迷いの森のジュレイモン

 脚本:前川淳 演出:角銅博之 作画監督:海老沢幸男
★あらすじ
 タケルは確実に成長している。だが自分は……。
 みんなから離れ、思い悩むヤマトの前にあらわれたのはジュレイモンでした。

 ジュレイモンは語ります。もしも自分を変えたいのなら、ライバルを倒せと。迷いの森の泉が映し出した倒すべき者の姿は……太一!
 はじめは拒否するヤマトでしたが、ジュレイモンに心の裡を見抜かれ、揺れていきます。それを見て、ガブモンは決意を伝えました。ヤマトのしたいようにするといい、たとえその結果仲間と戦うことになったとしても、自分はヤマトとともにある……。友情の紋章が、ふたたび輝きだします。

 しかし、これはピノッキモンの手下でもあるジュレイモンの作戦でした。 果たして、ガーベモンと戦っていた太一たちの前にメタルガルルモンが現れ、アグモンを指名して勝負を挑んできます。ヤマトたちの突然すぎる行動に、大混乱に陥る子供たち。高みの見物を決めこむピノッキモン。このまま敵の思惑どおり、二大究極体は激突のすえ、共倒れになってしまうのでしょうか? そして、ヤマトの真意とは?

 ……この戦いのなかである重大な秘密が明かされようとしていることに、まだ誰も気づいてはいません。



★全体印象
 44話です。タイトルコール、影絵ともにジュレイモン。ジュレイモンの声を掛け持ちしているのはたぶん菊池正美さんでしょう。
 これだけ何度も見てると作画の見分けとてつこうというものですが、あいかわらず諏訪パートと海老沢パートの落差がすごいなあ…。

 さて、ヤマトもいいんですが今回はなんといっても、ガブモンにつきます。
 彼ってここまでの段階、ゴマモンやテントモン、テイルモンのように口数が多かったり自己主張が強めなわけでもなく、パタモンのようにパートナーとケンカしたりするわけでも一度消えたりするわけでも、ましてや暗黒進化するわけでもない、けっこう地味なパートナーでした。
 ヤマトに輪をかけてシャイな性格がそうさせたのでしょうか。

 しかし、そんな中にあってもガブモンが彼なりにきっちりと役割を果たし、パートナーを守ってきたのは皆さんご存知のとおりです。

 思い起こせば目立たないとはいえ、ガブモンのパートナーを想い信じる気持ちがたいへん強く時に盲目的なほどで、ヤマトにとってもっとも忠実な友であるのは疑いようもないところ。「いかなる時もパートナーの味方」というのがデジモンたちの基本姿勢なのは前にも語ったおぼえがありますが、それを誰よりも体現しているのはガブモンなのではないでしょうか? その意味で、02のブイモンにガブモン的なところがあるのは当然といったところでしょう。

 そんなガブモンがなかば唐突に「すべてを預ける」と言い出す今回こそ、ヤマトが最後にして最大の友の存在をようやくハッキリ認識した記念すべきエピソードというわけですね。ヤマトはたぶん、あまりに自然すぎてガブモンを空気みたいに感じてたんじゃないでしょうか?

 一方の太一たちはピノッキモンとの小競り合いで、そんなに見どころはありません。
 ミミのウ○チ掴みとガンダムパロなど出てきますが、結局小ネタです。まあ、下でもうちょっと詳しく語りましょう。



★各キャラ&みどころ

・太一
 今回はヤマトへ全面的に譲ってます。たまにはこんなこともある。
 ヤマトが戻ってきて素直に喜んでるのは好感ポイントなんですが、こういうシーンを見ると本当の意味でライバルとして認識しているのはヤマトのほうだけで、太一のほうはそこまでじゃないんだろうなー…と、妙にせつねー気分になります。淡泊だし、張り合ってても途中で「やーめた」になりそうな。

 でもヒカリ放しちゃったのはお兄ちゃんとしてどうかと思います。ヤマトが助けてくれたけど。
 というかお礼言おうとして駆け寄ったんだろうになあ。


・ 空
 今回といい、なんかミミを引率するのっていっつも彼女って気がするなあ…。
 それだけじゃなく、空とミミって年齢の近い同性ということもあって思った以上に二人で行動してるんですが。


・ヤマト
 ジュレイモンに心の隙間を指摘されて悩みまくる姿は逆に、それこそが友情の紋章の持ち主としてふさわしいものです。
 ほんとうは誰よりも友情を得たいと考え、誰よりも友情の価値を大切に思い、誰よりも友情を信じたいと願う。だから友情を結んだデジモンたちの死に強く心を動かされ悼みたいと考えるし、仲間を使い捨てるようなヤツは絶対に許せない。これは、空や伊織の構図と同じものです。
 ゆえに、時として突き進む勇気で主張する太一と衝突するんですね。そしてこの相克こそが、彼らふたりにとって大切なんだと思います。

 彼の行動は呪縛ともいえる肉親への情を越え、ひとりの男として自分が存在するに足る人間か見つけるためのものでした。
 その相手が太一なのは、ジュレイモンが言っていた通り彼こそがヤマトの心で一番ウェイトを占めるひとりであり、逆に考えれば友として相応しくありたいと思う存在だからなんでしょう。そしてだからこそ、ケジメをつけなければならない。その気持ちが自分にあるということに、ヤマトは気づいてしまった。
 あるいは、本当に向きあおうと思ったことなどなかったのかもしれません、今までは。
 
 それでも、彼だけが太一にガチンコで意見をぶつけられる。ヤマト自身が太一にとって唯一の対等な「友」なんですよね。

 お前がずっと気に入らなかった、腹を立ててばっかりだった、一発ぶん殴りたかった、おれの弟とあんまり仲良くするなこん畜生。
 それでもお前はすごいやつで、おれの友達なんだ。お前の友として、真っ正面から向きあえるだけの男になりたい。
 ヤマトの気持ちって、こんな風だったんじゃないかなあ…?

 こういう風に解釈していくと、ピノッキモンに欠けたものというのがなんとなく見えてきますね。
 

・光子郎
 今回はこれといって特筆すべき出番がないですね。まあ、見せ場はまだまだいくらでもあります。


・ミミ
 不思議なのは、こんな状態でも紋章はちゃんと動いていること。
 つまり、今のミミでさえ紋章に反する状態にはないということです。純真の紋章の持ち主としてはこれが正しいということなんでしょう。

  そういえば、彼女は確かに自分の気持ちには嘘をついていない。押し殺してでも戦おうとはしていない。
 自己中だろうが、自分がこうしたいと感じるまではテコでも動かないのがミミですから、忌避の感情でさえ力になる。
 けっこう変わった紋章だと想います、純真って。性質的には光の紋章にいちばん近いところにあるかも。

 そしてその発露を受け、リリモンが今回も登場しました。ダークマスターズ篇に入ってすでに3度目です。


・タケル
 前回目立った分、今回はオロオロしてるだけ。ケンカを嫌い、かならず仲裁に回るのが一貫しています。例外は33話。
 …3年の間になにがあったんだろう。


・丈
 ヤマトを心配する表情がいちばん強調されていたように感じました。
 次回でも重要なポイントがあるし、彼もまたヤマトにとっては大切な友ってことです。

 
・ヒカリ
 またしても電波受信。控えめな子なのでこういう時は際立ちます。
 やはり魂の質の問題なのか。


・ガブモン
 上でも書いたとおり、ヤマトに関しては「何もそこまで」ってぐらい献身的なヤツだったのは確かです。
 地味だったのは設定上の意図か偶然か、ヤマトの心へ不用意に踏み込まないよう、そっと隣を確保していたからでしょう。このへんは3話でも感じたこと。
 だからヤマトも気づかぬうちにガブモンを頼り、それゆえにあまり意識せず今までやってきたように思います。

 そのガブモンがふとあんな事を言い出すのはいきなりのようでいて、けっこう計算されていると思うわけです。
 結果オーライかもしれませんがそれは置いといて。

 どんな事になっても、僕だけは絶対に君の味方だよ──。
 デジモンたちが持つ最大の存在理由がそういう事なら、友情を信じたいヤマトにとってこれほど心強いことはありますまい。
 それに気づいた時、そしてはっきり受け入れたとき、光を失った紋章はふたたび友情に輝き、闇の底からも這い上がってこれたのですから。

 パートナーたちはやっぱり子供らの分身で、ゆえにガブモンもヤマトのことを生まれながらにすべて理解していたのかもしれません。


・パートナーたち
 ガブモンの独壇場に近いので戦闘以外はあんまり出番ありません。
 テイルモンのセリフは毎回けっこう心に残るというか、重いこと言いますね。


・ピノッキモン

 やっちゃった…。

 今回の彼を見て、多くの人がそう思ったでしょうね。
 哀れなのは、ジュレイモンがどうして忠告してくれたのかを理解していないばかりでなく、自分のどこがいけないのかわかっていないことです。
 でも最後の言葉がずっと引っ掛かっていたところをみると、脈ありというか…心を得るチャンスはあったんでしょうに。残念。

 ジュレイモンによると、ピノッキモンには心がないそうです。
 心を持たない=形成される前に力を手に入れてしまった。そういうことでしょうね。

 彼に欠けたもの。その正体は、47話で語るとしますか。


・ ジュレイモン
 ヤマトを焚きつけて太一と戦わせるように仕向けた、もの知りの巨木翁。
 じいや的な物言いと風貌などから、ピノッキモンの参謀兼執事兼相談役だったことは想像に難くありません。ピノッキモンの気をうまくそらすことで、手下たちへの被害が最小限になるよう働きかけていた可能性もあります。表立ってなにか言えば問答無用で消されるので、それが精いっぱいでしょう。

 それでもジュレイモンにとっては憎からぬ存在というか、情は移っていたようにも思うんですよね。でなければピノッキモンの性格を踏まえているであろう上で、あえてあんなことを言ったりはしないはず。けれど、そんな「親心」さえピノッキモンには届かなかった。
 ピノッキモン自身だって、彼の助言にそうとう助けられていたはずでしょうに……なんとも、やりきれない話です。

 そういえば、ヤマトについてやたら詳しいのは謎です。ピコデビモンと同じくらい謎。
 ただ、同時に一定の評価もしていました。物事を中立的にみる性格なんでしょうね。


・ ガーベモン
 不潔シリーズ最強の存在。これでも完全体です。
 ウ○チ掴み→ジェットストリーム→踏み台→フラウカノンのコンボがインパクトでかすぎて忘れてましたが、意外に強かったんですね。
 というか、イヤがらせ以外のなにものでもないバズーカ乱射より、3体同時にブラックホール展開したほうがよかったんじゃ…。

 まあ、わざわざ彼らを選んだそれ自体がピノッキモンのイヤがらせなんでしょうが。



★名(迷)セリフ

「なにも聞こえないぞ? 空耳か?」(太一)

 直後に映るのは空とミミ。これって演出意図?


「おれは…一体なんなんだ!! おれは、このままでいいのか!?
 このままじゃダメなんだ……! 変わらなくちゃダメなんだ!! もっと、強くならなきゃダメなんだ!!
 そのためには……みんなと一緒にいちゃダメなんだ……」(ヤマト)


 ヤマト、魂の叫び。
 ガブモンの言ったとおり、ほんとうは彼も着実に何かを掴んでるはずなんですが…ヤマトは自分に厳しいですし。
 というかすぐに自分を責めてスパイラルに陥ってしまうというか…。はっ、ここにもスパイラルマウンテンが。


「少し休んで様子をみたほうがいいかも。誰だって、独りになりたいときはあるものだ」(テイルモン)

 だから、どうしてそういちいち説得力のあることを言いますか。アナタが言うとシャレになりませんがな。
 45話ではもっとセリフが増えて、非人間キャラではめずらしい引き締め役になっていきます。


「なによ、こんなもん! もう、いいかげんにしてよ!!」(ミミ)

 出ました、のちに必殺技としても記載される恐怖のウ○チ掴み。あまりの事態に、ピノッキモンまでもが凍りつく凄まじい威力でした。
 諏訪さんパートなのでやけに良作画&動作なのがまたよけい可笑しい。


「おれを踏み台にしたァ!」(ガイア ガーベモンA)

 ノーコメント。


「わからない……! おれは…どうしたらいいんだ…!
 友情の紋章……なんでこんなおれの紋章が『友情』なんだ! 」(ヤマト)


 ほかの仲間のことも思えば、やはり戦っていいのかわからない。それで本当に自分が見えてくるのかもわからない。
 こんな自分がみんなの仲間として相応しいのかわからない。たしかなのは、太一と向きあわねばならないということだけ。
 …やはり、太一とほんとうに真っ正面からぶつかることをどこかで恐がっていたのでしょうか、ヤマトは?
 本当はどっかで気づいていたというか、思い込んでいたんでしょうか? ぶつかったら、絶対に負けるとでも。

 であれば、やはりその気持ちは振り払わねばならないものだったんでしょう。
 友ってものは、そういう澱みを越えたときに得られるのですから。


「ヤマト。…わかったよ、ヤマト。ヤマトはヤマトの思うようにすればいいよ。
 なにも、太一みたいに突っ走るだけが正しいわけじゃない…。きっと、ヤマトにはヤマトにしかできないことがあるはずだよ!」(ガブモン)
「おれにしか…できないこと…」(ヤマト)
「それを、二人で見つけようよ! そのために必要なら…オレは、ヤマトのために戦うよ!!」(ガブモン)

「ガブモン…」(ヤマト)
「たとえみんなを敵に回しても、オレはヤマトといっしょだよ!!!」(ガブモン)


 ガブモン最大の見せ場。個人的には51話を越えてます。

 友情って、周りに転がっているものをちゃんと認識して育てないといけないんですよね。ひとりでは成立しない。
 たとえどんなに思いやられていても、片方が気づかないうちはだめなんです。そしていざ気づいた時、悔恨の叫びと感謝をちゃんと表明できるヤマトには、やっぱり友情の紋章を手にする資格がある。私はそう思います。だって彼は人を拒絶するより、その間で生きることをクールと捉える男なのですから。

 二人で見つける。ひとりじゃない。友がいる。誰のためでもない、自分のためだけに戦うと言ってくれる友が…。
 この事実を認識しただけで、この二人はひとつ強くなっているはずですね。

 それにしても、風間さんは泣きの演技がうまい。


(ヤマト……オレにはわかってる。
 本当は信じたいんだよね……仲間も、友だちも………友情も……!)(メタルガルルモン)


 いやあ、熱いセリフだ。
 「君のことはわかっているよ」と口で言わないあたりがまた、良い。 こういうところがガブモンらしさです。

 
「ボクに足りないものなんてないんだーッ!!!」(ピノッキモン)

 いやあ、痛いセリフだ。
 このシーンが上の直後というのは今見ると、実にわかりやすい対比です。


「…次ははずさないぞ」(メタルガルルモン)
「本気なんだね…!」(アグモン)


 いつもそうですが、子供たちより圧倒的に覚悟完了までが早いのはデジモンたち。
 それにこのふたりはツートップですから、お互いのことはすぐにわかるでしょう。お気に入りのやりとりです。


★次回予告
 ひとり、みんなのもとを去るヤマトのイメージが印象的。

 そして、ついにデジモンワールドの「選ばれし子供たち」の過去が明かされる時がきました。
 グッと来るところも謎も、たくさんあります。こりゃ大変な量になりそうだ。