大地の装甲アンキロモン |
脚本:吉田玲子 演出:今村隆寛 作画監督:出口としお |
一方、今日も今日とて復興作業に精を出す大輔たち。
ところが、なぜか通常進化ができません。町に残されたままのダークタワーが、ふたたび機能している…?
そんな中、地下トンネルに作業へ出た伊織がサンダーボールモンの襲撃を受けました。
敵にはどういうわけか、イービルリングの類がついていません。いったい何故? 戸惑いが危機を呼んだとき、
アルマジモンが通常進化を遂げてアンキロモンとなりました。どうして通常進化できるようになったのか…?
疑問を呈するまもなく、敵の容赦ない攻撃がつづきます。不意をつかれてまたしても窮地に陥る伊織。
それを救ったのは、謎の緑色のデジモンでした。驚異的なスピードで、瞬く間にサンダーボールモンを消滅させます。
躊躇いなく手を下した所業に驚く大輔たち。しかも、謎のデジモンはワームモンの成熟期だったのです。そして一乗寺賢の姿も!
彼らは何も告げぬまま、その場を立ち去っていきました。
気づけば、ダークタワーもいつのまにか消えているではありませんか。不可解なものがみなの胸中に広がります。
諸悪の根源として怒りをおぼえていたデジモンカイザーが、一乗寺賢がなぜ自分を助けたのか。
新たな謎と疑問に、伊織の心は大きく揺れ動くのでした。
★Brave Heart
22話でも流れたなつかしの挿入歌。通常進化にはこちらが採用されるようですね。
まあ、すぐBeat Hit!に取って変わられるんですが……
★全体印象
24話です。タイトルコールは当然、浦和めぐみさん。伊織としての声で読み上げているようです。
影絵に使われているアンキロモンは、設定画の流用でしょう。イメージに相応しく、黄色が採用された背景です。
タイトルこそ進化エピソードの様相を呈していますが、実質はネタ振りの回。
謎の女性、姿の見えない敵、ダークタワーの謎、そして賢の復帰と、まさに新展開ですね。
実態がわからないため、事件の全貌がつかめず「次はどうなるんだろう?」と一番ワクワクさせられる時期です。
思えば、この頃のアルケニモンはミステリアス性に助けられて十割増くらい大物に見えますね。
とまあ、そんな具合にワリを食ったというか、活躍するヒマすらもらえなかったのがアンキロモン。
タイトルに名を戴いているにもかかわらず、やったことといえば伊織をガードしただけで、戦闘そのものは
同時に初登場したスティングモンの担当。というか、謎の新レギュラーとではやはり分が悪いですね。
なんせ26話でもうジョグレス進化ですから、突っ込む隙がここしかないのは確かなんですけど。
かわりに、伊織の心理描写はいろいろと頑張っていました。
一乗寺賢をデジモンカイザーと同一視する認識も、イービルリングを持たないデジモンの襲撃も、
彼の固定観念を大きく揺れ動かすもの。もうひとつ上の成長をめざすための第一歩がはじまっているのです。
それが結実する36話までは、より注意して彼の動向を見ていかねばなりませんね。
正体のつかめない不安を煽っていたのが今村演出。今回はそれほど癖を出しているわけではありませんが、
あいかわらず雰囲気はいいですね。全体的に静を醸し出す画面づくりが、嵐の前を予感させてくれました。
そのおかげか、作画こそデグっていたものの合計点は悪くないお話になってます。
中盤がちょっとグダグダですけど。
★各キャラ&みどころ
・大輔&ブイモン→エクスブイモン(復興作業で登場)
主役ということで脚本の吉田氏が頑張って目立たせようとはしてるみたいなんですが、目立ってるだけで脇。
今回は伊織のお話ですから別にそれ自体は問題ないんですが、なんというか、
目立たせ方にいろいろ問題あるような気がちょっとだけ。皆、なにもそこまで生あったかい目で見なくたって。
しかしながら、しょげるブイモンを大輔が後ろから抱っこするあたりは良いシーンでしたね。
あ、でもこれは私にとっての良いシーンなのであまり一般的ではないかもしれません。
・京&ホークモン→ホルスモン
ストーリー的には特に何もしてません。
次回で通常進化としてはいちばん美味しいお話をもらえるので、それ待ちです。
例によって勘はいいようなのでタケルとヒカリのフォローに回ってましたが、なぜああする必要があったのか
もうひとつ意味がわからないシチュエーションでした。今さら大輔をハブにするようなことかなあ。
はっきりいってタケルもヒカリも何らたいしたこと話してませんぜ?
・伊織&アルマジモン→アンキロモン
いままで積み上げてきたものがわりにガラガラ崩れる話だったんだな、という印象をあらためて持ちました。
彼にとり、イービルリングを持たないデジモンとやりあうのはキメラモンを除けば初めてのこと。
いえ、キメラモンをカイザーの作った生体兵器と認識するならば、事実上最初の体験といっていいはずです。
ここで彼はリングの無い個体を攻撃してはいけないと判断し、判断をにぶらせています。
これまでのデジモンたちはリングで操られているだけの「被害者」という認識だったから。
つまり伊織にとって、彼らは守らなければならない存在だった。そこが弱みになったのでしょう。
その敵を冷徹に殺害し、でありながら明らかに自分を助けてくれたスティングモンの行動も、
物事をはっきり分けたがるこの頃の伊織にとっては不可解きわまりないものに写ったはず。
死んだあのデジモンは、そして賢とスティングモンは敵なのか、味方なのか。悪なのか、正義なのか。
なまじ一本気なせいで、いままでの考えから逃れられずにいます。ひとつの技に拘るのもその比喩でしょう。
文字通り、斬り口を変えていかなければならない時期にきたということですね。
事態や状況に応じて柔軟に判断をくだし、原因から結果を予測して行動できるようになるのが成長というもの。
火の一字を名に持つ伊織にとって、いまから必要なのは「水の心」ということなのです。
しかし心配はいりません。彼はもうその心を持っているはずなのですから。
時に、掘削中のディグモンの背中はいろいろ危険だと思います。ってかなんで乗ってるんですか。
・タケル&パタモン
なぜか、大輔から離れたあとで進化を試していました。
といっても、上で書いたとおりわざわざ回りくどいことをする必要性がありません。
それでも大輔から離れた理由を挙げるならば
1.いまだ確証のもてない問題なので、あくまでも慎重にあつかう必要があった
2.行動力のかたまりのような大輔にまだ問題が残っていると知られれば、復興作業を放っぽりだして
やみくもに動きはじめる可能性があった
3.単に進化できない姿を見られたくなかった
(付け加えれば、それをネタに話の腰を折られまくる可能性があった)
4.園児たちがもどってきたら、大輔に子守りをやらせる予定だった(知らないのは大輔ばかりなり)
…書けば書くほど君ら大輔をなんだと思ってますかと語りかけたい気分に。
いやむしろ、その語りに当てはまるのはこんな理由しか挙げられない私なんですけど。
・ヒカリ&テイルモン
今日も今日とて密室会談。いや全然密室じゃないんですが。この前なんかゲコモンたちもいたし。
テイルモンも進化を試してみたっぽいのですが、考えてみたらいったい何に進化する気だったのでしょう。
紋章など、後援アイテムや力場の無い状態で完全体に進化するのは非常に難しいはずなのですが。
すまんすまん、あたしゃ元から進化できなかったよ、とボケをかますつもりだった…わけでもなさそうです。
・賢&ワームモン→スティングモン
穏やかな表情を見せただけでなく、後半でまた今までと一味違う引き締まった顔を覗かせている賢ちゃん。
23話からそう日は経ってないと思うのですが、バッチリ成熟期への進化が可能となっています。
あるいはもともと、成熟期までならなれたのかもしれませんね。賢本人が忘れていただけで。
スティングモンの長所はやはりなんといってもスピードと、針の穴をも通す精密性なのですが、
それ以外の能力値もかなりバランスが取れているので優秀です。単体での戦闘力ならトップクラスかも。
エクスブイモンのパワーをも上乗せされたパイルドラモンが強いのも当然というところでしょう。
デビュー戦は、吹っ飛ばされた伊織を助けるという美味しすぎるもの。まるで一輝兄ちゃんです。
おかげで、せっかく出てきたばかりのアンキロモンが完全にかすんでしまいました。
進化回の見せ場をかっさらった形ですね。ある意味、伊織の恨みを買ってもしょうがないような。
といってもこれは視聴者視点の話で、伊織のこだわりは全然そこじゃないはずですけど。
それにしてもこの強さとカッコよさを見ると、今まではなんだったんだという気持ちにさえなりますな。
・伊織の祖父
久しぶりに多めの出番が投下されました。考えてみたら5話と同じ吉田脚本ですね。
剣をみれば心理まで推し量れるといわんばかりに、伊織へ言外のアドバイスを投げていました。
利発な伊織はちゃんと感づいて、目の前の矛盾点へ向き合おうとしていきます。
このあたりは意外に長く伏線となっていて、映画でもしっかりと活かされてました。そういえばこれも吉田脚本。
・一乗寺夫妻
まだビミョーに堅さが残ってますが、以前の面影を取り戻した賢との生活を楽しんでいます。
特にお父さんは不器用なのか、ちょっとテンションを上げすぎなような。
まあ、これからだんだん解れていくのでしょうけど。
・謎の女性
なんのことはない、アルケニモンのことです。
しかし当時は正体がまったくわからなかったこともあって、いったい何者なのだろうと不安にかられたものでした。
脅威とは秘密があればこそのものなのです。ホルマジオも言ってましたよ。
というわけでほとんど情報が示されていない段階ですが、どうもデジタルワールドへは自由に行き来できるようですね。
彼女らが人間のデータからつくられた、いわばゲノデジモンであることと大いに関係しているのでしょう。
この先のお話にも、それを示すキーワードがあったかもしれません。
ところで及川のメールの文面を知ってましたが、賢(治)のパソコンを勝手に開いて見たのか、
及川のメールを読んだことがあるのか、はたまた実は彼女があのメールを書いたのか、
果たしてどれなんでしょう。
そしてそもそも、彼女たちは及川とベリアルヴァンデモン、どちらに仕えていたのでしょうね?
・サンダーボールモン
なんの前ぶれもなく現れて伊織を襲撃したデジモン。
と見せかけて、実はデジモンの姿をしているだけのダークタワーです。もちろんこの段階ではわからないので、
改心したはずの賢がなぜ? と視聴者にまでミスリードを投げかける組み立てになっていますね。
前回とは逆で、冒頭以外ほぼ完全に賢の主観を隠していますし。
さて、コヤツ体は小さいんですがそれ自体による捉えにくさとスピードが最大の武器。
また見かけによらず大規模な発破も引き起こせるようで、伊織を一気に上空へ吹き飛ばしました。
そのままだったら、ただではすまなかったはずです。なにげに今までじゃ一番のピンチだったんですね。
ここはスティングモンに感謝すべきでしょう。
ところで、デジモン化すると引き換えに通常進化を封じる効果が失われるようですね。
ちからの方向が戦闘力へと変質しているせいでしょうか。
・プニモン
幼稚園が修繕されたので、もどってきたデジモンの子供たち。なぜか園長先生はいません。
……どこへ行ったんでしょう。それとも、どこへも行っていないんでしょうか。ちょっと悲しい想像が。
しかし当人たちは逆境をも楽しんでそうなほどに元気いっぱいで、大輔とサッカーに興じていました。
ここから大輔の年下受けのよさと、昔ながらのガキ大将気質がよくわかります。
同じ年下でも伊織のように利発なタイプともなると、それほどでもないようですが。
★名(迷)セリフ
「じゃ、食べたあとは…うんどー! うんどー! うんどー!」(ミノモン)
いつのまにか進化してますが、それ以上にこのはっちゃけた言動が注目ポイント。
今まではついぞ見られなかったものです。彼らの関係が完全に以前のものへ戻った証左といえるでしょう。
要はブイモンたちの様式と同じになったってことですね。
続く賢ちゃんの喜ぶような、たしなめるような、悪戯っぽく且つ穏やかな演技もポイントですね。
「あいつにも、手伝わせればいいんだよ」(大輔)
姿を消したままの賢へのセリフ。
どうも許す許さない以前に、その先のことを言っているような感じですね。口調とか。
賢にその気があるのならば、生きて力をつくすことで償いに替えてほしいとすでに考えていることがわかります。
そういう境地に至った原因は彼の性格もそうですが、20話のあの出来事がやはり大きいのでしょう。
たしか26話で横顔とともに語ってくれるはずです。ビバ伊藤作画。
「…そのとおりです。僕は、彼のしたことを許せません!」(伊織)
賢=デジモンカイザーという認識をよく示してくれるセリフです。まあ無理もないけど。
この時点ではとても単純に、悪をなした者の存在を許せないという雅い正義感から発言しているのですね。
その悪がなぜ、どのように、どういう経緯で起こることになったかまでは考えが及んでいない。
悪はただ単純に罰せられるべきだと思っているのです。それは真理ではありますが、全てではなく。
なぜ法をおかしたかを知り、たとえ許されざる罪だとしても最後まで誠実に見つめつづける。
思えば弁護士ほど伊織に向いている職はないのですが、今はまだまだ。
この段階だったら警官を目指していたことでしょう。
「元気だせよ。じゃ、アーマー進化してみっか?」(大輔)
ここの後ろ抱っこが私的に印象的でした。ああ、この回だったっけ! ってな具合に。
絵はあんまり良くありませんけど。
「大輔だよねぇ〜」(京)
言葉の意味はわかりませんが、とにかくやたら印象に残った言葉。
君ら大輔で遊びまくりですね。たまには手加減してあげてください。
★予告
後年のシリーズにも登場するアクィラモンが初見参です。
やたら強いゴーレモンやなぜかいるミミなど、わりにツッコミどころも満載な一篇。