さらばヌメモン
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脚本:浦沢義雄 演出:今村隆寛 作画監督:清山滋崇 |
★あらすじ
ヒカリが目覚めたのは奇妙な地下迷宮でした。そこでは、都市の動力源としてヌメモンたちが働かされ続けていたのです。
目の当たりにして悲しむヒカリからどうしたことか、強い光が発せられはじめました。するとどうでしょう、皆に力と勇気がもどってきたではありませんか。空やタケルのパートナーたちも回復していきます。元気100倍の一行は、監視役のワルもんざえモンを撃退するのでした。
一方、太一と光子郎はたったひとりでムゲンドラモンと戦いつづけていたアンドロモンに再会します。
喜ぶ間もなく、今度はムゲンドラモンみずからが現れました。圧倒的パワーの前にアンドロモンはおろか、エンジェモンたちが総掛かりでも歯が立ちません。ヒカリを守ろうとしたヌメモンたちも、巨大な力の前に散り果てていきます。それを見たヒカリが絶叫! 急激に進化の力を取り戻したアグモンがウォーグレイモンに進化し、ドラモンキラーの一閃がついにムゲンドラモンを下すのでした。
残すはダークマスターズ最強最後の難敵・ピエモンのみ──!
★全体印象
49話です。タイトルコールは坂本千夏さん(アグモン)。影絵はヌメモンで、ワルもんざえモンと対決する格好。
DVDもラスト一枚、気合が入りますね。
しかしながらこの回、何度見てもわけがわからんお話です……いやはや。
なにしろこの回でなぜヒカリがいきなり光ったのかまったくわからず、後にもぜんぜんつながってません。予告や本編の演出が思わせぶりなので、ヒカリにはラストに向けもう一つ何か重要な役回りでもあるのかと思ったのですが、今回を伏線とするようなお話はなにもありませんでした。
だったらあのまるっきり別人格でも憑いてるみたいな目つきはなんなのかと…(^^;) 演出?
それに、ヒカリをいきなり崇拝しはじめて最後には集団自殺まがいのことをやってのけるヌメモンもかなり意味不明。
いくら表題に出てるとはいっても、あの流れでヌメモンが死ぬ必要性は大してありません。確かにそれをきっかけとして強い光が発動してはいますが、そんなものはなんぼでも変えられるシチュエーション。代わりに太一を危機に立たせたっていいのです。いや、まあそれを言っちゃったらダークマスターズ篇の死亡組は全員、本来死ななくてもいいのに死なざるをえない状況にさせられた連中、という捉え方もできなくはないんですが。
まあ、そんなわけで展開の不条理さにかけては右に出るものなしな存在になっています。
なぜか心に残ってしょうがないのは今村演出と、それによって彩られる地下迷宮のせいでしょうか。
浦沢氏にしてはこのシリーズじゃめずらしくシリアス寄りのお話ですが、そのせいか独自の味はあまり感じられません。やはりギャグでこそ力を100パーセント発揮できる畑の人なのかもしれない。マジメな話をやっててもどこか妙に可笑しいノリだったりするし…。
あ、それでもギャグは容赦なく挿入していたのでそこだけ見るとやっぱり浦沢さんです。
48話の西園さんだったらどういう風にケリをつけたでしょう。気になりますね。
★各キャラ&みどころ
・太一
あのへんのくだり、どこいらへんから芝居だったんでしょうか。ちょっと見ただけではわかりません。
個人的には2ヶ所ほどに絞り込めそうですが、もちろん明確なサインはありませんし。
今回はそこらあたりと、ヒカリを抱っこしてぐるぐる回ってるのがわりに全てです。
前回では目立ってましたが、今回は妹にゆずった形。
・ 空
またしても年少組と現実逃避しがちなパートナーを引率して全力疾走していました。
ひょっとしてこの辺でストレスが頂点に達しかけたんでせうか。
・光子郎
上ではいろいろ書きましたが、太一に対して初のタメ口という点で、彼にとってはきわめて大事なエピソード。
以降、必要とあれば相手が太一でもガンガン言うようになっていくので、たいへん重要な折り返し地点といえるでしょう。
でもアンドロモンがネットワークへ繋ごうとしてるのは止めた方がいいですよ。
あ、でもアンドロモンなら警戒の網をくぐって知りたい情報だけを探すというのは、それほど難しいことじゃないのかも。
でなければ、ワンマン・レジスタンスなぞできるわけがありません。
・タケル
今回はパートナーの方が目立ってます。前回で地味なりの活躍と成長をアピールしたのでお休みぎみといったところですかね。
まあ、彼には最後の大一番が残ってますから。
・ヒカリ
清山作画にしては美少女度が高めだった今回。
さて、何話か前にも推測しましたが……なぜ彼女は「光った」のでしょう?
理由は以下を考えています。
1. ホメオスタシスを受け入れたときの光がまだ体内に残留していた
それを光の紋章が増幅していた(オーラーコンバーター?)のであのようになった、という推測です。
2. 実はあれは光の紋章の暴走である
ヒカリが風邪をひいたりなどして明確な意識そのものの維持が困難になり、そのため無意識のうちに制御していた光の紋章の力が箍をうしない、
光そのものとなって体外へ放出された。彼女の感情へ必要以上にダイレクトに反応してしまう。
実ははじめ1だろうと思っていたんですが、見返してるうちに「実は2なんじゃないのかなあ…」と思うようになってきました。
見たところヒカリはまだ薬を飲んでいなかったし、
立って歩けるようにはなったもののまだフラつく状態。当然、意識の焦点を保つことなどできません。そしてもし光の紋章が東京篇で書いたように、彼女の心そのものの波動に応えて力を降ろすのであれば、そんなありさまでコントロールし切れるとも思えません。だから、光のいくらかが体外にあふれ出て他者に影響をおよぼす。そういう感じだったのかもしれないなあと思うわけです。
いずれにせよ、風邪っぴきのひどい時のような体調では頭の中が靄でおおわれたようになり、思考も理性も曖昧模糊としたものになります。
しかし逆にだからこそ、体の中に降りてくる「何か」をより受け入れやすいのではないでしょうか?
この回のヒカリには「何か」が降りてきていた。私はそのように思います。
・デジモンたち
ウォーグレイモンの突進がいちばんココロに残りましたが、あとはわりにギャグばかりです。
ムゲンキャノン食らっても進化が解けないバードラモンがなにげにタフ。
・ヌメモン
個体としてではなく完全に集団として描かれてました。むしろ群体スタンドなみの意思統一。
でもそれが仇となり、ムゲンドラモンの一撃で全滅してしまいました。でも彼らの死はこの回だけ見ると意外にあっさりスルーされています。
それにしても、ヒカリの放った光がなぜヌメモンたちにあれほどの勇猛さをあたえたのでしょう。
光というのはこのシリーズにおいて進歩や前進、希望を示すものであり、その方向にもじっさいに力を発揮するものです。ならば、ヒカリの光を浴びたことによってヌメモンたちも今まで強いられていた永遠にも似る隷属を拒否しあらがう、つよい心の力までも芽生えさせたのかもしれません。
いずれにせよ、彼らは打ちひしがれたりただその場から逃げ出すよりも、目の前の圧政の象徴に戦いを挑む道を選んだことになります。
たとえ流れ上意味がないと思われることであっても、それは根性なしのヌメモンたちにとり、実のところ大したことなんでしょう。
・アンドロモン
ひさびさの再会。ムゲンドラモン相手に長年渡りあっていたようですね。だてに完全体を名乗ってはいません。
でもそんな彼のパワーをもってしてもまったく止められないことから、逆にムゲンドラモンの力のほどがよくわかります。
死にかけたこともたぶん一度や二度じゃないでしょう。表面には出しませんが、長く苦しい戦いの果てに得た感慨をたしかに噛みしめていました。
彼はラストバトル直前まで旅をともにした数少ないデジモンのひとりです。
ピエモン戦でも意外な大健闘を見せてくれるので、破格の待遇。テイマーズの時といい、けっこう美味しい立場です。
・ムゲンドラモン
今回は部下を連れずひとりで出張ってきました。でも、だからといってぜんぜん勝てそうに見えない威容。
通路をぶち壊しながら強引に突き進んでくる姿は恐怖を象徴しています。あのアンドロモンさえなすすべなく押しまくられてしまう絶望的なまでの力、それがムゲンドラモンの戦いを象徴するもののひとつでしょうか。事実、ウォーグレイモン以外の攻撃はまったく受けつけませんでした。とくにエンジェモンとエンジェウーモンはこの個体にまったく歯がたたなかったことになります。メタル系とはあんまり相性がよくないのかもしれませんけど。
そんな出鱈目な強さをほこるムゲンドラモンにどうやって勝つのか……と思ったら、なんとドラモンキラーで一撃でした。
これにはさすがに私も呆気にとられたものですが、アニメ化前からのデジモンファンはもっと唖然としたのかもしれません。
そのくらい、このムゲンドラモンの死はあっけないものでした。48話だけ見ると、とてもここで死ぬような相手には見えないのですが…。
ただ、デジアドにおいてはいい演出や脚本にあたったので、けっこう記憶に残りやすい敵役かもしれません。
そういう意味ではメタルシードラモンもそうなんですが。
・ワルもんざえモン
ヌメモンたちの監視役をしていました。顔がとにかく恐い。
でも実力的にはてんで大したことはなく、成熟期レベルの攻撃で撃退されてしまいます。まあエンジェモンもいましたけど。
後半を待たずしてムゲンドラモンに始末されてしまいますが、考えてみたらモニターの向こうにいるのにどうやって手を下したのでしょう?
管制室にムゲンドラモンしか管理できない爆弾でも仕掛けてあったのでしょうか。
なぜこいつがメタルエンパイアなのかと思ったら、ペンデュラム5の進化系の中に組み込まれているからなんですね。
見た目はどっちかというとナイトメアソルジャーズなんですが。
・ 世界中の街の地下
あちこちに落書きや案内板があったり換気扇があったり下水道があったり、洋館みたいなスペースにつながっていたり、空間としてやけに主張してます。
さりげに金網が張ってあったりもして、現実とファンタジーのごちゃ混ぜ感覚が訴えてくる感じ。
それでいて管制室はメカっぽかったりしますな。
…なんとなくスーパーマリオっぽい雰囲気もあるなあ。土管からどっか行けそうな。
★名(迷)セリフ
「あんたたちぃぃぃ! 現実から逃げてんじゃなぁぁあああい!!」(空)
空、Bボタンダッシュでワルもんざえもんから脱兎中。ピヨモンの手を引っ張るだけでなくタケルまで抱えて走ってます。
今回唯一のギャグ場面ですが、大変だなあ空も……。
「……光子郎。おれたち、誰かに尾けられてる」(太一)
問題はどこからどこまでが芝居だったのか、この点です。
やっぱり一度立ち止まったあたりからでしょうか? この時半分影になっていて、表情が見えませんでしたし。
また、その後アグモンへの気遣いを忘れたことへ詫びを入れていたので、この時点では気づいてなかったのかもしれません。
やはり光子郎が「一度休みを入れましょう」と提案した直後ぐらいと考えるのが妥当……かな?
それにしても途中からとはいえ、そうした自分の苛立ちさえも逆に利用してしまうとは…。
やはりというべきか、ダークマスターズ篇へ入ってからの太一にはどんなに取り乱して見えても、どこかに驚くほど冷静で冷徹な意識が控えているように見えます。そしてそうでなければ、この苛烈な戦いにおいてリーダーを張っていくことなどできないのでしょう。
もはや一軍の将ともいえる立場なのですから。
「それはどうかな……ボクには太一やヒカリ……みんながついているんだ!!」(コロモン)
微妙に論点がずれてる気がしますが、この直後ムゲンドラモンはいわゆる斬鉄剣斬り状態となって果てます。
額のキズがもし残ったらちょっとかっこいいんだけど、さすがにそれは無理でした。
ところで、前後のショットでさりげなくエンジェモンがエンジェウーモンの肩に手を回してやがります。
「都市ガ消エ…私ノ戦イモ終ワッタ…」(アンドロモン)
万感の想いがこめられているであろうセリフ。
彼は一体どのくらい長い間、たった一人で戦い続けていたのでしょう? 考えただけでゾッとします。
「待ってろよ……ピエモン!!」(太一)
ラストを締める言葉です。怒りと決意をみなぎらせていますね。何しろ、あのふざけた道化師面へ一発入れられるところまでついに来たのです。
どんな顔をして言っていたのか、ちょっと見てみたいかも。この時もうすでに、太一の中である覚悟が出来上がってるはずですから。
★次回予告
ある意味でもっとも恐ろしい戦いが幕を開けます。とりあえず強く生きてくれ、テントモン。