カイザーの基地を追え! |
脚本:前川淳 演出:今村隆寛 作画監督:清山滋崇 |
カイザーを討つ覚悟を固めた子供たちはキャンプという名目で、デジタルワールドに滞在する計画を立てます。
大輔たちが出掛けている間のアリバイ作りのため、太一たちのほうは実際にキャンプへ出掛けることになるのですが、
ジュンの登場でいきなりトラブル含みのスタートに……
そして、ここにもトラブルメーカーが一人。肩にちからの入りすぎた京です。
無謀な行動力がピンチを招き、ホークモンが負傷してしまいました。やむなく大輔、伊織、タケルが先行をし、
ヒカリとテイルモンが京のガードとして残ることに。頭を冷やした京はパートナーに謝罪するのですが、
ホークモンは欠点も含めて、京のことが好きなのだと語ります。こうして、ふたりの絆はさらに強まるのでした。
その夜、巨大な飛行物体が悠然と闇夜に飛び去るところが目撃されます。
一晩にして姿を消したあの不審な建造物は、飛行要塞だったのです。決戦のときは近い…!
★全体印象
18話です。タイトルコールは木内レイコさん(大輔)。
赤を背景にずらり並んだダークタワーと、カイザーの基地が今回のシルエットです。
前半の状態をトレースしたものなのは、後半のネタばらしを避けるための措置でしょう。
今回から21話まではひさびさに連続エピソード形式となるのですが、19話まではその一回だけでひと区切りなので
本当に連続なのは20話と21話、つまり後半だけです。そして、もっとも印象に残らないと思われる20話にすら
語るべき大事な要素があるため、どれ一つとして欠かすことのできない大事なパートになっているといえるでしょう。
で、一発目たる当エピソードのポイントはやはり「初の長期滞在」。
これまではD-3の柔軟な機能をいかし、現実世界との二足のわらじを履くことで対応してきたわけですが、
それではどうしても解決しきれない問題、態勢を立て直しているいとまの無い状況があるわけで。
ある意味で言うなら、現実世界に戻る気がないぶんだけカイザーの方が有利なのです。
また目的を果たすまで帰らないという構図は、そのまま先輩たる太一たちの状況を受け継いだもの。
そして、その先輩たちからは外部よりのサポートしか望めない状況です。
いわば今回の連作は、先輩たちの庇護をはなれて独り立ちするための卒業試験みたいなものでしょう。
事実、みごとカイザーを退けたあとは目に見えて太一たちの出番が減っていくことになります。
少なくとも、直接的より間接的サポートが増えていったことだけは確かだったと記憶していますし。
4クール目はファンサービスみたいなもんでしょう。本当に重要な一番ではすでに大輔たちのほうが主体だったはず。
その4クール目こそが問題だという意見もありますが、いまは取り上げません。
もうひとつこのお話で重要なのは、京とホークモンの描写へヒカリを絡ませることで弱いながらも、
31話への伏線となしているところでしょうか。互いのあやまちや気がかりを打ち明けあっているので、
ジョグレスに繋がるとまでは言わなくともこれまでより少し接近できた、とはいえそうに思いますね。
演出はおなじみの今村氏。あいかわらずカット割りが独特です。ドクグモン戦での歌のような流れは特筆もの。
作画的にも安定株の清山氏が来ているので、全体的になかなか見ごたえのある回に仕上がっています。
★各キャラ&みどころ
・大輔
本格的に目立つのはもうちょっと後ですが、賢の両親のインタビューに注目していたりと仕込みはされてますね。
また前半で誤魔化しのためとはいえヒカリと密着するという、なかなか美味しい役をもらっています。
京の暴走にため息をついたり、熱血漢でありつつ意外に常識派というか抑えのきいているところもあらためて披露。
それを三番手造形というんですが、あの状況だと京以外の全員がああなってもしょうがないところではあります。
ジュンへの対応は相変わらずぞんざいですが、姉にとて問題がないとはいえません。
まあ、時間が解決する問題だと思います。
・チビモン→ブイモン→フレイドラモン
大輔自身にそれほど出番がないかわりというわけじゃないんでしょうが、こちらが後半のバトル役です。
演出の都合上、ファイアロケットがまるで火山の噴火か核爆弾のような威力。あれでよくイービルスパイラルが吹っ飛ぶ程度ですんだものです。
・京
ある意味暗黒進化したといえなくもないのがこのお話。
良い方向にはたらけば大輔同様、皆を前に引っ張っていく求心力になりうるものを秘めているのですが、空回りした場合はこのように
明後日の方向へどこまでも突っ走っていってしまうようです。躁症になりやすい性質なのかもしれません。
声をつとめる夏樹リオさんのおっしゃる通り、ああ見えていろいろ考えこみやすい性格でもあるのですが途中でわけがわからなくなり、
パニックを起こしたまんまテンションだけ上がっているという、ブレーキのブッ壊れた状態になっていたのでしょう。
しかし、深刻な状態に陥る前にパニックを起こすというのは実は悪いことだけじゃなかったのかもしれないと、こないだ気付きました。
そのあたりは31話あたりで語れるでしょう。今回とあわせ、京を語る上でははずせないお話のひとつです。
・ポロモン→ホークモン
そんな京の欠点もふくめて受け入れているのが、パートナーたる彼です。
相方のすべてを肯定するというのはデジアド系のパートナーデジモンたちにとってデフォルトのような姿勢なのですが、
それを象徴するような態度をみせたのがガブモンであり、ワームモンであり、ブイモンであり、また彼であるといえるでしょう。
ワームモンはかなり極端ですけれど。
これを根拠に「デジモンたちが子供たちを甘やかしている」という意見も出たことを思い出しました。
一理ありますが、だからこそ想いに応えようという気持ちも湧いてくるのではないか、という見かたもあっていいと考えます。
・伊織
この決戦篇では実のところ、さほどの役割を果たしていません。
そのかわりジョグレス篇と賢へのこだわりで出番があるので、今はまだ順番じゃないという方が正しいでしょうか。
・アルマジモン→ディグモン
前半で進化し、伊織と光子郎たちを逃がす役を果たしました。
地面に潜れるという能力をなにげに最大限発揮し、敵のナワバリから脱出するという難業の一役を買っています。
そのかわり、後半には目立った出番がありません。
・ヒカリ
上に書いたとおり、京とのちょっとした絡みが見られます。
これをもってジョグレスの組み合わせが唐突ではないのだと主張することはできませんが、この取り合わせになった意味はあると思います。
19話のタケルと伊織も同様なんですが、これは次回に譲りましょう。
・テイルモン
ホークモンの応急処置をしたのは彼女のようです。
自力で傷を治さねばならない局面もあったであろう姐さんにとっては、慣れたもんなのでしょう。経験値のたかさが窺えます。
薬草にもくわしいようですが、これはウィザーモンから教わった知識でしょうか?
・タケル&パタモン
音頭を取ってるのがたいてい彼らなので、どう見てもリーダーです。自覚があるかどうかわかりませんけど。
とはいえ、今回は現役組のなかで一番地味。すべては次回のための溜めでしょう。
両親のインタビューを途中でブチッと切ってため息をつく後ろ姿が、なんだかちょっと怖い。
・太一
今回の滞在計画を立案した人物。こういうときの妙案というか、悪知恵に長けてそうなタイプなので妙に説得力があります。
便乗してちょっと良い思いをしようという計算があるよーに見えるのはたぶん気のせいです。
・ヤマト
こっちはいかにもな不器用さを発揮していました。とっさに父親の名を出しちゃったり、その親父の説得がいまいち下手だったり。
あのようにしてみると、タケルのほうがなんぼか甘え上手という気がしてなりません。
境遇もあって彼は父親に、タケルは母親に似ているところがあるのでしょう。または考え方に影響を受けているか。
奈津子さんは甘え上手なところがありつつ自立したところも大いにあるという、そんな女性なのでしょう。
両親とも、あんまりタケルには似ていません。あるいはタケルのほうが一歩退いて、本来の性格を抑えているか。
・光子郎
崖から滑り落ちた伊織を支えるという意外に腕力があるプラス、先輩らしい一面を見せています。
その他の場面でも場の雰囲気を占める議長のような役割で、存在感の大きさがうかがえますね。
これじゃあ、単体で目立つお話があてがわれなくても仕方のないところ。
・テントモン→カブテリモン
前半では、カイザーの懐から脱出するために進化していました。
また、後半では光子郎とは別に案内役としての出番があります。
ホークモンとはいろんな意味で気が合いそう。ベクトルは違うけど、パートナーに振り回されがちなので。
・空、ミミ、丈
この3人は決戦編において出番がありません。出す余裕がなかったというだけではなく、本人たちの予定もあるんだろうと思われます。
特にミミは海外在住なので、なにかと都合がつきづらいところがあるでしょう。
デジタルワールド経由なら関係ありませんが、D-3がないと確実じゃないみたいですし。
・ジュン
というかその3人の出場枠をひとりで食っていた気がしないでもないのがこの人。
非常識のレベルに達しつつある行動力はギャグとして成立していますが、実は後になってもたいして意味の出てこない一幕。
彼女が新メンバーにでもなったら別の意味で面白かったでしょうが、
そうはならないので単発で終わっています。
むしろ株を不必要に下げるだけに終わっている気がしてなりません。
なお彼女の出番はこの決戦編がほぼ頂点で、あとは忘れ去られていく感じです。
初めからただの賑やかしのつもりだったのか、それとも何か別の役をやらせるつもりだったのか、詳細は不明。
仮にも大輔の姉なのだから、もうちょっと何かあると思ったんですが。
あげくの果てにヤマトとの組み合わせで検索をかけると、とんでもないものが出てきてしまいます。嗚呼。
・泉佳恵
02の親御さんではやたら出番の多い印象がある光子郎ママですが、初登場は意外に遅いこの18話。
注意して聞くと、たしかに荒木香恵さんとの掛け持ちだということがわかります。
それにしてもああまで出番があったということは、やはり人気があったんでしょうか。わからんでもありませんが。
どこか初々しいというか、天然っぽいのがよかったのかな。天然ならば太一ママもそうとうなもんですけど。
・石田裕明
ヤマトパパが前回に続いての登板です。
ボーナスのたびに絞られているように見えますが、仕事を考えればお金は持ってるはずなので多少ならどうってことないでしょう。たぶん。
これも親の醍醐味、頼られるうちが華というやつかもしれません。
・デジモンカイザー=賢
ひさしぶりに表舞台に登場。した途端にノリノリで高笑いしまくっています。
キメラモン完成が間近でハイになっているのでしょうか?
余計なことを言わないぶんにはワームモンが側にいても何も言わないあたり、複雑な心境が見て取れますね。
・ワームモン
賢の相方なので彼が望むことには協力しているし、成就が近づけば喜ぶような素振りも見せますが、やはり不安は拭えないようす。
最愛のパートナーが破滅に進みつつあることを、ずっと危惧していたはずですし。
・ドクグモン
カイザーの要塞跡地に根城をつくり、京をおそった個体。01のときとちがい、口はききません。
演出でしょうか、複眼が信号機のように規則正しく光るエフェクトも加えられています。
不意打ちにより、ホークモンを毒に浸すのですがこれは言わばラッキーアタック。
その後はあっさり負けてしまい、イービルスパイラルを砕かれてすごすごと退散する姿を確認できます。
潜伏位置からみて、調査に来た手合いへのトラップのようなものだったのかもしれません。
・キメラモン
シルエットのみでの登場。本格的活躍は次回からになります。
どうやって作られたのかよくわからないんですが、
賢ちゃんのセリフからみてスキャンしたデジモンのデータを使っているんでしょうか?
だとすると、なんだかデジモンストーリーを思い出す設定ですね。あのゲームも出会いさえすればデータが溜まっていきますし。
・デジモンカイザーの空中要塞
電車のいっぱい突き出た謎の高地に鎮座していたのが最初の目撃例。最終的に飛行していることがわかります。
ところが、実はいつ完成していたのかよくわからないポイントでもあるんですね。
これが18話以降の本拠地であることだけは確かなのですが、ほんとうにここが最初から拠点だったという証拠がありません。
それにいくら飛行可能だといっても、これだけ広いデジタルワールドをカバーするのは難しいはずです。むしろ前線基地を網の目のように張り巡らし、
カイザー自身が暗黒デジヴァイスを使って行き来していると考えたほうが自然でしょう。
ですからこの要塞は本拠地(司令部)であるというだけでなく、キメラモン運用も前提とした攻撃基地、空中移動戦艦だと考えてもいいと思います。
いや、自体の攻撃能力は弱いようなので空母と呼ぶべきかもしれません。デジモンの柔軟な飛行能力なら、長いカタパルトは要らないというわけです。
デジメンタルを使った特殊動力によるきわめて長いであろう航続距離も、空母の特性にみあったものといえます。
外側に岩盤が張りめぐらされているのは、 岩に基礎を通していたせいでしょうか?
・走狗デジモンたち
ダークティラノモンとクワガーモンの姿が認められます。
なにやら小競り合いをしていましたが、あのタスクモンたちはどういった目的であそこに集合していたのでしょう。
やはり、基地に攻撃をかけるためですかね。つまり、彼らはカイザーの基地たるあやしい建造物の存在を承知していたことになります。
テントモンはその動きを察知して、調査が必要だと考えたのでしょう。
その他、カイザーの乗騎としてデビドラモンが登場しました。賢ちゃんのお気に入りなのか、以降21話まで役目を果たし続けます。
前後の場面で、暗黒デジヴァイスを使えば直接進化を阻害できることも示されています。可能なのは暗黒進化と、自然進化の場合のみ。
だからテイルモンはダークタワー影響下でも退化しませんし、ゆえにこそホーリーリング紛失というハンデを負わねばならなかったのでしょう。
つまり暗黒デジヴァイスとは進化そのものではなく、選ばれし子供のもつデジヴァイスを使った進化に対するカウンターとして働く、
いわばアンチプログラムを搭載しているといえるのかもしれません。
★名(迷)セリフ
「ごめん、わかってる。オレ、気持ちの問題を言ったんだ」(大輔)
微妙なところで引くのが大輔クオリティというか、三番手造形というか……
初見からなんか印象に残っているので、記しておきます。
「カイザーを倒すまでは帰らない。そのくらいの覚悟が必要だわ」(ヒカリ)
君、それ主人公のセリフ。
やる気まんまんっぽいですが、正確に言うなら「そうしなければならないときは、心を決める必要がある」ということを知っている、
というだけでしょう。
なにせあのダークマスターズ戦を経験しているのですから、このセリフを吐く資格はあります。
が、それは現実の延長で冒険に参加した02組にとってまだ現実感のうすい感覚だったのです。
「パソコンも買うのかあああっ!?」(石田裕明)
父親の悲哀が滲み出たセリフ。
こういう時こそ度量が問われるとはいえ、なかなか大変そうです。
「まだ起きてたんでちゅか? 早く寝ないと明日がつらいでちゅよ……」(ポロモン)
小さい体でいっぱしのことを言う、このギャップが好きです。
「空よ! きっときっときっときっと! ボーンって、空に飛んでっちゃったのよー!」(京)
セリフの異様さもさることながら、あのツルンとしてそうなダークタワーを素手でクライミングするという凄いことをしています。
ギャグになると途端に身体能力がはね上がるというのはよくあることですが、これも02ならではといえるかもしれず。
このときの京に匹敵することをできそうな人物というと、大のアニキしか思い当たりません。
ところでこの当てずっぽうが実はビンゴでした。世の中わからないものです。
「すいません、すいません、すいません。アレでも京さんは、京さんなりに頑張ってるんです」(ホークモン)
どうもデネブさんが何かを思い出させると思ったら、やっぱりこの人でした……
相方が無愛想か無駄にテンションが高い時があるかの違いがあるだけで。
「もし…昨日わたしが言ったこと、気にしてるんだったら……ごめんなさい。覚悟が…必要とか言ったこと……」(ヒカリ)
ヒカリ、あるいはタケルも、自分たちと京たちは違うところがあると考えていたのかもしれません。
しかしふたりの性格上自分の感覚に京たちを合わせさせるより、京たちのほうに合わせることを選んだのだと思います。
けれども事態が切迫してくるほどに経験に裏打ちされたことを言ってしまいがちで、それが引っ掛かっていたのですね。
そしてだからこそ、馴染みとではなく薄皮一枚の距離がある現役組とジョグレスへ持っていくことに重要な意味があるのでしょう。
少なくとも、その方がドラマになるし想像の余地があるのは確かだと思います。
それを言ったら大輔や伊織とでも成立する話ですけど、やはり男女ジョグレスはヤバかったのでしょうか。
エクスブイモンとテイルモンがジョグレスしたらどーなるのか、見てみたい気はしますけど。
「あたし、一度スイッチが入っちゃうと止まんなくなっちゃうのよね……
ごめんね。こんなんじゃ、パートナー失格だよね……」(京)
私が好きなのは、間違いをしたらちゃんと謝るという選ばれし子供たちの基本姿勢です。
理由も言わずに暴力をはたらいてちゃんと謝りもしない「大人」が作品の中にさえ多い昨今にあって、これは大事なことでしょう。
もっとも、対象年齢を考えれば本来当たり前の話なんですけど。
私としても、つねに見習っていたい姿勢です。
自分の間違いを認められない人間に成長は無いのだと、このところ強く感じているので。
「…気にすることないですよ。そういうところも含めて、京さんなんですから。私は……そんな京さんが好きなんです」(ホークモン)
上へのホークモンの答えがこれ。
相方への全肯定という姿勢をよくあらわしている、象徴的な言葉だと思います。
この有りかたをどう捉えるか、それは見る人しだいなのでしょうけれど。
ところでこれ、どう見ても告ってますよね。
「ララララララ♪ ラ〜ラ♪」(ホークモン)
上のいいセリフをある意味台無しにする能天気な歌。
そういえば彼はこんな性格でした。デジメンタルアーップ! とか。
★予告
キメラモンがいよいよ登場。
なのですが全然印象に残らないのはたぶん、あの男のせいです。