聖剣士! ホーリーエンジェモン
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脚本:まさきひろ 演出:川田武範 作画監督:出口としお |
★あらすじ
第二ラウンドが始まりました。力をつけた二大究極体の連携プレイはしだいにピエモンを追いつめていくのですが、突然出してきた奇妙な白いハンカチに虚をつかれた瞬間、大きく広がった布が二体だけでなく、太一とヤマトまでをも包みこみます。驚愕するタケルたちの目にとびこんできたのは、人形にされた太一たちの変わり果てた姿でした。反撃ムードから一転、子供たちはいきなり絶望の淵に立たされてしまうのです──。
そのころ、ゲンナイはケンタルモンの協力を得て「あるもの」を調べていました。炎の壁の向こうからやってきたという、信じがたき存在について…。
勝ち誇るかのように悠々とせまるピエモンの手により、子供たちもデジモンも次々と人形にされていきます。
最後に残ったのは、もっとも幼いタケルとヒカリでした。高空からたたき落とされ、もはやこれまでかと思われたその時、タケルの心に響いたのは兄・ヤマトの声だったのです。最後まで絶対にあきらめない…タケルが決意したとき、紋章が輝きました。最後の希望、ホーリーエンジェモンの登場です! 聖なる剣の一撃がピエモンを逆に地面へたたき落とし、翼の輝きがみんなをもとに戻しました。まさに桁外れの力です。
怒りに震えるピエモンは、残りの軍勢すべてを差し向けてきました。しかしミミたちも合流してフルメンバーとなった選ばれし子供たちにとり、もはや敵ではありません。二大究極体の一撃により、ピエモンはホーリーエンジェモンが開いたヘブンズゲートの中へ葬り去られていったのです。
こうしてダークマスターズは一人残らず斃れ、すべてのエリアが開放されました。
しかし、ゲンナイから届いたメールは祝電どころか、恐るべき内容だったのです……。
★全体印象
52話です。影絵・タイトルコールは言うまでもなくホーリーエンジェモン。タイトル読み上げた後、画面が切り替わる直前にモーション・ブラーでシルエットがフレーム外に消えていくという、ちょっと変わった表現手法が取られています。
さあ反撃だ! という場面でいきなりツートップが戦闘不能になるという、ものすごい展開の回。私もさすがに吃驚しました。
とはいえ、これがタケルにとっての最大最後の試練として、また満を持しまくってついに解禁となったエンジェモンの超進化お披露目として機能しているため、意味のない流れではありません。今にして思えば、ここまで追い込むぐらいでないと説得力が不足します。絶望的な状況であればあるほど、さらなる希望を温存すればするほど効果が増すというもの。やはりエンジェモンは少なくともこのデジアド世界にとり、希望と救いの象徴だったのですね。
まあ、前回がアレだったのでかなり突然な感があるのは否めないのですが、後ろでただ控えていればよかった立場から出し抜けに最後の双肩となったとき、人はどうするでしょう? きっと諦めてしまいそうです。だけど、タケルは諦めなかった。希望を失わなかった。どんなに追いつめられても守るべきものを思いやり、笑顔を捨てないタケルだから、それができるタケルだから諦めなかったのです。彼がそういう子だということはちゃんと積み重ねられてますよね?
さて出口作画へもってきてある意味相性抜群の川田演出なので、今回もへろへろと画面を横切る脱力カットがいくつか散見されます。
ときどき思いだしたように動きと絵がよくなるのはどう見ても竹田欣弘氏のパート。気のせいか今回はとりわけ癖がつよく出てますね。アクションシーンもさることながら、女の子たちやエンジェウーモンへやけに気合いが入ってると感じるのはたぶん思い過ごしじゃないものと思われます。
…ってか出口作画と竹田作画ってそりゃアナタ、混ぜるな危険ですぜ?
★各キャラ&みどころ
・太一
ピエモン戦での見せ場は実のところ前回まで。今回はそんなに出番がありません。
とはいえ、きっちりトドメ役は確保して意趣返し果たしてますが。
・ 空
あらためて見たら、この回は意外なほど目立ってます。
戦闘となると地味になりがちな彼女でしたが、その場にいてくれるだけで皆を柔らかい気持ちにしてくれる力がありました。そう感じ取れるくらい、着実にポイントを押さえているんですよね。だから埋没してしまわないし、影のリーダーと指摘する人もいるんです。
そして、みずからの身を賭してでも希望を生かした彼女の行動はそのまま、母親に受けた愛情とだぶるものです。
ああ、そうかと私はまた納得するわけですね。やっぱり、空はみんなのおふくろさんだったんですよ。
あの場面ではなぜか「ストーンオーシャン」のラスト手前における、空条徐倫の最期を思いだしてしまいました。
あっちはもっと深刻だったけど、なんとなく通じるものをおぼえて…何より「あんたは『希望』」というまんまなキーワードも出て来ます。
といってもデジアドのほうが先なんですけどね。
・ヤマト
前回目立ちすぎだったぶん、太一ともどもワリを食っています。それでも太一よりはセリフが多かったような。
人形のときにもある程度の自意識はあるようですが、意志を伝えることまではできないようですね。
それでも、タケルには何か伝わるものがあったみたいですけど。
・光子郎
ピエモンへ向けた絶叫まじりの問いかけが心に残ります。
ほかにも人形になってなお流す無念の涙とか、あるいは今まででトップクラスに激情がめだった回かも。
・ミミ
すべり込みセーフ。太刀川遊撃隊を連れてきてくれたおかげで、子供たちはイビルモンを気にせず大将首へ集中できたといえるでしょう。
そーいえばホーリーエンジェモン登場後の参戦なので、なにげに人形化からは免れてますね。運のいい娘さんだ。
・丈
彼も自分の身より、仲間を行かせることを選びました。ほんの短い場面ですけど、彼らしい行動だと思います。
一話の彼だったら何より先に腰を抜かしてしまったと思いますが、今ならば違和感はありません。
光子郎の涙は、そんな丈の行動を無駄に終わらせてしまったことへの無念がこもっていたのでしょうか。
・タケル
エンジェモンともども、再び土壇場で逆転の糸口をつかんでくれました。
ただ、これまでと決定的に違う点もいくつか見られます。
1.頼れる者が誰もいない
兄をはじめ、仲間は全員人形にされて敵の掌の中。エンジェモンも動けません。
身ひとつで気を張らねばならない。
2.守るべき存在ができた
男の子であるタケルにとって、ヒカリはやっぱり守るべき存在です。
ヒカリを不安がらせないためには、他でもない彼自身がしっかりしなければいけません。
3.そのうえで、自分の意志で希望を捨てなかった
ただ守られ見ているだけだった13話当時からすれば、これは途轍もなく大きな差です。
そしてエンジェモンの心も、タケルと一緒だったはず。そう、今まではタケルを守るためにパタモン一人が進化していた側面がありましたけれど、今度はちがうということです。タケルとエンジェモン、二人の心がかつて無いほどのシンクロを果たし、お互いだけでなくヒカリを、そして皆を守ろうと決意したあかしが紋章の輝きであり、あの銀色をした8枚の翼なのだと思うのです。生まれてはじめて誰かを守りたい、と心の底から思った、その願いに応えて降誕した希望の化身。それが、ホーリーエンジェモンなのでしょう。だから、あんなに強いのもむしろ当たり前なのではないかと。
ヒカリはだから、タケルがはじめて意識した「守りたい存在」で…それで、特別な感情を持って接してる部分があるんだと思います。
ただ恋愛というのとはちょっと違うんじゃないかなあ…とも感じてるわけで。
むしろ、ヤマトがほかならぬタケル自身に持っていた気持ちになんだか近いと感じてしまいます。
・ヒカリ
むろん、守られる率トップで踊り狂ってる彼女にとても忸怩たる思いはあって。48話や02の13話、31話など見ているとなんとなーくわかります。
特にめだつのは02以降ですね。自我が育ってきたことで、いろいろ考えはじめてしまう時期ですし。
今回はエンジェウーモンがかなりあっさりと負けてしまったこともあり、完全に庇護対象でした。
・デジモンたち
総力戦ということで、全員が限界まで進化します。MVPはホーリーエンジェモンですが別項に割くとして、それでもなおピエモンへのトドメは譲らなかった二大究極体や腕力の無いリリモン(いくらなんでも弱すぎ)、運良く最後まで人形化を免れ頑張ったゴマモン、めずらしく激怒して特攻かまそうとしたテントモンなどなど、細かいながら見どころがかなりあります。絵面的には、磔にされたエンジェウーモンがイヤな意味で忘れられませんね。
復活しての総力バトルでは、今まで我慢していたぶんを取り返すようなシーンがいくつも見られました。
私がいちばん記憶に刻んでいるのは、アトラーカブテリモンがトランプソードを破りエンジェウーモンが人形化ハンカチを打破、視界が一瞬遮られたところへ炸裂するシャドーウィングのコンボ攻撃でしょうか。すでにピエモンはガイアフォース一発とエクスキャリバー一発を受けていたためかなり弱っていたと思われるのですが
(イビルモン軍団を出してきたことが逆にいい証拠)、
二大究極体のオマケと侮られがちな彼らがダメージを与えてくれる場面は溜飲が下がるというものです。ピエモンにとっては完全体以下などものの数に入っていなかったでしょうが、いざとなればこんなにも脆いということですね。
勝って当然の力で息を吸うように蹂躙を続けてきた者は、地にまみれることで生まれる強さを知らず…だから苦境に立つとそのまま負けてしまうのでしょう。
負けないという言葉は、勝ち続けるという意味にイコールではないのです。
子供たちもデジモンも、その意味ではスタート地点ですでにほんとうの負けから脱却していたことになりますね。
真の敗北とはすなわち、勝負の外に逃げることですから。
・ホーリーエンジェモン
とうとう出ました、エンジェモンの完全体。02まで通してもわずか数回しか出ていない大天使デジモンです。
成熟期のままでもあの激闘を戦い抜いてきたエンジェモンが進化したのですから、実力は推して知るべし…というか、最後まぎわなのをいいことにやりたい放題のなんでもありな存在です。ピエモンを一撃でたたき落とすわ全員をあっという間に元に戻すわ、一軍団まるごと戦術兵器で葬り去るわ、もう無茶苦茶。おかげで、後年の天使型デジモンがまったく強く見えないという弊害まで発生してしまいました。出番が極小でよかった。いや、極小だからああなったのか。
ホーリーエンジェモン登場をもって、選ばれし子供たちの戦力はマックスレベルに達します。
これだけの戦力を抱える主役集団は、デジモンシリーズでも珍しいほど。それだけ、危機が深刻だったってことでしょう。
そしてそれゆえにか、8体が完全な形で揃ったケースはこの最終決戦以後、二度とありませんでしたっけ。
・アンドロモン
たった一人でピエモンを食い止め時間を稼ぐ見せ場が用意されていました。脇デジモンとしては最大級の活躍でしょう。
このあたりの動画は、当エピソードで一番クオリティが高い仕上がりになっています。というか例によって同じ作品に見えませんが。
・太刀川遊撃隊
土壇場でミミといっしょに到着。アンドロモンともども、雑魚を引き受けてくれました。
どうやら、ユニモンは本当に間際になって加わったみたいですね。
・ ゲンナイ&ケンタルモン
炎の壁を前に不吉なことをいろいろ話していました。
ケンタルモンはどうやら、世界の歪みのほんとうの理由についてゲンナイと連絡を取りながら調べていたみたいですね。
考えてみたら、ゲンナイさんもずいぶんひさしぶりだなあ。
・ピエモン
出口作画ばっかりであんまりいい顔してる場面がなかったというのもありますが、前回までとくらべるとなんかずいぶん野卑です。
セリフ回しも道化っぽさのベクトルがまた変わっていて、違和感があるような。どうにも、急激に弱体化した感じですね。
ダークマスターズのキャラ造形って、ピノッキモン以外はあんまり統一性ない気がします。
あと人形を大量に腰へ下げてて見た目たいへん微妙です。そのくせ一撃で全部外れる。
でもこの能力、効果の発揮までが長すぎて二度目からは通用しませんね。
★名(迷)セリフ
「センサーキャッチ! ウォーグレイモン、左45度だ!」(メタルガルルモン)
こんなことできるんなら最初からやれとツッコミそうになりましたが、40話のバトルはトランプソードが初見のうえ瞬殺だったからなあ…。
数々の戦闘でもてる能力をフルに使えるようになった上、手の内もわかっている今回とは状況がちがいます。
そういえば、鼻先からも小型レーザーが出るんですね。
「あのポーズ…種もしかけもありませんって意味?」(空)
どうでもいいんですが、すぐ後のロングが画面的にみて明らかに大きさ対比おかしなことになってます。遠近法?
「太一さんたちをどこへやったッ!!」 (光子郎)
敵に対するセリフとはいえ、なかなかアグレッシブですね。悪い傾向じゃないな。
「光子郎はんに何するねん!」(テントモン)
こちらも、温厚な彼にしてはめずらしい怒りのセリフ。特攻ぎみなのも彼らしくないです。だが、それがいい。
といってもあの顔ですから、怒ってるってわかりづらいし微妙に笑えてしまうんですが。
「重くて持ち上がらないよ〜」(リリモン)
別にミミのせいじゃなくてリリモンが腕力落ちすぎってだけなんですが。
そのわりに最終話では、すごい勢いでミミをぶん投げてまたキャッチしたりしてますけど。
「バカ言わないで! 進化もできないあんたに何ができるのよ。
ここで今あんたも人形にされちゃったら、命がけでみんなを守ろうとした丈先輩たちに顔向けできないでしょ!?
さあ、行きなさい!」(空)
自分も残って戦うというゴマモンに。すでに丈先輩は人形にされちゃってます。
ここの空は肝っ玉母さんですね。
「いいから、昇って!」(タケル)
空へ伸びるロープへ先にヒカリを昇らせようとしている場面。
太一の影響なのか重圧に半分ハイになってるのか、いつになく強引ではあります。
「(ダメだ…ボクがしっかりしなくちゃ、ヒカリちゃんまでが恐がってしまう……)
エンジェモンなら大丈夫だよ! だから、先を急ぐんだ!」(タケル)
また笑顔を見せましたね。苦しい時の笑顔は、ここで確実にタケルの十八番として確立した感があります。
「ヒカリ!!」(タケル)
あ、呼び捨て。こりゃ相当ハイになってる。無理もないですけど。
「あきらめないよ……最後まであきらめない!
ボクたちが死んだら、この世界も…ボクたちの世界も滅んでしまう…! だから、あきらめちゃダメなんだ!!
エンジェモーン!!」(タケル)
千の絶望を突きつけられても、千と一の希望で立ち上がる。それが希望の紋章を持つものの強さです。
そして今、彼はたしかに男になりました。まだまだあどけない可愛らしさが抜けないけれど、それでも彼は男なのです。
セリフだけ見ると別に変わったこと言ってるわけじゃなく、物語の中であればよく見かける類いですが、裏に重ねられたたくさんのバックボーンや冒険の遍歴が月並みな言葉へ力を与えていますね。この裏打ちの豊かさこそがデジアドの醍醐味。物語って、感じ取るものですから。
「ほんとうの敵は…存在そのものが世界を歪ませる生き物で……
ダークマスターズは、その歪みのせいで力を得たにすぎないそうです……!」(光子郎)
ヤツらの足音が聞こえた。
選ばれし者たちの意志をあまねく世界から消し去らんがために、まつろわぬ霊たちがやって来る。
全ての紋章よ、われらが元に集えと──。
★次回予告
紋章も、子供たちのデータさえをも分解する恐怖の存在がついに現れます。
しかし、恐れてはなりません。見いださねばならないものは、己の内にある…。