魔の山の四天王! ダークマスターズ

 脚本:西園悟 演出:今沢哲男 作画監督:直井正博
★あらすじ
 闇の中でぶきみに胎動する4体の邪悪。戻ってきた子供たちのことを知り、最強の闇がゆっくり動きはじめました。

 体感レベルで数日ぶりにデジモンワールドへやってきた太一たちは、そのあまりに変わり果てた世界のありように愕然としていました。命からがらといった様子なチューモンの話では、暗黒の力が世界を捩り上げ、『スパイラルマウンテン』と呼ばれる巨大な山をつくりあげたというのです。その源は4体の暗黒デジモン、ダークマスターズ! 怯えるチューモンを尻目に、子供たちは戦うべき相手を知って意気をあげます。

 そこへメタルシードラモン、ムゲンドラモン、ピノッキモンが次々とあらわれました。あちこちへ飛ばされながらも進化して立ち向かうデジモンたちですが、総がかりでも歯がたちません。それもそのはずで、敵は全員究極体だったのです。そして、最後に余裕たっぷりの態度であらわれたのがピエモンでした。大ピンチを前に、とうとう切り札である二大究極体が出現したのですが──それさえ、ピエモンはあっさり叩きのめしてしまいました。

 そしてついに選ばれし子供たちへ刃が向いたとき、チューモンと駆けつけたピッコロモンがその命を張って彼らを守ったのです。
 おかげで何とか一行はスパイラルマウンテンへ潜入できたのですが…過酷な戦いは、まだ始まったばかりなのでした。



★全体印象
 いよいよ最終クールへ突入、第40話です。タイトルコールは落ち着いた嗄れ声が逆に恐怖を煽る、ピエモン(大塚周夫さん)。
 影絵はもちろんダークマスターズのものです。

 …いやはや、この回を見たのはひさしぶりですが相変わらずきっついなあ。ここまでやりますか普通。
 本放送当時も予告の段階でどういうお話になるかはわかっていたんですが、圧倒的パワーを見せつけたばかりの二大究極体が秒殺──技を当てることも粘ることすらできずに倒される──とはさすがに思ってませんでした。しかもダメージがあったとはいえ、決して油断してたわけじゃない。
 あまりのことに驚くのを通り越して戦慄したもんです。

 意気揚々と決戦に臨んだ太一たちを完膚無きまでにたたきのめし、ゲリラ気味の戦いを挑まざるをえない状況へ追い込むこの展開は、今後の激戦を予感させるに充分すぎるものがありました。そして実際、このダークマスターズ篇は全デジモンシリーズを通してもっとも過酷な戦いとなったエピソードでしょう。世界そのものを揺るがすような事態ならほかにもありますが、全編に流れる緊迫感ではほとんど類をみません。

 ピッコロモンは、子供たちに欠けているものがあると言いました。

 …それはたぶん「戦争をする覚悟」だったんだろうなと、ミミを見てて思います。もっと言っちゃえば殺し合いをする覚悟
 つまり、それを子供たちに強いなければならないほどの絶望的な事態が起こっていたんですよ、この時点のデジモンワールドには。
 もちろん、彼らひとりひとりがちゃんと納得した上でないと無理なんですけど。

 殺し合いといってもなるほど、主人公たちはシナリオの都合で守られるかもしれません。
 ですが、無辜のデジモンたちはゴミのように死にます。それも、時には希望である子供たちを守ろうとして。
 もしチューモンが勇気を出して盾にならなかったら間違いなく死んでました、ミミ。このへんが後のパーティ分断の遠因にもなります。

 肉体的にも心理的にも追いつめることによってご都合主義にもぎりぎりの説得力が生まれ、いやでも感情移入をさせられるわけですね。
 苦境に立たなかったり、そのはずでも重みがない主役など本来あってはならないものなんでしょう。

 とまあ、壮絶な幕開けとなったダークマスターズ篇ですが、おおまかなストーリーは行って負けて逃げるだけというわりに単純なもの。
 放送時間の多くはバンクで取られており、あんまり細かい見どころはありません。
 直井作画はあいかわらず独特の線がきれいで、影のつきかたなども小気味がいいのであんまり見られないのは残念といったところ。



★各キャラ&みどころ

・太一
 べつに楽観してたわけじゃないでしょうが、ヴェノムヴァンデモンに勝ったときの高揚がまだ残ってる感じでした。
 ですが、事態はそんな彼らの想像をはるかに越えていたのです。


・ 空
 ピノッキモンに操られてシェーのポーズを取ってました。今回の見どころ? はそこらへん。
 泣き叫ぶミミを気遣う表情には脱帽。この状況でも他人を心配できるとは。


・ヤマト
  今回は戦闘がメインなので、これといって特筆すべき点はなし。でも、もうすぐ真骨頂です。


・光子郎
  あいかわらず分析にいそがしい。急激な事態の変遷におちおち座ってもいられません。


・ミミ
 子供たちのなかでは今回、彼女がいちばん目立ってます。
 35話などで凛々しい表情を見せていましたが、ある意味ではいちばん欠けたものがあるメンバーだったのかもしれません。

 ほんとうなら、そんなもん一生欠けっぱなしでいたほうがいいんですが。


・タケル
 苦しい状況にあってもエンジェモンに笑顔を見せていました。このところ、特にそういう場面がめだちます。
 02では声優も交代してだいぶ印象が変わりましたが、こういうところはちゃんと受け継がれていました。
 しかもそれは、この01の冒険でより培われたものなんですね。


・丈
 チューモンに顔面パンチくらったり、一人だけ崖から落っこちそうになったり、あいかわらず運が悪いです。


・デジモンたち
  一斉に進化してダークマスターズへ立ち向かいましたが、今回ばかりはまるでいいところなし。
 特にエンジェモンは今まで一方的にやられる描写がなかったので、よけいショックでした。


・チューモン
 聞くまでもなく、10話のときとは声優さんがちがいます。
 相方のスカモンを失ってすっかり怯えきっていましたが、最後には思いきってミミの前に飛び出し、その命の盾になりました。
 彼の勇気がなかったらピッコロモンが一歩間に合わず、ミミは殺されていたでしょう。世界の終わりです。無駄死にではないぞ、チューモン。

 こうした勇気をそのまま受け継ごうとしたのが太一なんでしょうが、都合よくまとまるとはいかないわけで…。


・ ピッコロモン
 彼もまた選ばれし子供たちとデジモンワールドのため、たった一人で絶望的な戦いを挑み、そして散りました。
 ピエモンが名前を知っていたようなので、何度か遭遇したことはあるんでしょう。しかし、屈辱と義憤に耐えてでも逃げに徹していたんでしょうね。
 なぜなら、本当に命を賭けるべき瞬間を知っていたからです。そして、彼は賭けに勝ちました。

 ダークマスターズとしては、戦えば100パーセント勝つ相手を必要以上に追いかけるつもりはなかったんでしょう。いつでも殺せるからです。
 まあ、そういう余裕は死をも越えた勇気を持つ者にとってつけいる隙にしかならんのですが。


・ ダークマスターズ
 きれいに四属性に別れた最強の四天王、究極体軍団です。その力はいままでの敵など比較にもなりません。恐ろしい。
 ピエモンは言うにおよばず、ほかの三体も一対一でまともに勝つのはたいへん難しい相手。完全体レベルでばらばらに戦っては返り討ちにあうので、どうしても戦術の立て方が重要になってくるわけです。ゆえにリーダーの太一としても冷徹にならざるをえませんでした。

 ただ、さすがに四聖獣と衝突してそう簡単に勝てるとは思えません。
 東京篇までにはでな動きがなかったのは、やはりお互い抑止状態がはたらいてたからでしょう。
 ということは、子供たちがいない間になにか均衡をくずす決定的なことが起こったんですね。

 さて、メタルシードラモンには成熟期の技など小枝が当たった程度にしか感じないようすだし、ムゲンドラモンもただ無造作にキャノン砲を撃っているだけでわれらがパートナー達は近寄れもしません。パワー的にはいちばん弱いであろうピノッキモンの技でさえ、弱った完全体レベルであれば複数をいっぺんに倒してしまえるほどの威力がありました。こんなのを四体同時に相手取って勝つには、オメガモン級の力が必要でしょう。

 それだけの力がありながら次回以降、四体同時に追撃しないのはいかにも詰めが甘いです。各個撃破してくれと言っているようなもの。
 ひょっとして、お互いのナワバリへは立ち入ることができないようになっているんでしょうか?
 であれば、ますますスパイラルマウンテンへ入られる前に子供たちを始末しておかなきゃいけなかったはずですが…。
 子供たちのほうも、まだろくな対策すら立てられずにいたんですし。

 ピッコロモンの犠牲は、どうやら彼らダークマスターズに敗北をもたらす最初の一手だったようです。



★名(迷)セリフ

「さあ、楽屋をあとにしましょう! 舞台の幕が上がります! タイトルは『選ばれし子供たちの最後』!!」(ピエモン)

 見かけにふさわしい道化めかした語りです。はでさと逆の老成した声は底知れなさをも感じさせてくれる。
 その点で、大塚周夫さんを起用したのは大成功だといえるでしょう。もっと甲高いとばかり思っていたので驚いたおぼえがあります。

 ただピエモンがこうした語り方を見せてくれるのは40話だけで、あとはわりと普通になってしまいますね。残念。
 

「おれたちは、あのヴァンデモンさえ倒したんだぜ!」(太一)


 これはどっちかというと、チューモンを安心させるために言ったようにも見えますね。
 その後のミミはたぶん素で楽天的に言ってると思いますが…。


「でも、かなわない…!」(ヒカリ)

 なんで戦う前にわかるんだ?
 今回のヒカリは特に電波入ったセリフがめだちます。
 エンジェウーモンを小さな体で受け止めようと頑張るシーンもあるんですが。


「同じ究極体といっても、あなたがたは進化できるようになってから間がない…勝てると考えるのは大きなまちがいです」(ピエモン)

 まあ、このへんはテイルモンを見ているとなんとなーくわかることです。
 でも、ここまでわかってるなら放置すればするだけ不利になるはずなんですけど。


「イヤ…! 嫌よ! あたし、普通の小学生だったのよ! なんでこんなところで死ななきゃならないのよ!
 もっとおしゃれして…もっと美味しいもの食べて…海外旅行とかもして…それから…! 」(ミミ)


 この期におよんでも言いたいことだけは言うんだよなあこの娘。
 まあ、気持ちはわかりますが……戻ってきて半日とたたないうちに人生最大のピンチを迎えるとは、誰も思ってなかったでしょうし。


「お前たちならきっと見つけられるはずだっピ…! 足りない何かを!
 そうすればかならず勝てるっピ! ゆけ、選ばれし子供たち!」(ミミ)


 ピッコロモンはダークマスターズの強さと子供たちの強さを両方知っているからこそ、すべてを受け入れたのでしょう。
 しかし彼をはじめとしたおおぜいの馴染みの死は、子供たちの心を乱していきます。これを越えてそれぞれの答えを出していかない限り、ダークマスターズとその背後にいる最後の闇を倒すことなどできないのでしょう。ファイル島に来たばかりの子供たちだったら無理だったかもしれません。


「…いま、ピッコロモンが死んだわ…」(ヒカリ)

 この終わり方を見て、今後はこういうふうになっていくんだな、と了解したおぼえがあります。
 たいへん賛否を分けることになった展開ではありますが。

 ところで、本当になんでわかるんでしょうヒカリ。




★次回予告
 命からがらの仕切り直しがはじまったと思ったらなぜか海の家。
 あれがファイル島の海岸ってことは、地形がメチャメチャになってますね。注意して見ていよう。