青い稲妻ライドラモン |
脚本:吉村元希 演出:芝田浩樹 作画監督:出口としお |
追跡も続いてはいたものの、大輔はメタルグレイモンと戦うことにまだ迷いを感じていました。
そんなとき、デジメンタルの反応があらわれます。刻まれていた紋章は“友情”。
大輔をふくめた全員が試してみますが、ひとりも持ち上げられません。これはいったい誰のデジメンタルなのか?
思案する一同の前へ、いきなりフライモンが現れました。羽音に苦しんでいるうち、パタモンが連れ去られます。
追いかけた先で待っていたのはカイザーとメタルグレイモン。イービルスパイラルをパタモンに填めようというのです。
しかし間一髪、駆けつけたガルルモンによってパタモンは救出されました。戦いのはじまりです。
大輔だけが、まだ迷っていました。危険をかえりみずパタモンを助けようとしたタケルや、友を傷つけるかもしれない
恐怖を乗り越えて戦うヤマトの姿が、自分の小ささを実感させてゆきます。情けなさが絶叫となり口をついたその時、
友情のデジメンタルが輝き、大輔のもとに飛来したではありませんか。第2のアーマー進化、ライドラモンの登場です。
ガルルモンとライドラモン、友情のダブル攻撃によってついにイービルスパイラルは破壊されました。
こうして見事MVPを獲得、太一に感謝される大輔でしたが、まだまだ未熟者のようです……。
そしてデジモンカイザーは、自分の計算を凌駕した大輔たちへの苛立ちを隠せずにいました。
彼の次なる恐るべき企みとは……?
★全体印象
どっちかというと黒い稲妻なんじゃねーかという気がする11話です。タイトルコールはブイモンの野田順子さん。
影絵はもちろんライドラモンで、稲妻をあしらった青い背景の上を勢いよく駆けるイメージになっています。
さて、前回がイービルスパイラルとメタルグレイモンのお披露目なら、今回はタイトル通りライドラモンの登場が目玉。
同じ心を受け継ぐガルルモンとのツーショットが非常に絵になる展開です。
ただし、やはり作画がアレなのもあっていま一歩盛り上がりには届いていないというのが正直な感想。
せめてもうちょっと何とかならんかったのでしょうか。次回が今村伊藤コンビなだけに、よけい感じます。
大輔の葛藤も経緯はわかるんですが太一とヤマトに引っ張られるような感じで、本当に彼らしいものなのか?
と言われると疑問が残る仕上がり。いっそのこと今回については、先輩連を抜きで展開したほうがよかったかもしれません。
そうしたら、もうちょっと大輔自身について尺を割けたのではないかと思われます。
そういえば、太一とヤマトを目立たせたかったからああいう流れにしたのではないか、という邪推のもとで
この11話もいろいろ言われていたのを思い出しました。担当の吉村氏は女性ですし……
ところで10話のラストが夕暮れだったのに11話前半ではまた昼間になっていたので、直後のお話というわけではなく
一日くらい置いたあとみたいですね。同じトロッコに乗っているからつい錯覚してしまいますが、
たぶんどっかで一度解散して、同じエリアからまた追跡を開始したのでしょう。
もちろんカイザーの方にそんな都合はないので、着々と制圧エリアを増やしているというわけです。
イービルスパイラルをもう一個くらい作るヒマもあるということですね。逆に言えば、イービルスパイラルを作るためには
それなりの手間がかかるということでしょう。キメラモンは量産態勢が整うまでの切り札でもあるのです。
あれだけは彼がみずから作り出したデジモンなので、倒す以外に対処の方法がありませんし。
その研究のためでしょうか、賢ちゃんはしばらく表舞台から姿を消し、2クール目なかばまではデジメンタル発見をまじえつつ
異色篇やバラエティ篇が続いていくことになります。
★各キャラ&みどころ
・大輔
今回にて迷セリフ「オレって情けねぇー!」を輩出しました。
迷いを見せるのも、攻撃できないのも裏を返せば相手のことを気遣っている証拠。
ただ、友を想うからこそ全力で向かっていく姿勢や、身を呈してでも救おうとする行動を目の当たりにして
あんなことができるだろうかと、やや自信喪失に陥っていたのかもしれません。
気合がたりなくなったせいか、フレイドラモンも元にもどってしまいましたし。
そんな彼のデジメンタルが輝いたのは、自分の弱さやいたらなさを認めたときでした。
これはヤマトと同じ図式で、なんだかんだで大輔にとって大きな成長の経緯だったといえると思います。
吹っ切ったあとのテンションの反転っぷりもヤマトみたいでした。
後の大輔は勇気と友情の人として、大化けを見せていくことになります。
形成の一助を担ったお話として、欠くべからざるエピソードではあったでしょう。
・ブイモン→フレイドラモン
よく聞いてるとパートナーにけっこう厳しい意見も言ってるんですが、それより他のセリフがエロ過ぎます。
他のメンバーが言ってもどうってことないのに、ブイモンが言うとなんか違って聞こえるというか……
なんでなんでしょう。贔屓目抜きでもふしぎです。
・ライドラモン
ブイモン第2のアーマー進化。これでも獣型みたいです。ドラモンなのに。
地上での移動にもっとも適した姿で、ジョグレス体を除くと唯一大輔を乗せたまま戦闘をこなせる形態です。
そのためか使い勝手はたかく、通常進化やジョグレスが可能になった後もちょくちょく出番がありました。
まったくといっていいほど出てこなくなったフレイドラモンと明暗が分かれた格好ですね。
能力的にはパワーよりスピードといった感じなのですが、実のところ戦術的な使い分けはされていません。
後のフロンティアも初期は2形態並列でしたが、片方に意味がなくなる形で結局あまり活かされませんでした。
まあ、やり過ぎてもおかしなことになるから難しいのですが。
今回披露したブルーサンダーとライトニングブレードは、いずれも必殺技に分類されます。
収束しているぶん、後者の方が一撃の威力は強そうですね。大輔を乗せたままで使えるのもメリットでしょう。
・京&ホークモン→ホルスモン
せっかく勇んで参加したのに、たいした出番がありません。
そのかわり京さんは気合充分らしく、無駄にオーバーアクションです。体を張ったギャグも見せてくれました。
・伊織&アルマジモン→ディグモン
前回のテンションがレッドゾーンだったぶん、こっちは落ち着いています。
そのため、なんとも地味な結果に。伊織がひとりに2つのデジメンタルという現象へ、疑問を呈したくらいでしょうか。
・ヒカリ&テイルモン→ネフェルティモン
こっちも地味ですね。どのへんの人物を強調したいのか、だいぶ丸わかりです。
前回けっこうしゃべっていたテイルモンも、今回は太一とヤマトに吸い取られまくっています。
・タケル
パタモンが負傷したので戦闘には参加してませんが、大輔との絡みで出番があります。
相方がピンチになる前からすでに何か異様なテンションを発揮していました。というか今回だけ性格が違いますね。
これまでを思い出したうえで19話なんかも連想してみると、まるで分裂症です。
闇や悪辣への怒りがそれだけ大きく、また精神的外傷にもかかわっているからなのでしょうか。
関プロデューサーの発言に「大輔とタケルを太一とヤマトのような間柄にしたい」というものがありました。
しかし後に同じ口から「タケルは悪の少年デジモンカイザーと対決する魔性の少年」という発言が飛び出しており、
いったいどういう扱いにしたかったのかさっぱりわかりません。もともとリョウの件など、不用意な発言が少なくない方なので
あんまりアテにできないというか、現場も振り回されていたのかもしれないなあ。
タケルについては、少なくとも「怒るとだれよりも怖い」ということだけはまちがいないと思われますが。
・パタモン
フライモンの不意打ちをかわしきれず、ダウンしたまま戦闘終了。
イービルスパイラルを填められそうになったりするし、受難の回でした。
あの体にどうやって填めるのか気になってしょうがないんですが、案外小さくなって腕に填まるだけなのかもしれません。
・太一
パートナーがいないので、基本的に見てるだけ。実は一番なんにもしてません。
にもかかわらずこれだけオーラを発しているとは、つくづく驚かされます。脚本の誘導はあるにしても。
こりゃあ、出てくるのは途中からでもよかったんじゃないかなあ。いやマジで。
後のお話ではスポット参戦のような形になるのが、奇妙な話ですが幸いなことだと思います。
・ヤマト
太一の親友として、先陣を切りメタルグレイモンに挑みかかる役。手本を見せたかたちです。
弱気になりかける太一を叱咤激励する姿は、01のときから比較にならないほどの進歩を見せていますね。
ある面においての精神的成長が一番大きかったひとりだということを、心ゆくまで実感できる回になっています。
それだけに、4話の出番がアレだったのは非常に惜しまれるところなのですが。
大輔とはあんまり仲が良くないという印象を引っ張ってしまっていたために、このお話が不自然に見えてしまってます。
単体で見るぶんにはそんなことないのに。やはり積み重ねって大事なんですね。
ただ、大輔へ派手なスキンシップをかます場面はけっこう好きだったりします。
ファンジン書きの方には、あのまるで本物の兄弟みたいなやり取りに珍しくやっかみを覚えるタケル、
という図式を成立させている人もいました。そういうパターンもありか。
・ガルルモン
助っ人として後半から登場。パタモン救出からはじまり、ヤマトを乗せての果敢な戦いぶりなど美味しいとこ取りです。
パートナー騎乗というのは移動ならともかく、戦闘においてあんまり意味がなさそうに思えるんですが、絵面としては魅力的。
そんなに喋ってはいないんですが、なにげに熱いセリフばかりでした。
後輩のパートナーと並ぶと、体格のよさがわかりますね。
ライドラモンが本当にライオンくらいの大きさなのに対し、こちらは全高なら小型の象くらいあります。
それであの速さなんですから、どんだけ筋力あるんだよという。そりゃ、ヤマト一人じゃ負担のうちにも入らないわけです。
・光子郎
顔はちょっとしか出しませんが、メタルグレイモンの行方をサーチしてメールで知らせていたようです。
通信手段が充実しているとこういう時助かりますね。01では大変でしたし。
・テントモン
今回は相方である彼のほうがメインでした。
戦闘には参加していませんがガルルモンを連れてきたりなど、裏方として貢献しています。
尺の都合でしょうか、連れてきた本人たる彼は後半にほとんど出てきませんが。
・賢=デジモンカイザー
結果だけ見ると欲をかいて味方を増やそうとしたら返り討ちに遭い、せっかくのメタルグレイモンまで失った形。間抜けです。
パタモンにイービルスパイラルを填めたいだけならわざわざ目の前でやろうとしなくても、メタルグレイモンで壁を作っといて
その間に基地へでも連れ戻ればよかったのです。あとはさっさと撤収すればなお確実でした。
それをしなかったばかりか、考えてみりゃあわざわざ自分から会いに行ってるのでカモネギ状態。アホです。
ただあんまり狡猾な敵というのはシャレ抜きで嫌われる傾向にありますから、このくらいでいいのかもしれません。
この時代の賢ちゃんを指さして笑う人はいても、悪として嫌ってる人はあんまり見たことがありませんし。
それもまあ、後半あってこそのものでしょうけど。
そこらへんは、ワームモンの言葉をことさらに否定する態度にもあらわれています。
絆や友情を冷笑で蹴飛ばすまでには悪党になりきれていないということを、逆に証明するシーンですから。
同時期に出てきたネオがああいう奴だったから、よけい感じるのかもしれません。
・ワームモン
終わり近くにちょろっとだけ登場。エアドラモン登場のタイミングからみて、後方で待機していたようです。
不利になるや賢ちゃんを拾ってあっという間に撤収するあたり、さすがパートナー。よく見ていますね。
大輔たちの戦いもずっと見ていたようです。今の彼には、さぞまぶしく見えたことでしょう。
・メタルグレイモン(ウィルス)
ズシンズシンと巨体を揺らしての行進からはじまった今回。
作画にめぐまれず普段よりさらにズンドウで鼻ぺちゃないまひとつ決まらない姿なうえ、動画がバンクばっかりだったので
どうにも損をしていたように思われます。気のせいか、近場の相手にはトライデントアームばっかり使ってましたし。
後年で近い系列のライズグレイモンがあれだけ動いてたのを思うと、もういっぺんくらいアニメに出て欲しくなりますよ。
映画にも一瞬しか出たことが無いし……
イービルスパイラルは一度填められると、成熟期レベルの力で破壊するのは難しくなるようです。
彼に使われていたのは第一号のいわば試作品なので、とりわけ拘束力が強かったのかもしれません。
仲間が取り戻しにくることを考えて、カイザーがそのあたりを調整してたと考えることもできましょう。
・エアドラモン
前半ではメタルグレイモンの後方に隊をなし、後半でカイザーを撤収させた方々。
今回の指揮はほぼワームモンが取っていたようです。どうやっているのかはわかりませんが、なにげに凄い。
21話のデビドラモンといい、この時期のワームモンにはそういう能力があったのかもしれませんね。
★名(迷)セリフ
「お前ももっと戦いたいのだな? いい子だ……」(賢=デジモンカイザー)
たぶんあれはメタルグレイモンの悲鳴です。こんなことはしたくないという悲鳴。
デジモンカイザーたる今の賢ちゃんには聞こえないのでしょうけれど。
「でも仕方ない。嫌だけど、仕方ないよ」(タケル)
口調とか微妙にテンパってる気がしますが、ある意味これもタケルらしいセリフなのかもしれません。
もっと子供のころはずっとそんな感じの生き方だったわけですし。
そこに噛み付くのが大輔というのも、わからなくはない図式。だいぶ唐突ではありますが。
「ケンカもしないでいたら、一生友達になんかなれないんだ。だからどんどんケンカしたほうがいい」(太一)
これは太一たちの経験則であり、また前作ファンへの提示でもあるのですが、確かにその通りながら
真実のすべてではないと思います。現に、当の大輔と賢の友情のかたちは太一とヤマトとはまた別のものでした。
人の心が紋章のようにひとりひとり違うなら、友情のあり方も違っていていいと思います。
“ケンカをしなければわかりあえないような仲”という言い方もありますよ。
ただ、大のアニキだったら全力で肯定しそうな場面ではありますな。男は拳で語るものというのが彼の信念なので。
「つまんない事でよくもめたよなぁ」(ヤマト)
今もわりとつまんないことでもめている気がするのは思い過ごしでしょうか。
しかし、彼の口からこんな発言が飛び出すとはねぇ……
「わかんないからいいんだよ」(太一)
説得力はあるセリフです。少なくとも、視聴者にとっては。
わからないけれど理解したい気持ちがあるのなら、そこからいろいろ悩んだり考えたりできるのですし。
ヤマトにしても、なぜ友情の紋章が自分のものなのかわからず、何度も迷走していましたものね。
でもそこから生まれたものは、かならず自分の糧になるというわけです。
「フンーーーー! ホークモン!!」(京)
「はい」(ホークモン)
なんですか京さん、その無駄なハッスルポーズは。
恐ろしく冷静に答えるホークモンはなんというかさすがに相方という印象。
「大輔は、おれに何かあったら守ってくれるか?」(フレイドラモン)
「え? …あ、ああ、たぶん……」(大輔)
「たぶん? たぶんなのか? 絶対って言ってくれ!」(フレイドラモン)
大輔にしてはずいぶん曖昧な答えですが、考えてみれば前半はこんな時もありました。
それにしてもフレイドラモンの言い方がむしろ懇願なのがおもしろいというか、泣かせるというか
……鼻血ものというか…。
「大輔がそんなんじゃ、おれ……」(フレイドラモン)
ふははは、おめー息すんな。死ぬから、おもに私が。
「ちくしょう……オレってなさけねーーーーーーーーーーー!!」(大輔)
何かこう、告ってしるしをピカらせた「ダイの大冒険」のポップを思い出してやみません。
自分で自分に愛想がつきた瞬間、新たなちからが生まれるという図式はいろんな作品でみられるものですが
大輔の場合はそれと同時に、仲間や先輩が友情に賭ける想いの真剣さを思い知ったからですね。
ならばここから、自分もパートナーを信じて大地を駆ければいい。
本当の戦いは、現実を知ったそのときから始まるのでしょう。
「…ふん。やれ、メタルグレイモン!」(賢=デジモンカイザー)
ぽかーんと口をあけて呆気にとられていた直後のセリフ。作画のせいもあってシーン込みで非常に間抜けです。
「あいつらの友情がそうさせたとでも言うのか!
ばかばかしい…! まったく、ばかばかしいヤツらだ……」(賢=デジモンカイザー)
そうは言ってもコンビネーションを取った方が強いのは理論的にも当然で、そのためには信頼が欠かせないんですが…
能力が高すぎるゆえに他人を信じられなくなったいまの賢ちゃんにとって、それは孤独を思い知らされるだけのもの。
天才っていうのも、思ったほどいいものではないようですね。
無償の信頼をささげるワームモンは、まさに彼のパートナーというわけです。
「オレオレって言ってるようじゃ、まだまだ子供ってこと」(ヤマト)
成長したんだなあと感涙した人と、いやいやお前が言うなと捉えた人とはどっちが多いんでしょう、このセリフ。
★予告
もうこの時点で今村スメルがだだ漏れ。なんてわかりやすいんだ。
だからこそ異色作に抜擢されやすいのでしょうが、どうせだったらダゴモンの回をやってほしかったかも……
でもそうするとこの12話が見られなくなるので、悩ましいところです。