ダークタワーを倒せ |
脚本:吉田玲子 演出:芝田浩樹 作画監督:伊藤智子 |
ともあれ雪原を渡るため、子供たちは即席の橇で移動を開始しました。
いちはやく察知したデジモンカイザーの指揮で、迎撃をしかけてくる黒い輪のデジモンたち。その場はかわすものの、
伊織が河に落ちてしまいました。凍える彼はそれでも同行を申し出ましたが、皆の説得で丈と残ることになります。
パートナーが稽古を切り上げてまで駆けつけたと知り、伊織へ謝るアルマジモン。
丈は語ります。選ばれし子供といっても、何をすべきか選んでいるのは自分なのだと。
そこへ、分散した隙をねらってデジモンカイザーが襲いかかってきました。
満足に立ち回れぬ伊織をかばって奮闘するディグモンですが、ついに水中へ引きずり込まれてしまいます。
そのとき、ダークタワーが倒れました。先行していた大輔たちが、塔の破壊に成功したのです。
チャンスを生かしてゴマモンを進化させ、ディグモンを救出する丈。イッカクモンの角が唸りをあげ、敵を制しました。
一連の顛末を経て、伊織はすっかり丈に懐くことになります。丈もそんな後輩に、頼もしさをおぼえるのでした。
★全体印象
5話です。アップで迫ってくる伊織とアルマジモンの影絵が今回のタイトルバック。
後ろのゴチャゴチャは、いろんなキャラの線画を白抜きにして光彩処理したもののようですね。わりに珍しいパターン。
タイトルコールは浦和めぐみさん。この声は伊織としてのものでしょう。
前回がダークタワーの役割を説明するものだとすれば、今回はそれを踏まえ、ダークタワーを倒すことを目標に行動する
子供たちの作戦を描くのが目的。加えて、4話ではいなかったデジモンカイザーも参加しているので
前回までの展開を総合した完成形、毎回の流れのベースが確立された回ということができますね
(ただしカイザーは陣頭指揮を取っていただけで、直接対決というほどお話の流れにはからんできてません)。
上記にあわせて伊織とアルマジモン、丈との交流も描かれ、それが雪原という舞台装置を利用して過不足なく料理されています。
序盤のエピソードとしては、秀逸なものといえるでしょう。02の初期がどんな感じかは、これを見ればわかるようになっている。
さすがに吉田玲子さんといったところです。
作監は伊藤智子さん。シャープな表情描写で、01のとき以上に印象を刻んでいる作画さんです。
カイザーの顔などは、前の4話にくらべてかなり怖いものに仕上がっていますね。虫も思わず縮み上がるってもの。
この5話はさらに演出も良好なので、きわめてバランスが取れているといえます。毎回こうならいいのですが……。
同じ枠のスタッフでも、年々ノウハウ積んで良くはなってるんですけどね。
★各キャラ&みどころ
・大輔
出番はそんなに無いんですが、それでもちゃんと目立ってはいるのがいい感じ。
ヒカリLOVEな部分とかお調子ものな部分とか、くどくならないよう適当に流しつつ、手慣れた具合で描かれてます。
これは脚本のおかげ? それとも演出? いや、たぶん両方が奏効した結果なのでしょう。
戦闘や進化バンクも確保されているし、基本は彼が主役なんだよというアピールはされていますね。
うん、今までならば一番いいかもしれません。一話はまあ例外として。
・ブイモン→フレイドラモン→チビモン
全編通してはあんまりしゃべっていません。が、最後のほてほて走りで全部持っていきました。
愛らしすぎます。
・京&ポロモン→ホークモン→ホルスモン
こっちもそんなに出番ないんですけど、仕上がり具合はいいですね。
なにぶんキャラが多いアニメなのでどうしても各人の割り当てが減ってしまうんですが、その範囲でうまくやってる気が。
ちなみに、今回ダークタワーを倒した決め手は彼女たちの攻撃です。
・伊織
今回のメイン。先輩との交流+キャラとしての掘り下げという意味では、いちばんいいお話をもらったといえましょう。
少なくとも、4話よりはしっかり消化された内容です。6話はギャグなのでちょっとベクトル違いますが。
彼、地味だ地味だってよく言われますけどこうして見たら、新規組ではもっとも立ってた人物だったのかもしれませんね。
及川との因縁という重要な役割ももらっていましたし。
もともと、妙に落ち着いた不思議な雰囲気や律儀というよりストイックな面、それを具現化したような剣道少年ぶりに、
大きな先達としての祖父の存在と、お話をつくりやすい要素がそろっているキャラなのだと思うのです。
ジョグレスのために取られた準備期間も、いま思うとその成否はともかくとして、かなり長いものでした。
ひょっとしたら、構成のお気に入りだったのかもしれません。
・アルマジモン→ディグモン
前半でめずらしく拗ねていました。こんなケースはなかなかありません。
そういえば、パタモンも01の話ですが、パートナーに対し臍を曲げた数少ない例として挙げられます。意外な共通点。
だからジョグレスできたのか…な?
進化バトルは後半。パートナーをかばいながらの不利な戦いを、一瞬の隙に切り返すシーンが最大の見せ場です。
このとき伊織をしっかり抱えていたのが腹の補助腕。使っている間も両腕はフリーなので、相方を輸送しつつ
自由に攻撃を仕掛けることができます。しかもこれならば、あの不利な体勢からでも一発逆転がねらえる。
昆虫型でなければできない芸当です。能力をうまく活かした、隠れ名シーンだと思います。
もともとあの補助腕は、前足を穴掘りに特化させたぶんだけ退化した部分なんでしょう。
または大きな岩をつかんで脇や後ろへどけるための補助かな。意外に器用そうではありますが、細かい作業には向きますまい。
にゅーっと伸びて小さな石を取り除けたりできるかもしれませんが少なくとも、本編にそういう描写はありませんでした。
・タケル&パタモン
伊織と丈を除く他メンバーと同等の出番のなかで、彼ひとりコレというものが見当たりません。
なかなか難儀な人物です。描くうえではたぶん6人のなかで一番むずかしいんじゃないでしょうか?
強いて言えば、大輔の後ろで戦況を見ながら作戦を決めるシーンが挙げられましょうか。
主役突っ走らせてその後ろから行動を開始するというと、なんだかトーマみたいです。
・ヒカリ
あの服装で雪山でも平気と断言してのけるとは剛毅にもほどがあります。
腕がある程度覆われてるとはいっても肩が出てちゃあなんにもならないし、そもそも下があれじゃあ。
言い出したらきりがありませんけど……バンクの都合だってあるわけだし。
その意味では、ちゃんと着替えてるうえにバンクまで描きわけてる女児アニメのほうが気を使ってるといえますね。
着ぐるみが一瞬で戦闘服になって噴いたこともありますが。
しかし前回ほどではありませんが、大輔にはあいかわらず物言いがキツいというより、遠慮ありませんね。
このへん、気が置けなくて素直にものを言える相手だから……つまり、大輔だから本音をいえるという
好意的解釈の意見も見かけますが、本当のところは不明。というか、文字通り解釈するしかないパートです。
・テイルモン
アルマジモンに声をかける場面で、あきれたような困ったようなお姉さんっぽい顔をしていたのがなぜか心に残ります。
今回はそこくらいしか見どころないんですが。
・丈
『いい先輩』として大きくポイントを稼いだお話です。
性格上、一歩引いてあんまり前へは出ないですし、最年長というのも手伝って落ち着いているから存在感も確保。
まあ前作キャラだから後者は当たり前として、前者はシナリオ上においてもうまく働いてくれる部分です。
そんな彼の言うことだから、大輔も納得して素直に従っていたようにすら見えました。
前回と違ってちゃんと敬語でしゃべっていますし、4話はなんか悪いものでも食っていたにちがいありません。
あれこれ用意してきてる気遣いのよさは前作後半からあらわれてきたものですが、このお話は特に顕著。
描かれてませんけど、あの橇も彼が設計指示したのものなのでしょうか。
・ゴマモン→イッカクモン
あいかわらずの可愛らしさを発揮してますが、前半はボロボロ。12話のピヨモンほどじゃありませんけど。
第一発見者が京ということは、みんな特徴くらいは聞いていたのかな。
なんだかんだで後半にも見せ場があったりします。
エビドラモンのほうのトドメ役は彼が持っていっていたりするし、ちゃっかりしてますね。
あの場合は敵が2体で、片方をディグモンが制したからいいんですけど。
それにしても02になってからの彼らは完全体をあまり見せなくなった代わり、成熟期なら長くなっていられるようですね。
パートナーと離れていても、ほとんどデフォルト状態で活動しているとしか思えませんし。
ダメージを受けすぎると戻ってしまうのは変わらないようですが、彼らも成長していると見るべきなんですかね。
・火田主税
伊織の祖父。剣道の師匠でもあり、その腕はかなりのものがあるようですね。
一方で伊織の微妙な変化を見抜いたりと、孫のことを可愛がっていることがよくわかります。
あの迷セリフから厳格というほどのイメージは無いんですが、そのへんにもきっと過去が原因しているのでしょうね。
硬軟とりまぜた印象へもうひとつ貢献しているのが、やはり大御所・富田耕生氏の声でしょうか。
シリアスな時は端正に、ギャグの時はコミカルに響き、そのどちらにも豊かな人間性を感じさせる独特の声質は
まさに伊織のお爺さんそのもの。半分以上は富田氏の力量が作った人物と言えるかもしれません。
後半にも出番があり、物語の縦軸的には重要な人物のひとりとなります。
・デジモンカイザー
上記のとおり顔は怖いんですが、裏をかいて弱った方を襲ったつもりが時間かせがれて反対に裏目と出たり、
微妙に間抜けな回でもあります。自身は塔の守備を指揮して、かわりに伊織たちへ向けるぶんを増やせばよかったのに。
そのへんを虫に忠告されてたんじゃないかなあ。
そしていつも通り、手下が一掃されるころにはいつのまにか顔さえ見せません。すごい逃げ足の早さです。
要塞には直通の通路でもついてるんでしょうか?
・ワームモン
去りしなに、傷ついたゴマモンを気遣うように見やってゆくカットが印象的な今回。
しかし上着を差し出してはしばかれ、なにか言っては怒られ、黙っていても怒られと、ソッチ面もオンパレードです。
特に最後のはほとんどコントで、そのあたりのおかしさが奇妙な哀愁にもつながっているのでしょう。
とはいえカイザーのもう一つの目でもあるわけで、大輔たちの襲撃をいち早く賢ちゃんに教えたのも彼なのですが。
むしろ助手としちゃ、よく気がつくけっこう有能なほうなんじゃ……パートナーなんだから当たり前ですね。
・ユキダルモン
走狗デジモンその1。壁のように立ちはだかって絶対零度パンチの一斉掃射という、なかなか壮観な攻撃をしてきました。
しかし所詮はあやつり人形ということなのか、言われたことしかできないようです。数で勝っているにもかかわらず、
フレイドラモン一体にこてんぱんにやられてしまいました。相反属性が苦手なのはお互いさまなのに。
結果的にこれで大輔以外の三人の手が空き、ダークタワーへ集中攻撃を受けてしまう要因となります。
賢ちゃんの作戦ミスですね。
・シェルモン
走狗デジモンその2。
体調をくずしまともな作戦行動が取れない伊織と、進化できないうえ負傷しているゴマモンをかかえた丈を襲いました。
しかし攻撃は自重を活かした張り手がメインで、必殺技はあまり使っていません。
ハイドロプレッシャー食らったら伊織は完全に風邪をひいたところでしょうから、良かったというべきかな。
最後は上記のとおり、昆虫型の身体的特徴を利用して伊織を抱えたまま反撃に出たディグモンに輪を壊され、退場です。
01にも出てきたデジモンですが、そのときに比較すると印象は弱いでしょう。
・エビドラモン
走狗デジモンその2。
水中から伏兵ぎみにサプライズアタック、シェルモンを制して気をゆるめたディグモンを水中へひきずりこみました。
まだサブマリモンにはなれない伊織組にとって、くみしづらい相手。ここでイッカクモンの出番というわけです。
退場の決め手はハープーンバルカンですが、メイン敵にもかかわらずリングが割れるカットはありません。
そのため、普通に倒されたように見えますね(^_^;)
かなりマイナーなデジモンで、メイン敵として出てくるのはここぐらいしかありません。
しかもあまりに短い出番なので、必殺技を出すヒマすら与えてもらえませんでした。それでも出ただけマシですが。
でもデジモンストーリーに登場したときには、ちょっと得した気分になりましたね。
・ギザモン
前半で大量に登場、牢獄(デジモンたちを収容するためのものでしょう)の建設に駆り出されていました。
01ではヴァンデモンの手下、今回はカイザーを恐れるあまりに庇ってくれたゴマモンを攻撃と、あまりいい扱いではありません。
やっぱり悪人ヅラなのがいけないのでしょうか。
労働力としてのカテゴリだったのか、ダークタワー防衛戦には参加していません。
当然、ダークタワーの破壊とともにリングから開放されたことでしょうが、イッカクモンにはあわせる顔がないでしょうな。
★名(迷)セリフ
「伊織。お前も……チューチューするか?」(火田主税)
とりあえず、これは外せません。
そのあと一転してシリアスなこと言うんですが、変わりっぷりが鮮やか。
力のある役者さんは物語の出来をも左右するものですが、富田氏のようなベテランの声を聞いてるとつくづくそう思わされます。
ちなみにチューチューとは言うまでもなくチューチューゼリーのことで、原型はウィダーinゼリーと思われます。
アルマジモンの歌にも出てくる、意外に露出度のたかいシロモノ。
「なんか偏差値高そうって感じ♪」(京)
初対面の丈に。
シュウ兄さんといい、彼女は頭がよさそうな男には弱いようですね。光子郎のことも尊敬してますし。
その意味じゃ賢ちゃんはじゅうぶん合格、でしょう。いろいろ抜けた後も成績はよかったはずですから。
「選ばれし子供たち、出動ーッ!!」(京)
セリフだけなら前回が初ですが、ポーズ付きは今回がはじめて。最初とあって大輔が引くほど気合いれてます。
メガネまでキュピーンとかいってる。
「おれがSOS送っても、伊織はきっと来てくれないだぎゃ」(アルマジモン)
デジアドではホントに珍しい、パートナーへの不信を表明するセリフです。
むろん本気のものではなく、事情を知ったあとは身を張って盾になり、ワームモンに羨望のまなざしを向けられるのですが。
「ぼくも今日、塾の実力テストさぼっちゃったよ。でも仕方ないよね、そうしたかったんだから。
選ばれし子供なんて言われてるけど、ホントはさ……ぼくたちが選んでるんだよね。何をすべきか、何をしたいか」(丈)
当初ガリ勉というイメージが強く、特技もなく、最後まで「自分にできることはなんだろう」と考えつづけていた
丈ならではのセリフです。一年をふまえての言葉だからやはり重みってものが違う。
02での丈はそんなに出番が多いほうではないんですが、このセリフだけでもじゅうぶんに価値があるでしょう。
最終的には紆余曲折を経て、やっぱり医師になるあたり血筋なんでしょうか。
それが人間ではなく、デジモンの医者というあたりがポイントなのでしょうけど。将来的には需要のある職だし、
未来志向ってやつですね。
「あの、ずっと気になっていたんですけど、あらためて……僕、火田伊織です(ぺこり)」(伊織)
あくまでも礼節にこだわるこの性格、大人にも見習わせたいほどですね。誠実というよか四角四面だけれど。
これが筋の通らないこと、理不尽なことへの義憤へつながり、そして「なぜ筋が通らなくなってしまったのだろう」
という知りたがる心とも反応して、それで弁護士への道がつながっていったのでしょう。
たぶんぱっと見情状の余地が無い犯罪者に対しても、あえて弁護を引き受けていたりするのかもしれません。
黒を白と言いくるめるためではなく、犯罪の原因を知り、被告と誠心誠意向かいあい、最後まで弁護をやり遂げるために。
損な仕事ですが、それができそうなのは子供たちの中じゃ確かに彼しかいないでしょう。
「何も言うなと……」(ワームモン)
「聞いたことには答えろッ!」(デジモンカイザー)
君たち……ドリフじゃないんですから。
「えぇーっ! ひどいよ、だいすけー!」(チビモン)
ほてほて走りとの相乗効果で恐ろしいほど和むカットです。本気でこちらを殺りにきた瞬間。
★予告
そうでした、この頃はまだ海老沢氏がいた……。
しかし浦沢脚本との化学反応が激烈な今村演出なので、見ごたえのある回です。また書くことが多そう。
偽ウテナのインパクトが異常。