復活! 魔王ヴェノムヴァンデモン

 脚本:まさきひろ 演出:角銅博之 作画監督:出口としお
★あらすじ
 ついに消滅したヴァンデモン。しかし、お台場をおおう霧はいっこうに晴れる様子がありません。
 ひと息ついた子供たちと残った大人たちは協力して対策をねりますが、よい方策は見つからないまま。そんな中、ゲンナイさんからメールが届きました。
 内容は、ヴァンデモンを倒せるヒントが記された予言について。

「はじめに、蝙蝠の群れが空をおおった。続いて、人々がアンデッドデジモンの王の名を唱えた。
 そして時が獣の数字を刻んだ時、アンデッドデジモンの王は獣の正体をあらわした。
 天使達がその守るべき人のもっとも愛する人へ光と希望の矢を放ったとき、奇跡はおきた」


 やがて予言どおりの現象がおこり、復活したヴァンデモンが巨大な元身をあらわしました。その名も黙示録の獣、ヴェノムヴァンデモン。理性も知性もなくした破壊の権化。最後の部下であるピコデビモンさえ食らい、圧倒的なパワーで突き進んできます。アグモンとガブモンが完全体進化して立ち向かいますが、連続攻撃をもってしてもまったく歯が立ちません。それもそのはず、ヴェノムヴァンデモンは究極体。完全体よりも上の姿なのです!

 ビッグサイトで催眠状態のままな人々を食らおうと、なおも前進をつづけるヴェノムヴァンデモン。パワーが尽きたアグモンたちの代わりにエンジェモンとエンジェウーモンが戦いをいどむものの、二体の聖なる力も巨大な敵にはおよびません。絶体絶命のピンチに賭けるべき最後の策は予言どおり、光と希望の矢。二本の矢がはなたれるべき者とは、すなわち太一とヤマトだったのです。はたして、タケルとヒカリの紋章から輝く矢が出現します。

 ふたりが奇跡を信じて我が身に矢を受けたとき、とつぜん光がほとばしり…
 アグモンとガブモンが究極体に進化しました!



★全体印象
 38話です。タイトルコールはおなじみの大友龍三郎さんで、影絵はヴェノムヴァンデモン。
 ズームアップが腰からはじまるのは次回へのちょっとした伏線ですね。

 東京篇もここでついに本当のクライマックスへ突入です。いやはや、まだ盛り上げようというんですからサービス満点。

 前半は静かなシーンが多く、嵐の前といった感じ。おかげで後半あらわれるヴェノムヴァンデモンの異様な巨大さと絶望的なパワー差が強調されて、最後まで目がはなせません。またここで究極体を出し、その桁外れな力を示しておくことでダークマスターズ篇冒頭の強烈なイメージが倍加されるという、二度美味しい構成になっていますね。あれだけ手こずった相手が連続で襲ってくるという恐怖は、筆舌につくしがたいものがあるはずです。であると同時に今後の旅路がもはやただの冒険ではなく、戦争であるという現実さえをも否応なしに突きつけてくるんですね。このへんは40話にでも。

 丈の兄・シンが初登場したり、光子郎と泉夫婦のふれあいがあったり、タケルの躊躇いがあったりと細かいところでは前半のほうに見どころが多いんですが、後半のバトルも巨大感たっぷりの演出や連携攻撃など、かなり見応えがあります。動きが結構いいので、作画の崩れもあまり気にはなりません。巨大といえば、メタルグレイモンとワーガルルモンにたいへん大きさの差があるとわかる貴重な回でもあります。究極体ではほぼ同じ体格になるのがまた面白い。ギガデストロイヤーの上に飛び乗って敵の頭の高さまで一気に移動するワーガルルモンの戦い方は、以後のシリーズでもなかなか見られない大胆なものです。

 その一方、いきなりの「予言」が唐突さを感じさせるのは否めません。究極体進化が外的要因というのも、取ってつけたようです。
 あとに活かされた部分があるし解釈もできるので、このへんは後にゆずるとしますか。

 最後のダブル進化はのちに「フロンティア」で引き写されたほど強烈なシーン。
 進化先にグレイモンとガルルモンの名がついているのみならず、敵の声が大友龍三郎さんというところまで同じでした。



★各キャラ&みどころ

・太一
 この回は意外に目立ってないんですが、それでもラスト近くのヤマトとのやり取りが心に残ります。
 アレがデジアドシリーズの今後進む路線(人間キャラ優先、ぶっちゃけ同人狙い)へ明確に先鞭をつけたという説もありますし、今見るとたしかにそういう風に見えなくもないんですが、はじめて見た時には別にそうは思いませんでした。えらい唐突な展開だなとは思いましたが。


・ 空
 下級生を笑顔ではげましつつ、実は内心穏やかでないというのがよく伝わってきました。
 こういう時、心を砕かずにいられないのが彼女という人間です。


・ヤマト
 太一とああして面と向かい、軽口をかわしあうのは実のところ、第4クールに至るまでそれほど多くありません。
 一見して少年漫画っぽいとわかるセリフ自体、子供たちってあんまり言わないんですよね。その分はデジモンたちが代行しているので、バランスを取っているのでしょうけど。ですから、ああいうやり取りは思ったよりめずらしいといえるかもしれません。02だとそうでもありませんが。

 東京篇ではいまいちうまく動けなかった彼ですが、最後で大きな役目をさずかりました。
 そして、ここから以降こそが彼にとって最大の試練となり、見せ場となっていくことになるんですね。


・光子郎
 予言の解読に大活躍です。ただし今回は例外的に、大人たちの知識も借りました。
 どんな危機にあっても恐慌せず、太一以上に冷静に頭を働かせられるのは彼のたいへん大きな長所。この見かけから想像もつかないほど据わった性根と豊富な知識や知恵は、今後の戦いでもいかんなく発揮されます。最初から最後まで、スタンスを保ちつづけた人物といえるでしょう。

 今回いちばん重要なのは、両親との会話ですね。
 これでやっと、本物の家族へ大きな一歩を踏み出すことができたわけですから。


・ミミ
 せっかくリリモンを登場させた東京篇ですが、今回も出番は少ないです。
 でもまだまだこれから。彼女の一面を埋める重要な要素は、第4クールにこそバンバン出てきます。


・タケル
 父とヤマトを目の前にして、母の名を呼ぶことに躊躇うのがものすごく印象的でした。
 齢7歳にして、あんな風な気遣いをしてしまうんですね。


・丈
 医者の家系だということが、ここで明かされました。たしか今までそういう描写はなかったので、突然といえば突然。
 でも、医者というのはたしかに彼むけかもしれません。血を見ると気絶するそうですが、後年になって結局医者になったところからすると、どうやら克服したみたいです。…キャラブックでは全然そんなふうに見えませんでしたが。

 家系というものは確かにあって、なんだかんだで家族親戚と同じか、似た仕事に就いてしまうことがあるんですよね。
 でもそれは影響を受けた面こそ多いにせよ、自分の意志で選んだことですから。


・デジモンたち
 前半、テイルモンが加わったとはいえ成熟期への進化抜きでバケモンを片付けてしまってます。強くなってますね。
 …というかバケモンが弱すぎるんですが。成長期へ毛が生えた程度の力しか持ってません。02のときは意外に強かったんですけれど…。

 後半のバトルではあの巨大なメタルグレイモンが小さく見えるほどの敵を相手に、全力を尽くす姿が見られます。 先にメタルグレイモンらを向かわせることでヴェノムヴァンデモンの巨大さと強さを打ち立て、逆にウォーグレイモンらの強さをより引き立てる形になってるんですね。
 よく見ると、エンジェウーモンは攻撃を防ぐとき手元に薄い赤紫色のバリアを張ってます。ああいう芸当もできるんですねえ。


・ヴェノムヴァンデモン
 とうとう姿をあらわしたヴァンデモンの元身。異常なほど巨大な体躯は高層ビルさえミニチュアに見えるほどです。
 しかし理性と知性は失われているため、ヴァンデモンの時に見せていた余裕のある態度はかけらも見られません。ですが、それだけに危険きわまりない相手。理性に欠けるということは、敵が自分より弱いと知っても決して油断したりしないということです。その知能がないのですから。

 ところで、ヴァンデモンはこの醜い姿をたいへん嫌っていたといわれます。
 それでもビッグサイトに人々を集めておき、いざと言う時の保険にしておいたのは、万が一敗れてこの姿になることがあっても、すぐ力を補えるからでしょう。復活の儀式というやつです。しかし出現するだけでもそこらじゅうのデータを食い荒らし、その上いつも腹を減らしているようなので、どうやら不完全な進化みたいですね。段階こそ上になってますが、これはどう見てもパワーが突出しただけの退化です。いわばデボリューション。

 予言にあった獣の数字とは、黙示録に記される666のことでした。ヴァンデモンの体には、もしかするとアポカリモンに何か大きなかかわりがある力が植えつけられていたのかもしれません。…いや、たぶんそうなんでしょう。でも、彼はその力を使いこなすことができなかった。
 ヴァンデモンは、ダークマスターズの落伍者だったのかもしれません。つまり、落ちこぼれです。

 してみると彼がヒカリにこだわったのも、及川に憑依して暗黒の種を育て、それを食らってさらなる形態を獲得しようとしたのも、ただひとえに不完全な進化を捨てさり、理性と知性を保ったまま究極の力を手にしたいと願ったからなのでしょう。光というのはデジアド世界にとり、安定した進化をするためにはやはり不可欠なものです。だから、ヴァンデモンの究極の願いはやはりヒカリの血を吸い、その魂の力をわがものとすることだったのかもしれません。
 だから暗黒の種は次善の策だったわけで…これじゃ賢ちゃんの立場がなさすぎるなあ。

 ですが、宿願を果たしても彼はやはり滅びる運命にありました。
 破滅をばらまく者は結局、みずからも滅亡への道しか進めないものです。

 アポカリモンの力とは、あの世界に存在しないすでに滅びた、しかし絶望的なまでに大きな力をもつ姿をもらうものなのかもしれません。
 データ的にはまちがいなく究極体ということになるんですが、いってみれば裏技というか反則なんでしょう。
 ゲーム改造ツールで、ある弱いキャラクターのアドレスに没になったラスボスのコードを入れて使用可能にするようなものです。

 ふむ…我ながらいいところに落ち着いた。


・ピコデビモン
 すっかり虎の威を借るキツネでしたが、ヴェノムヴァンデモンの餌にされてしまいました。
 登場期間を思うとなんともはや、あえない最期です。小説版でもそのように書かれていました。

 …まあ、彼だけ生き残ったところでここは現実世界、もうやることは残ってないんですが。


・大人たち
 とりあえず菊池さんの一人三役がすごい。
 02においても、われらが子供たちが大人と行動するのはあまり見られない例なので貴重なエピソードです。



★名(迷)セリフ

「兄さんたちもいない…」(丈)

 初見じゃ聞き逃しましたが、ちゃんとシュウ兄さんの存在も示唆されてますね。武之内教授と出かけていたのでしょうか?
 そういえば、なぜか両親は顔を出したことがありません。ドラマCDで声を聴けただけです。しかも全員菊池さん。
 バック・トゥ・ザ・フューチャー2じゃあるまいし。


「やい、こら! たとえ兄さんだって、丈をバカにすると許さないぞ!」(プカモン)


 普段からかい半分なのに、こういう時はまっさきに擁護するのがゴマモンらしさです。今はプカモンですが。
 その後ミョーに納得して引っ込むあたりにもらしさが出てます。


「丈…お前な、親の思う通りの人生、歩む必要なんかないって。
 実は、俺だってさ…国家試験受かったら、医者のいない離島へ行こうと思ってるんだ。父さんは反対するだろうけど」(城戸シン)


 ずっと話したかったことを、ポロリとこぼしたように見えました。
 それにしても、シン兄さんのこの落ち着きようときたらどうでしょう。菊池さんの低め演技がかっこいいです。
 このたった一回で、多くのファンがフラッときてしまったらしいですね。

 名前はやっぱり「信」と書くんでしょうか。シュウ兄さんは「修」かな。


「う、うん……でも……ここからじゃ、聞こえないよ」(タケル)

 ここでチラッと父や兄のほうを見てしまうところに、凄くいろいろ隠れてると思いました。
 ほんとうは無心に母へ呼びかけたとしても、誰も責められません。
 でもその幼さにとどまるには、彼の小さな胸に残された傷は少々大きすぎたんでしょう。


「そうよね……お母さん」(空)

 「お母さん」の響きが絶妙です。


「今までどおりでいいんだよ」(泉政実)
「そうよ。あなたが元気でいてくれたら、それ以上はなにも望まない…」(泉佳江)
「うぅ…うわぁあ…」(光子郎)
「光子郎はん、思いっきり泣きなはれ、甘えなはれ…!」(テントモン)


 全部載せたいくらい良いやり取りです。特に決壊ものなのはこのあたり。
 もらい泣きしてるテントモンがちょっとした笑いも添えてくれて、とてもココロに残る場面でした。
 まだまだぎこちないけど、これがこの家族にとってとても大きな前進となったことはまちがいないでしょう。


「666。ヨハネの黙示録に出てくる数字のことだ」(石田裕明)

 さすがに詳しいですね。いろんな番組を担当してるだけあります。先に答えたので、光子郎が知ってるかどうかはわかりませんでした。
 でもヒカリが捕まったのが9時前後ですから、6時=18時ってことはヴァンデモンを倒してからかなり経ってますね。じっさい、石田親子がボートで結界のきわまで行って戻ってくるだけの時間的余裕があったわけですから、それだけ経過していてもおかしくはないことになるんですけど。


「マズハオ前カラダ…!」(ヴェノムヴァンデモン)
「な、なにをなさるのです! ギャアアー!」(ピコデビモン)


 さんざんこき使われたあげく、最後には結局、餌。とことん救いのない人生…いや、モン生でした。
 それどころじゃない太一たちにはザマ見ろなんて思うヒマなんぞなく、そのまんま忘れ去られることになります。合掌。


「くやしいけど、テイルモンの言うとおりよ。みんな、そうしよう」(ピヨモン)

 なんか…この子、ホントに空に似てきました。


「鍛え方がちがうのよ。じゃあ行こう、パタモン」(テイルモン)

 出ました、「鍛えてます」。姐さん、さっそく戦闘隊長張ってますね。


「邪悪な力め…!」(エンジェモン)
「もう一度滅ぼしてくれるわ」(エンジェウーモン)


 よく見ると、前後の場面でエンジェモンが杖持ってません。攻撃を防ぐ時にようやく出て来ます。


「オメエラガオレ様ヲ滅ボスダト? ケッ!」
「効カネエナ、オメエラノ攻撃ハ…!」 (ヴェノムヴァンデモン)


 すっかり下品になりました。まるで知性をかんじませんよ。


「…怖いか?」(ヤマト)
「…怖くない。…といったら、ウソだ」(太一)
「…実はおれもだ。…おれが逃げないよう、しっかり捕まえててくれ」(ヤマト)
「オレのほうこそ、たのんだぜ!」(太一)


 太一は恐怖を認め勇気をもって克服し、ヤマトはそんな太一を認める友情へ素直になり、その気持ちに賭けました。
 ここで少しでも恐怖から逃げてしまえば、矢はそのままふたりを穿っていたかもしれません。
 勇気と友情はこのとき、たしかに最高潮に燃え上がっていたんだと思います。

 それにしてもジョグレスといいマトリックスエボリューションといい、やはりプラスαが必要なんでしょうかね、究極体へは。



★次回予告
 まさに最終話レベルのテンション。でもまだ上があります。どこまで盛り上がるんでしょうこのアニメは。
 一気に決着へとなだれ込む次回前半は、迫力とテンポが同居した白眉のできばえ。