爆撃指令! ムゲンドラモン

 脚本:西園悟 演出:芝田浩樹 作画監督:八島喜孝
★あらすじ
 ヒカリが倒れた──。カゼがぶり返していたのに、無理したのがたたったのです。

 近場の街に移動し、太一と光子郎が薬を探しに出るのですが、そこはムゲンドラモン率いるメタルエンパイア軍団の拠点でした。いくら逃げても正確に追ってくる敵の群れ。光子郎が薬のありかや種類の特定に使ったネットワーク接続が辿られたのです。人が違ったように光子郎をなじる太一。
 彼の口が重々しく開かれ、過去の痕が語られはじめました。

 ヒカリの病気を軽く見て遊びに連れ出してしまい、生死の境をさまようまでに追い込んだこと。ヒカリがどんなに辛くても、最後まで我慢をしてしまう子だということ。本当はこの世界にだって来たくなかったのかもしれない、でも世界のためなんて言われたら絶対に断れないのだということ。だから、今度こそ自分がしっかり見ていなければならなかったのに……太一の頬を、悔恨の涙が濡らしました。

 とにかくヒカリや空、タケルと合流しなければなりません。アクセスを撹乱して一気に打って出る二人と二匹。
 しかし、ムゲンドラモンは「プランZ」を発動。なんと街じゅうを爆撃しはじめました。かろうじて合流を果たすものの、今度はムゲンドラモンみずからが襲ってきます。逃げ込んだビルごと爆破された子供たちは、暗黒が支配する闇の中へ落ちていったのでした……。



★全体印象
 48話です。タイトルコールは江川央生さん(ムゲンドラモン)。
 影絵にはムゲンドラモンだけでなく、メガ&ギガドラモンやハグルモンの姿も見えますね。

 ムゲンドラモンが振るう容赦のない采配に、知恵と機転をしぼって対抗する太一&光子郎と、とにかく緊迫の一篇。
 さすがにシリーズ構成みずからが担当するだけあり、ダークマスターズ篇では純粋な丁々発止という意味でトップクラスに入るといっていいでしょう。敵の姿かっこうのせいもあって、この回は飛び抜けて「戦争」です。太一たちはまさにゲリラかレジスタンスといった感じ。
 ピエモンは面白みがないと言っていましたが、どっこい目が離せないできになっていますね。
 
 また、太一がヒカリに抱えるトラウマがハッキリ露呈した回でもあります。
 でも21話あたりから思い返してみると、そんなある意味単純な気持ちじゃなかったような気がするんですが…なんでしょう、形にするべきものとは少し違ってるのでは。今回のように露骨に示されてしまうと、太一がヒカリに持っていた微妙な距離感が少し像を結びすぎてしまうように思ってしまいます。
 まあ、わかりやすいし何より、太一がヒカリを無意識にかばって行動してるのは見てればわかりますから、不自然というほどじゃなくて。
 これはもう好みですね。とりあえず、21話でいろいろとスッ転んだ身にはほんの少しだけ「オヨヨ?」だったみたいです。

 ところで、ムゲンドラモン篇は前半と後半で雰囲気がガラッと変わります。
 なんせ49話は今村演出ですから空気が違うのは当たり前なんですが、それ以前の問題としてお話の印象が戦争ものとファンタジーくらい違う。
 そして、私の心へ何より残ったのはこのギャップの妙(偶然?)でした。

 ホント美味しいですよ、この作品。



★各キャラ&みどころ

・太一
 そうか、ここでも泣いてましたっけ。ヒカリ絡みだといろいろ違った顔を見せるなあ…。
 彼がムゲンドラモン篇で得るものは、無意識だった妹への過剰な思いやりを認識し、それをある程度制御するすべです。
 今回でヤマトの気持ちも身にしみてわかったわけですから、いわば太一にとってはこれが最後の試練ってことになりますね。

 でもまあ、頭を冷やすのが非常に早いのはあいかわらずです。
 この場にヤマトがいたらいったいどういう事態になっていたでしょうね……今回にかぎっては、いない方がよかったかも。


・光子郎
 サイバーバトル担当。実はテントモンが最初の数分しか進化してないので、直接バトルはまったく行ってません。
 あれこれと策を打っていましたが、ムゲンドラモンのほうがどうやら上手だったみたいで完敗でした。残念ながらリベンジの機会はなし。

 ただ彼の名誉のために付け加えると、そもそもデジモンたちは「デジタル」なモンスターというわりにアナログな行動パターンばかりでした。唯一の例外はナノモンですが、彼はもういません。たかをくくったとしても、責められないでしょう。まして、次の敵のことはまだなにもわかっていなかったのですから。
 最悪の事態を避けられただけでも、幸いといえるかもしれません。


・ 空
 今回はヒカリの看護役。非常時には背負って歩いたり大変です。オフクロ役はつらいよ。


・タケル
 太一の前ではりきって見せる姿はかわいらしいですが、なんつーか二人分気張ってる感じですな。
 コテージからの退避は彼の発案でしょうか? だとすれば、ナイスな判断でした。そして、遂に太一のピンチを救う活躍も。
 ヤマトと別れて行動したことは、どうやら彼にとり更なるプラスになったようですね。

 …あ、それをなんとなく予感したからヤマトはドツボにはまっていったのか…?


・ヒカリ
 冒頭、今村演出っぽいカットで咳を繰り返していたのが初見から印象的でした。
 思えば、彼女はテイルモンのために迷わず盾になろうとしたり(34話)、ヤマトや空を救うために8人目だと名乗り出たり(36話)、誰かへ被害や迷惑をかけてしまうぐらいだったら、自分が全部かぶったほうがいいと考えてしまう性格です。あとから身に付いたものではなく、それがヒカリの素でしょう。

 結局今回のようになってしまうのであれば、早い段階で申告をしたほうが事態が軽く済むという考え方もあります。
 でも、今のヒカリはそこまで器用に立ち回れるほどオトナではないし、回想でも自分が倒れた原因である兄へ恨み言のひとつも言わないばかりか、詫びまで入れるような女の子ですから、こんな時にカゼをひくような自分のせいでみんなの足を引っ張るようなことは、できる限り避けたかったのでしょう。

 そんでもって太一のほうもヤマトのことや、パーティ離散のことやらで頭がいっぱいで、ヒカリへの注意がおろそかになっていました。少し早いですが、43話でヒカリが話しかけても耳に入ってないシーンがあります。ここで「構ってくれない」と拗ねるのではなく、「お兄ちゃんのほうが大変なんだから、このくらいの事でジャマをしちゃ悪いかもしれない」と我慢してしまうのがヒカリという女の子で、お互いのちょっとした距離がこの事態を呼んでしまったようですね。

 ヒカリのような考え方はいったん負の方向へ落ちると、際限がなくなってしまいかねません。02ではそこらへんを詰めていってるんでしょうね。
 やはり彼女には、持って生まれたものを無心に前へ引っ張っていってくれる他者が必要だったんですよ。それが京であり、大輔ということです。


・ヤマト、ミミ、丈
 今回は出番なし。


・デジモンたち
 バトル担当はアグモン。今回は完全体までひととおりの進化形態を見せてくれますが、個人的になによりココロに残ったのは太一の男泣きに呼応して彼も涙を浮かべていた事実。ここらへんはさすがパートナーという言い方もできるし、魂の分身という見方をしても正しいことになりましょうか。

 で、戦闘はしないけど街を探したり、全員を乗せて移動したりと機動力で大活躍したのがテントモン。なんかパソコン台がわりにもなってます。
 また、エンジェモンがホーリーロッドの伸縮攻撃をなにげに初披露していました。


・ムゲンドラモン
 声がオーガモンのダークマスターズ三番手。とはいえ、抑えた演技なのでイメージは大違い。
 あのピエモンも高く評価していることからわかる通り、戦術・戦略ともに極めてたかい実力を持った恐るべき敵です。存在感などの点でみても、やはりほぼナンバー2の力があるとみて間違いないでしょう。これで部下に自爆とかさせていたらますます完璧だったんですが(ちょっとネタがまずいかな)。

 ただ、彼に関してはこの48話での印象が強すぎて、49話で何をしたのかほとんど覚えてません。
 それでなくても次回はヒカリが全部もっていってしまうので、個人的にますます影がうすくなってしまうんですよね。
 死ぬ時は一瞬だし、前編と後編でここまで存在ウェイトが変動するボスキャラというのも意外にめずらしいんじゃないでしょうか。

 ところで、今回はムゲンキャノンの発射シークエンスがじっくり描写されていました。意外に貴重な場面だと思います。
 ああいう風にエネルギー供給するんですね。


・ メタルエンパイア軍団
 ハグルモン、メガ&ギガドラモン、タンクモン、メカノリモンが確認されています。なぜかガードロモンの姿は見えません。
 それぞれオペレーター、爆撃機、地上部隊の役割を果たしているようですね。同じ機械化龍どうしメタルシードラモンも入れそうですが、やはり海軍と陸軍とは仲が悪いってことなんでしょうか。まあそれ以前に、あのメタルシードラモンがたとえ形の上であっても他者に頭をたれるとは思えませんけど。
 ムゲンドラモンのほうは必要とあれば、指示に従うだけの合理性は持ち合わせていそうですが。

 といっても、メタルシードラモンはあくまでディープセイバーズ所属でしたっけ。
 機械化デジモンとしてはメガドラモン&メタルティラノモン&メタルシードラモンで一セットと捉える設定もあるみたいなんですが…。


・ ピエモン
 スパイラルマウンテンの頂上でワイン飲みながら余裕ぶちかましていました。お前はロード・ジブリールか。
 あの望遠鏡であらゆる情報を集められるようですが、別にそれをもとにして何か具体的にやるわけではありません。ただ見てるだけ。
 要するに、情報なんぞ強すぎる彼にとっては、あってもなくても大差ないものなんでしょう。少なくとも、この時点では。

 セリフはもう完全に道化口調が抜けてますね。それとも、1種のパフォーマンスだったのでしょうか?


・ バス停&ごちゃまぜの街
 何かひさびさな気がする不条理シリーズ。前回のレストランの位置関係メチャメチャぶりも充分不条理でしたけどね。
 バス停には「Somewhere(どこか)」と書いてありますな。つぎは「Anywhere(どこでも)」。
 つまり、もしバスが来たらどこへでも連れていってくれるということ? それとも、どこへ停まるのかわからない…?



★名(迷)セリフ

「でも、あいつまだ小二で、こないだまでカゼひいてて…………
 タケルも小二だっけ……」(太一)


 行間に秘められたいろんな想いを堪能できるのもDVDが出たおかげです。次でいよいよラスト一枚だ!
 いずれにせよ、これで太一はヤマトがどんな思いでタケルのそばにいたか、実感として理解したことになります。
 太一とヤマトは真逆のようでいて、そっくりな部分もあるふたり。だから、太一もヤマトが必ず来てくれると思った。

 そのキッカケになったのは、案外このあたりの出来事だったのかもしれないですね。


「男の子だもんな!」(太一)


 で、タケルへのセリフがこれ。
 なんとなく距離を取ってるようにも、兄貴っぽいようにも見えるなかなか絶妙なセリフです。
 いや、太一ってまちがいなくタケルには一定の距離取ってると思うんですけどね。悪い意味じゃなくて。

 02の42話でいっしょに行動してたこともあったけど、あちらの場合はもはやタケルの方の変化が著しく、背格好もあんまり変わらないしなあ…。
 でもこの二人は直系の師匠と弟子という感じで安定感はありますな。


「いっつも肝心なときにいないんだよなぁ、あいつは」(太一)

 別行動中の丈なら、薬の判別がついたかもしれないと光子郎に言われたのを受けて。
 あんまりといえばあんまりなセリフですが、先輩って間の悪さにかけちゃ確かに天下一品だからなあ…。成長でどうにかなるもんじゃありません。
 今ごろクシャミでもして「あれ、カゼでもひいたかな……ええと、カゼ薬カゼ薬…」なんてやって……

 あ。
 たった今気づいた。ひょっとして先輩、カゼ薬持ってきてたんじゃ…(;´`)


「お兄ちゃん…… ごめんね、ちゃんと蹴れなくて……」(ヒカリ)

 これが自己防衛の言い訳なのか、兄を思ってのことなのかで意見が割れるところです。
 個人的には両方の意味があっても不自然ではない…というより、根っこの部分では同質じゃないでしょうか。
 突き詰めると、誰かに嫌われたり拒絶されたりするのを恐れるところがあって、だから流されてしまいがちで…ある意味自分を持っていない。

 持っていないからこそ受け皿になれる。よりプリミティブな存在=デジモンに近くなりやすい。そういうことなのかな。
 ヒカリについて書いてると、たまに我ながら言ってることメチャクチャな気がものすごくします。


「あいつはそういうヤツなんだ…いつも人のことばっかり考えて、自分がつらいとか苦しいとか、絶対に最後まで言わないんだ…!
 ホントは、こっちの世界に来るのも嫌だったのかもしれない……。でも、世界の運命とかって言われたら、絶対に断れないんだよヒカリは!!
 だから……だからおれがしっかりあいつのこと見てやらなきゃいけないのに……! それなのに…うっ、うう……」(太一)


 場所が場所だけに完全に懺悔告白になっています。藤田さんの熱演がここでも光る。
 ヤマトほど顕著ではありませんが、太一も妹にだけは、肉親にだけは弱い。でもそれは当たり前で、彼がまっとうに育っているという証です。
 時間をかけてじっくりと乗り越えていくしかない問題でしょう。

 ところでこの聖堂、元ネタはなんでしょう。ぱっと見ではノートルダム大聖堂がかなり近いけど、細部が全然違う。



★次回予告
 迷宮の雰囲気が実にすばらしい。異世界と現実の融合がここにあります。
 でも最近あの手の巨大扇風機を見ると、まっさきにランシーンの旦那を思い出してしまうなあ。