サブマリモン海底からの脱出 |
脚本:まさきひろ 演出:川田武範 作画監督:信実節子 |
しかし、目当ての人物は試験中。一刻を争う状況に、伊織は祖父の教えを破ってウソをつき、丈を呼び出します。
イッカクモンがメガシードラモンと戦っている間、ホエーモンの力を借りた救出作戦が展開されるのですが、
伊織はタケルたちが掘り当てていた誠実のデジメンタルを頑なに拒否します。
仲間のためとはいえ、ウソをついた自分に受け取る資格はないのだと。そんな彼を救ったのは、丈の言葉でした。
こうして新たなアーマー進化、サブマリモンが登場します。
そのするどい鼻先とイッカクモンとの合同作戦が、みごとメガシードラモンのイービルスパイラルを破壊するのでした。
戦い終わって、海を遊覧する伊織とサブマリモン。パートナーの言葉と雄大な眺めは、伊織の心に何を残したのでしょう。
★全体印象
16話です。タイトルコールは浦和めぐみさん。サブマリモンとしての読み上げです。
背景は水らしく青。泡を基調としたエフェクトへ、さらに波紋の効果がかかって水のイメージを演出しています。
また、まず状況が先に描かれ、それから陥った経緯が描写されるというちょっと変化球的な導入。
一話完結ならではといえますね。
さてこのお話で、伊織が知識よりもむしろ誠実の人であることが決定的になったといって過言ではありますまい。
また彼のデジメンタルを見つけるキッカケを作ったのがタケルだったりと、後へ活かされそうな要素もあります。
信頼は希望にもつながりますから、その点において伊織とは相性がいいのでしょう。
夏らしく水が大量に出てくる回でもあるんですが、ラスト以外は味わう余裕がありません。
また全体的に画面の流れが単調で、セリフの繋ぎかたもちぐはぐな上前半はそうとうに強引な展開になっていて、
以上さまざまな要素があわさり見ててそんなに面白い回ではなかったりします。
上に書いたとおり伊織がらみだけは悪くないんですけれど、ほかの要素で損をしていますね。
脚本はまさきひろ氏。こうして見ていくと、02では雰囲気のピリピリしたお話ばかり書いています。
このお話にもそれっぽい場面があったし、氏の得意分野はそこらへんなのでしょうか?
後半はそうでもないみたいですけど。
作画が信実さんなのに全体としてイマイチなのは、川田演出のせいでしょうか。
★各キャラ&みどころ
・大輔
みんなの作戦に気がつかないキングオブ鈍感ぶりを発揮したり伊織と舌戦かましたりしてますが、何かイマイチ。
空気を読めない発言がヘンに多いのはさすがまさき脚本といったところでしょうか。
京への切り返し方とか、なるほど4話とおんなじ人だわと思わされてしまいます。
・京
そんな大輔よりは勘がするどいらしい人物。たしかに機転がきくタイプではあります。
くじ引きのイカサマを思いついたのも彼女でした。意外にマジシャンの才能があったりして……
いちばん最初に空気不足の影響を受けたのは、体が大きい方だからでしょうか。それとも意外と肺が弱い?
・伊織
子供っぽくはしゃいだり、落ち込んだり、必死になったり、涙を流したり、意地を張ったり。
今回以上に彼のいろんな面をうかがえるお話は、なかなか無いでしょう。
それでも、どこかに一本気な硬質さがあるのがきっと彼の最大の持ち味であり、魅力でもあるのだと思います。
常日頃から「こうありたい」「こうでなければならない」という拘りがあって、それを大事にしているからこそ
理性を重んじ、正直であろうとする。自分というものを持っているから、そう簡単にはぶれないというわけです。
こういうところはアルマジモン同様、大変マイペースといえるのですが、過ぎた潔癖にもつながっているわけですね。
それこそ少年らしくて魅力的ともいえますけれど。
今回はぶっちゃけて言えばより広い視野と柔軟性が必要なのだと示し、信頼に応えるために本当に大切なものは何か、
そのために時には捨てなければいけないものと、決して捨ててはならないものを彼に刻み込んだのでしょう。
ウソつきは泥棒のはじまりといいますが、悪意と私欲が介在して初めて糾弾の対象となるのです。
では、なぜ人はウソをつくのか。ウソをつかなければならなかった理由はどこにあるのか。
このお話の事例もまた、彼が弁護士になった理由を考えていくには欠かせない要素といえます。
そして少なくとも、自分の主義のために真実を捻じ曲げるような弁護士になっていないことだけは確かでしょう。
それこそが、人の尊厳を貶める悪なのだと知っているはずなのですから。
ところで今回いちばんすごいと思ったのは、コヨリで京の手を痛打したこと。
マッスルドッキング以上に物理的にありえません。デジタルワールドだからでしょうか? んなわけない。
・アルマジモン→サブマリモン
伊織以上のマイペースさを遺憾なく発揮していました。
一度信じたら最後まで信じつづける姿勢はテントモンを髣髴させると同時に、伊織のこうでありたいという一面を
よく表しているものです。これは丈とゴマモンの関係に似ていて、まさにひとりで二人分というところ。
彼のガサツな側面もまた、伊織のパートナーだと考えると興味深いですね。
あらたな進化を遂げたサブマリモンは、水中型として非常に完成度のたかい存在です。
イッカクモンとくらべても小柄な体いっぱいに詰まった水中戦能力はアーマー体にしてある意味究極と呼べるもので、
類するデジモンがいないことからアーマー体ならではの存在といえるのではないでしょうか。
特に、パートナーを乗せるスペースがあるのは不思議です。知恵のあるデジモンになぜそんなものが必要なのでしょう?
人間と共存するために姿を変えたのだとすれば、それは浪漫ですけれど。
披露した技は角先から発射するアクアバルカンと、鼻からのオキシジェンホーミング、そしてぶちかまし技・
サブマリンアタックです。どれも強力ですが、特にサブマリンアタックは一撃でイービルスパイラルを破壊したほど。
個人的見解をいえば、限定条件下でならアーマー体最強ではないかと思います。もちろん、マグナモンは別ですが。
操縦席の伊織にはおそらく、サブマリモンの取り込んだ空気の一部が常に供給されているのでしょう。
気圧だなんだはセンス・オブ・ワンダーでうまいこと処理してるにちがいありません。
・タケル
今回はいつにも増してさわやか系。デジメンタルを掘り当てるべく、汗を流していました。
丈にくらべだいぶ地味ですが、彼もお話の一助をになっている一人。彼が行動を起こさなかったなら、
デジメンタルを見つける間もなく海底をはなれることになり、あわれ誠実の紋章は海の藻屑となっていました。
あきらかに酸素の消費を早めているように見えるんですが、あえて言いますまい。
上に書いたように、信頼へ全力で応えようとする心が誠実であるなら、その誠実を信じて望みを持ちつづけるのが
彼の紋章である希望の心。これは伊織の一側面がタケルと良いつながりを持てるという証左でもあります。
伏線……というわけでもないんでしょうが、憶えておいてもいい事柄でしょう。
でも考えてみたら地面突き抜けたり飛んで来たりが当たり前のデジメンタルを、わざわざ掘り当てる意味って
どこらへんにあるんでしょうか。掘り出した例がこれしかないのでなんとも言えませんが。
・ヒカリ
大輔とタケルをひと声でアラホラサッサーさせたり、この回もけっこうな女王様ぶりです。
それだけではなく、なんか妙に強気でした。テンション的に絶好調だったのでしょうか。
やはり02は各脚本で性格や言動が一致しないところが多いのだな、とあらためて思わされちゃいます。
もっと酷い作品を知っているから、今となってはたいして気になりませんけれど。
・丈
今回はかなり直接的に伊織を諭す役どころでしたが、個人的には5話のほうが印象的かなあ…。
あっちは総合的完成度もたかいから、印象に残って当たり前といえば当たり前なのですが。
とはいえ、この16話でも間違いなくキーマンのひとりといえます。しかも皆を救うという大活躍。
あらかじめ光子郎に連絡してホエーモンを回してもらったり、完全に「イザというとき頼れる男」になりました。
本人に言ったら照れて苦笑するだけでしょうけど。
・イッカクモン→ゴマモン
格上のメガシードラモン相手に善戦、時間稼ぎの囮役として貢献しました。
完全体とこれほど長くやりあえるとは、いわば歴戦の勇士たる前作キャラの面目躍如というところです。
最後はサブマリモンにまかせる形でしたが、ダブルアタックで決めてもよかったかもしれません。
なお終始イッカクモンの姿とみせかけて、最後でちょろっとだけゴマモンに戻ってました。かわいい。
でもあの亀は……いったい?
・その他のパートナーたち
テイルの姐さんが客観的かつ冷静な意見をのべる役として、あいかわらず重宝されています。
そのほか、ホークモンの発言が目立っていました。
・火田主税
結果として伊織を縛ることになった役どころですが、たぶん言葉どおりの意味ではないと思います。
まだ小さい伊織には、そこに込められた大きな意味を汲み取ることまでは難しかったというだけで。
ただし息子、すなわち伊織の父のこともありますし、そのときの悔恨もあってあんな言い回しになった、とも言えますね。
・賢=デジモンカイザー&ワームモン
罠だけ張っといてあとは部下にやらせるというぞんざいな対応。
多忙につき現在お相手できません状態です。そろそろ決戦のフラグも立てはじめました。
モニターに映るエアドラモンがひとつのヒントとして提示されています。
・メガシードラモン
カイザーの命令で海底油田に張っていた完全体。
たぶん最初に反応をキャッチしたのは賢ちゃんで、大輔たちが来たら命令どおりに行動して罠を発動させるよう、
言いつけられていたんでしょう。であれば、あの巧妙な追い込み方も納得がいきます。
メタルシードラモンがいないので、02における水中型ではかなり強い部類に入るデジモン。
イッカクモンも単体では時間稼ぎするのが精一杯というところです。ただ01に出てきたヴァンデモンの手下とはちがい、
本来はおとなしい性格。感謝の表現なのか正気にもどったことを大輔たちへ示し、海に消えていきました。
私の記憶が正しければ、35話で対ブラックウォーグレイモン連合として再登場するはず。同一個体かどうかは不明です。
場面によって大きさがぜんぜんちがうのはご愛嬌。
・ホエーモン
大輔たちを手っ取り早く救出するためのシナリオ的・および実際的手段として登場しました。
味方として出てくるのは01同様ですが、セリフも無くこの後の登場も記憶にありません。
01に出てきた個体の生まれ変わりなのか、別個体なのかどうかもわかりません。ほぼここだけのスポット出演でした。
なお、彼に協力をたのんだのはテントモンのようです。
どうやら私が思っていた以上に顔が利くみたいですね。テントさんに頼まれちゃ断れねえなあ、というやつです。
・巨大海底油田
誰がいつ建てたのかすら不明な巨大油田。今回のステージです。
操業してるスタッフがいないのに火が燃え、システムも動いているのはお約束。
丸見えの脱出ポッドには笑いました。お前ら気づけよ。
置かれた状況を受け入れ、まわりを見る余裕ができてからそんなに経ってないと考えれば、
まあそれほど不自然じゃないかもしれませんが……。
ところで海には魚やクラゲ、あげくに海亀までもがいます。
どこからもデジモンには見えませんが、じゃあ彼らはいったいなんなのでしょうか。深く考えたら負け?
★名(迷)セリフ
「伊織君がいいと思う」(ヒカリ)
脱出ポッドを見つけてすぐの場面で。
いきなりこんなことを言い出すので一体なにごとかと思わされますが、つまりこういうことですね。
・ポッドは一人乗り
・しかも小さいので、伊織に乗っていってもらうしかない
・が、自分だけ脱出することを伊織が固辞することはわかりきっている
・そのうえ、伊織は責任を感じているのでなおさら脱出を拒むはず
・であれば、あらゆる手段を講じてでも伊織に行ってもらうしかない
・うまくいけば、結果として伊織が責任を取って事態を収拾した形になるので一件落着
とまあ、こんな感じで暗黙のうちにヒカリ、京、タケルが一致したのでしょう。
大輔はよくわかってなかったみたいですが……この場面だけ見ると純平と気が合いそう。
「言えないならそれでもいい。ウソをつかれるよりな。ウソだけはいかん。ウソだけは…」(火田主税)
今見るとこの言葉もけっこう深いというか、この人もいろいろあったんだよなと思わされます。
「そりゃあ、決まっとるがや。きっと……」(アルマジモン)
アーマー進化を想像する場面。どうやら彼はひそかにエンジェモンになりたいようです。
翻って、大輔の想像はかなり的確。ただしアーマー体ではなく、成熟期でしたが。
「それに僕……ウソついちゃったの……ウソだけはいけないって、おじいさまに言われたのに……!
だから……僕には誠実のデジメンタルを持つ資格なんてないの……!」(伊織)
「ウソにはね……ついて悪いウソと、ついていいウソがあるんだよ。
人を傷つけるウソと、人を助けるためにつくウソ」(丈)
伊織の口調の崩れっぷりが愛らしいのですが、丈先輩の説得上手も光るやり取りです。
というか伊織は全般的に丈には弱いから、わりと素直になりやすいんですが。
「なあ、伊織……海って、こんなに広いだぎゃ」(サブマリモン)
今回のテーマをよくあらわしている言葉、かもしれません。
海のように広く静かで、清らかな心。その力を秘めるのが誠実の紋章というのは、ロマンチックですね。
★予告
最初に見たときギャグ篇かと思いました。まさかああ来るとは……