イービルリング魔力の暴走 |
脚本:吉村元希 演出:吉沢孝男 作画監督:信実節子 |
ようすを伺おうとデジタルワールドに渡った大輔たちを待っていたのは炎の大地と、メラモンの群れでした。
火も風もきかないメラモンに子供たちが手こずっていると、そこにいきなりスカルグレイモンが現れます。
完全体を制御しようとしたカイザーの実験だったのですが、大暴走がはじまりました。
死を呼ぶ骨竜はメラモンやフレイドラモンたちを一蹴、ダークタワーを吹き飛ばし、押しとどめようとするダークティラノモン軍団も
ものともせずになぎ倒していきます。それはまさに、呼び出してはいけない闇の力の再来でした。
ようやく暴走が収まったとき、そこに倒れていたのはなんと太一のアグモン!
ヒカリの懇願もむなしく、アグモンは再度デジモンカイザーに連れ去られてしまいます。大輔たちに止める力は残っていません。
さらに増えてゆくダークタワーと緊急事態を告げるメールに、光子郎は慄然とさせられていました。
激しさを増すデジモンカイザーの攻勢に、選ばれし子供たちの行動は……?
★全体印象
9話です。タイトルコールは木内レイコさん(大輔)。
影絵は暴走といえばこの方、スカルグレイモンです。インパクトは絶大なものがありましたからね。
今話のポイントはデジモンカイザー=賢の現実世界からの失踪とより強まる侵略的行動、そして暗黒進化でしょう。
この2点以外はけっこう薄い回で、実質的に賢が主役のエピソードといっていいのかもしれません。
わずかながらその内面と、本来の姿から歪んでしまった心も描かれています。
後半は全アーマー体の大盤振る舞い……といえば聞こえがいいんですが、かなりのバンク地獄。
必殺技の前後にカットが入れられていたり、技そのものが描き起こしだったりもしますがそれほど効果はなく、
メラモンとのバトル自体にもあまり意味が無いので、やや引き伸ばし感がありました。
作画は信実氏。おかげでスカルグレイモンの暴走シーンはデグっていた01@16話にくらべりゃ、だいぶ良い仕上がりです。
グラウンド・ゼロの爆風を背負う場面は演出もあって、たいへん印象に残るカットですね。
で、脚本は吉村氏です。こちらはローテ2度め。
西園氏が最初の担当だけ書いて抜け、大和屋氏もいないため、以後はゲストを除き6人体制で回していくことになります。
つまり01のときより1人少なかったわけで、各人の負担が増えていたのかもしれません。
特に構成の仕事量がふえるのは当然で、片割れたる吉村氏もこのあとすぐ11話で書いてます。
前年よりやや変則的ですね。いろいろあったんだろうなあ。
★各キャラ&みどころ
・大輔
なんか吉村回だといまいち目立たないです。前半はとくに。
この9話でもそれは同様で、タケルのほうが心に残るくらいですね。重要な回のすぐ後だというのに。
・チビモン→ブイモン→フレイドラモン
メラモンに手間取っているうちスカルグレイモンの乱入を受けてしまい、一発KO。不遇の回です。
賢には最初っから何かイヤな気配を感じ取っていたといいますが、これはデジモン特有の感覚なのでしょうか?
もし大輔と仲良くしていたのがイヤだったんだとすればそれはヤキモチということになりますが、
そう捉える私の頭がおかしいのだと思うことにします。
・京
正体がわかったあともノリで賢を擁護(大輔からみれば)してました。ミーハーです。
そこ以外は特筆すべき個所がないかなあ。
・ポロモン→ホークモン→ホルスモン
前半でかんぴょう巻きのかわりに食べていたのは、いなり寿司。京のセリフどおり、どこまでも和風にこだわっています。
後半ではバトルに出ますがほぼ賑やかし。まあ全員そうなので今回はしょうがありません。
メラモン戦では風系がきかないとわかるやウジャトゲイズで補助に回ったり、考えて戦ってはいます。
・伊織&ウパモン→アルマジモン→ディグモン
メラモン軍団に有効打を与えられそうなコンビだったんですが、地形効果で台無し。
そこはむしろビッグクラックではなく、ゴールドラッシュですよ。
この時点の伊織はデジモンカイザーの正体も冷静に受け止めているんですが、次回で凄いことに……。
・タケル&パタモン→ぺガスモン
こちらは属性効果で、メラモン軍団にかなりの有効打を与えていました。
しかしそれよりも、スカルグレイモンを見たときのタケルの腰の引け具合が凄い。普段からは考えられんくらいビビリ入ってます。
まあ、スカルグレイモンは当事者の子供たちにとってトラウマも同然だから、当たり前なのですが……。
・ヒカリ
01では終盤近い参戦なので、スカルグレイモンを見たことがありません。
しかしなぜか、初めて見るのに識別して名前もちゃんと呼んでいました。ラツマピックでも使ったのでしょうか?
それとも彼女のもって生まれたものが、その存在を心に刻み付けて呼ばせたのでしょうか。んなわけない。
まあ少なくとも、タケルたちにさんざ聞かされて知ってはいたはずです。
あ、そうか。デジモンアナライザーを見たのかもしれませんね。載ってても不思議じゃない。
光子郎との会話では、写真からの位置関係を誰より早く把握していました。これも設定にのっとった描写?
・テイルモン→ネフェルティモン
チーズ入りかまぼこが好物らしいという設定?は、ここで出たものです。ほかで出てきたかどうかは憶えてません。
そのうち確かめられるでしょう。
後半ではほとんど特筆すべき事項がありません。
・光子郎
今回も後方支援というか、進行役として登場。ホントに出番が多いなあ。
写真から家を割り出したりと、探偵もまっさおなことをなにげにやってます。こういうのって犯罪にならんのでしょうか。
・賢=デジモンカイザー
誰も自分に並ぶだけの才能がないばかりか、擦り寄って利用しようとする手合いばかりという現実。
嫌気がさしたのか正体ばらして引っ込みがつかなくなったのか、デジタルワールドに引き篭もってしまいました。
いや、ばらした時点でもう引き篭もり自体は始めてたんですね。
現実世界に戻らない以上、素性を明かそうが明かすまいがたいして問題は無いと言う考えだったのでしょう。
あくまでも勝てればという前提がつきますが、この時点では自信があったんだと思います。
というわけでいろいろと動きやすくなったのか、さっそく腰を据えて完全体制御の研究をはじめました。
その手始めがアグモンというわけですが、いきなり大失敗。ただ、理論自体は間違っていなかったようです。
どのような根拠であの結論に達したのかわかりませんが、10話でちゃんと制御できていますし。
問題は媒介となるイービルリングの方だったということですね。
それにしても別種の仕込みが必要とはいえ、紋章もなしにグレイモンを進化させるとは恐ろしい。
暗黒デジヴァイスに秘められた力の不気味さが伺えるというものです。
闇はああした絶大な力を容易に与えてくれるがゆえに、人を堕落させやすいのでしょう。ただ無論代価は支払っていて、
破滅へ進むかもしれないという大きなリスクがそれにあたるのだと思います。
・ワームモン
ボコボコ蹴られ、ひっくり返って脚をわしゃわしゃしてたり、賢ちゃんに頬擦りしたり今回はいちだんとキモいです。
それがある種の愛らしさにつながっているという、なんつーかよくこんなキャラ造形通ったなと今でも思うことしきり。
02でも出色の存在といえるでしょう。いやホント。
しかし、なんだか蹴られても殴られてもヤクザな男についていくご婦人みたい。
・賢の両親
前半からすでに無理して賢に合わせようとしているのがまるわかりな描かれ方。
それでも親としての責任まで忘れているわけじゃないから、根はまっとうな人たちだということもわかります。
というより、まっとうゆえ出来のよすぎる息子たちに舞い上がったあげく、戸惑っていたのかな。
泣きっぷりが芸風の域に達しているお母さんは出番のわりに、やたら存在感があるひとり。
くらべたらやや影の薄いお父さんですが、いざというときに頼れる人というイメージが細君と好対照をなしてます。
補い合うタイプの夫婦なのでしょう。
・リポーター
賢にしつっこく質問を繰り返していた女性のリポーターです。
否定しているのになんとか言質を取ろうと何度も何度もおんなじようなことを言うあたり、実にそれっぽい。
言うまでもなく、アイドルとして持ち上げようとしているのでしょうね。
今でいう「ハンカチ王子」や「ハニカミ王子」にあたる扱われ方です。若くてイケメンで実力があって爽やかとくれば、
テレビが飛びつかないはずがありません。まんまと釣られたおば様方も寄ってきましょう。
おまけに賢の場合、実力そのものの桁がでかいから攻勢もそれだけ激しいものになっていくはずです。
賢の失踪は、こうした周囲の対応にほとほと嫌気がさした、というのもあったんでしょう。
自分の能力についていけないだけならまだしも、周りをうろちょろして時間を無駄に使わせ、足を引っ張ることしかしない。
しかもそれは自分を崇めているわけでもなんでもなく、自分を利用していい思いをしたいというだけ。
誰ひとりとして自分を見ていない……虚無感が、あの行動を導いたのですね。
一度飯の種としてロックオンした相手へのプッシュが過剰通り越して、バカ騒ぎの域に達しがちなのがテレビというもの。
おそらく不在期間が響いて、もどった後はめっきり取材も減ったことでしょう。週刊誌がなんか書くかもしれませんが。
賢ちゃんの気持ちが、今ならほんのちょっとだけわかる気がします。
だからこそ、天才少年としてでも闇の王デジモンカイザーとしてでもない
“一乗寺賢”に向かいあおうとする大輔の存在が、とてもとても大きかったのでしょう。
・先生
本来なら賢を教え導くはずの先生も、天才という光に集まってくる虫けらにしかなれないでいます。
少なくとも、賢にはそう見えているでしょう。
賢ちゃんにはわかっていたはずなんです。自分の才能が、けっして生まれ持ったものではないということを。
でも兄と同じ才を得ても、どんなにその姿を真似ても、何も変わらない。結局、誰も自分を見ていない……
ならばいっそ、独りのほうがいい。初めて見せた微妙な表情には、そのへんが感じ取れました。
そんな賢ちゃんの本来のパートナーが、弱くてかっこ悪いけど心の優しさだけは誰にも負けない
ワームモンだというのは、なんとも深い話だと思います。
・スカルグレイモン
02の完全体二番手。いきなりこの方とはまた、えらいエントリー内容ですね。
あいかわらずデタラメな強さですし。アンドロモン同様、完全体の強さをイヤというほど教えてくれる個体でしょう。
そもそもこのデジモン、アニメ中でやられているところを見たことがありません。
出てしまったが最後、誰にも手におえない最強最悪の力というイメージが非常につよいのです。
ウォーグレイモンやインペリアルドラモンなら止められそうですが、その絵面が想像できないというか……
破滅そのものが具現化したような姿が、そう思わせるのかもしれません。
完全体という段階がまだ繋ぎではなく、最強形態のひとつだった時代の象徴といえますね。
もっとも、次のテイマーズで早くも繋ぎ同然の扱いを受けていましたが……。
・メラモン
マグマの大地からわらわらと現れました。イービルリングは首についています。
火と風では有効なダメージを与えられないので手数が稼げず、大輔たちに苦戦を強いていました。
01のメラモンはまだミハラシ山にいるのでしょうか?
結局乱入してきたスカルグレイモンに全員ボコられ、フレイドラモンたちと仲良く戦線離脱しています。
なんのために出てきたのかよくわからん方々でした。穴埋め?
・ダークティラノモン
時間を稼ごうとでもしたのか、カイザーが呼び寄せた連中。3話と同様、5体が現れました。
ダークタワーもないのに支配が働いているのは、彼が直接指揮しているからなのでしょうか。
結果をいえば全滅したものの、スカルグレイモンはエネルギー切れを起こしたので役目は果たしたことになります。
マグマにぶん投げられてプカーッと浮かんでる姿が痛々しい。
アンデッド系といえば火に弱いのがお約束なんですが、スカルグレイモンには通用しないみたいです。
・エアドラモン
カイザーがよく乗騎に使っているデジモン。13話のメイン敵でもあります。
古参のわりには出番が少なく、以降のシリーズでもほとんど登場の機会がありません。何故でしょう?
★名(迷)セリフ
「……虫けらだ!!」(賢)
誰も自分を見てくれない。自分の才能しか見ようとしない。
ゆがんだ今の彼の心はだから傲慢と言う鎧をまとい、孤独を選ぼうとしたのでしょう。
8話のタイトルは今回のほうがより似つかわしいものです。
「まあ、見た目と中身がいっしょとは限らないけどね」(タケル)
雑誌に載っていた賢の笑顔をめぐっての発言。さらりと。
というかむしろ貴方を見ていると逆によーく分かります。
「モウ コノセカイニ ヨウハナイ。 サヨウナラ ムシケラドモヨ」(賢)
賢ちゃんが現実世界を去りしなに残していったのが、このメッセージです。
なぜか片仮名で変な改行なのがむしろ怖い……かも。今の賢の精神状態をあらわしているかのようです。
「でも賢ちゃん……これからずっと一緒にいられるんだよね…? 嬉しい……」(ワームモン)
数あるワームモンのセリフの中でも、とりわけキているもののひとつ。
賢ちゃんがああなってるのと同様、もしかしたら狂気に似た無限の情愛を身に付けていたのかもしれません。
狂人ゆえに無限の愛情を持っていたと評される月島瑠璃子のように。
つまり後半は後半で、アレが本来の性格ってことなんですかね? ほら、42話とか。
「一乗寺賢、どこだ!」(大輔)
繰り返し繰り返し。彼だけは無意識に、デジモンカイザーを賢と呼びつづけていたようです。
「逃げるんだ……まともに戦って、勝てる相手じゃない!!」(タケル)
このビビリっぷりがすごい。彼は時おり、こっちがびびるくらいの怯えかた、怒り方をします。
多くが闇の力を持ったデジモンに対してだというのは、決して偶然じゃないはず。
「なんてことだ……デジモンカイザーは、デジタルワールドを崩壊させるつもりなのか!?」(光子郎)
当たらずとも遠からずというべきか、基盤をゆるめることこそが黒幕のねらいでしたね。
賢ちゃんは知らないうち、そのために動いていたということになります。
★予告
太一も登場です。が、いろいろと迷セリフ迷シーンの多い回という記憶が……