疾風のシュリモン |
脚本:吉村元希 演出:梅澤淳稔 作画監督:竹田欣弘 |
談笑に花が咲いたところへ、突然ゴリモンが襲ってきます。その腕にはイービルスパイラルが。
先制攻撃をデジタマモンのおかげで凌いだ子供たちは反撃を開始。マイケルのベタモンが進化したシードラモン、
そしてトゲモンの活躍でゴリモンを正気に戻すことに成功します。
吹っ飛ばされたデジタマモンを探そうとしたとき、当の本人があらわれるのですが今度は彼が襲ってきました。
正気ではなく、操られているだけだと全力で信じるミミを見た京がデジタマモンに自分の気持ちをぶつけたとき、
唐突にデジメンタルが出現。シュリモンの登場です。そのするどい眼力がイービルスパイラルを見つけ出し、
必殺の手裏剣によって黒い螺旋は破壊されました。
かくして、デジタマモンと和解した京。
いつでも自分に正直に生きるミミと素敵なマイケルに、再会を誓うのでした。
★全体印象
14話です。タイトルコールは遠近孝一さん(シュリモン)。疾風は「かぜ」と読みます。
題名どおり、影絵はシュリモン。青い背景色と舞い散る落ち葉が爽やかです。
いろいろ突っ込みどころ満載なお話なんですが、重要な伏線が張られたエピソードでもありますね。
一番大きいのはやはり、海外の選ばれし子供がはじめて登場したことでしょう。
ちょうど映画と同時期というのもあり、相乗効果をねらってのマイケル登板であったと思われます。
並行して、大輔たちが01の事件のどこに関わっていたかも明確にされています。
もうひとつのポイントは、イービルスパイラルが量産されているとはっきり言及されたこと。
今後は完全体も普通に相手取ることがあると断言されたようなものです。その一番手がデジタマモンというわけ。
もっとも期間的にそう長くないので、あとはトノサマゲコモンとメガシードラモンぐらいしかいなかったりします。
キメラモンは別格なので外すべきでしょう。
そしてさらにもうひとつ、再度強調されているのが「今回のデジモンは基本的に被害者」という点。
じっさい、02のデジタルワールドにいるデジモンたちは概して怒らせなければ害の無い連中ばかりです。
暴れたとしても操られているか、急に現実世界に出てきた戸惑いと自己防衛から攻撃的になっているくらい。
どちらも自由意志が介在しておらず、酌量の余地がおおいにあるといえます。
純粋な敵として立ちはだかるのはダークタワーの化身であるデジモン擬態(もどき)とブラックウォーグレイモン、
デーモン軍団、アルケニモン、マミーモン、そしてベリアルヴァンデモンくらいのものです。
02メンバーはジョグレスもあって絶対数が少ないので、これでも多いぐらいでしたけれど。
つまり02の敵は、すべて外部からの揺さぶりだったのです。
デーモン軍団だけは出自がわかりませんが、あんな物騒なのがデジタルワールドにいたら普通気づきますよね。
おそらくは連中も、純粋には02世界のデジモンじゃないんでしょう。
さて、このお話から竹田作画がそろそろリミッターを緩めはじめました。京もヒカリもミミもひと味違います。
あれこれ言われたこの方の絵柄ですが、アレでもまだ押さえているほうだとセイバーズで教えてくれました。
たぶん100パーセント自分の色を出した暁には全員ムチムチのプリンプリンになるはずなのです。
……見てみたいような、決して見たくないような。
今回は加えて原画に直井正博氏がいるので、総合的作画レベルがきわめて高いものになっています。
02としては上位に来る水準といえましょう。
脚本はシリーズ構成の片方、吉村元希さん。今回のいろいろな仕込みも、構成の仕事の一環でしょう。
★各キャラ&みどころ
・大輔
今回も脇役。いちおう進化コールはありますが、伊織との2分割というあつかいです。
賢が参加するまでの吉村脚本は八割方そんなんばっかり。たぶん吉村氏の本命は賢、なんでしょうね。
・京
見てのとおりのストレートな性格であるにもかかわらず、自身の気持ちを表明しないことがあるのは……
やっぱり兄姉に関係してるんでしょうね。末っ子だから、不満をもつことがあっても我慢してしまうという。
でも本来そういう性分ではないのに我慢させられることがあるというのは、やはりストレスだと思われます。
だから、まわりが何と言おうと自分の感じるままを表明するミミに憧れを持つのも当然ではないかと。
そして、開き直った瞬間がこの娘さんはいちばん強い。妙にオトコマエなところが出てくるのは独自の味かな。
のちに、彼女はめでたくカッコいい賢をゲットするのでした。どっとはらい。
・ホークモン→ホルスモン→シュリモン
いちおう新進化の回なんですが、彼本人はあんまりしゃべってないというか…
ホルスモンになった途端にダウンするし、大詰めまではあんまりいい見せ場がなかったりします。
純真のデジメンタルによって進化したシュリモンは、ホルスモンの苦手とする近接戦闘が範疇。
飛行ができない代わり(※追記1)、瞬発力と反応速度にすぐれる形態といえましょう。いうなればゲッター2。
ぐるんぐるん回る手足の手裏剣は技にあるとおり花(※追記2)を、伸びる腕や脚は植物の蔓をイメージとしたものです。
カッコいいんだか笑っていいんだかわからない絶妙の戦いぶりは、なるほどパルモンの直系。
後半は出番が減っていきますが、それでも単独での地上局地戦であればホルスモンやアクィラモンより上でしょう。
そのためか、黒ウォ登場前後までなら登板がありました。
(追記1:15話で足の手裏剣を使い、飛行する姿が確認されています。ただし、移動手段に直接使われたことは無いはず)
(追記2:正確にはむしろ葉、との指摘をいただきました。二枚重ねの葉と捉えることができます)
・伊織
たぶん今回だけだと思うんですが、なんとアルマジモンを頭の上にのっけてました。
重さもさることながら、爪が痛そうです。一歩間違えたらざっくりいきそう。
・タケル
前回目立ったぶん、今回は顔出しレベル。
シュリモンをちょっと手助けはしましたが、それくらいです。
ダークマスターズのことはまだ大輔たちに話してなかったようですが、彼らとしてはあまり思い出したくないでしょうね。
02の状況が天国に思えるような過酷な現実が、そこに厳然と存在していたのですから。
・ヒカリ
タケル同様たいして目立ってもいなければ、印象的なセリフも吐きません。
しかし7話とくらべても明らかに美少女度がアップしていて、何事かと思わされるはず。
なんとなくあの黒い海の出来事について、皆には適当にぼかして伝えているように思わされます。
普通の笑顔も多くて視聴者としてはホッとするか、あれれと思うかのどちらかでしょうが、
皆を心配させまいとしての笑顔で脳裡にはずっと黒いイメージが張り付いたままだったと考えれば、
31話の展開にもつながるものが見えてきそうに感じますね。
前回のすぐ後に京のお話が来たというのも、思えば何かの縁というやつかもしれません。
・ミミ
冒頭の絵に描いたようなホームパーティを見るかぎり、アメリカでもうまくやっているようです。
馴染めなくて困っているなどという悩みとは無縁でしょうね。ミミに限ってそんなことはあり得ません。
大輔たちとは、国の枠を飛び越えてデジタルワールドで再会することになります。
これはつまり、エリア内の出入り口さえ把握していれば短時間で海を渡れるということ。すごい交通効率です。
全人類がD-3を手にした暁には飛行機がいらなくなって、労働者組合が訴訟を起こしそう。
世知辛い話は置いといて、今回も彼女のいざ信じるとなったら梃子でも動かない性格は健在です。
自分に決してウソをつけないこの性分は、あのスカモンを全力で拒否して素手で殴り飛ばす場面でもいかんなく発揮。
好きなものは好きと、嫌いなものは嫌いだとフルパワーで表現するからこそ、イヤミが無いのでしょう。
ただこのお話に限っては演出過剰なところがあったため、やや飽和してます。
この手の人物は一歩間違えると悪い意味での電波になるので、そこのところは注意が必要なのでしょうね。
ところにより妙に早口だったりもしますが、これはセリフの詰め込みすぎでしょう。
・パルモン→トゲモン
ちょっと久々。シードラモンをアシストし、エリアル状態のゴリモンへ対空のチクチクバンバンを決め……
いやそれアニメ版のチクチクバンバン違う。
でも、動きがやたら良かったから許しちゃいます。
・マイケル
2001年の選ばれし子供。大輔たちの一年前、アメリカで活躍したそうです。具体的に何をしたかまでは不明。
唐突にもほどがある登場ですが同時期の映画にウォレスがいるせいで、意外に影の薄い人物です。
取り立ててクセのない優等生的性格がさらに拍車をかけてしまう。
しかし最終的にはミミのハートを射止めて結婚、一児をもうけた果報者でもあります。
明言はされてませんが、子供の髪型などからみて確率は高いでしょう(追記)。
「マ」と書いてある微妙なセンスのシャツも、むしろミミと話が合いそうな要素に見えますね。
声は吉田小南美さん。「アナザーミッション」でピヨモン役も演じるなにげに名のある方。
男の子を演るときは、育ちのいいおっとりした子が多いですね。女の子役のときのほうがはっちゃけてます。
ピヨモンも女の子イメージなので、素っ頓狂な演技を見せていました。
(追記:ただし、ミミが誰と結婚したという本当にたしかな根拠はどこにもありません)
・ベタモン→シードラモン
マイケルのパートナー。ゲストですがマイケル同様、しっかり独自の声優がついています。
たしかベタモンはこれがアニメ初登場ですが、そのわりにはけっこう美味しい役をもらったようですね。
で、進化するとシードラモンになります。こちらは01にも出ていますが、完全なやられ役。
今回はたのもしい味方としての登場ですから、これはもう大出世といえるでしょう。出番は少ないにしても。
凶悪な面構えが精悍に見えてくるんだから面白いものです。そういうふうに描いているんでしょうけど。
それにしても、マイケルの冒険って結局どんなものだったんでしょう?
このデジモンがダークマスターズ@メタルシードラモンの転生ではないかと考えたことがありますが、
そうだとしたら彼を回収して、ついでに海に関係する異変を解決するというような内容だったのかもしれません。
なんとなく、そういう個人レベルの冒険でパートナーを得ていく子供たちが増えはじめた時期という気がします。
・光子郎
アメリカに局地的デジタルゲートが開いたのを知り、ミミに知らせていました。
京がデジメンタルを得る手助けを間接的になしたことになります。
明け方だけれどかまわずに知らせを送るあたり、たしかにミミへの遠慮のなさを感じますね。
まあ光子郎としちゃ、気を遣って知らせずにあとで文句を言われるより、今知らせてたたき起こしたほうが
ミミの場合はずっといいということを熟知していたんでしょう。
この2人はたしかに、いろいろ想像させてくれるものを持ってると思います。
・その他のパートナーたち
いちおう全員が進化してるんですが、ぺガスモンとネフェルティモンにはバンク無し。
ただ、合体技でデジタマモンの動きを封じるという出番があります。
ちゃんと役に立ってるじゃないか、サンクチュアリーバインド。
フレイドラモンとディグモンは進化したものの、デジタマモンの防御力の前になすすべなしでした。
いちおうぺガスモンたちの手助けもやってるんですが、忘れられがちです。
・賢=デジモンカイザー&ワームモン
今回も出番ゼロ。名前とイービルスパイラルしか出ないので、かえって不気味です。
それにしても、デジタマモンにイービルスパイラルを仕込んだのはいったい誰なのでしょうか?
・デジタマモン
01に出てきたのと同じ個体のようです。
そのときはピコデビモンに金で雇われ、ヤマトと丈の友情にヒビを入れようとしていましたが、
今はどうやらまっとうに経営しているようす。もともと腕はいいので、客の入りなら決して悪くないはずです。
新装オープンしたばっかりなのかどうなのか、大輔たちしかお客がいませんでしたけど。
後半ではいつのまにかイービルスパイラルを植え付けられ凶暴になっていましたが、ミミの説得を受けて
とまどいを見せるシーンが何度もありました。どうやら、完全には支配されていないようです。
デジタマモンのようなタイプのデジモンを100パーセント制圧するのは、イービルスパイラルでも難しいのでしょうか。
ちなみにドル支払いにこだわるところと、足りない分は労働で払ってもらうという姿勢はおんなじ。
これが京に不審を抱かせる原因だったのですが、腹を割ったおかげでかえって親交が深まったようです。
・ゴリモン
テイマーズにも登場する成熟期デジモン。
動物モチーフでありながら生体的なキャノン砲を持つ、デストロン怪人のような姿をしています。
個人的に好きなデザインのひとつ。
ただテイマーズの個体とはちがって本来凶暴ではなく、イービルスパイラルを外したらおとなしく去っていきました。
このように、02世界で普通に暮らすデジモンたちはそのほとんどが無辜の民ということがわかります。
大輔たちの認識がああいう風になるのもやむを得ないところでしょう。
製作側がそういう路線のお話でいきたかったのかどうか、それはわかりませんけれど。
★名(迷)セリフ
「この時間だとアメリカはまだ明け方か……どうしよう…でも、ま、いっか」(光子郎)
はやっ。
これも気の置けない間柄だからできることでしょうが、光子郎の場合は相手がミミであることが多いのが注目点。
それともこれも、製作側のねらいなんでしょうか??
「みなさんで87ドルになります」(デジタマモン)
円に換算すると10000円近く。パートナーを入れてこの値段ははたして高いのか安いのか……。
そんな金額をポンと払えるマイケルは太っ腹というか、さすがにハリウッドスターの息子。裕福です。
というかこれもちょっとした伏線なんですね。
そしてどうやら、メンバーの財務管理は京さんの仕事みたいです。コンビニの娘だから金勘定はお手のものか。
「どこかで聞いたような話だなあ……」(タケル)
君、思い出すの遅すぎ。まあ体験的なレベルでいうと軽いほうですけど。ヤマトなら一発で思い出すはずです。
「光子郎に連絡してもらって、テントモンに代わってもらったのよ」(パルモン)
ということは、テントモンに特定の持ちエリアは無いということになります。
10話などであれだけ動き回っているのだし、エリアを守るよりも情報集めに特化した活動をしてるんでしょう。
彼らならばうってつけの役割です。
そして頼まれれば、今回のようにピンチヒッターを受けることもあるということですね。
「きっかけといえば、僕は1999年、飛行機に乗っていて……」(伊織)
「オレはそのころ、ビッグサイトでヴァンデモンに捕まってたんだ」(大輔)
「あたしは、1999年の夏のことには直接かかわってないけど…2000年の春のディアボロモンの戦いのとき、メール送ったわ」(京)
このようにして見ると、実は大輔こそがヴァンデモンともっとも因縁ぶかい人物のひとりだということがわかります。
どうやらヒカリばかり探していて、同じくらい恐ろしいものを見落としていたようですね、ヴァンデモンは。
ところでディアボロモンっていつ名前がついたんでしょうか? 命名者はやっぱり光子郎?
(なによ、またミミさんのことばっかり……なんか、おもしろくない)(京)
京としてはミミへ憧れと同時に、嫉妬のようなものも感じていたのですね。もともと、憧れと嫉妬は紙一重ですし。
そしてこの想いは、まだ表明したことがありません。いずれ素直に語れるときがくるのでしょうか。
もっともミミが相手では、あっさり受け止められるだけでしょうけれど。
「いいえ、やめない! 絶対やめない! 頼まれたってやめないわ!」(ミミ)
頼まれたって信じることをやめてやらない。いかにもミミらしいセリフではありますまいか。
「ええ疑ってたわよ! たしかにあたしは見た目で人を判断するわよ!
そりゃそうでしょ! かっこいいほうがいいに決まってるんだから! そうよ、あたしはかっこいい人が好きなの!
だから、マイケルみたいなかっこいい人が好きなんですーッ!!
だぁって、しょうがないでしょ!! 誰がなんていったって、これが本当のあたしなんだもーん!!!」(京)
筋金入りのミーハーであると言うまでもなくバレバレな事実のカミングアウト。
もう自分が何言ってるのかわからなくなってませんか、この娘さん(^_^;)
なにごともなかったかのように接するマイケルは、ひょっとしたらものすごい大人物なのかもしれません。
とりあえず叫んだら唐突に発動するあたり、やっぱり大輔と似たもの同士ですね。
「もしかしたら、京さんの赤裸々な心の叫びに反応したのかも!」(伊織)
「赤裸々な心の叫びぃ?」(大輔)
02屈指の迷セリフ。
この状況で冷静にこんな解釈を述べてみせる伊織もいいかげん相当なものです。
「はぁじける純真! シュリモォン!」(シュリモン)
この形態に進化すると、なぜか歌舞伎調になります。
いま見るとキャッチフレーズからは黄色いはじける人が、姿かたちからはデネブさんが思い出されてなりません。
どっちもホークモン同様、苦労人イメージがありますね。
でもやっぱりどうしてもゲッター2に見える。
★予告
またまたシュリモンのお話。
彼のスタイルに見立てた和風話を一献、ってところでしょう。ラストは賛否両論?