二大究極進化! 闇をぶっとばせ!!
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脚本:前川淳 演出:志水淳児 作画監督:伊藤智子 |
★あらすじ
とうとう究極体に進化したアグモンとガブモン。決意も新たに、ヴェノムヴァンデモンへ立ち向かいます。
その力はケタ違いに上がっており、巨体をも大きく押し返すパワー。間をおかず攻撃が重ねられますが、ヴェノムヴァンデモンは何とそれさえも凌ぎます。ほかの仲間たちも加わっての一斉攻撃さえ、トドメを刺すには至りません。荒れ狂う巨獣に圧倒される子供たち──そのとき、デジヴァイスから発せられる光が鎖のように、敵の動きを封じました。チャンスを逃さず、二大究極体の同時攻撃が露出した第二の顔─ヴェノムヴァンデモンの本体─にヒット。お台場を破壊しつくした恐怖の魔獣はこうして選ばれし子供たちとそのパートナーにより、完全に消滅したのでした。
魔力が途切れたのか、目覚めるお台場の人々。そして霧の結界も晴れ、ひさびさに夜空がもどってきて…。
誰もが安堵の笑顔を凍りつかせていました。空を帯のように覆う無数の裂け目。そこには、逆さの異世界が広がっていたのです!
同様に、世界中が大混乱に陥っていました。あらゆる電子機器を狂わせ、どんなレーダーにもかからないこの次元の裂け目からは、しかも次々とデジモンたちが押し寄せてきます。そう、鏡合わせの異世界はデジモンワールドだったのです。完全にこの世界へ属していないのか、彼らにはどんな攻撃もすり抜けるばかり。ですがその体に触れると、現実世界にあるものはみな結晶化してしまうのでした。
この現象を鎮めることができるのは、自分たちしかいない。われらが選ばれし子供たちは決意を固め、ふたたびデジヴァイスをかざします。
それぞれの親にしばしの別れを告げ、彼らはいま、自分の意志でふたたびあの世界へ旅立っていったのでした。
「…行ってきます!」
★全体印象
ついに第3クールも大詰め、39話です。タイトルコールは藤田淑子さん(太一)と風間勇刀さん(ヤマト)。
影絵は一気に進化するアグモン&ガブモンと、戦いに突き進む勇壮なウォーグレイモン&メタルガルルモンのイメージです。
ヴェノムヴァンデモンとの戦いは今みても意外なほど短く、Aパートで終わり。後半を世界中の怪現象と家族との別れに費やしてます。
しかし、だからといって物足りないというわけではありません。あの短い間でもヴェノムヴァンデモンの恐るべきタフさと、全員を一度にふっとばす猛烈な攻撃力はしっかり表現されていました。むしろ見たかぎりでは、二大究極体が出てきてようやく互角ってところだったですね。これだけ敵の強さをアピールしながら、ウォーグレイモンとメタルガルルモンに少しも弱いイメージがないのは希有なバランスといえるでしょう。
というか、ひさしぶりに見返してみて「おや、けっこうギリギリだったんだな」と思ってしまったほどのもの。
後半はもう凄いですね。霧が晴れ、心の靄も晴れたと思ったらアレで、しかもビジュアルイメージ強烈。そして今までのお話を踏まえていると、デジヴァイスをかかげ、ふたたびデジモンワールドへ足を踏み入れていく子供たちは涙なくして見られません。誰に頼まれたわけでも誰かにまた喚ばれたわけでもなく、自分の意志で一歩を踏み出したのですから。そう、それぞれの大切なものを守るために。
東京篇はヒカリの参入と、このラストをやるためにあった──そう断言してもいいくらいですね。
家族と平穏な暮らしは身近な宝物です。もしただヒカリが後から喚ばれただけで誰も東京へ行かず、家族に累がおよぶようなことにならなかったとしたら子供たちが必死になればなるほど、ひょっとするとウソ臭くなったかもしれません。子供たちの平穏は現実世界にあるのですから、異世界であるデジモンワールドの危機を救おうが救うまいが、ほんとうは関係ないはずだからです。現地のデジモンたちとよほどの交流があれば、あるいは別ですが。
異世界の危機が、間接的に自分たちの帰る場所をおびやかすことになる。
東京をリアリティあふれる筆致で描き、子供たちに家族との交流を演じさせたのも視聴者により強い感情移入をうながし、第4クールの戦いに説得力を持たせるためだったわけです。子供たちは平穏な日常を取り戻すために、家族とまた笑いあうために戦いの道を選んだんですね。もちろん、魂の友であるデジモンたちのためもあります。自分たちしかいないなら、やるっきゃないというわけ。21話でヤマトが言っていたとおり義務じゃ、理屈じゃないんです。
ダークマスターズ篇は、確実な裏打ちをされた上で送り出されたのですね。スタッフとしても覚悟の上だったんでしょう。そう感じます。
作画や演出的にも、初の究極体バトルとあって力が入っている回です。というか、ほとんど「決戦! 大海獣」。空を自在に飛び回り、非常識な破壊力の必殺技を乱舞させる究極体たちの姿には、かつての東映ロボットアニメのイメージも受け継がれていると感じました。
演出担当の志水淳児さんは全シリーズ通しても23話と30話、そしてこの39話と三度しか関わってない人ですが、それもそのはず。多くの東映アニメ映画で監督をつとめているからなんですね。それだけに、担当の回はどれも外れなし。たいへん安定した手腕の持ち主と言うことができるでしょう。
いちばん最近の監督作は「ふたりはプリキュア マックスハート」。去年はガッシュの映画もやっていたようです。
伊藤智子さんの作画もぞんぶんに活かされていました。この人はヤマトを描かせると特にうまい。
★各キャラ&みどころ
・太一
伊藤作画だとちょっぴり顔が横へ広がりますね。
今回は対ヴェノムヴァンデモン戦でそのリーダーっぷりを発揮し、ウォーグレイモンとまさに人獣一体になったかのような活躍でした。
別れのシーンではたいへん切ない表情も見せるんですが、涙は見せていません。そしてこれ以降、彼はますます涙を見せなくなっていきます。
涙を見せるヒマはない。今から涙は、見せないように。
・ 空
表情の見せ方が細かいです。シン兄さんに親御さんがたの安否を聞いたとき、他のメンバーが素直に喜ぶ横でややぼう然として、ミミに声をかけられてからようやく笑顔を見せるあたりが特にいい。このとき半泣きになっている事からみても、よほど気を張っていたんでしょう。
その後お母さんの姿を目にしたことで、思わず声を張り上げるほどに崩れてしまいます。でも、それでいいんでしょうね。今だけは。
・ヤマト
母に見せるものすごく微妙な表情と、受け答えが実にいい。素直になれないところと素直になってしまうところが同居してます。
とたんに口数が少なくなるのは、感情にまかせると何を言ってしまうかわからないと知っているからなんでしょう。
それは父の手前、やりづらいでしょうし。
ひとり手を振るのをやめてしまうあたりにも、複雑な心中がうかがえます。
・光子郎
蜃気楼の大陸がデジモンワールドだとまっさきに見抜きました。さすがの観察力です。
彼がもろもろの事実をまとめ、太一が結論と次の行動の示唆を行う。典型的なケースですね。
以降、光子郎は太一のもとを決して離れずサブリーダーをも兼任しました。マルチぶりがいかんなく発揮されてます。
・ミミ
緊張の糸が切れてボーッとしている空に声をかけたシーンが印象的でした。
あいかわらず喜びたいときは遠慮なく喜び、泣きたい時は素直に泣いています。
・タケル
なんというか…今回はホントに笑顔が目立ちます。
奈津子さんの腕を引っ張ってヤマトのところへ連れていったり、家族全員の集合を喜んだり、笑顔で手を振ったり。
いつか必ずもとに戻るのだと、信じてうたがっていないように見えます。
ただ、そう簡単にはいかないだろうということもどこかで彼は知っていて。
それでも希望を持っていたい、希望はあるという気持ちが彼をああいう行動と表情に導いてやまないのでしょう。
別に計算が働いているわけじゃなくて、そう動くのがタケルの素なんだと思います。
・丈
今回も結構かっこいい。尻込みしたりテンパったりしてた状況でも、踏みとどまってます。
いまいち決まらなかったり決めさせてもらえないのは、まあ仕様ということで…。
・デジモンたち
二大究極体も、実はけっこう苦戦してます。上で書いたとおり互角ってところで、弱点の判明とデジヴァイスの補助がないと少々きつかったかも。
にもかかわらず弱いイメージがまったくないのは、前の回で完全体での戦いを見せ、その時点との差を明確にしてるからなんですね。特に、羽根もなしにフワリと浮き上がり、ギガデストロイヤーを食らっても微動だにしなかったヴェノムヴァンデモンを「ただの体当たりで」ぶっ飛ばすくだり。これだけで、完全体のときとはまるっきり別次元の力があるのだとわかるでしょう。
小説版によると、メタルガルルモンのミサイル一発一発にはギガデストロイヤー級の威力があるそうで。
ここまで来るともう出鱈目です。彼ら究極体が出張ってきた時点で、戦いが激化するのは自明の理だったわけです。
丈に発破をかけるゴマモンは押さえておかにゃなりますまい。
成熟期の面々も二体のサポートとはいえ、ヴェノムヴァンデモンへダメージを与えることに成功しています。
・大人たち
言葉少なに渋く決めるヤマト父や、活動的なぶん自己主張が強そうな奈津子さん、毅然と空を見とどける淑子ママ、信じていると言いきった佳江ママ、やたらと落ち着いたシン兄さん、無言で妻の肩に手を置く進パパと、それぞれがそれぞれの表情で子供たちを見送りました。
いろいろ問題はあるけど、子供たちのことを想っていない近親者は一人もいません。
ろくでなしの親が多い昨今を思えば、やっぱり立派な大人たちだと思います。
・ヴェノムヴァンデモン
不完全な究極進化と位置づけはしましたが、理性と知性を捨てただけの事はあってやはり恐るべきパワーです。力だけなら、ダークマスターズにも比肩するように見えますね。でもほかの三体ならともかく、やはりピエモンには勝てないでしょう。あの巨体ではトランプソードの的だし、ピエモンなら彼の弱点も熟知しているであろう上、そこを正確にねらうことができます。もし二体以上を同時に相手する羽目になったら、目も当てられません。
ヴァンデモンのこと、いつまでもダークマスターズの下にいるつもりはなかったでしょうけど…どうにも分が悪すぎますね。
ところでヴァンデモンは期せず、アポカリモンの思惑通りに動いたことになります。
選ばれし子供たちを現実世界に引き付けダークマスターズ跋扈の呼び水となり、さらに四聖獣やはじまりの街の封印をも成功させたのですから。
ただ彼にとって、選ばれし子供たちがそのダークマスターズを倒し、世界を正常にもどしたことは逆にチャンスだったといえるでしょう。
ですが、それさえアポカリモンの怨念為せるわざと思ってしまうのは考えすぎでしょうか。
アポカリモンら自身にも自覚はなくて、その怨念自体が昏い澱みを形作るのかもしれませんが。正しく彼ら自身のように。
・ 鏡の世界
デジモンワールドが捩れたことによって起きた、全世界規模の現象。
混じりあい微妙に揺れつづける背景は、デジタルならではの美術です。裏から見るとワイヤーフレーム状になってる様子。
21話と同じく、全世界にデジモンが現れうるという現実を語った意味において、02にもつながるきわめて重要な事件だといえるでしょう。ただし、もちろん正常なあり方ではありません。デジモンたちは現実世界に出てはこれても属すことができず誰も近寄れないので、人間と共生することもできません。
それもまた、闇のねらいだったのでしょうか。
この歪みを正すということは、現実世界との関係を修正すると同時に段階をひとつ進めることも意味したのだと思います。
D-3とデジタルゲートの出現はその一環。再構成したてで脆弱であろうデジモンワールドにとって、現実世界とのかかわりを強化していくことは言わば必定のシークエンス。そうでなければ、今度は外部からかけられるであろう揺さぶりに耐えられないからです。
だから02では「デジモン」ワールドでなく「デジタル」ワールドになったんだと思います。
デジモンだけでなく、デジモンを友とした人間たちのためでもある世界に。
そしてデーモン一族は一連の事象に興味を持ち、狩り場として活用しようと考えていたみたいにも見えます。
未来において立ちはだかるのも、やはり彼ら闇の住民なんでしょうか?
★名(迷)セリフ
「なんか、えろう差ァつけられましたな…」(テントモン)
「ああ…そうだな…」(ヤマト)
ヤマト上の空。あまりの事にパートナー自身も茫然自失の事態です。
「あたしのパパとママを… ヴァンデモンを倒したい…!」(ミミ)
やっぱりこの子、守りたいものや救いたいものがあると強くなりますね。
「行くぞゴマモン! って、なんで言えないかなぁ〜」 (ゴマモン)
丈に勇気がないと言ってるんじゃなくて、ここ一番ってところで出遅れる間の悪さをちょっと茶化してるわけですね。
この後丈先輩はちゃんと「行くぞゴマモン!」と言います。
つづいて、わざわざお辞儀してから走り出す空もらしさが出てていい感じ。
「パス、パス、シュート!」 (子供たち)
フジテレビの展望台をキック一発、ヴェノムヴァンデモン本体の顔面へ!! 太っ腹の画面です。
聞いた話では、怪獣映画が出るたんびに「壊しちゃってください」とフジテレビのほうが言ってるそうですが…。
「ヤマト……また背が伸びたんじゃない?」 (高石奈津子)
「うん……少し」(ヤマト)
「元気そうね…よかった」(高石奈津子)
ヤマトが「うん」なんて受け答えする相手はお母さんくらいのもんでしょう。
表情や口ぶりから、思慕のほどがわかります。男が母親に寄せる想いは独特ですから。
あ、そうか。だから空なのか。
「アハ、久しぶりだねお兄ちゃん。みんなが揃ったの」(タケル)
「ああ……そうだな」(ヤマト)
ひたすら無心に喜んでるように見えるタケルですが、ただ無邪気なだけというわけじゃないところに深さがあります。
たぶん三年後の彼も、同じように振る舞うんでしょう。もう少し物言いをぼかすかもしれませんが。
ヤマトとしては、このように答える意外無難な言葉を持たない感じです。
「がんばって! バードラモン!」(空)
めずらしく、戦い以外の場面で完全体進化が出て来ました。まあ、戦いは手段であって根っこのところは同じですけど。
飛行デジモンがいれば、飛行機事故による人的被害も劇的に減りそうです。完全体が二体くらいいれば安全に着水できるんでしょう。
成熟期なら五、六体くらいいればなんとかなりそうです。デジタルワールドをうまく使えば距離を縮められるので、交通機関自体が変質しそうですが。
この飛行機には、のちに活躍する火田伊織が乗っていたといいます。不思議な宿縁を感じますね。
「…行かせてやれよ。俺たちだって、さんざん…勝手なことをしてきたんだ」(石田裕明)
ただ一人、タケルを引き止めようとした奈津子さん。意志の強さと同時に、我の強さってものも感じます。お互いが強い個性を持っているから、裕明パパとは惹かれあうとともに、近すぎることで衝突するケースも多かったんでしょう。そして二人とも今より若く未熟で、子供の気持ちを考えてあげられなかった。
だから想像の範疇を超える事態であってもそれに子供たちが関わっていて、自分の意志でそこに飛び込もうというのなら、今度こそ思うようにさせてやりたい。
お父さんはそういう風に考えたのかもしれません。子供たちだけなら迷ったかもですが、パートナーたちの戦いぶりも見てるんですし。
それにしても、落ち着いた言葉で断りを入れようとするタケルが大人すぎです。途中で遮られてしまったけど。
そういう接し方が家族を割ることになってしまったのだと、奈津子さんも気づいた…あるいは気づいていたのでしょうね。
「…大丈夫だよ、兄さん。明日の朝日はかならず、ぼくたちが昇らせてみせる!」(丈)
「おぉ〜、丈先輩かっこいい〜」(空)
「似合わなーい」(ミミ)
丈にしてはかなり鋭い目をしてました。茶々を入れるのがなぜかいつも女の子というのはお約束。
「…お母さん……お母さーん!!」(空)
「パパ! ママ!」(ミミ)
「父さん!」(太一)
「お母さーん!」(ヒカリ)
これはもう、いちいち言葉を重ねる必要のない場面ですね。なまの感情がこっちのハートにも響いてきます。
すぐに涙を拭いて、心配しないでと呼びかけるヒカリの声は全員の気持ちを代弁するもの。
「行ってきます!」(子供たち全員)
ここから先は地獄の一丁目。
想像をはるかに越える過酷な戦いが、彼らを待っていました。
★次回予告
とにかく圧倒的なダークマスターズ。二大究極体をあっさりと封じ込めるピエモンには予告の時点であっけに取られました。
どうやって勝つのよ、こんなの相手に。