女の戦い! レディデビモン
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脚本:前川淳 演出:角銅博之 作画監督:信実節子 |
★あらすじ
数々の戦いを勝ち抜き、スパイラルマウンテンの頂上にやってきた太一たち。
丈やミミたちも、それぞれの道をいよいよハッキリ見出しはじめ、決戦の火ぶたは発火点を間近にひかえていたのです。
そんな天王山でまず現れたのは、ピエモンの側近レディデビモンでした。
全力で戦おうとするアグモンを制した太一は、敵をエンジェウーモン、カブテリモンにまかせて空とタケルをヤマト捜索に向かわせます。仲間と別れて行動したことが、彼をより成長させていたのでした。これ以上の犠牲を出さないためにも、今こそふたたび力を合わせるときです。
太一のにらんだ通り、凄まじいキャットファイトを混じえての戦いを制したのはエンジェウーモンでした。
そして、ついにピエモンが姿を現します……。
そのころ、丈はミミと別れ、エレキモンから仕入れたヤマトの手がかりをもとに彼を追っていました。
ヤマトは今、どこにいるのでしょう?
★全体印象
とうとう50話です。影絵、タイトルコールともにレディデビモン(声:永野愛さん)ですね。
内容的には51話以降の決戦へむけた整理期間、インターミッションといったところ。レディデビモン対エンジェウーモンは、ありていに言えば間を持たせるための余興に近いものがあります。しかし、そのおかげでストーリー的にも視聴者的にも次からの本流へ集中することができるので、やはり無くてはならないお話。言わば最後の箸休めですね。後はもう、ラストまで突っ走るだけですから。
そんな箸休めで癒し系へ属する丈とゴマモンがいちばん目立ってるというのも、ひとつの息抜きポイントでしょう。
東京篇で「道」というものをつよく意識し、誰に言われたのでもない、自分なりのやり方で進むことを考えはじめた彼の答えは結局、そのまま子供たちみんなの思いでもありました。むしろ彼のようなタイプが言うからこそ説得力があり、意義も大きいのだと思います。
フロンティアでは純平が近い内容のセリフを言っていましたっけ。
とにかく、ここへ来てにわかに空気がまた変わってきました。次からはいよいよ決戦です。もはや一秒も目が離せません。
そーいえば、今回の作監はやはり女性の信実節子さんでした。こんなところにも女の戦いが。
そしてヤマトといえば伊藤作画なわけですが、ヤマト最大の山場である次回へも当たり前のようにクレジットされていたりします。
★各キャラ&みどころ
・太一
前回、ヌメモンの死を流れ上あんまり意味がないなんて書きましたが、それは間違いでした。
むだな犠牲はこれでもう終わりにするという、彼の賭けにも似た決意をうながすキッカケになってくれたからです。
だからこそ、あえて仲間を押さえて一人で戦うことを決めていたのでしょう。詳しくは次回で。
そして「仲間とはなれ、わかったことがある」と、しっかり口で言ってくれてもいました。
メンバーを欠いての苦しい冒険をくぐり抜け、ヒカリを通してヤマトの気持ちを知り、恐らくはデジモンたちの死に嘆き悲しむミミの気持ちも知った。認識すればすぐさま吸収して活かすのが太一という男です。大局を冷静に見る目と戦術眼、そして経験で身につけたさらなる大きな度量。いまや、太一の成長度はマックスレベルへ達したといってよいでしょう。これが成長というものなんですね。
大人になってから就いた職は、まさしく彼にしか勤まらない役目でした。太一はやはりリーダーを張ってるのが似合います。
大輔はどっちかというと「大将」って感じ。
・ 空
いきなりヤマト捜索を振られてかなり戸惑ってましたが、なんかタケルが乗り気だったのもあってあまり反論せず従ってました。
そもそも、彼女はダークマスターズ篇に入ってから太一へ表立って異をとなえたと言えるシーンがありません。内心では不満…というより不安をいだいたケースもあったんですが、心の中へしまっていました。それというのも太一が正論で押すことが多く、また本人の成長そのものも著しいため、彼女にとってはどうしても反駁しなければならぬほどの理由がないからです。あるいはヤマトに頼っていた部分もあったんでしょう、確かに。
いずれにせよ、進む道のあまりに正しく、また険しいことは彼女を知らず、どこかで追い込んでいたようですね。
だから彼女も、一度自分自身の心に問うて「やはり自分はこうしたい」と思う時間が、ほんの少しでもいいから欲しかったんでしょう。
これ以上は次回へ譲るとします。
・光子郎
アンドロモンを媒介にして現在位置をはかっていました。どこにいるのかなんて、意外にわからないものですからね。
そういえばダークマスターズ篇の彼には、空やヤマトのようなハッキリとした形での試練がありません。むしろ24話でとっくに通ってる道です。
これは彼が「何かをしたい」という欲求へ非常に近い立ち位置にいるからであると思われます。行動原理が「知りたい」ですから。
実のところ、子供たちの中ではいちばん成長が早かった…というか早すぎるぐらいだったのかもしれない。
そんな彼の終盤最大のキモは、太一との関係強化ではないでしょうか。(なにげにウォーゲームでも)
このへんを見ていると、02でのふたりをより納得して見ることができるはずです。
・タケル
やっぱり、光子郎と同じかそれ以上に太一のことを信頼してるように見えます。
ヒカリと並ぶ最年少ながらのみ込みも早いし、激戦にあっても本当、足を引っ張りません。出来すぎの子かも。それが狙いなわけですが。
ヤマトとは今後いよいよ距離が開いていきますが、もちろん別に気まずくなったわけではありません。
お互いが地に足をつけて立てるようになったと解釈すべきでしょう。
・ヒカリ
ぜ、前回とキャラが違うー!
でもどっちかというとこっちの方が地という気がしないでもないです。
ただ空までも一瞬ですごいジト目になってたところを見ると、ふたりとも雅いなりの女の勘で「こいつは敵だ、混じりッけなしの敵だ」
とでも感じ取っていた可能性がなきにしもあらずで……アレです、女は恐い。
・ミミ
よく見ると2リットル分のコーラを完全に空けてます。べ、別にひとりで飲んだんじゃないよね…。
すぐにフォローを入れる分成長したとはいえ、疲れたときは疲れたって絶対に言うのはいかにも「らしい」ですね。ヒカリとは真逆。
そうか、だからヘタをするとCDドラマみたいになるのか…。
素直で率直でいつも赤裸々に接してくる彼女には、強面たちも形無しのようですな。
・丈
シン兄さんの言葉をうまく活かし、柔らかいセリフ回しで8人の進むべき道と、その行き着くべき先を示唆してくれました。
自分で言っていたとおり、彼には太一の決断力もヤマトの激しさも、光子郎の知恵も空の細やかな真心もありません。パートナーがずば抜けて強いわけでもありません。唯一、誠実さだけは誰にも負けませんけどそれはあまり本人意識してなさそう。
でも、物語においては丈の「取り柄のなさ」は大きな武器のひとつです。常識人の代表だったり、取り柄がなさそうに見えたりする人物の頑張りはなまじ最初から強くて勝って当たり前なヒーローが活躍するよりも、よほど大きなカタルシスを与えてくれることがあるものです。
力や勇気や知恵がなくたって、できることがあると教えてくれるのですから。
だから私は、丈が「道」について語ったことはたいへん意味があると思います。まさに、彼にしかできないことだから。
・ヤマト
後ろ姿のイメージ映像のみ。大切にしていたブルースハープを置いていくとは…。
ただごとでないと予感させてくれます。
・デジモンたち
テイルモン…と言いたいところですが、心に残るのはテントモン→アトラーカブテリモンのほうでしょう。せっかく抜群の装甲で援護防御へ入ったというのにジャマ者扱いされて、あらためて見てもやっぱり不憫でした。あの強面がトボケて見えるのですから面白いものです。
ゴマモンはいざとなると全面的に丈を持ち上げますね、やっぱり。
初期からそーゆー傾向はあったけど、最近とみに増えてきたような気がするのは丈が成長したからと考えてよさそう。
・太刀川遊撃隊
ミミと丈の連れているデジモンの仲間たち。新たにユキダルモンとメラモンが加わっていました。両方とも声がちがいますが、たぶんファイル島にいた個体と同一でしょう。ちなみにユキダルモンがおそらく櫻井孝宏さんで、メラモンは菊池正美さんがドス利かせて演ってるみたいです。
途中でエレキモンも加わりますが、こちらは前と同じ高戸靖広さんのまま。ファイル島では数少ない、選ばれし子供個人へかかわったデジモンですから、位置的にはレオモンにも次ぐほどのものがあります。彼だけは変えるわけにいかなかったでしょう。
彼らの存在は戦力的にこそさほど大したものじゃありませんが、ここで重要なのは意志を示すことです。
絶望にも負けずに立ち上がり、世界の歴史を終わらせない、停滞へあらがう心。その意志が子供たちだけではなく、デジモンたち一体一体にもあるのだということをはっきりと見せつけなければなりますまい。それこそが、新たな世界へ進むためのただひとつの鍵です。
なお念のためですが、チーム八神も太刀川遊撃隊も私が勝手にそう呼んでるだけですのでご了承ください。
・ レディデビモン
堕天使型完全体。ピエモンの側近です。さすがに手ごわい相手でしたが、本気を出したエンジェウーモンの前ではいささか力不足だったようで割にあっさり倒されてしまいました。まあ、戦闘経験の差ってやつでしょう。ただでさえ鍛え方が違うのに、完全体としてもかなりの戦いをくぐり抜けてますから。
なんか、レディデビモンの方は闇の力で労せず進化したうえ、格下しか相手にしてなかった印象がありますね。
とはいえ、剥き出しの敵意でエンジェウーモンとビンタの応酬を繰り返すシーンは実に別の意味で恐ろしい。
02でも、同一個体ではないでしょうがまたまた登場して期待通り、エンジェウーモンに因縁をつけていました。つくづくソリが合わないようです。
見方を変えりゃあ近親憎悪なのかもしれないけど…。
声を演ずる永野愛さんは、東映アニメファンにはもうお馴染みの人でしょう。
ガッシュやおジャ魔女での活躍は言わずもがな、プリキュアでは先生に加えマスコット役のシークンまで演じてますからかなり多芸。
デジモンシリーズでは多くがゲストでしたが、出てくるたんびにかなりイメージが違います。レギュラーだと、テイマーズの小春をアテてますね。
まあ私にとっては如月ハニーなんですが…第一印象って重要です。
・ ピエモン
どうも腰が重いのか、目と鼻の先まで来たと知っていながらいきなり出てくることはせず、レディデビモンに任せていました。
もう残りは自分ひとりだというのにずいぶん余裕かましてますが、これは彼が強すぎるから。それに、もともと他の三人がどうなろうと悪役らしく、知ったことではないでしょう。むしろ気楽になって助かるとさえ思っているかもしれません。なんとも傲慢なヤツです。
そういえば、そもそも闇に属するので考え方が違うという意見を聞いたことがあります。
永遠の停滞が基本的価値観であるならば、変化に対してある程度以上の積極的行動を取ることをしない…というより、もともと夢にも思わないのだと。確かにそうであるならば、「今のうちに芽を摘んでおこう」などという考えや行動にまで至らないのも無理のないこと。だいたいが、彼らは未来を見ていません。過去も無意味。今のまま、永遠の天下が続けばいいと考えていたことでしょう。それが崩れるなどとは夢にも思わない。圧倒的な力という裏打ちがあるから。
おそらく、それこそが数少ないつけ入る隙なのです。
ベニー松山氏のウィザードリィ小説「隣り合わせの灰と青春」においても、デーモンと人間の価値観の違いが記されていましたっけ。
彼らデーモンは魔王復活のためにクリアアイテム「ワードナの魔除け」を欲していたのですが、ふたたび機会が来るときのためにあらかじめ奪っておこう、という考え方ができないのだそうです。たぶん、その気になったらいつでも奪えると考えているんでしょう。
巨大な力や長い寿命にめぐまれると、そうしたメンタルに陥りやすいのでしょうか?
★名(迷)セリフ
「自分の道は、自分で決める…か。
ヤマト…君はもう見つけたのかい? 自分の道を…」(丈)
45話でも感じましたが、ダークマスターズ篇では丈のヤマトへのさりげない友情が端々にみられますね。
これもその中のひとつ。成長した彼にはしっくり来るセリフ回しです。
「はじまりの町でまた生まれてくるように、がんばるからね…!」(タケル)
チーム八神がなんではじまりの町のことを知ってるんだろう……と重いかけて、そういえばアンドロモンがいたと思い出しました。
彼から情報を得たのでしょう。その事実が、太一の決心をますます堅くしたと思われます。
「失礼のないようにな。最上級のもてなしをしてやれ」(ピエモン)
先鋒を申し出たレディデビモンに。
この期におよんでもまだ嘗めきったセリフを吐いてくれます。まさに悪役の鑑と呼ぶにふさわしい憎々しさ。
「な〜んか、イヤな感じのデジモン!」(空)
「…あれ、なんてデジモン?」(ヒカリ)
ふたりとも恐いです。特にヒカリがドス入りすぎ。
「えへへ…ボク、切り札〜?」(アグモン)
まぎれもない事実ですが、ハッキリ断言されたことがないので結構うれしそうですね。
でもそれは、仲間がいるからこそ温存できるということ。今の太一にはそれが理解できているんですね。
16話あたりで紋章に振り回されていた頃の彼とは違うってことです。
「ヤマトや……ミミちゃんや丈がいなくなって、わかったんだ。
ただガムシャラに戦うだけじゃ、ダメだって……これ以上、犠牲を増やさないためにも」(太一)
ついにここまで来ました。
すべての恐怖、すべての絶望、すべての停滞。それら全てを敵に回して戦わねばならぬ勇気の紋章の持ち主として、ここに彼は大成したのです。
そこには数々の経験、数々の失敗、そして数々の友との殴り合いがありました。だから迷いなく言えるんです、カッコいいと。
カッコいいヤツには、カッコよくなるだけの理由があるんですね。
直後の空の表情にも注目。何かこう、背中を見る立場になった感慨のようなものを滲ませています。
でも、それさえ今の彼女には自分をさらに縛りつけてしまう諸刃の荒縄だったようで。
「タケルも、パタモンも…? ……そっか、ならオレも負けちゃいられないな! オレも行くぜ!」(エレキモン)
彼は決してこの後出番にめぐまれるわけじゃないんですが、大切なのは脇役でもつながりが活かされることとそこから生まれる意志、そのものです。
タケルとパタモンの頑張りは、彼にも希望を与えてくれました。
天使の輪は、まだ切れちゃいなかったのです。
「…みんな、自分の道を行こうよ」(丈)
「…自分の道?」(ミミ)
「ミミ君たちは、仲間を集める道。太一たちは戦いの道。…いや、太一たちばかりに戦わせられないよ。
ぼくも戦わなくちゃ……でも、ぼくは強くもないし、ゴマモンも究極体になれるわけじゃない……
…だから、ぼくたちがいても足手まといになるのかと思ってた。でも、ぼくにはぼくにしかできないことがあると思うんだ。
きっと、ヤマトもそれに気づいたんだよ。だから、ぼくはヤマトの後を追う…!」(丈)
この後、ちょっと腰が引けるあたりが先輩らしいですが……いつのまにか、ここまで言えるようになっていたんですね。
28話などの例をのぞくと、彼が自分の考えをはっきり示したケースはそう多くありません。あるいは示そうとして茶化されたりしてました。そういう意味では、とうとう受け入れられたということです。彼もまた、ヤマトや太一たちと別れてひとりで考えることが増え、見えてきたものがあったんでしょう。
丈の成長過程は、自分を縛っていた常識や必要以上の責任感を捨て、自分の頭で考え自分の意志で行動する力を琢き、本来持っている良さを引き出していくというものでした。今回のセリフはその集大成。50話かけて積み上げてきたものに、明確なかたちで最後の仕上げをなしたのです。そして、伸び幅だけなら丈は選ばれし子供の中で間違いなくトップクラス。急激には進まずあくまでマイペースというのが彼らしいですが、気づけば序盤とは天地の差となっていました。
見続けていた丈ファンには感無量だったろうなあ。
ところで、最近この手のセリフを見るとなぜか「ガンダムSEED」のサイ・アーガイルを思い出します。
放映当時は彼に丈先輩のような立ち位置を期待していましたっけ。
「いいに決まってんじゃない! 丈がそう決めたんだもん!」(ゴマモン)
時にハッパをかけながらも、ゴマモンはパートナーの成長に対していつもわが事のように喜んでいましたね。
魂の分身であるなら、そりゃあ限りなくわが事に近いといえるんですがとりあえず置いときます。
「怒ると恐いんですね、女のひとって……」(光子郎)
「負けちゃダメよ! やっちゃえ、やっちゃえ!」(ヒカリ)
なぜ光子郎にこんなセリフを言わせますか。そしてヒカリが完全に前回と別人です。
なんですかその満面に広がる勝利の笑みは。
「ちょっと、邪魔! 早くどいて!!」(エンジェウーモン)
「あ、ああ、えろうすんまへん」(アトラーカブテリモン)
ノーコメント。
…やっぱり強く生きろテントモンとか言わないとダメですか? それはもう予告で書いちゃったんですが…(^^;)
★次回予告
いよいよ最終決戦の幕開けだ!
ここまで来たら、感想もノンストップで突っ走るのみ!