判明。子供たちは明日から、それに従って行動開始することになります。
★全体印象
31話です。タイトルコールは天神有海さん(光子郎)。影絵はタイトル通り、レアモンです。
裏タイトルは「ミーコの大冒険」だと思うんですがいかがでしょう。
この回は東京篇じゃいちばん良く見たお話です。なぜかというと、それは佳江ママがエロエロだから…だけではなくて、単体のお話としてよくできているうえに、親との微妙な距離や子供だけの冒険、さり気ないリアリティに既視感と、デジアドらしいエピソードに仕上がっているからかもしれません。って、前回もそれっぽいこと言ってましたね。でも実際、本格バトルがはじまる以前のほうがどちらかというと東京篇のキモかもしれないわけです。
逆にいえば、
この仕込みがあるからこそ35話以降が引き立ってくるのも事実。当時はやけに8人目やヴァンデモンで引っ張るなぁと思っていたものですが、それだけで片づくほど単純なシークエンスじゃないわけで。安息の地である「家」へもどってくることでさらに子供たちの肉付けを進め、そこにさえも攻めてくる凶悪デジモンたちを描くことで、親との絆を再確認するとともにその庇護をみずからの意志で離れ、最大の危険が待つデジモンワールドへ足を踏み入れる決意を固めさせる…東京篇は不思議なシチュエーションを存分に愉しめると同時に、子供たちの成長を確実なものとして感じ取れるようになっているのです。
このあたりのお話の人気が高いのは日常と非日常の混在を、しっかりした物語の基礎が支えて上滑りを防いでいたからに他なりますまい。
やはり大切なのはシナリオなんですね。記号であらわすと重要な順に
シナリオ≧演出≧作画
というわけです。うしろの二者がトータルで「今ひとつ」という程度なら何とかなるというのは、まさにこの作品が証明していることですし。
逆にシナリオの不備は何をもってしても補えず、せいぜい誤魔化すことぐらいしかできません。目の肥えたファンには通用しない手段です。
さて、今回重要なのは光子郎と義父母のたいへん微妙な距離感です。
普通に見ていればわかることですが、別に確執や拒絶があるわけではありません。それどころか、たがいに歩み寄りたいとさえ思っています。
なのに、どこかがぎこちない。
このお話から感じるのは目隠しをして手をつなごうと努力するかのような、そんなもどかしい気持ちです。だれも悪くないし、もしかしたら全員に原因がある。罵りあい、傷つけあって訣別した状態というのも悲しいですが、こういう有り様というのもなかなか苦しいかもしれません。ただ世の中には、自分がもらい子だとわかっただけですべてを否定された気持ちになり、自分だけでなく周りすべてを巻き添えにして傷つける人もいるようなので、それに比べれば光子郎は子供ながらたいへん理性的…といいたいところですけど、これはパソコンというはけ口があったからでしょう。
それに、キャンプに行く前の光子郎はもう少し無愛想で、家でもあまりしゃべらない子だったのかもしれません。
もしそのまま何事もなく成長していったら、彼はどうなってしまっていたでしょう。あまり想像したくありませんね。
作画はおなじみの八島さんで、演出も安定株の芝田さんです。けっこう安心して見られる組み合わせ。
デジモンシリーズは時々絵にゲンナリさせられることがあるんですが、そういう時は演出もからんでることが少なくありません。
あらゆる構成要素は、おたがい密接にかかわっているものです。
★各キャラ&みどころ
・光子郎
24話につづき、単独でがんばっていました。いざという時は引っ込み思案じゃありません。
こうまで単独行動が多いのは分析・実地行動・移動力と、冒険に必要なものを実は彼らふたりだけでかなり賄えるから…というのは以前書きましたが、それと同時に光子郎が他者に対して取っている距離をもあらわしているように思います。
なにしろ親の時点で「他人」な彼ですから、誰にでも「他人行儀」な接しかたをするのは当たり前だったというか、そうせざるをえなかったのでしょう。自分には肉親と呼べる存在がないからみんなと同じように振る舞えないという、どこか孤立したような気持ちがあったんだと考えます。
そんな光子郎にとって普通の家庭を持ち、広い交友をも持っているであろう太一があこがれの対象だったというのは、頷けるところですね。
それでも彼は心の底から義父母を想っているし、ほんとうの家族になりたいと願っていたはずです。それは義父母のほうも同じで、ですから3人に必要なのはきっかけだったんじゃないでしょうか。ただ、そのためにはまだ長い時間がかかったはず。でもテントモンと出逢い、冒険をかさねて他者よりもっと近い「仲間」を手に入れた彼は、つぎに「家族」を手に入れるため、現実を受け入れて義父母とともに生きていくための決意と勇気を心に根づかせることができました。ですからデジモンワールドの冒険で得た経験が、結果的に光子郎を助けてくれることになったのです。
すべてを受け入れた後の彼は後輩をつねに見守り、彼らのためにそのおう盛な知識と行動力を遺憾なく発揮していくことになります。
02後半ではどう見ても太一より目立っていました。
・太一
他メンバーが主役だとまったく出ないこともあるのに、今回にかぎってそこそこ出てくるのはデジヴァイスの件もありますし、ヒカリの再登場と「8人目」である自覚の有無も見せなければならないから…というだけではなく、光子郎と絡ませるために必要だったからでしょう。
なにより大きいのはやっぱりメンバー中でいちばん「普通の家庭」を生きてるぶん、光子郎の環境と対比させやすいということですね。
遠慮のない抱擁や食いっぷりに、ほんとうの家族が持てる自然で気楽な空気がとてもよく出ていました。
そういえば太一がほんとうの意味で泣いたのって19話とこの31話、あとは最終話くらいですかね。他にもあるかもですがあまり覚えてません。
ヤマトがびっくりするほどよく泣いていたおぼえがあるのとは対照的です。
・ヒカリ
10話ぶりの再登場。カゼがなおったおかげか、お父さん相手に満面の笑みを浮かべたりバラエティを見て笑い転げてるカットも出てくるため、演出と作画のちがいもあってずいぶん異なった印象をおぼえますね。これが初見だったら、明るくて活動的なところがあると言われても納得しちゃったかもしれません。
といっても、このあたりはあとで制作側がみずからフォローを諦めてしまったみたいに見えますが…。
・ 空、ヤマト、ミミ、タケル、丈
今回は出番なし。空とヤマトについては1ショットだけ写りましたが、寝姿だけ。
…それにしても、光子郎ってタフですね。体内時計がずれてるのかもしれないけど。
・デジモンたち
パートナーについては、ほとんどテントモンとコロモンしか出ていません。ですから、ほぼテントモンのひとり舞台です。
ぱっと見硬質な面相の彼ですが、仕草やエフェクト(汗や鼻ちょうちん)などによりユーモラスでフレンドリーな性格があらわされていて無表情さはかけらもありません。作画が八島さんなのでよけいそう見えます。顔そのものにも、例外的に微妙な表情がつけられていますし。
今回の視聴で、友人のひとりが彼らふたりを「若番頭と丁稚どん」と表現していたのが印象的でした。
・ 泉夫婦
人格者っぽいお父さんとやたら若々しいお母さんの組み合わせ。見たところ夫婦仲は非常に良好で、ふだんから何でも話しあっていそう。
特にお母さんは真剣かつ深刻に受け止めがちなところがあるようで、それをお父さんがフォローするパターンが目立ちました。ここから実はお父さんのほうがずっと年上で、お母さんは学生結婚をしたのではないかと穿ち読みをする人もいたほどです。たしかに、お母さんの方が年下っぽく見えます。
で、このお母さんが仕草から何からなかなかのものだったので、一部で人気があったようですね。(私はって? 愚問ですな、隊長)
02で立ち位置からは異様なほど出番があったのは、そのせいだったのでしょうか。
なおお母さんは5話で書いたとおり、荒木香恵さんがヒカリと掛け持ちで担当しています。佳江という名前はたぶん「かえ」と読むんでしょう。
5話の水谷優子さんから変更となったのは、水谷さんが太一のお母さん役へシフトしたからですね。
・レアモン
腐敗した体を金属で補強しようとして失敗したという設定の、アンデッドデジモンです。
その姿はぶっちゃけて言うとへドラ。目の周辺だけに残された鉄板が無気味です。破壊力はありますし一定の知能もあるようですが、しゃべるのはあんまり得意じゃないらしく一言も発していませんでした。これはマンモン、ゲソモンも同じで、そのためより怪獣っぽさが強調されています。この手のディスコミニュケーションは、デジアド世界だとけっこう目立つ部分。知性があっても意志疎通する気がないか、その手段がない個体もいるという感じです。
強さ的にはそれほどたいしたものじゃありませんでした。わりに見かけ倒しです。
まあシナリオ上仲間の支援を受けられないので、しかたがないでしょう。
・ ピコデビモン
冒頭で鏡みたいなものを使い、ヴァンデモンと連絡を取っていました。どっから出してどこにしまったんだろう。
後半では、紋章の反応を追いかけているうちに光子郎とハチ合わせし、ピコダーツで窮地に陥れていました。子供らが単独のときに襲撃を受けた例はあまり多くないので、あんがい貴重な場面です。そこからすると、たとえ成長期であっても人間がデジモンと相対するのは非常に危険だということがわかります。
まあ、それでも武器があれば成熟期くらいまでならある程度なんとかなるのかもしれませんが…。
・ ミーコ
02になると姿を消してしまう、八神家の飼い猫。何があったのかは語られていません。
うっかり落としたデジヴァイスを追いかけている間に、芝浦の方まで行ってしまいました。これが光子郎やピコデビモンを誤認させることになります。
それにしても光子郎はミーコのことを知らなかったのでしょうか? レアモンに注目していて見過ごしたのかもしれませんけど。
★名(迷)セリフ
「なにが可笑しい!」(ヴァンデモン)
テイルモンが連れてきたデジモンの敗北を笑うピコデビモンに対して。
テイルモンを擁護したというより、笑えるような立場にない者に雷を落とした感じでしょうか。
頭数が減ったのはたしかに問題ですが、そんなことをいちいち報告するほど今のピコデビモンは暇じゃないはずですし。
それにしても残りの子供たちを見つけたというのに、「8人目」にこだわりますね。
たしかに、先手を取って始末できればそれに越したことはないんですが。
「母さん…!」(太一)
本当にひさびさの再会となる母へ、涙の抱擁。触れ合えずにいる泉家と対比がとてもよくきいてます。
太一も親の前では、年相応に戻れるのでしょう。
「参考書を貸してもらえることになって…すぐ戻ってきます!」 (光子郎)
というのは嘘で、実は部屋にカギを拵えるための一式を買ってくるための方便でした。自分がいないときにテントモンが見つかったらまずいからです。ここで本当に太一の家に行き、口裏を合わせてもらえば完璧だったのですが、そこまでズルくはなりきれないってところでしょうか。
貯金箱をひっくり返して予算を捻出していることが、音でわかります。
いざという時のために貯金はかなり堅実にするタイプだと思うので、タクシー代もなけなしの持ち金から払ったんでしょう。
そして、こうした光子郎の行動を責められない義父母にはやはりまだ恐れと遠慮が見られます。
まあ、元からあんまり頭ごなしな責めかたをするほうじゃなさそうですけど。
「ありがとう、お母さん! お母さんには、ほんとうに感謝してます!」(光子郎)
いつの頃からか、光子郎は「親」に向かってこのような物言いを無意識にするようになっていったんでしょうか?
このことが、お母さんを喜ばせると同時にたいへんな不安へ突き落とすことになったようです。
直後のにぎやかな八神家のようすが、音の少ない泉家のぎこちなさを強調してくれています。
「でじばいす?」 (ヒカリ)
要領を得ない発音とかしげた小首がいい感じですね〜。
しかしあのデジヴァイス、なんで机の下に落ちてたんでしょう。ミーコがいたずらでもしたのかな?
「レアモンはワテがなんとかしますさかい、光子郎はんは『8人目』を探しなはれ!」 (テントモン)
「……いいのか?」(光子郎)
「それしかおまへんやろ?」(テントモン)
コートを脱ぎ捨てて別行動を提案するテントモンはかっこいいですね。
敬語が抜けているあたりに光子郎の信頼というか、気の許し具合がうかがえます。
「それに、キャンプに半日行っただけで性格が変わるのも変だと思わない?」 (泉佳江)
いちばんの原因があの漫才とはいえ、恐らくそれ以外にも微妙な変化を感じ取ってそう。
だとすれば、それだけお母さんが「息子」のことをよく見ているといえそうです。
「私、本音を言わせてもらうと…光子郎にいい子でいてもらうより、もっと駄々をこねて…甘えてもらいたいんです。好き嫌いだってしてほしい…!
だって、それが子供でしょ!? ちがいます…!?
」 (泉佳江)
けっして想いあっていないわけではないのに、距離がある。あと一歩で届きそうなのに、届かない。
お母さんのこの言葉は、光子郎が今までいかに義父母と無意識の距離を取っていたか、如実にあらわしていると思います。だからといって、育ててくれたことへの感謝を忘れて恩知らずな真似をするなど思いもよらず、光子郎はそれで必要以上に「いい子」であろうと勤めたのかもしれません。
であると同時に義父母も光子郎との関係を大事にしたいあまり、本当の事を言い出せずにいる…もどかしいですね。本当に。
たぶん、過剰な気遣いや言葉がなくても理解しあえる関係こそが、ほんとうの家族というものなんでしょう。
そのためには、やはり目の前の難題を全員で受け入れて背負う以外にないのでしょうけど……怖いでしょうね、やっぱり。
★次回予告
8月2日をむかえ、舞台は一時的に芝へうつります。
敵はテイルモン麾下でもかなりの実力をほこるデスメラモン。ひさびさにメタルグレイモンの出番です。