パンプとゴツは渋谷系デジモン
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脚本:浦沢義雄 演出:角銅博之 作画監督:直井正博 |
★あらすじ
8月2日の夜。
タケルを送るため、ヤマトは一緒に三軒茶屋へ向かっていました。ところが、ふとしたことからタケルとパタモンが喧嘩になってしまい、かんしゃくを起こしたパタモンは渋谷で降りてしまったのです。あわてて後を追う兄弟の前に、パンプモンとゴツモンがあらわれました。ところが二体は『8人目』を探すことよりも、にぎやかな渋谷で遊ぶほうが性に合っていたのか、ヤマトたちを巻き込んで大はしゃぎ。
そこへ、ヴァンデモンがあらわれます。強敵の思わぬ出現に緊張する兄弟でしたが、パンプモンたちが一度はしたがった命令にさからい、庇おうとしてくれました。すっかり渋谷の街が気に入ってしまったようです。そんな二体を、ヴァンデモンは情け容赦なく処刑してしまいました。一部しじゅうを目の当たりにしたヤマトは絶叫! ガルルモン、さらにワーガルルモンへとパートナーを進化させ、敢然と立ち向かいます。しかし、これほどの気迫と完全体の力をもってしても、次第に追いつめられていくではありませんか。ヴァンデモンはやはり強い。
あのとき、激してしまった自分を悔やむタケル。もしこの渋谷に来なければ、パンプモンたちに出くわしてその結果、ふたりが消されてしまうことだってなかったかもしれないのに…。騒ぎを知って近くまで来ていたパタモンにも、彼の想いが伝わってきました。そして光が…白い光が!
エンジェモンの復活です。聖なる力を持つものの加勢に警戒したか、ヴァンデモンはひとまず退いていくのでした。
戦い終わって、帰途につく兄弟。
記憶の残像に、友になれるかもしれなかった二体のやんちゃ者が、いまも楽しく遊んでいるのでした…。
★全体印象
33話です。タイトルコールは寺田はるひさん(パンプモン)と杉本ゆうさん(ゴツモン)。
アドリブなのか、笑い声まで入ってます。
浦沢さん担当のなかでは『さらばヌメモン』に次いでシリアス色が強いお話かもしれません。いきなりヴァンデモンが登場するAパートラストで一気に緊張がたかまり、後半はとにかくバトルが熱いです。直井作画が魅せる見せる。エンジェモンの復活とワーガルルモンとのダブル攻撃の場面で興奮は最高潮に達します。一度だけの登場にもかかわらず、圧倒的な存在感を残したエンジェモンの復活は『決戦前夜』をイヤでも盛り上げてやまないところでしょう。であると同時に、彼ら二体の攻撃からも逃れてみせるヴァンデモンの底知れなさが示された回だといえます。
そのぶん前半のギャグは案外押さえぎみというか、後半を際立たせるために使われてる気がしますね。パンプモンたちがたどる悲惨な末路からみても、ギャグ回に見せかけて実はそうじゃなかったみたいです。このところ怪獣的で凶悪なデジモンが続いていたので箸休めの意味と、なかには話の分かるヤツもいるという事実の再確認、そしてヴァンデモンを悪として強化するなどなど、物語の引き締めがなされているのではないでしょうか。
さらにもう一つ、35話からはじまる決戦では『8人目』へ全面的に焦点があたるのでその前にエンジェモンを復活させ、土壇場で出てきても違和感が少ないようにしておく意図があったのでしょう。これにより、丈とミミに安心してスポットを当てることもできます。また、ヴァンデモンにも『聖なる力』が有効であるらしいという、37話への引きもつくられていますね。ですからこの回を押さえておくことは、以降にとっても大事だということです。
作画は上述のとおり直井正博さんで、またまた一人原画ですがそれをまるで感じさせない完成度でした。演出との嵌まりぐあいもいい。
渋谷の街を縦横無尽に駆け回るバトルは、東京篇屈指のベストバウトです。
★各キャラ&みどころ
・ヤマト
前半は浦沢脚本らしく柔和なところが目立ちましたが、後半で本領発揮。涙と絶叫は彼の専売特許です。ここから涙を抜くと大輔になる。
なんだか突然パンプモンたちへ感情移入してるように見えますが、これはあの2人がどうこうという、彼自身の中にある『一線』というものをあっさり踏みにじっていくヴァンデモンの理不尽きわまりない暴虐に、猛烈な義憤を感じたからなのかもしれません。
今にして思えば、ヤマトはいつも理解しあえる存在…仲間や友達を求めていました(そういう意味で言うと、タケルはヤマトにとって大切すぎて踏み込めない存在なのですね)。そんな彼にとって他者とは拒絶の対象ではなく、ぶつかりあいながらでも信頼を高めていきたい対象。素直じゃない性格を押してでも、集団から孤立する道を理由もなく選ぼうとはしていませんでした。だから、不器用でも相手の気持ちになって考えることができる。
ゆえに、ヤマトはヴァンデモンが許せないのです。
仲間をただの消耗品としか考えず、用がなくなったら捨ててしまう。誰にも心を許さず、また許させず、恐怖で築いた山の頂上で佇む孤独の王。
友情を踏みにじるヴァンデモンは、ヤマトにとって絶対に相容れない敵なのです。
この回をひさしぶりに見て、『ハーメルンのバイオリン弾き』でラスボスを張る大魔王ケストラーの言葉を思い出しました。
この世には自分ただひとりだけがいればいい。彼は、そう言っていたんです。
とてつもない哀れみを憶えた記憶があります。無人の大地で永遠の孤独を生きることでしか、安息を得られないのだなと…。
・タケル
自分がふと感情を爆発させてしまったことが、自分が幼いことが、もしかしたら誰かを傷つけるのかもしれない──。
彼にとっては、そういう話でした。流し見してしまいがちなエピソードですが、02で回想するシーンも加味して考えると、相当痛いできごとだったんだと思わされます。このことがあってから、彼はますます自分を律するようになっていったんじゃないかと読んでしまうほどに。
そして、闇のちからを背負うヴァンデモンはやはりタケルにとっても絶対許せない敵でした。
凶悪なデジモンが次つぎやってくる中、久しぶりに見た気がする『話せばわかりそうな相手』。ちがう出会いかたをしていたら、友達になれたかもしれない二人。そんな一筋の希望を無慈悲に消し去るヴァンデモンは、どうしても倒さなければならない存在です。でなければこの先も、大勢が希望をうばわれてしまう。
エンジェモンはきっと、そういう想いにこたえて復活したんだと想います。
後年のタケルがいつも笑っている印象があるのは、激発を封印して自身をオトナへオトナへと押し上げ、誰かをほんとうの意味で傷つけてしまうことがないように心がけていたというのもあるんでしょう。あの戦慄させられるほどの怒気は、抑制に抑制を重ねた結果なのです。
とはいえ、彼はもう『敵』相手にしか本気で怒ることはないのかもしれません。それ以上の理由を知らないから。
そーいえば、パンプとゴツに服を着せられたとき頭に行司帽子のっけてましたね。12話と作監が同じなので、ちょっとした絵的遊びでしょう。
・太一・空・光子郎・ミミ・丈・ヒカリ
今回はお休み。高石田兄弟の独壇場です。
・デジモンたち
なにげにガブモンのお茶目な一面も披露されてますが、注目すべきはやはりバトルパートでしょうか。
吹っ飛ばされたところで完全体に進化し、そのまま壁を蹴って拳をふるうワーガルルモンはヤマトの気迫も加わって、実にかっこいい。壁面をバク転する動きや、そのままカイザーネイルを放ってヴァンデモンを吹っ飛ばすくだりなどは、一対一でもかなりいい線いきそうだとさえ思わされるほどです。まあ、そう簡単にはいかないわけで…結果、超進化しても苦戦する初のケースとなりました。要するにヴァンデモンが強すぎるんですが。完全体としては破格の実力です。
渋谷の街を一直線に飛ぶエンジェモンの姿は、夜の闇とあいまって非常に映えるものがありました。
それにしても直井作画のパタモンはかわいい。
・パンプモンとゴツモン
どこで渋谷のことを知ったのか、憧れの街に来た喜びにはじけて大はしゃぎしていたところをヤマトとタケルに出会いました。
それぞれ完全体と成長期ですが、背丈が似たりよったりで格差は感じられません。戦闘能力的には当然パンプモンのほうがあるんでしょうけど、このふたりの場合はあんまり関係なさそうです。それよりもウマが合うかどうか、こちらのほうが大事なんでしょう。
なんでこんな二人がヴァンデモンの下についているのかといえば…やっぱり渋谷に来てみたかったからですかね。これは推測ですが、テイルモンが有志を募っているのを聞いて、あまり深く考えずに自分たちから申し込んだのかもしれません。当然テイルモンは突っぱねたでしょうが、勝手にくっついてきた可能性が大です。でも、まさか自分たちの単純な好奇心が破滅を呼ぶことになるとは思ってなかったことでしょう。
そんなわけで、もともとヴァンデモンにはほとんど忠誠心を持ってなかったとみて間違いなさそうです。
ま、恐怖で縛っただけの関係からはほんとうの意味での信頼も忠誠も、絶対に生まれないのですが。
・ヴァンデモン
いつになく外道です。エテモンあたりとは悪のレベルってものがちがう。そして実力もケタ違いです。完全体でも一対一では勝てません。
にもかかわらず、大友龍三郎さんの「はっはっはっはっ」という高笑いにやたらとなごむのは気のせいでしょうか?
それにしても、ワーガルルモンをブラッディストリームで縛って痛めつけるあたりに性格が出ていますね。
・渋谷の街
道玄坂〜東急ハンズあたりが舞台。まだSHIBUYA TUTAYAができていない時期ですね。完成していたら絶対背景に使われたでしょう。
あからさまなコギャル言葉を話す女の子たちに早くも時代を感じてみたり。
・ナレーション
平田さんの厳かな口調が、ラストシーンをぐいぐいと盛り上げてくれます。東京大決戦は近い。
★名(迷)セリフ
「送らせろよ…」(ヤマト)
本人はガチで真剣なんですが、なぜか石田ヤマト屈指の迷セリフに数えられています。
乗ってるのはなに線なんでしょう? 渋谷終点じゃないっぽいので、銀座線じゃなさそうですが…。
「ヴァンデモン様より怖い渋谷系の女の子に追われているんだ!」(パンプモン)
こういう説明調長セリフが出てくると「ああ、浦沢系だな」と思わされますねえ。
「…食べる…」 (ガブモン)
パンプとゴツが分捕ってきたソフトクリームに思わず。
特にデジモンたちがそうですが、みんな食い物につられやすいです。
「なぜ選ばれし子供たちとアイスクリームを食べている?」 (ヴァンデモン)
パンプとゴツを詰問してるんですが、真顔でこんなこと言われるとちょっと笑ってしまいます。
「いいヤツらだったのに…! なにも殺すことないじゃないか!!!」
「あいつらは………ほんの少しの間だったけど………おれたちの友達だったんだ!! ガルルモーン!!」
(ヤマト)
もうすでに泣いてます。
でもホント、いろんな意味ですごく情に篤い男ですね、ヤマトって。
「あのとき……ボクが怒らなければ…パタモンと別れることはなかったし、渋谷の街でパンプモンやゴツモンに会うこともなかったし……
パンプモンとゴツモンが、ヴァンデモンに殺されることもなかったのに!!!!
」 (タケル)
はっきりそう言ってはいませんが、自分のせいだと思って後悔してるんですね。でも、口に出さないところが兄とのちがいかもしれません。
こういうことになるのを誰よりも恐れている彼からすれば、時間を戻してでもやり直したい事象のひとつなのでしょう。
直後、塗りつぶされるように光が広がる進化シーンは必見です。
「大丈夫か、ワーガルルモン」(エンジェモン)
「…ああ、なんとかな」(ワーガルルモン)
「ふん…聖なるちからを持つ者…か」(ヴァンデモン)
「…いくぞ、エンジェモン」(ワーガルルモン)
「…ああ」(エンジェモン)
進化したとたんにこの渋いやりとり。個人的には、デジアドの醍醐味のひとつです。
「パタモン…今度は…」(タケル)
「うん…ダイジョウブだよ、タケル」(パタモン)
パタモンだけでなく、ガブモンも完全体進化したにかかわらず、成長期までの退化ですんでます。
究極体への布石でしょうか。
★次回予告
いよいよテイルモンの過去話です。ここから、膠着していた面もあるストーリーが一気に加速していくことになります。
それにしても石田声といい、ウィザーモンってホントに美味しいキャラだったなあ。
デジゼヴォでひさびさに同じ役を演じていたのには感激させられました。