新たな世界

 脚本:まさきひろ 演出:今村隆寛 作画監督:八島喜孝
★あらすじ
 「さいごの戦い」のときが来た──。
 明日への希望をつかんだ選ばれし子供たちの前に、最強最後の闇・アポカリモンは斃れました。
 彼らは最後の執念で自爆しようとしましたが、8つのデジヴァイスから発せられた光に封じ込められたのです。

 かくしてデジモンワールドは新たな天地創造をむかえ、大地にふたたび生命が溢れはじめました。
 が、このまま帰ってしまったら時間の流れが違うので、生きてパートナーと会えるかどうかわからない…。少しでもともに長く過ごすためもう暫くとどまろうとする子供たちでしたが、現実世界へのゲートが早くも閉じようとしていました。ふたつの世界の時間軸は同じになったものの、このままデジモンワールドに滞在しつづければ子供たちそのものが異物と判断され、消えてしまうかもしれないというのです。

 思いもかけぬほどに早すぎる別れとなってしまった8人と8匹。それぞれがそれぞれの場所で、想いで、やり方で、別離を惜しみます。
 そんな中、堪えきれずに姿を消したパルモンが最後に取った行動とは……。



★全体印象
 最終話です。タイトルコールは影絵通りならおそらく、選ばれし子供たちとそのパートナー全員。
 最後だけの変則パターンとして、アポカリモン戦が終わった時点での挿入となっています。

 ひさしぶりに見たんですが……はあ。やっぱり最高でした。もうそれしか出て来ません。

 すばらしい最終話ならたくさん見てきましたが、これは現在の私の中でも文句ナシにナンバーワンです。
 見返すたびに、ああ、やっぱり好きで好きでしょうがないんだなと新たな気持ちになります。そういう回。

 …ええ、やっぱりまた泣きましたとも。ええい、逃げも隠れもしないから笑いたいだけ笑ってくれい。

 作監の八島さんは後番の02ですぐにまた作画監督を担当するという大変な仕事ぶりなんですが、よく見ると原画には参加していません。
 どうやら総括と修正に専念し、02のほうをメインにしていたものと思われます。そのせいか、時々まんま直井作画だったりします。
 今村氏の演出も素敵でしたね。名曲・Butter-flyを存分に使って盛り上げてくれました。ラストシーンは今も語り草。
 
 唯一気になったのが、瑣末だけど最後の路面電車から手を振ってるシーンでしたっけ。
 全員を収めようとしたせいか、じっと凝視しなくても騙し絵みたいです。どうでもいいですけど。



★各キャラ&みどころ

・太一とアグモン
 太一は素の表情ってものが前回以上に目立ちました。アクビをしたり、思い出話に花を咲かせてケタケタ笑ったり、軽く涙ぐんだり。
 はかりしれないほどの重圧から開放されて、一気にもとの子供へもどったかのようです。
 でも、冒険で得た経験はたしかにリアルな手応えで彼のなかに蓄積されており、もう一話のころの彼ではなくて……。
 それは他の子供たちも同じですけど。

 アグモンは太一以上に泣かない子でしたね。
 それだけに、48話でまるで太一へシンクロするように浮かべていた涙が思い出されます。


・ 空とピヨモン
 ピヨモンへの心のこもった一言が強く、それでいて優しく心にひびいてきます。
 なにげない触れ合いにこそ、他のどのコンビよりも訴えかけるものがあった二人でした。
 甘えん坊だったピヨモンがどんどん空から吸収し、愛らしさのなかに深い思いやりを見せるようになっていったのも素敵でしたね。

 一話でミミの手を引いたのは空でしたが、結局最後まで引率することになりました。
 でもその時と今回とでは状況はむろんのこと関わりの深さってものに大きな差があるので、ずいぶん違って見えます。


・ヤマトとガブモン
 シードラモンの回あたりはいつもタケルに引っついていたヤマトも、すっかり距離をおくようになりました。
 すったもんだの末、甲斐あってようやくバランスを取れるようになったということなんでしょう。彼にとってはとてもとても大きな一歩でした。後年になってバンド始めたりアストロノーツ目指したりとはっちゃけた事をやるようになったのも、それまでの反動が原因なんじゃないでしょうか。

 そしてガブモンはいつも、なにを語るでもなくヤマトのそばに佇んでいました。まるで何年も前からそこにいたかのように。
 彼にとってはそれが当たり前で、本当はただそれだけでよかったのでしょうけど……気づいてもらえたようでよかった、よかった。


・光子郎とテントモン
 ヤマトほどブッ飛んだ暴走も太一ほどの派手な見せ場もなかった光子郎ですが、冒険には絶対にかかせない存在でした。
 はじめからどこか若年寄なところがあり、ソツのない要領をこころえた前進ぶりは彼らしくとても慎重で、自分というものをしっかり保持したうえでのものだったように思います。でもまあ、それが彼の性格であり彼のペース。でも、ふとした瞬間に得たものの大きさがわかることってあるんですよね。

 テントモンは誰よりも早くそんな光子郎のことを把握し、ある意味より以上ともいえるマイペースさで時にハッパをかけながらも、粘り強くパートナーをつとめあげていました。そしてこの二人を動かしたのは友情を伝える言葉より、体当たりで目の前の未知にぶつかろうとする意志だったように思います。けれど、そうした中にも確実に育っているものはあって…時には確かめあっていました。言葉は少ないし不器用だけど、それもまた二人なりの表現でしょう。


・ミミとパルモン
 最終話のヒロイン。最後でこの二人をもってくるとは、何ともやってくれます。
 最後まで思いっきり喜んで、悲しんで、泣いて、笑って。ストレートで遠慮がなく、それでいてどこまでも陽性で憎めない、まさに花のような華やかさと可憐さで駆け抜けた二人でした。そう、彼女たちふたりの武器は物理的なものじゃなくて、愛らしさだったんです。その愛らしさを保ちつづけるための条件がつまるところ「純真」なわけで、だからこそ打ちひしがれていたデジモンたちの心にも、何かを芽生えさせることができたんでしょう。

 愛嬌ひとつを武器に、闇を吹き抜けた一陣の春の風。それが彼女たちでした。こう書くとなんか凄い。
 そういえば、ミミほど春という季節が似合うヒロインも珍しいかもしれませんね。


・タケルとパタモン
 なんて書いていくと、光とか希望にもっとも近い紋章って実は純真なのかねぇと思っちゃうわけで。
 植物は光を受けて育つものだし、ヒカリを支えてくれたのは純真の因子を持った京でしたから、真逆なようで近かったというオチとか。

 さて、52話でかなり男を上げたタケルですがやっぱりまだ男の子というよりオトコノコなわけで、パタモンと二人して大泣きに泣いていました。でも湿っぽさがなくただひたすらに微笑ましいあたりは、希望の申し子というのもありましょうが、何というか最年少ならではですね。こんなに小さくて舌ったらずな子が頑張ったり気のきいたことを言おうとしても、どうしても勇ましさより可愛らしさが先に立つというか。

 そんなタケルですから02での変化にも、大きなインパクトが狙えたってわけです。
 男子三日会わざれば刮目せよといいますが、それにしても凄い変わりっぷりでした。


・丈とゴマモン
 丈先輩のあの間の悪さはすでに天賦の才といえるかもしれません。
 それはともかく、先輩はたぶん誰よりも視聴者に近いところにおり、また誰よりも「頑張ること」そのものに意味がある人物だったと思います。
 努力してないわけじゃないのに、物事を表面的にしかとらえられないで迷走してしまったり、平均的な学力があるかわりに、自分がどこに立っていればいいのかがわからない。そんな十把一からげの小市民へ育ちそうな彼が呪縛を引きちぎり、枠を踏み越えて奮戦する…これが燃えずにいられますか。

 その丈を引っ張るゴマモンはというと、押しつけがましくなりかねぬ暑苦しさで強引に押すタイプとはほど遠い、のほほん系のお気楽デジモンでした。であると同時に適度なヤンチャと意外な心遣いという一見相反する要素が詰め込まれていて、しかも実は丈によく似ているところもあるという…つくづく、奇跡的に絶妙なバランスで成り立ってるふたりだと実感させられますね。コンビとしての独自性でいえばトップクラスじゃないでしょうか。

 年齢層が上になるほど支持率がふえそうな二人組でもあります。
 そういえば先輩は女性ファンにとり、結婚したい人ランキング上位に入るらしいとのウワサを聞きます。やっぱり誠実だからなのか。


・ヒカリとテイルモン
 ざっと思い返してみると、この二人がパートナーとして友情をたしかめあう場面は特に強調されてません。
 どうも光の紋章の力がヒカリの心とか精神的成長とか、そういうものとは別のところで発揮されてるようにしか見えないし、テイルモン自身がすでに百戦錬磨で且つパートナーに無条件の信頼を寄せているため、ヒカリ自身がどうこうという問題じゃなかった……というのもあるんですけど、正式加入してすぐにダークマスターズ篇に突入したので入れる暇がなかった、というのもありそうです。その分は02で補填しようという肚だったのかな?

 でも、だとするとヒカリはある意味その特異体質だけで激戦を乗りきったことになるのか…ううむ。

 やっぱり02はぜったい必要です。
 でないと、彼女の内面がわからないままになってしまうし…。


・アポカリモンとそれについての解
 なぜ選ばれし子供が8人必要だったのかといえば、最後の最後で全部パアにされたらたまったもんじゃないからなんですね。
 あの時、グランデスビッグバンを封じ込んだのは立方体状の光の檻でした(見間違いでなけりゃ、起点がヒカリのデジヴァイスです。納得)。あれは単に爆発を抑えるためだけのものじゃなく、連中がばらまこうとした因子を最小限にとどめる狙いもあったのだと思います。でも全部をシャットアウトできるわけじゃなくて、それが暗黒の種。ダークマスターズは、暗黒の種を摂取したことであの力を手に入れたのでしょう。

 ところで前の選ばれし子供は5人でしたから、結界は四角錐状だったものと思われます。
 ひょっとすると危機の度合いにより、子供たちの人数ってものも決まってくるんでしょうか? それも単に頭数が多ければいいってものじゃなくて、ある特定の人数によって形成されるなにがしかの式のようなものが、それぞれへ対処するための解として作用するのかもしれません。だから時には奇数だったり素数だったり、もしかしてたった一人だったり、はたまた26人だったり47人だったり11人いたり。ベリアルヴァンデモンのときは100人以上いたかな。

 だから闇の使徒どもにとって一番重要なのは、何よりも人数を削って式を成立させなくすることだという結論になってしまうわけですが…。
 彼らはなぜかそれをしないんですね。なんでしょう、闇の戒律みたいなものがあるんでしょうか?

 何か関係ない話になってしまいました。だってタイトルコール前に退場しちゃうし…。


・その他のデジモンたち
 太刀川遊撃隊がなんか普通に闇の中歩いてきてちょっと吹きだしました。そーいえば、彼らもあの中にいたはずなんですよね。
 アンドロモンが彼にしては気の利いたことを言いだしますが、これも後で02に活かされます。

 そして、はじまりの町にはごっつい量のデジタマが……はらった犠牲の大きさと、停滞の長さがうかがえますね。
 ちゃんとエレキモンのセリフもあります。

 オーガモンはこれで表舞台から姿を消してしまいますが、02の最終話でちらっと出てきてくれました。たぶん同一個体。


・ゲンナイさん
 写真と聞いて身だしなみを気にしてましたが、考えてみたらこの人も本当はイケメンなんですよね。
 ただ若返って何をしたかといえば道案内だけだったので、あんまり意味がありませんでしたが。


・ 結局、何日かかったのか?
 とても長くて短い夏休みは結局、何日分かかったのでしょう? 
 東京篇直前までは数えてたんですが、ダークマスターズ篇の日数経過と距離の間隔があまりにも滅茶苦茶なので、ほうり出してしまいました…とほほ。
 いったい何日で頂上についたのか全然わからない。まるで時間までおかしくなっていたかのようです。

 ただひとつ言えるのは、子供たちがじっさいの夏休みの何倍もの時間を体感し、それ以上の貴重な経験を積んだということだけ。
 それでも一年はいってないと思いますが…せいぜい半年かな?
 


★名(迷)セリフ

「選ばれし子供たちを、甘く見てもらっちゃあ困るな!」(ヤマト)

 無駄にさわやかです。盛り上がりの中にちょっとした笑いをくれました。


「んもぅ! ひっどーい!」(ミミ)
「エへッ。だってアタシ、ミミのデジモンよ?」(リリモン)


 だから、どこにいたって絶対に捕まえてみせる。ラストバトルならではな、最高のセリフです。
 ほんとうの意味で一致団結した子供たちが見せる連携プレイはあのGGGも顔負けなぐらいで、これも最終決戦ならでは。
 それにしても、ミミをぶん投げる直前のカットは大胆どころじゃない物凄いパース具合です。


「そうかな? 我々は滅びる……だが、ただでは滅びんぞ。貴様らを…この世界を巻き添えにしてくれる!」(アポカリモン)

 なんという往生際の悪さ。これほどの執念を、どうして前に進むために使えないのでしょう。
 もちろん、それができない彼らだから永遠に闇を生きなければならないのですが…。
 だから彼らは全てを呪い、全てを恨み、全てを飲み込もうとするのですね。

 自爆は日本の物語においてよく自己犠牲の代名詞みたいに使われますが、それはその人が死の先にあるものを信じ、礎となることを受け入れているから。
 彼らの自爆は自分の不甲斐なさを棚に上げ、礎となることさえ拒否し、ただ未来を殺すためのものでしかありません。
 死ぬなら一人で死ね、他人を巻き込むなって感じですね。 冷たいようですが、そもそも「はい、そうですか」と死んでやる義理などありません。


「自爆しやがった!」(ヤマト)
「ぼくたち、これで終わりか!?」(丈)

「そんなのイヤー!」(ミミ)
「終わりじゃない…!」(タケル)
「終わりなもんですか…!」(光子郎)
「終わらせない…!」(ヤマト)
「終わってたまるか……!!」(太一)
「絶対に…!」(丈)
「だって…!」(空)
「わたしたちには…!」(ヒカリ)
「明日があるから!」(選ばれし8人の子供たち)


 だから彼らは、決してこの子たちに勝てない。
 未来を信じられない者が、どうして明日を信じて生きる者に勝てるでしょう? 勝てるわけがないではありませんか。
 まして、子供といえば無限大な夢をかかえた未来への希望を象徴する存在ですよ。

 もしも勝ちたいなら、同じ土俵に上がるしかない。闇から抜け出す以外にないんです。
 でも、彼らにはそれができない。堂々めぐりなのです。

 永遠の負の螺旋。その脅威と、人はきっと千年よりももっと前から戦ってきたんでしょうね。
 さまざまな形、さまざまな意味において。

 ところで、さりげにヤマトがタケルの肩をしっかりと支えていますね。兄貴っぽいぞ。まあ太一もヒカリに同じことしてますが。


「いつぞやアグモンがスカルグレイモンに暗黒進化したとき、間違った進化と言ったことがあったが……ありゃあ、
 お主たちの目的からはずれるという意味で『間違った』進化と言ったわけで。進化そのものに、正しいも誤りもないのじゃ」(ゲンナイ)


 進化というのは切り開かれた道ですからね。「生物はみずから道を探す」なんていう、映画に出てきた言葉を思いだします。
 その道なき道を最初に踏み出した者にとっては、もしかするとこれ以上ないほど正しいルートだったのかもしれないのです。
 そして純粋な強さよりは、より前に進むための工夫をできた者が先へゆける、と。


「そんなことない……そんなことなかったよ、ピヨモン……」 (空)
「……それ、やっぱり手だったんだ?」(丈)
「……そう思う? 僕も、そうなったら……。……。」(光子郎)
「今度も信じて……!」(パタモン)
「……また聞かせてくれないかな? ヤマトのハーモニカ…」(ガブモン)
「…ヤマトのやつ…」(太一)
「うん。…またね」(ヒカリ)

 このへんまで来るともういちいち言葉で伝えるよりとにかく見てくれ、感じてくれとしか言えません。
 7話から生きてくるつながりとか思わずノーパソひっくり返す光子郎とか別の意味で突き抜けちゃったヤマト組とか涙を隠す太一とかなんか受信してますかヒカリ様とか、小ネタもいろいろあります(最後のは何だ)。

 ともかく、このへんはもう……本当に、ね。一年見てきてよかったと、心から思いました。


「ミミ、ミミ〜!」(パルモン)
「パルモーン!」(ミミ)
「ミミー! ごめんなさーい!」(パルモン)
「いいの、いいのパルモン! さよなら! ホントにありがとう!!」(ミミ)
「さよなら、ミミっ! あっ…!」(パルモン)


 コメント不要。これぞ正真正銘の名シーンだと思います。日本のアニメ万歳。


『8人の子供たちの夏休みの冒険は終わった。
 しかし、ゲートは閉じたままというわけではない。なぜなら選ばれし子供たちの冒険はこれが最初でもなければ、終わりでもないからだ。
 デジモンワールドへのゲートはきっとまた開かれる。デジモンたちのことを忘れていなければ、それを望んだとき、心の中に。

 …いや。ひょっとすると……』(ナレーション)


 余韻のあるラストです。これも結構な名文句だと思いますね。



★一年を振り返って
 DVDボックス入手を契機にはじめた回顧録ですが、思った通りベタ褒めの嵐になってしまいました。
 しかしまあこれも想定の範囲内というやつで……お読みいただいた方、おつきあいいただいてありがとうございます。

 誰もが一度は憧れる冒険にセンス・オブ・ワンダーが惜しみなく注ぎ込まれて絡まった、ほんとうに不思議な作品でした。今回の視聴でもまた新たな発見や、推測のいくつかを立てることができましたね。それだけ深い世界ってことです。そしてキャラのみに偏らず、ストーリーのみにも偏らず理詰めにもなりすぎずで、シリーズ四作中でもっともバランスの取れた仕上がりになっていたと思います。
 次回作ともなるとこの基本を崩すところから始めなければならないので、さぞ困難だったことでしょう。

 さて、すぐに02の感想も書き始めたいところですがこれから年末だし、仕事もちょっと忙しくなりそうなのでしばらく休みます。
 何より、新作の胎動が刻一刻と大きく感じられるので気になってしょうがありません。その時はそっちへ力を入れねばなりませんし…さて。


 いやー、けっこう大変だったけど楽しい一年でした。
 ありがとう、選ばれし子供たち。