結界突破!ズドモンスパーク

 脚本:前川淳 演出:中村哲治 作画監督:八島喜孝
★あらすじ
 ヴァンデモンに挑むリリモンでしたが、あえなく返り討ちにあってしまいます。
 力を失って倒れたリリモンを連れ、空は母やミミを残し涙をのんで脱出せざるをえませんでした。

 一方、じっとしていられない太一はヤマトにヒカリを預け、アグモンとともに行動に打って出ていました。結界の外で手をこまねいていた丈とタケルも、イッカクモンの力を借りて直接突破をめざします。光子郎はというと、ゲンナイから提供されたデジタルバリアーを使い、とりあえずの危機を回避。両親をその場にとどまらせ、お台場を隔離している結界の謎を解明するべく、彼もまた行動を開始しました。

 水上をひたすら進むイッカクモン。お台場はもう目の前というところで、レインボーブリッジに根城をかまえるメガシードラモンがおそいかかってきました。
 必殺技も通じず、逆に強烈な反撃をくらってみんな海に投げ出されてしまいます。危機にさらされたタケルを命がけで救ったのは、彼の母との約束を果たそうとした丈でした。そのとき、誠実の紋章がかがやいてイッカクモンが進化! ズドモンの登場です。もはや敵の技は通用しません。
 必殺のハンマースパークでメガシードラモンを蹴散らし、紋章の導くままに結界を突破するズドモン。その前に、意外な人物が…。

  空はいったん合流した太一と別れ、ヤマトとヒカリを迎えに行っていました。ところが、後をつけてきたファントモンらが攻撃をしかけてきます。
  ファントモンは直接子供たちをねらい、デジモンたちは手下の相手でせいいっぱい…絶体絶命の状況に響き渡ったのは、ヒカリの叫びでした。

  「わたしが8人目なの…どこにでもついていくから……もう、みんなを傷つけるのはやめて…!」

  かくして、敵の手に落ちてしまったヒカリ。しかし、太一はまだこのことを知りません。



★全体印象
 36話です。タイトルコールは竹内順子さん(ゴマモン)で、背景は今回大アバレを見せてくれたズドモン。

 前回につづき、場面がめまぐるしく変わって見応えのあるエピソードです。ズドモンの出番は実質あんまり多くないんですが、さほど不満は感じません。
 ただ、完全体進化の回としては少々バタバタしたかな、と思わないでもありませんね。ほかの進化がどれも一定のタメをもって演出されているのに、このズドモン進化だけは突然スパーンと始まってます。状況を考えても、無理矢理突っ込んだ感は否めないところ。

 とはいえ、28話で東京に戻ってきた以上このタイミングでしか進化はありえないわけで、他との兼ねあい上やむをえないところはあるかもしれません。
 そのかわりというべきなのか、リリモンもズドモンもダークマスターズ篇での出番が多めに割り当てられていますし。

 この回はアクションが多めなので、俯瞰レベルではあんまり書くことがありません。そのアクション自体は八島作画ということもあり、動きまくりです。静と動をうまく使っていた前回にくらべると、なんとなく作画さんの腕を当てこんだレイアウトって感じです。
 …そういえば、今村演出と八島作画が組んだ例は全シリーズあわせても二回くらいしかありませんね。やっぱり動きまくりでしたが。



★各キャラ&みどころ

・太一
 とにかく行動しようという姿勢や、不安があっても表に出さずにより弱い立場にいる者を元気づける姿は、リーダーそのものです。大将がフラフラしていたらみんなが浮き足立ってしまいますからね。目立っているわけではありませんが、存在感はあいかわらず抜群といったところでしょうか。

 ただ、あそこで単独行動したことは実質あんまり意味がなかったので、今回ばかりは失策だったかもしれません。
 まあ、守りに徹したところで遅かれ早かれという状態でジッとしていることほど、彼にとって酷な話はないんですけどね。
 やはり太一は攻めまくってナンボの男です。


・ 空
 ファントモンに後をつけられるという大失態をおかしてしまいました。それでなくてもバードラモンは目立つんですが。

 でもファントモンは非常に高度なステルス能力があるようなので、 その尾行をまくのは至難の業でしょう。看破できるとしたら、鼻に超高感度センサーを持っているメタルガルルモンくらいでしょうがそれは無茶な話だし、バードラモンは鼻がきくほうじゃありませんから。
 ヤマトを攻撃するファントモンへ果敢に挑む場面も見られますが、基本的に非力な子供たちの悲しさ、こういう場合は手も足も出ません。


・ヤマト
  アクアシティでヒカリの護衛をつとめていました。そのヒカリを除くと東京篇ではただ一人、捕まっていないにもかかわらず動けないでいたメンバーです。ほかの子供たちが状況にあわせて何らかの行動を取っていたというのに、彼だけは身動きが取れずにいました。その上みすみすヒカリを奪われてしまうのですから、太一にはあわせる顔がありますまい。あとで挽回したからいいようなものの、相当ほぞを噛んだ数時間だったことでしょう。

 なお今回は非常にめずらしい、ヒカリとの一幕が用意されてます。ヤマトとヒカリがまともに話した機会は実に少ないですね。なんせヒカリには太一がいますし、彼は彼でタケルがいますから。それでいて、太一みたいに両方と会話を持てるわけじゃない。ですから、とても貴重な場面です。
 見たところ、タケル以上に扱いあぐねているみたいでしたが…。


・光子郎
  ゲンナイさんから知恵をさずかったのもあって、両親を守ることに成功していました。お父さんの勇気ある決断にも助けられ、絆を深めるきっかけになってくれた出来事ですが一気にテントモンの事までカミングアウトしたので、この家族にとっては過去最大の大事件だったにちがいありません。あとになって思い出したら、さぞや笑い話のタネになったであろう場面です。キャメロット女史にも劣らぬ気絶っぷりの佳恵ママがいい感じ。

 光子郎はラスト近くでフジテレビへ侵入し、ヤマトパパに合流します。点と点がこうしてひとつにつながっていくわけですね。
 天下のアホ映画(註:ほめ言葉)といわれる『インデペンデンス・デイ』でも、数多いメインキャラが合流していくさまは醍醐味のひとつでした。


・ミミ
 反撃もつかのま、ヴァンデモンの前にあっさりと捕まってしまいました。そんなわけで、出番は最初だけです。
 放っておけば確実にあの場でやられていたであろうリリモンを連れ出せたのは、もっけの幸いでしたか。
 …しかし、あの状況ではミミだってただじゃすまないはずなんですが。捕らえるだけにしろと命令されていたのでしょうか。


・タケル
 はぐれたとはいえ、なかば母親放置で先へ進もうとするのはどうかと思うんですが(^^;)
 でもこの子本当にたくましくなりましたね。少しずつながら、後年のイメージが頭をもたげてきているように思います。

 具体的な行動を取れないばかりか、ヒカリ相手にうまく立ち回れずオロオロしてる兄となんだかイヤな対比が成立しつつあります。仕込みですかね。


・丈
 最後の手段として、イッカクモンに乗って結界突破をはかる手段をみずから発案し、実行に移しました。
 これは誰に言われたわけでもなく、丈自身が考えて決めたことです。衆目に晒されることを思うといざ実行するのはなかなかむずかしいと思いますが、彼は迷うことなくこの道を選びました。まぎれもなく成長のあかしです。そして、結局はこれがいちばん正しいやり方だったのです。

  結局のところ、リーダー譲渡の場面で条件は揃いかけてたのかもしれません。あとに必要なのは危機的状況と、それにあたっての行動。東京篇になってしばらくは大きな戦いもなく、強敵といえばほかのメンバーに任せっきりだったので、ここまで進化が遅れたんでしょう。でも彼のせいってわけじゃありますまい。ただ単に、タイミングが悪かったというだけの話です。それに、だからといってイッカクモンが役に立ってないわけじゃありませんでしたから。

 誠実の紋章は命を賭けてでも信義を守ろうとするとき、力を貸してくれる信頼の結晶です。
 つねに信頼できる友を求める友情の紋章の持ち主とは、だから相性がいいのかもしれません。


・ヒカリ
 自分のために誰かに迷惑がかかるのは耐えられない。だから我慢したり、自分が貧乏籤を引こうとする。それがヒカリという少女です。
 このあたり、タケルと非常に良く似ていますが一番ちがうのは、後天的なものではなく持って生まれた性格だという点。
 ある一面からみれば自分より他人を思いやり、自身を犠牲にできるということですが、一歩間違えればなにもかもを背負いこみ、潰されてしまいかねません。もちろん彼女は自分で思ってるほど弱い人間じゃないし、だからこそ選ばれ、数々の試練も乗り越えてこられたのですが。

 ですがこれはテイルモンも言っていたとおり、仲間という他者がいるから成立する強さです。孤独という闇の中から光は生まれません。ですから、ヒカリにとって自分ひとりのことだけ考え、周囲の目を気にしないなどという生き方は絶対に無理なのだと思います。
 それゆえに京(そして、おそらくはミミ)の率直な物言いや行動に憧憬をおぼえるのかもしれません。

 大輔は、そんな彼女が忌憚なく接せられる数少ない友人のひとりなんでしょう。
 でも、だからこそより深い仲になる気が起きなかった…最近聞いた意見ですが、これは確かにあると思います。
 大輔本人はヒカリの本質を感じ取ってシンプルに好意を持ち、単純ゆえになにを言われても本当の意味では傷つかなかったのでしょうけど。


・デジモンたち
  ヴァンデモンの新技・デッドスクリームを食らって悲鳴をあげるリリモンが痛々しい。溝脇さん、気合入れてかわいく演じてますね。
  しかし麻痺したうえナイトレイドまで食らってるのに、タフです。さすが完全体。

 後半ではイッカクモンとズドモンの出番があるんですが、戦闘以外はこれといって特筆すべきことをしてません。


・ズドモン
 イッカクモンが進化した海獣型完全体。二足歩行で武器を携行しているのが見た目最大の相違点です。
 そろそろ中盤の終わりににさしかかろうという時点での登場なので、ここから先の出番は優先的に多め。実力的にもかなりのもので、ボス級とのガチンコでもない限り鉄板に近い勝率です。トールハンマーはクロンデジゾイトさえ砕くほどの強度があり、直撃すれば究極体にさえダメージを与えられるほど。

 また、ツノは発射できなくなりましたが強度が格段に増して鋸刃に加工され、避雷針としても使えるようになりました。メガシードラモンの技をこれで無造作に弾くあたりの描写は、今までとケタ違いに強くなっている事実をハッキリ示してくれます。たぶん、イッカクモンのツノだと構造が複雑すぎて避雷針としては役に立たないのでしょう。ある意味でいえば、望んだ能力がそのまま手に入ったのだと言えそうです。

 総合的にみて非常に強いですね。弱点はスピードに劣ることですが、リリモンなどとの連携をもってすればカバーできます。


・ テイルモン&ウィザーモン
 テイルモンはヴァンデモンの見張る中で首実検中。ウィザーモンは、溺れかけだというのにそんなテイルモンのことばかり気にしていました。
 それにしても、ヒカリはなんで見てもいないウィザーモンの水没を知ってたんでしょう。太一だってアレは見てないのに。
 まあ、あれは視聴者視点なんでしょうが…。


・メガシードラモン
 『海底軍艦』のごとくレインボーブリッジに巻き付いていた、巨大な海竜型完全体です。シードラモンにくらべると数倍にもおよぶ巨体で、攻撃力と防御力もそれに見合うだけのもの。すぐ後にメタルシードラモンが出てくるので霞みがちですが、ボスでもないのにこれだけ強いというのはおどろくべき話です。イッカクモンも単体ではまったく歯がたちませんから、進化せずに戦うことになった02ではサブマリモンとの連携が必要でした。

 けっこう出番があり、なおかつ自然に棲息している数少ない完全体。02には完全体以上が希少で、特に海は穴場ですから彼らの天下でしょう。


・ ヴァンデモン
 何か回を追うごとに強くなってます。進化したばかりのリリモンでさえ、初登場属性を速攻無効化されて返り討ちにあってしまいました。
 次では完全体総攻撃も無効化してやりたい放題。これが結界のおかげだということは小説版で説明されてるんですがそれにしても強すぎです。ただ、目立つのはどっちかというと防御能力のみで、攻撃面ではそれほどでもないように見えますが…。

 エンジェウーモンのセイントエアは、結界の効果を打ち消すはたらきがあったのかもしれません。それでなくても聖なる力には極端に弱いので、エンジェモンのことは警戒していましたっけ。じっさい、エンジェウーモン登場前で唯一ダメージを受けていたのがエンジェモンの技ですから。


・ ピコデビモン
 その場の全員を眠らせるという、なにげにすごいことをしていました。この技をうまく使えばもっといろいろやれたでしょうに。
 それとも選ばれし子供には効かないのかな?


・ タスクモン&スナイモン
 いずれも本シリーズでは初登場。ファントモンに連れられてやってきました。このことから、35話以降の敵は多くがファントモン麾下であると推測ができますね。姿が見えなかったのは、スナイモン出現のエフェクトでわかるようにファントモンが隠していたからでしょう。謎が解けた。
 このようにしてみると、どうやらファントモンはヴァンデモン軍のナンバー2だったようですね。地味に大物だったわけです。
 ピコデビモンもかなり主人と近い立ち位置にありましたが、どちらかというと使い魔としての意味ですし。

 さてこの二体、強さ的にはかなりのものですが、本腰を入れて戦えばあの場の人数でも倒せないわけじゃありません。
 ヒカリに危機感を持たせたのは、やはりパートナー本人をねらったファントモンの卑劣な行動ですね。


・ ファントモン
 存在感が薄めなんですが、見直すと要所要所で邪魔をしてくる非常にイヤなヤツです。
 でも、あそこで空たちを攻撃したのはどこらへんまでが本気なんでしょうか? ヒカリが名乗り出たとたんに攻撃を中止したあたり、実は目星がついていてブラフをかけたのでしょうか。だとすると、半ば独断なのかもしれません。彼もピコデビモンと同じく事を手っ取り早く進めようとしていて、そのためにはむしろ子供たちを張っていたほうが手がかりが見つかりやすい─そういう風に考えていた可能性もあります。

 …だとしても、アレで本当に攻撃を中止してしまうのは詰めが甘いですね。『8人目が見つからなくてもほかの子供を始末すれば同じこと』というのは間違ってないどころか、非常に的を得た意見だというのに。むしろ、連中にとってはそのほうが勝率が高くなるはず。

 が、ここで思い出すのがヴァンデモンの奇妙なポリシー。やはり、8人目を始末するまでは、なるべく殺すなと厳命を受けているのかもしれません。

 ヴァンデモンのこと、最後の希望である8人目を太一たちの目の前で始末し、その恐怖と絶望をたっぷり味わうつもりだったのでしょう。34話で彼自身が、力を失った太一組を目の前にしながら何もせずに去って行ったのがいい証拠です。しかし、それこそが大きな隙。敵にわざわざ塩を送るようなものです。われらが子供たちが最後の瞬間まであきらめない以上、反撃のチャンスを増やしてやるだけではありませんか。
 ライマン・F・ボームの著書にこんな言葉が出て来ます。

 「悪は立ち向かう者がいないときは栄えても、善きものがひとたび力を合わせたら、ひとたまりもない」

 悪を滅ぼす最大の敵は善ではなく、善を小さきものと見くびる悪の慢心なのかもしれません。
 そう、『いちばん手ごわい敵は心にいる』んですね。誰であっても、デジモンであっても同じことです。


・ ガチャピン他
 いつまで着ぐるみでいるんでしょう。え? 中の人なんていない?
 …ああ、だからか。



★名(迷)セリフ

「ふん…大人しくしていれば可愛いものを…」(ヴァンデモン)

 口ではこんなこと言ってますが、この人その「大人しくしない、可愛くない」相手を力で屈服させるのが絶対、大好きにちがいありません。
 屈辱が恐怖に、恐怖が絶望に、そして絶望が従順に…そのようになっていく過程を、じっくり眺めるのもたぶん大好きにちがいありません。
 つまり変態ですね。


「わたしの……せいなの? わたしのために、みんなが…お母さんが、捕まっちゃったの?」(ヒカリ)


 これはヒカリの性格を思えば、看過できない状況。
 すぐさま太一がフォローに入るあたり、なんというか手慣れていると感じます。48話のこともあるし、熟知してるんでしょう。
 ああいう風に、根拠がなくてもハッキリ言ってあげるというのがヤマトはきっと極端に苦手なんですね。太一以上の口ベタだし。

 しかし、一回でも上のように思ってしまったら簡単に払拭できないのも性格。
 彼女は敵をうらむより、自分という存在そのものに責任を感じてしまったんでしょう。


「…ああ、わかった」 (ヤマト)

 ヒカリを預かってくれ、と太一に頼まれて。
 できれば自分も動きたい不満と、ええっ!? この子をオレがフォローしなきゃいけないのか!? という感情がないまぜになってて実にいい発音。
 でも反論できそうな状況じゃないし、ほかに答えようがないというわけです。

 先手を取って「オレが様子を見にいく」とでも言えりゃ、ちょっとは違ったんでしょうが…
 「いや、ここはオレにまかせてくれ」と返されても「妹のそばにいてやれ」と返せるチャンスが出てくるのに。
 父に「動くな」と言われたのも効いてるんでしょう。なんだかんだで、親の一言というのはとても大きな意味を持ちますから。


「…信じよう。光子郎を。私たちの…息子を…! 今まで、そうしてきたじゃないか」(泉政実)

 なんか前の展開からえらく飛躍した気がしないでもありませんが別に仲が悪かったわけじゃないし、それほど違和感はありません。
 それに光子郎が断言をするときはかならず何か考えがある、というのもちゃんとした親なら見抜いてるはず。お父さんは、それならば根拠はどうあれやらせてみたくなったのかもしれません。どっちみち、逃げたところで助かるかどうかなんてわからないんですから。
 打算でなく、どこかでこういう機会を待っていたのかもしれませんね。


「お前たちはヴァンデモン様の大事なエサになるんだ。それまで大人しく、眠っていてもらおう」(ピコデビモン)

 むやみに人を傷つけなかったのはこういうわけです。選ばれし子供まで始末せず捕らえるというのはやっぱり不可解ですが。
 特にミミなんて近くにパートナーもいないし…まあ、生半可な者が害をなそうとしてもデジヴァイスの光にやられてしまうだけでしょうけど。

 それにしても、先頭に立って声を張り上げる進パパは勇敢です。さすがに太一の親父。そして寝ている時も太刀川夫婦はラブラブでした。


「あ、あの、初めまして! ぼく、6年の城戸丈といいます。
 タケル君はぼくが責任をもってお預かりしますので、ご心配なく!」(丈)


 ここでは単なる口約束で、奈津子さんも丈じゃなく、ヤマトと元の夫を頼りにしています。
 だからこそ余計、約束を守らねばならないというわけですね。


「お兄ちゃんやパパの所に行ってきまーす!」(タケル)

 自分はダイジョウブだからと、笑顔を絶やさずに。そして兄と父の名前を出したことが、奈津子さんに希望を持たせる。
 うん、やっぱり希望の申し子です。


「大丈夫だよね!? きっとお兄ちゃんがみんなを助けてくれるよね!?」(ヒカリ)
「さ、さあ、どうかな……太一ひとりじゃ……」(ヤマト)


 で、ヤマトはこのありさま。腫れ物にさわるみたいなヒカリへの接し方が不器用きわまりないです。
 どうやら「ヒカリちゃん」と呼んでますね。しかも、ものすごい遠慮した口のきき方。まともに話すのは始めてだったのかな。
 後年になっても実のところ、空以外にはかなり危なっかしい接し方してるのでやっぱり女性は苦手なのですね。
 でも泣き出しちゃったのを放置してタケルに思いを馳せるのはさすがにどうかと思います。


「へへ…きみのお母さんに約束したからね…ぼくが君を守るって……。約束は…守らな…」(丈)

 彼はまた、誰かのために体を張りました。もうこれで3度目くらいです。
 ベジーモンのときといい、今回といい…ヤマトはもはや丈に頭が上がりませんね。丈は別になんとも思ってないんでしょうけど。
 成熟期進化のときと違うのは、気負いがまったくみられないことでしょう。まるで当たり前のようにタケルへ手を差し伸べていました。いつのまにか木ぎれを見つけているあたりに、後年の妙な用意の良さが兆候として伺えますね。


「わたしが8人目なの…どこにでもついていくから……もう、みんなを傷つけるのはやめて…!」(ヒカリ)

 前半からつながるセリフ。
 たとえ自分が8人目だと明かし、身柄交換を申し出たところで事態が好転するわけじゃないし、敵が約束を守ってくれる保障なんてどこにもありません。そもそもこの場合敵のほうが悪いに決まってるんですが、これ以上自分が原因で誰かが傷つくのはたえられない…そういう思考になってしまっているんですね。
 たぶんどこまでいっても、誰かをうらんだり憎んだりするよりまず自分を責めるんでしょうね、この子は。
 もちろん、自分になんの責任もないと分かりきってる場合は別ですが。

 それにしても、光の紋章って「悲しみ」に反応することがものすごく多いですね。悲しみの紋章って言い換えてもいいくらいです。
 ここらへんに秘密が隠れているのかな。



★次回予告
 いよいよ東京篇第一の山場。悲しいことも起こります。
 たった数話にも満たないわりに数々のドラマを想起させてくれる、そんな関係のふたりでした。