運命の絆! テイルモン

 脚本:吉村元希 演出:川田武範 作画監督:伊藤智子
★あらすじ
 ヴァンデモンは、手下をも簡単に消してしまう─ヤマトから連絡を受け、太一は戦慄していました。
 そんな中、テイルモンの友・ウィザーモンがまったく偶然にデジヴァイスを発見していました。ところが、彼はそれをヴァンデモンへは献上せず、ヒカリを怪しんで監視していたテイルモンのもとへ届けたのです。ウィザーモンは自分を救ってくれたテイルモンにのみ心を許しており、かつて聞かされた話から、彼女こそが8人目の選ばれし子供にパートナーとしてめぐりあうべき存在であるとにらんでいたからです。

 果たしてふたりがヒカリと接触すると、デジヴァイスが激しい反応を示しました。見とがめた太一とアグモンの横槍が入りますが、庇おうとしたヒカリを逆に身を挺して守ったことにより、テイルモンはついに失われた過去の記憶を取り戻し、ヒカリをパートナーとして認めたのです。

 あとは紋章があれば。太一にデジヴァイスを預け、テイルモンとウィザーモンはヴァンデモンの根城へ潜入します。
 首尾よく紋章は発見したものの、そこへ戻ってきたヴァンデモンがふたりを裏切り者とみなして襲いかかってきました。圧倒的不利な戦いのなか、テイルモンが8匹目のデジモンであると勘づいたヴァンデモンはウィザーモンを河にたたき落とし、彼女をも捕らえようとします。太一とメタルグレイモンの応援も焼け石に水で、ついにテイルモンは連れ去られてしまうのでした。

 8人目の子供─八神ヒカリは、ひとり遠雷の夜空を見上げて帰りを待っていました。めぐり会った大事なパートナーの帰りを…。



★全体印象
 34話です。タイトルコールはテイルモンを演じる徳光由香(現・由禾)さん。
 もちろん影絵もテイルモン本人です。くるくるっと右手を回してひざまずく見覚えのある動きは、初登場時の流用でしょうか。

 視聴者にはバレバレでしたが、ついに8人目の子供がヒカリであると発覚しました。東京篇の中核をなすとても大事なエピソードです。
 かわいい外見に似合わぬクールな言動と、それを裏付けるヘビーな過去を持ったテイルモンもほかのパートナーとは明確に一線を画しており、ヒカリと今後どんな触れ合いをしていくのか俄然楽しみになってくる時期です。今回だけで死亡フラグ立てまくりなウィザーモンも、穏やかで理知的な振る舞いに石田彰の端正な声が異様にマッチしており、強い印象を残してくれます。総登場時間を思うと驚かされるほどに。

 ただ、ストーリーはいいんですが演出がいまいちで、トータルでの出来があまりいい回とはいえません。間というものをとらず矢継ぎ早でしゃべるキャラクターたちや、単一構図が続いて退屈な戦闘シーンなど、川田演出度MAX。また、真正面からベビーフレイムを食らったはずのテイルモンがなぜか真横にすっ飛んでいたりなど、位置関係までめちゃくちゃです。まあ、あの場合奥まで吹っ飛んでしまうとリビングから見られてしまいそうなのですが。

 いずれにせよ、せっかくの大事なお話がいくらか情緒を欠く出来になっているのはたしかで、残念なことしきりの回です。
 悩める表情を色気たっぷりに描いてくれる伊藤作画も、今回ばかりはあまり活かされてませんでした。

 川田氏は2005年現在プリキュアに参加しており、ある意味癒し系と取れなくもない脱力演出で猛威をふるっています。



★各キャラ&みどころ

・太一
 ウィザーモンを警戒するのはいいとして、ヒカリが8人目だと知ったときの反応が薄めなのがちょっと気になります。
 これも演出がカバーするべき箇所なんですが、特になにもなし。といって陰陽みたいにオーバーリアクションでも笑っちゃいますが。
 行動すべきときの判断はあいかわらず早いです。


・ヤマト
 声のみでの出演。小説版でも「予想外だった」という描写があるとおり、ヴァンデモンの手下殺しがよほど衝撃的だったとみえます。


・丈
 こちらも電話口のみ。この日はずっと裏方だったのでしかたありません。
 活躍のチャンスはしっかり用意されているので、36話を楽しみに待ちましょう。


・ヒカリ
 テイルモンをあっさり受け入れたり、アグモンの攻撃から迷うことなく庇おうとするあたり、何というか空恐ろしさを感じます。
 もともと子供とは他者を受け入れやすいものだといいますが、彼女は異常といってもいいほど。
 こういうところ、ほかの子と同じようでいてものすごく抽象的にどこかが違う、と思わされるキャラ立ちですね。

 もちろんその異常さを垂れ流しにするほど馬鹿な子じゃないので、家族以外には予防線を張って暮らしてるんでしょう。
 性格を考慮しなくてもストレスが溜まりそうな生活です。

 02で彼女が夢想させられたあの光景は、早くみんながパートナーの存在を意識して欲しいという不満のあらわれだったのでしょうか。


・空、光子郎、ミミ、タケル
 今回はお休み。


・デジモンたち
 いきなりベビーフレイムを撃つアグモンがいつになくアグレッシブです。また、彼も完全体からの退化が成長期で止まるようになっています。
 デスメラモンを倒したあともとに戻った描写がなく、つぎに出てきた時アグモンの姿だったので、その時点でもう布石になっていたんですが。
 それでなくてもこの日二度目の完全体進化ですから、あきらかにパワーアップしてるんですよね。

 が、それでも倒せないのがヴァンデモンです。
 今回でついにギガデストロイヤーも破られ、完全体進化の優位性が本格的に崩れました。一対一じゃ絶対に倒せない相手だと、あらためて強調されたかたちです。勝つためには全員の力が必要で、8人目たるヒカリは最後のカギというわけですね。


・テイルモン
 パートナーを得るという、彼女にとって最大のイベントが起こる今回。

 しかし演出のメリハリ不足と心変わり以前・以後で演技が変わらない点から、やや唐突な印象を受けてしまいますね。どこらへんが「思い出した」ポイントなのかわからない。いや、ヒカリを庇った瞬間なのははっきりしてるんですが、そのとき陳腐でもなにかサインが入れば、ずいぶん違って見えたことでしょう。要するにアピール不足。記憶を取り戻す自体はもう引っ張るわけにもいかないので、タイムテーブル的にここいらがちょうどいいんですけど…。
 セリフまわしにやや混乱がみられることといい、ほかと違って急ごしらえのキャラなのでしょうか?

 文字にしてたった数行のやり取りでウィザーモンとの関係を想像させてくれるあたりは見事。脚本の勝利です。
 

・ウィザーモン
 姿だけならかなり前から出てましたが、しゃべったのはこの34話がはじめて。テイルモンと友人同士であるという設定も今回が初出なので、突然スポットライトを浴びた個体といえます。ただ今まで言葉をもたなかったことが、かえってよけいな先入観を排除してくれました。テイルモンがとつぜん男しゃべりになったことを思えば実はより一貫したキャラ造形を持っているといえるかもしれません。ただ中身はかっこいいんですが、絵面的になんとなく笑えますね(失礼な…)。

 性格は誠実で知性的。そしてテイルモン命。こうした造形を、石田彰の声が一瞬にして盤石としてくれました。
 ウォンレイといいアスランといい、石田キャラは美味しいです。共通してるのは優しかったり熱血だったりしても本質がヘタレという性格。
 最近は「無人惑星サヴァイヴ」のハワードや「エレメンタルジェレイド」の主役で着々と芸風を広げているようですね。

 小説版ではもう少し補完がされており、テイルモンに友情をちかう理由がよりわかりやすくなっていました。
 いずれにせよ、テイルモンが待っていたという「誰か」については以前からいろいろ調べをつけていたのだと思われます。
 むしろ選ばれし子供たちの噂を聞いた時点で、半分くらい確信してたかもしれません。

 まあ、たとえそうでなくても彼のことですから、ヴァンデモンよりもまずテイルモンのところへデジヴァイスを持っていったでしょうけど。


・ヴァンデモン
 紋章を枕元に仕舞っているという微妙な趣味を披露してくれた彼。
 ガチで恐ろしい存在なのにもかかわらず見ててなんとなく笑えるキャラのひとりです。悪であることへのてらいの無さも心地がいい。
 属性的にはカイザーハデスや魔人ダルガが実は近いのかも。ベリアルはちょっと違いますが。

 なにげに、02へつながりそうなことも言ってます。価値観を語ってくれるわりと重要なセリフかも。



★名(迷)セリフ

「なぜだろう…なぜあのとき、一思いにやってしまうことができなかったんだろう…」(テイルモン)

 なにかこう、イヤな言い方ですが安全装置でもかかってたんでしょうかね。
 そんな素っ気無いものじゃない? こりゃ失礼。


「昔のことを考えていたのですか?」(ウィザーモン)
「勝手にわたしの心を読み取るのは…やめろと言っただろう!」(テイルモン)
「…悪い。そんなつもりじゃなかったんだが…」(ウィザーモン)


 たったこれだけで、この二人がどういう関係にあるのかわかってしまいます。とても秀逸なやり取り。
 ウィザーモンを友と認めながらもどこか線を引いているテイルモンと、そんなテイルモンを案じ、力になろうとするウィザーモン。
 出番のわりにしっかり心へ刻まれているのは、ポイントを押さえていたからです。

 ところで、テイルモン。あなた今はっきりした声で自分の心境語っていましたよ?


(…このデジヴァイスをヴァンデモンに渡すわけにはいかないな…) (ウィザーモン)

 これ、テイルモンと「8人目」が関係あるというかなりの確信がなきゃ出てこないセリフです。
 ですから彼は自分で言っていたとおりあくまでテイルモンのために動いていて、ヴァンデモンへはなんの忠誠心も持ってないんでしょう。
 もしヒカリと単独で出会っていたら、まずテイルモンに引き合わせようと考えていたでしょうね。


「幼い昔の記憶をとりもどすのが怖いのですか!?
 どうして思い出そうとしないのです。失った過去を取り戻すのです。恐れず、自分の過去を思い出すのです 」 (ウィザーモン)


 これもつきあいの長さを示唆してくれる言い回し。


「私はあなたとともに戦う者。ヴァンデモンは関係ない」 (ウィザーモン)

 ウィザーモンの基本姿勢ですね。その想いは不滅でした。


「ずっとずっと…待って、待って…捜して、捜して…でも、逢えない…」 (テイルモン)

 ヴァンデモンは、いまだ成長期でしかないプロットモンの瞳になにを見たのでしょう。
 希望をめざす強い意志を感じたのなら、それを闇に向ければ有能な部下になると考えたのでしょうか。
 それでもブラックテイルモンにならないですんだということは、彼女には潜在的に闇になれない何かがあったのかもしれません。


「ヒカリ…だいじょうぶ。このくらい何ともない」 (テイルモン)

 ベビーフレイムの直撃くらってるんですが…。さすが成熟期、体のわりにがんじょうです。


「おにいちゃん! テイルモンはヒカリのデジモンなんだよ!」 (ヒカリ)

 あっさり受け入れてるし。
 単純に、自分のパートナーがほしいと思っていたのかな。兄のことを羨ましがってたようには見えなかったけど。


「その瞳(め)…やはり、その瞳なのだな。お前のその目は、やがて私に刃を向けることはわかっていた」 (ヴァンデモン)

 てっきり「8匹め」だと知っていたのかと思ったら、知らなかったみたいです。
 たとえリスクを負ってでも「飼う」価値のある部下だとは思っていたみたいですが。


「おたがいの信頼だと? 美しい友情だと? はかない夢だな、ばかばかしい。夢など、この世にあるものか!」 (ヴァンデモン)

 このへんがベリアルヴァンデモンにつながっているように思います。


「テイルモンを囮にして、8人目をおびきだす。子供たちも集めて、こいつとご対面というわけだ」 (ヴァンデモン)

 …この千載一遇状態で太一を始末しておかないというのは、余裕なのか美学なのか…。
 いずれにせよ、やっぱり8人目にこだわりすぎです。よほど怖いとみえる。



★次回予告
 さあ、
 いよいよお台場大決戦の幕開けです。