危険なピクニック

 脚本:浦沢義雄 演出:今村隆寛 作画監督:海老沢幸男
★あらすじ
 待ちに待ったゴールデンウィーク。たまにはデジタルワールドの風土を楽しもうと、大輔たちはピクニックを企画します。
 そこに一時帰国していたミミが偶然居合わせ、彼女も巻き込んで行楽となりました。

 楽しいひとときを過ごす一行。ところが、ひょんなことからその場を離れた京とミミが地下に落ち込んでしまいます。
 気がつくと、そこはデジモンカイザーの支配エリアでした。ダークタワーは地下に隠されていたのです。
 イービルリングに支配されたゲコモンやオタマモンの襲撃。ピンチを救ったのはパルモンでした。ひさびさの再会。

 喜ぶまもなく、今度はゴキモンブラザーズが現れます。
 またまた大ピンチとなるふたりと2匹でしたが、ミミの計略で敵の攻撃を逆利用し、ダークタワーへ破損を加えることに成功。
 間髪入れずにパルモンも進化し、ホルスモンとの同時攻撃でみごと勝利をおさめます。
 
 終わってみれば楽しい一日。京はこの件で、ミミと姉妹のように意気投合するのでした。
  
 
 
★全体印象
 6話です。タイトルコールは夏樹リオさん(京)。
 影絵はその京とホルスモンの、恐らく設定画を流用したシルエットです。全体としては、ごく普通の背景ですね。

 本編はぜんぜん普通じゃないんですが。
 いやあ、あらためて見てもやっぱり浦沢脚本と今村演出の相性は抜群です。見せかたがヘタだとああはいきません。
 というより、浦沢脚本のツボを活かせるのが今村氏くらいしかいなかった気さえしますよ。

 スタッフ側もそれは心得ているのでしょうか、02では浦沢氏登板のうち過半数を今村氏との組みあわせで仕上げています。
 そのぶん、川田演出に当たってしまった22話の悲惨さが際立つことにはなりましたが……。
 以前にどっかでいちばん大事なのは脚本だと書いたことがありましたが、それも演出しだいなんですよね。

 まあ細かいことを言ってもしょーがない回ではあるんですけど、さりげなく現役組全員の家庭やべつの一面が描かれてて
 ギャグだからとあなどれない作り。非常に印象に残るエピソードです。

 作監は海老沢幸男氏。そうです、この頃はまだこの方がいたんだった。
 あいかわらず、原画相方をつとめる諏訪可奈恵さんとの違いがまるわかりですね。13話ほどじゃないけど。
 気づいたらシリーズを去っていた組み合わせなのですが、正直諏訪さんだけ残ってほしかったです。
 
 しかしこーして見ると、セイバーズあたりは相当平均レベルが上がってるんだなぁと思わされますね。
 均質化したぶん、各回ごとの印象はやや薄まっていましたが。
 
 
 
★各キャラ&みどころ
 
・大輔
 前半しか出番がありません。
 しかし寝起きが公開されたり、妙に記憶に残る扱い。
 
 
・チビモン→ブイモン
 ほとんどがチビモンとしての出番。進化もありません。
 だがいちファンとして、冒頭のアレをはずしては語れないところ。
 
 
・京
 メインとしてミミと交流……なのですがどんどん妙な方向に。これが浦沢マジックか。
 そのために、普段より妄想がはげしくなっています。あんまり違和感がないのは京だからでしょうか。

 ううむ、語りたいところはあるんだけどすっごい語りづらい。もどかしいです。
 じっさいに見た方なら、ひょっとしたらわかってもらえるかもしれませんが……あんまり解説したらしらけるというか。 
 わざわざギャグの説明をする人がいないのと似たようなものでしょうか?

 棚の向こうで品物を列挙するシーンは印象的ですね。
 母への適当なごまかしっぷりとか、「ミミさんみたいな姉だったらいてもいい」なんて言ったり、
 裏に複雑な感情が仕込まれてはいます。後者は直後のアレのインパクトが強すぎて流しそうになりますが。

 あと今回、やたらビンゴビンゴ言いまくってます。一話でちょろっと使っただけであとは全然だったのに。
 設定へ忠実に立たせようとしていることがわかりますが、これも半ばギャグでやってたのかも。
 
 
・ポロモン→ホークモン→ホルスモン
 そういえば、皆いつのまにパートナーを連れ帰っていたんでしょう。
 ああ、GWで長く学校を空けることになってしまったからか。そう考えれば辻褄は合います。

 デジモンたちも頭はいいんだし、ある程度ほっとかれても自分でなんとかするだろうとは思いますが……
 目のとどかないところに置いとくというのは、やはり問題でしょうね。学校ウロウロしてたら噂になりそうですし。
 33話だったかに、現実世界で長く離れてるとパートナーが弱ってしまうって設定もありました。

 ホークモン本人に目を向けてみると、今回ではじめて和食好きという設定が出てきましたね。
 はじめて食べたのはたしかチューチューゼリーですが、たぶんあれからオニギリや海苔巻を食べる機会があったんでしょう。
 なんせ京の家ときたらコンビニです。あまった在庫の何割かは彼の胃袋に消えていたとみていいですね。

 後半のバトルはわりに楽勝ムード。敵があんまり強くないですし、半分ギャグみたいなものです。
 しかし、レッドサンばかり連発していたのはなぜなのでしょう。
  
 
・伊織
 ウパモンに憶えこませるように何度も同じ単語を繰り返す冒頭からはじまって、食べ物を投げてはいけませんと
 躾るようなことを言ったり、若年寄っぷりが強調されています。

 最年少なのにコレかあ……本人の性格もあるのでしょうが、やはり教育がいいのでしょうね。
 モンスターペアレンツなんて言葉もあるくらい親の低質化が嘆かれる昨今、爪の垢でも煎じて飲ませたい。
 親がモンスターになってどうするというのでしょう。

 もっとも、マスコミが煽ってることなのであんまり真に受けてもしょうがないのですが。
 極端な例を極端に語るのが当たり前みたいなものですし。
 
 
・ウパモン→アルマジモン
 伊織と正反対のガサツな面が、短い中でよく表現されていました。
 かんぴょう巻きを追いかけて走っていくホークモンに目が点になってしまって吹き飛ぶのですが。
 わりとそんなんばっかだなあ、今回は。
 
 
・タケル&パタモン
 パタモンを忘れたり大輔にあきれたり、今回のタケルは一味ちがいます。12話の鼻ちょうちんも思い出される。
 浦沢脚本だと彼も独特の崩れ方をしますね。でも、時にはこのくらいのほうがいいでしょう。

 ちなみにパタモンもテイルモンも4話からこっち、数秒しか進化をしてません。思ったより出番が少ないんだな。
 
 
・ヒカリ
 ああ、そういえば「わかっててうまいこと使う」場面もあったなあ……(^_^;)

 はい、大輔のことです。好意持たれてるってこと承知の上で、彼をコントロールしていました。かなりド直球で黒い。
 こういうところを嫌う人もいれば、好意的に見る人もいますね。前者の声が大きいので惑わされがちですが、
 ただそれだけのことだったのだと今なら思えます。

 思えますが、大輔ファンとしては複雑な心境だったのもまた確か。
 それでもめげない暴走知らずだからこそ、気にいったんですが。
 
 
・テイルモン
 大きさがもうひとつよくわからないんですが、リュックに入るんですね……。
 笑顔で詰め込むヒカリに何か言い知れぬものを感じました。あのへんはもうどこからツッコミを入れたらいいのやら。
 
 
・ミミ
 今回の先輩キャラ。一時帰国ということで登場しました。
 なんでもイトコの結婚式に両親の代理で出席するためだそうですが、詳細は不明です。
 結婚式、というからにはミミよりだいぶ年上の人とみて間違いないでしょうけど。

 全体的にみれば01のころより格段に落ち着いてて先輩としての貫禄があるんですが、ギャグなので崩れまくりも。
 いろいろと台無しなセリフもあったりします。そしてやっぱり汚物系デジモンとの縁から逃れられてません。
 ドリームダスト食らって生ゴミに埋まっていたのが心配です。あの後ちゃんと体洗ったんでしょうか……。

 京にとっては具体的になにかを諭してくるタイプじゃないのですが、その正直な生きざまで影響を与えていきます。
 服装がコロコロ変わって後半になるほど雰囲気がよくなっていくんですが、気づけばピンク髪やめてました。
 映画の逆ディアで髪型だけもとに戻ってます。
 
 
・パルモン→トゲモン
 この雰囲気はやはり独特だなぁ……いま見ても、彼女とミミの組み合わせは出色だったと思わされますよ。
 なんであそこにいたのかよくわからんのですが、あのお話的にそこは重要じゃありますまい。
 まあたぶんオタマモンやゲコモンたちと一緒にいたところ、地下に落っこちてあんな事になったんでしょう。

 ミミと再会したとたん、遠慮なく大泣きしてひしと抱き合うところは笑えますが、らしいなぁと。
 泣いていいときには思いっきり泣いて、喜ぶときにはぞんぶんに喜ぶ。いつになっても、それは変わらないのでしょう。
 直後にギャグで落とすあたりはお約束。

 バトルでは後輩と協力して、ダークタワーごとゴキモンをぶっ飛ばす役回り。
 出番は現役であるホルスモンよりもだいぶ短いのですが、01から見ている向きには出ただけで美味しいものです。
 
 
・デジモンカイザー
 出てはきてますが、今回は特になにもしてません。つーか何がしたかったんでしょう。
 セリフまわしも浦沢脚本流になっていて、かなり変というかシュールな雰囲気。

 しかしGWだというのに引き篭もりか……本来の彼だったら両親と行楽のひとつにも行ったでしょうに。
 
 
・ワームモン
 やり取りから考えて、雑務をかなりの割合でやってるようですね。ゴキモンの手配をしたのは彼みたいですし。
 なんにもさせてもらってないようでいて、陰ではいろいろ働いてるんでしょう。
 けっこう思い切った行動も取ることがあるし、こっそり傷ついた走狗デジモンたちの世話もしていそうです。
 
 
・ゲコモン&オタマモン
 後半アタマと終わり近くにちょっとだけ登場。パルモンとの再会にシナリオ的キッカケをつくる役割です。
 15話に出てくる同一系集団とは関係あるんでしょうか?

 
・ゴキモンブラザーズ
 今回のメイン敵。影絵でのガサガサした動きと、やり取りのむしろ狙った滑りっぷりが絶妙なふたり組です。
 必殺技のドリームダストといい、そもそものモチーフといい、汚物系らしく力はないんですが戦いたくないという意味では
 おそらくトップクラスの手合いでしょう。大半の人が絶対に敵に回したくないはずです。味方でもイヤだけど。

 素の状態では兄弟仲が悪いようですが、イービルリングがつくと感情が制御されるのか、連携が取れるようになってました。
 よく考えてみたらなにげに、リング付きでもしゃべれる初の走狗デジモンだったりします。
 以降にバカスカ出てきますが、ハシリは彼らだったんですね。
 (追記:と思ったらレッドベジーモンのことを忘れていましたよ。そういえばヤツも汚物系といっていいタイプです)
 
 ところで、このデジモンをパートナーに持つことになった人ってどんな心境なんでしょうか。絶対にいないとも言い切れない。
 
 
 
★名(迷)セリフ

「おはよ、大輔っ」(チビモン)

 ボディアタックで大輔をたたき起こしたときのシーン。
 これは良いものだ……
 
 
「なんか……腹…いてぇ…」(大輔)

 これに限らず、今回はセリフの間のとりかたも一味ちがいます。
 
 
「太刀川ミミ! アメリカ東海岸在住!
 イトコの結婚式のため、仕事の忙しい両親の代理で一時帰国した!」(ナレーター)

 めずらしく、ナレーターからの殿堂入り。デジモン紹介のパロです。
 東海岸、ってことは日本からだとだいぶ遠いですね。まあ普通に考えてニューヨークに住んでるんでしょう。
 40話もニューヨークが舞台ですし、なにより例の同時多発テロの舞台はほかならぬニューヨークです。

 解説ウィンドウとその内容にはどうコメントしたらいいのか……(^_^;)
 
 
「京ぉ、お前ひとりで決めんなよ」(大輔)
「えー、ダメ?」(京)
「いや…オレは、いいけど?」(大輔)

 なんかこのへんのやり取りが好きです。
 前後の場面はぜんぜん動いてないのですが、それが今村流。温存した分を後半に回しているのでしょう。たぶん。
 
 ところでよく考えてみたら大輔、京にはタメ口なんですね。いちおう上級生なのに。
 そんなこと言ったら01のときの太一やヤマトだって、丈にタメ口聞いてましたけど。

 幼馴染という捉え方をすれば、遠慮がなくても不思議はありませんが。
 
 
「デジモンカイザー?」(ミミ)

 たしか2話ですでに存在を知っててメールまで送ってきてた気がするんですが……わりに基本的な矛盾が。
 直後の賢ちゃんの高笑いが面白すぎるので忘れましょう。
 コードギアスのゼロを見てて誰か思い出すと思ったら、デジモンカイザーでした。大袈裟なところがよく似てる。
 
 
「わたし、お腹へっちゃったー♪」(ヒカリ)

 八神さん……。
 
 
「なんだよ、それ……」(タケル)

 大輔のリアクションに軽くムッとした様子。ギャグ調というほどじゃないので、呆れるというのとはまた違う気がします。
 もうちょっとこういうのが入ってくれると、より良かったんですが。
 
 
「ツナマヨ……久しぶり……夢にまで見た…ツナマヨ…! ありがとーーー!!」(ミミ)

 太刀川さん……アメリカの和食はそこまでアレだったんですか? 最近はそうでもないと思ってたんですが。
 それにしても、「普通のツナ缶を贅沢に使用」って……。
 
 
「お母さんが作ってくださった食べ物を、そんなに乱暴にあつかってはいけませんよ!」(伊織)

 よく躾けられた子ですねえ……いや、ホントに。
 ゆえに葛藤を起こしてしまうこともありますが、それはもうちょっと後のこと。
 
 
「いやー! ミミお姉さまが変なカエルやおたまじゃくしにー!」(京)

 この無駄な長セリフが浦沢脚本の醍醐味。ほかの番組からの例としては
 「フライドポテトに入っているポテトが一本足りなかった時のサルの気持ちがわかるかー!」などがあります。
 一気にまくし立てるのがポイント。
 
 
「京ちゃん、逃げて!(…あたしがこんなこと言えるようになるなんてね♪)」(ミミ)

 いろいろと台無し。その後パルモンに引っ張り込まれてシチュエーションも台無し。
 
 
「助けに来てくれたのね!」(パルモン)
「ううん、ピクニックに……」(ミミ)
「え」(パルモン)
「……あ」(ミミ)

 いやはや、思わずショージキに答えてしまうあたりが実にミミらしい。
 合間に流れる「ガヒーン」というSEが笑いを誘います。
 
 
「そうか……フフフフ、ハハハハハ!」(デジモンカイザー)

 いったい何がそんなに可笑しいんでしょう。京たちがゴミまみれになる姿でも想像したのでしょうか。
 
 
「なにをノンキにうっとりしてるんです!? わかってますか京さん! 今大ピンチです!」(ホークモン)

 ツッコミの必死さが記憶に残っています。大変だなあ、ホークモンも……。
 
 
「僕の領土が減ってしまった……不愉快なゴールデンウィークになってしまった。帰る!」(デジモンカイザー)
「賢ちゃん……もっと大人にならないと……」(ワームモン)

 カイザーとしての賢ちゃんは浦沢脚本だと数えるほどしかしゃべらないんですが、少ない例のひとつがよりによってこれ。
 実にシュールな一幕です。私は気に入ってるんですが、浦沢脚本の好みが分かれるのもわかりますね。
 ぶっちゃけた話、全員浦沢キャラになっているわけですし。
 
 おかげでワームモンがめずらしくミもフタもありません。
 
 
「ビンゴ!」(ミミ)

 ラストを飾る一言(残響音)。
 なんかビンゴに始まりビンゴで終わった回という気がしないでもありません。
 
 
 
★予告
 当然ありうる危機を描いたという意味で、たいへん重要なお話ではあります。
 しかし竹田作監だというのに絵がおとなしいなあ……まだ本性を抑えていますね?