デジメンタルアップ |
脚本:吉村元希 演出:吉沢孝男 作画監督:信実節子 |
敵の勢力は強大でした。かなり訓練されているのか、技が通用しません。
しかも、カイザーは進化できないパタモンとテイルモンを集中的に狙ってきます。歴戦の彼らも力の大半を失った状態では、
なすすべなく逃げ回るのみ。伊織はデジメンタルに勝負をかけるべく、ヒカリとタケルを伴って戦線を離脱します。
必死でたどりついた洞窟に、果たしてふたつのデジメンタルが安置されていました。刻まれている紋章は希望、そして光。
タケルとヒカリが近づくとどうでしょう、二人のデジヴァイスが大輔たちと同じものに変化していくではありませんか。
ついに、パタモンとテイルモンがアーマー進化することができるようになったのです!
大輔たちの危地に馳せ参じ、強力な合体技でティラノモン軍団を破るタケルとヒカリ。もう足手まといではありません。
危ういながらも勝利を得て意気あがる五人でしたが、傲慢なデジモンカイザーへの怒りはつのるばかりでした。
みずからを完璧な人間と名乗り、デジモンの王を僭称する彼はいったい、何者なのでしょう?
闇の中でキーボードを弾く冷たい瞳の天才少年、一乗寺賢。その裏の顔を、今はまだ誰ひとりとして知りません。
ただひとり、いつも側に寄り添う小さなワームモン以外は……。
★全体印象
3話です。題名コールは山本泰輔さん(タケル)と荒木香恵さん(ヒカリ)の合唱。
タイトルバックには、希望と光の紋章が敷き詰められている上にヒカリとタケル、およびそのパートナーが並んでいます。
見てわかるとおり、最大のポイントはパタモンとテイルモンのアーマー進化です。ぶっちゃけ、そのための回。
前作組となるヒカリとタケルがメインでほかの01キャラは不在ですから登場人物も少なく、前2話ほどの密度はありません。
デジモンカイザーの正体が視聴者にのみ明かされていますが、OPと前情報でバレバレなので重要事項というほどではないでしょう。
とはいえ原画に竹田欣弘氏が参加していることもあって、絵関係はかなりゴキゲンです。
序盤としてはバトルの比重が多めなエピソードなんですが、それに耐えられる仕上がりになっているといえましょう。
肝心のぺガスモンとネフェルティモンの活躍がすぐ終わってしまうので、やや食い足りない面はありますが。
また新進化お披露目のためとはいえ、登場したばかりのフレイドラモンたちにワリを食わせすぎなところはあります。
あとから来た2体があっさり勝っているからなおさらでしょう。この手の流れはゆえに諸刃の剣といえるんですが、
フロンティアあたりの崩壊ぶりを思えばまだまだ大したことのないレベルかもしれません。
そう考えるとセイバーズは兄貴ばかり目立ってるように思わせて、結構うまくやってたんですね。
脚本はシリーズ構成のもう片方、吉村元希氏。最近はゲキレンジャーで名前を確認できます。
23話など、心理描写で光るところを見せていましたが今回はわりに淡白な筋運びかも。
そういえば前川氏、吉村氏ともどもフロンティアとセイバーズには参加してませんね。後者はともかく前者は謎です。
逆にフロンティアから大和屋氏が復帰しているのは興味深いところ。
そのフロンティアまで皆勤だった吉田玲子氏とまさきひろ氏ですが、セイバーズには全く関与してなかったりします。
書く人が変われば当然、作品のカラーも少しずつ変わってくるということですね。
★各キャラ&みどころ
・大輔
まだ3話だというのにあんまり目立ってません。こ、こんなんだったっけ……(^_^;)
真っ先にカイザーへ突っかかっていったり、熱血漢らしいところはアピールしているんですが、
その一方でヒカリにスルーされたりと、ムサシ分までも順調に蓄積されています。
まあ、4話ではもうちょっと語れるでしょう。
・チビモン→ブイモン→フレイドラモン
前半でチョコレートとの邂逅を果たし、愛嬌をふりまいていましたが後半はあまりいいところ無し。
今は大輔たちもまだ自宅に連れ帰ってるわけじゃないようですね。
・京
のど元過ぎればなんとやらと言うべきか、2話であれだけ怖い目に遭ったというのに軽いノリへ戻っていました。
パートナーが側にいればある程度は大丈夫という安心感が相殺してくれたんでしょうか。
今回はかなりやばい状況だった気がしないでもないんですが……。
あるいは脚本担当の変化によるものなのかもしれませんね。
家がコンビニという設定は今回から明かされたものですが、皆すでに承知のうえだったようです。
下校タイミングがいっしょなら、別れる時にすぐわかることですしね。特に同じマンションであれば。
持ってきたお菓子はたぶん、在庫余りってところでしょう。
賢についての第一印象は芳しくないようです。この時点ではまさか後に結婚することになるなんて夢にも思ってないでしょう。
デジモンカイザーについては当然、もっと悪印象を持っているわけで……人生ってわからないもんですね。
・ポロモン→ホークモン→ホルスモン
前半で奇声をあげていましたが後半は忍の一字。
そんな中でも得意技ウジャトゲイズを披露していたり、見所が無いわけではなかったりします。
よく見るとそれでティラノモンの動きを止めたりしてるんですが、意外とわかりにくいですね。
序盤3話はとにかく頭数を揃えることを目標にしているためか、いろいろ無茶をしている気がします。
せめて京と伊織は一話ずつに分けてもよかったんじゃないかと思うんですが、そうもいかないんでしょう。
・伊織
父親の伏線とセットでトマトが嫌いという個人的嗜好が明かされたり、出たからにはちゃんと食べようとする律儀さが描かれていたり、
危機に陥っても冷静さを保っていたり、光子郎がいない分を補ったり、なんだかんだで今回はいちばん立っていたように思います。
タケルとヒカリが半分先代キャラなぶん、彼ががんばったということでしょう。
ひそかに抱いている内心の葛藤は、のちのちにおいても活かされることになります。
・ウパモン→アルマジモン→ディグモン
ウパモンの演技が伊織ともアルマジモンとも違っていてこれがまず凄いです。プロだ。
ディグモン時には得意技・ビッグクラックを披露しました。ティラノモン数体の足止めに成功し、一定の戦果をあげています。
そういえば、02になってからはパートナーと離れて戦うケースもけっこう増えたような。
・タケル
デジメンタルを得たいわば見せ場の回なんですが、前話につづいてふたり同時パターンなうえもともと前作キャラなので、
かなり薄いアーマー体デビューとなっています。むしろ伊織や京のほうが書くこと多いくらい。
これも3話で頭数を揃えようとしたゆえの弊害ということでしょうか。
・パタモン→ペガスモン
アーマー体への進化能力を得たわけですが、これも確か古代種のデータを継承していたかららしいですね。
対抗手段を増やすために、デジヴァイスをアップグレードさせてまで駆り出されることになったというわけです。
ここに今作のデジタルワールドにおける余裕の無さというか、そんな雰囲気が感じられますね。
あの世界的にはほんとうに急場しのぎだったんじゃないでしょうか、アーマー体って。
暗黒デジヴァイスの力に引っかからないのも従来の進化とパターンがあまりにも違うからでしょうし、
それゆえに対応もされづらいだろうという、両得の効果をねらっての措置だったのではないかと思われます。
なかば狙いどおり、カイザーは進化を封じようとはせず強いデジモンをもって対抗しようとしていましたからね。
さて、希望のデジメンタルで進化したペガスモンはホルスモンにも匹敵する芸達者。合体技まであります。
ただネフェルティモンとセットという印象がつよいためか、単体でこれというものを持っていません。
エンジェモンのインパクトが強すぎたというのもあるでしょう、損をしている形態ですね。
かわりに両方ともがパートナーを乗せやすかったり、パワーより汎用性、使い勝手のほうが目にとまりますね。
そういえば、近作のデジモンストーリーでもアーマー進化があり、パタモンも対応してますがペガスモンは出ません。
狙ったように、ネフェルティモンも出てきません。他メンバー2種のうち片方がいないのはまあ仕方ないとしても
語弊を覚悟で言えば、カブキモンやピピスモン出す前にやることがあるのではないでしょうか。
・ヒカリ
こっちも案外と目立ってませんねー…。
大輔へのスルー技能だけがアップしていて、はじめて見る人には印象を悪くしてしまっているかも。
ああいう性格って、うまいことやらないと嫌われますから……
実際、02になってから急にタケルとヒカリへの厳しい意見が増えてきたように記憶していますし。
・テイルモン→ネフェルティモン
すっかり弱体化してパタモンと同列。あんなに鍛えてたのに成長期並だなんて、姐さんにとっちゃ屈辱でしょう。
あれでも成熟期なんですよ、彼女。
進化したら進化したで夢に出てきそうな仮面つけてて、微妙に怖いです。怖いですネフェルティモン。
外見と特異な必殺技のため、ペガスモンよりは印象が強いですね。また、二体ともパートナーを乗せやすい点が大きいでしょう。
合体技サンクチュアリ・バインドはアニメならではの攻撃で、一定時間であれば完全体の動きさえ封じられます。
成熟期なら五体くらいは難なく縛りあげられるようですね。地味ながらかなり鬼の威力ではありますまいか。
当然ながら二体そろってないと使えないので、対アンドロモン戦など出せなかった局面もあります。
なお、ネフェルティモンも後年のシリーズで再登場を果たしている主人公格のアーマー体です。
ディグモンの印象が強かったせいか、すっかり忘れてしまっていました。まったく恥ずかしい話ですよ。
こんなことでは、デジモンアニメフリークの名が泣くというものではありませんか。
・先代の子供たちとパートナー
継続組のタケルとヒカリ以外はいっさい出てきません。序盤ではわりとめずらしいパターンです。
まあタケルとヒカリ自体が先代みたいなもんなので、これ以上出しても使いどころありませんが。
・デジモンカイザー
前話まではむしろ、デジタルワールドにやって来た子供たちへ「ゲームを仕掛ける」立場だったように見えるのですが、
今回は大輔たちの存在そのものに不快感を表明し、積極的に排除しようとしています。あれれ。
脚本の不一致からくるものなのか、彼の情緒不安定ぶりを表現したものなのかはわかりません。
直前までデジモン狩りや闘犬ならぬ闘デジモンを楽しんでいたので、興をそがれて機嫌が悪かったのでしょうか。
そしてどうやら、選ばれし子供とは完璧な人間でなければならないという固定観念を持っているようですね。
今にして思えば、それはきっと兄の影響なんでしょうが……ま、このあたりはいずれ。
・ワームモン
前半のみの登場。後半は賢ちゃんが単独で動いていたので出番がありません。
パートナーが自分を顧てくれないから進化もできず、だから逆らおうにも正そうにも力が無くて見ているしかできない状態です。
彼はずっときっかけを待っていたんでしょう。
・ティラノモン軍団
今回の走狗デジモン。5体も出てくると、体躯のボリュームですごい迫力ですね。
不意打ちではなく、わざわざ真正面から出してきたところからみて、そうとう調教されているとみていいでしょう。
パワー、スピード共に単体でもフレイドラモンを翻弄するほどのものがありました。
特にナックルファイアを尻尾で迎撃するシーンなど、あらかじめ想定した上で訓練されてなければできない芸当だと思います。
そのうえ数で勝っているとはいっても、フレイドラモンたち三体ともを退化させるまでに追い込むのですから相当のものですね。
この5体、カイザー自らが手塩にかけた精鋭集団だったんじゃないでしょうか。そんな気さえします。
完全体の制御へ腐心するようになるにつれて、強い成熟期集団はあまり出てこなくなりますし。
シナリオの都合と言ってはいけません(^_^;)
・エレキモン、ゴツモン、タスクモン
カイザーがデジモン狩りに興ずる場面で登場したデジモンたちです。タスクモンはカイザーの乗騎として働いてました。
デジモンカイザーがやっている事を端的に示すシーンなんですが、出てくるデジモンがデジモンなので
状況のわりになんだか笑ってしまう絵面だったような。
★名(迷)セリフ
「なんだか先が思いやられる……」(テイルモン)
あまりにも脳天気な後輩たちへ一言。あとたぶんパタモンにも。
苦労してるんだけど苦労性をあまり感じさせないのが姐さんのポイントですが、ホークモンとはまあ気が合ったでしょう。
もっとも、このとき目の前で奇声をあげていたのは他ならぬホークモンの幼年期なんですが。
「いえ、やはり食べ物を残してはいけません。亡くなった父もそう言ってました」(伊織)
ここでは彼の律儀さの再確認にトマト嫌いという嗜好、そして父親がすでに故人であるという事実、以上三つのことが示されてます。
特に父親については、後にもかかわってくるたいへん重要な事項といっていいでしょう。
プチトマトを割ってしまったときのものすごく嫌そうな顔がポイント。こんなに美味しいのに伊織は嫌いだと言う……。
半ばうんざりしたかのような先生の顔も印象に残っていますね。
ところで給食のすぐ後ということは昼過ぎということになるし、土曜ですかね。
あれ、でも02の頃ってもう週休二日でしたっけ?
ちなみに私は給食大好き派でした。まあ一番消費してたのは牛乳ですけど。日に五本はいけたな。
最近の給食は美味しくないのかなあ?
「ふん。ちょっとしたプログラムくらい、あたしだって書けるわよ」(京)
そういえば、これが賢への最初の反応だったなあ(^_^;) まさか(以下略)。
ここで「組む」じゃなく「書く」という言い方をするのがさりげなくそれっぽい。
と、いう意見をどこかで見ました。
「靴が汚れる……!」(賢)
序盤の賢の傲慢さ、冷酷さを示す場面ですが、どうもこれを見ると
「な、何をするだァーッ! ゆるさん!」と続けたくなってしまいますね。ボギャア。
のちのお話で別のキャラがまんま反復したときはどう反応していいやらわかりませんでした。アレ笑うところなのでしょうか。
「賢ちゃん…賢ちゃんは、これで満足なんだよね……?」(ワームモン)
カイザーはいつもデジタルワールドにいるわけではないのだし、離れようと思えば離れられたはずです。
それをせずにずっと側にいるということは、やはりどうしても思い切れなかったのでしょう。
歌の歌詞にも出てきたように自分でもわからないレベルの気持ちで、つまり理屈じゃなかったんでしょうね。
「同じ扱いじゃいけないのかよ!!」(大輔)
あ、また「同じ」が出てきた。
本質的には相手も同じ子供だってこと、当初から主張していたのはやはり大輔だったんですね。
だから21話の発言があるし、ひいては最終話にもつながってくるのか。
「選ばれし子供というのは、僕のように完璧な人間のことをいうんだ! 君たちじゃない!」(デジモンカイザー)
もちろん、そんな設定はありません。彼が勝手に言っていることです。
そもそも傾向からいって、選ばれし子供たちに求められていたのは個性の相乗、可能性の多様化だと思いますから、
個としての完璧さはむしろどうでもいいというか、あっても無くてもいいものなんじゃないでしょうか。
後からついてくるというか。
のちにその多様性が世界中に拡大することで、デジタルワールドはあらゆる危機へ対応することさえできるようになるはずですが、
カイザーの主張は思いっきりその未来へ逆行しています。いや、逆行するよう誘導されたのか。
完璧ということは全てが同じになるということであって、あとには停滞が待っているということですもの。
いわば完璧という名の死です。
そしてそこにこそ、闇のつけいる隙があるんでしょう。
「うん。これでもう、足手まといじゃないね」(タケル)
このへんのペガスモンに抱きつく仕草を見るにつけ、タケルは主役にゃ上品すぎるなあと思うことしきりです。
もし大輔がいなかったら彼の属性を同時に持たされていた可能性はありますが。
それにしても表情が一切動かないネフェルティモンが怖いです。
「本ッ当にムカつく奴だな〜!!」(大輔)
「あの子許せない! 進化できない弱い相手をねらい撃ちにするなんて!」(ヒカリ)
「同じ人間とは思えない」(タケル)
「あいつ、ムカつく〜」(京)
「あの人はいったいなんなんでしょうね」(伊織)
ひととおりカイザーの主張を聞いた上での各人の感想です。のちの賢ちゃんが見たら顔面蒼白になりそうな語録ばかり。
伊織だけマイペースというか、疑問を呈するかたちで知識の人っぽいですね。
あとタケルがなにげに一番ひどいこと言ってます。
(でも、人と争うなんて僕には向いてない……)(伊織)
ひそかな葛藤。ブラックウォーグレイモンや、悪のかたまりのようなデジモンにさえ向けられがちな感情です。
これは本質的に、人や人の心を持つものの善意の中で生きてきた彼らだから持てる感情なのかもしれません。
だから悪意や敵意、殺意には鈍いし、自分がそれを持つなど考えられない。02の子供たちともなれば格別です。
ですが、だから悪いということにはなりません。必要ならば学べばいいし、知らなくていいものは知らなくていい。
人は結局みずからの知るところしか知らず、だからこそ多様性が、力を合わせ補い合うことが大切なのですから。
すでに世界でさまざまな選ばれし子供が現れはじめている以上、大輔たちのありようはひとつの形でしかないのだと思います。
★予告
第1クールの谷間といえる回がめぐってきました。シナリオ作画演出ともにどれもいまひとつ。
光るのはやはりブイモンのケナケナか。