無敵合体! パイルドラモン
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脚本:前川淳 演出:吉沢孝男 作画監督:海老沢幸男 |
★あらすじ
エクスブイモンとスティングモンが合体して現れた完全体・パイルドラモン。その力はオオクワモンを凌ぐものでした。
戦況が有利に傾いたのを機に、大輔たちは要塞へ突入します。ところが、やさしさの紋章を使っても暴走は止まりません。
臨界を根本的に止めるには闇の力の流入を遮断しなければならないのですが、時間はほとんど残されていませんでした。
あわや爆発、というところで間一髪、オオクワモンを倒したパイルドラモンが馳せ参じました。
必殺のデスペラードブラスターで闇の流入口が破壊され、大爆発は無事回避されたのです。
巨大要塞はパイルドラモンの手によって、あとかたもなく吹き飛ばされるのでした。
光子郎は語ります。かつて、パイルドラモンのときと同じ現象が起こったことを。
デジタルワールドのゆがみを元に戻すために紋章を使い、パタモンたちの完全体進化が困難になったことを。
ジョグレス進化は、いわばその代わりとして発現したものではないかと皆は結論づけます。
しかし、依然として謎が残されていました。
ダークタワーをデジモンに変えて破壊活動を繰り返すあの謎の女性はいったい、何者なのでしょうか? その目的は…?
そして怒りに燃える紅衣の女は、新たな罠を画策していたのです……
★全体印象
27話です。タイトルコールは野田順子さん(ブイモン)と高橋直純さん(ワームモン)のハモり。両方とも成熟期としての演技です。
影絵は当然パイルドラモン。背景の青と黄色は、混じり合った二者を意味するものでしょうか。
このお話は大きく分けてふたつに捉えられます。前半がほぼバトルで、後半が設定の説明。
どちらかというと重要なのは前半だと思うんですが、かんじんカナメなパイルドラモンの活躍は作画のアレさでパッとしません。
またお話においてもあまり楽勝という描写ではなく、さりとてあんまり苦戦してるようにも見えないので少々間延びです。
デスペラードブラスター1発でカタがつくんならさっさとやってくれ、という見かたもできてしまう。
ここは圧倒的実力差で素早く排除してしまい、アルケニモンに後続を出させるという展開でもよかったように思います。
いかに強いといっても、物量で押せば時間稼ぎにはなるわけですから。
で、後半ではジョグレス進化についてあらためて語られるのですけど、これに関しては特に真新しい話題がありません。
作品を鑑賞しデジモンに親しんでいるなら、当時の段階でもう承知していることばかりです。
むしろ重要なのは紋章の設定でしょう。これこそが太一たち先代のほんとうの使命だという大仰なオプションつきです。
しかしこれは、ハッキリいって後付け設定といえます。もう一つ言うなら、太一たちの活躍を封じるための策ですね。
封じる、というとよろしくない言いかたになってしまいますが、ダークタワーが機能停止をした以上、
太一たちが完全体以上に進化してはならないという理由がなくなってしまいます。それでも太一たちが出てこないとなれば、
先代は何をやってるんだということになってしまうでしょう。
いわば太一たちをサブに留めておくための方便として、紋章の解放という設定があるのですね。
あくまでこれは大輔たちのお話なのですから、そういう意味でも決して間違っていない方向です。
問題は上に書いた通り、この設定がどう見ても後付け以外のなにものでもないところにあるのでしょう。
せめて一話か第一クールのどこかにでも仕込まれていれば、敵が完全体である以上しょうがないなということになるんですけど。
作画は上に記したとおり、あんまり良くありません。ただし、諏訪可奈恵さんのパートだけは綺麗。相変わらずの落差です。
出色なのは後半の回想シーンで、やたらとリキの入った作画です。ここ限定の服装も見られるのでレア場面でしょう。
空のシンプルなワンピースが新鮮。
★OP・ED
しつこいようですが、やはり何度見ても賢ちゃんの位置がしっくり来ません。
せめて大輔の真後ろを走ってほしいものです。クレジットは何とか移動でもして。
★各キャラ&みどころ
・大輔
「考えるな、感じるんだ」を地でゆくような押せ押せぶり。
前回などと同様、一歩間違えれば電波なんですが本人がああいう性格なのであんまりそう見えません。
感受性ってものを思いっきし前向きに捉えているからかもしれませんね。
あげく、よりによってヒカリに押しの強さを指摘されるありさま。
とはいえこの頃になると賢へご執心となるため、ヒカリへのラブラブ光線はその影をひそめていきます。皆無ではないけど。
……書いててこれでいいのかという気がしてきました。
・パイルドラモン→チコモン→チビモン
上で示したとおり作画がいまいちだったりするので、もうひとつ強さのアピールが弱いんですが
それでもオオクワモンを凌駕するパワーと、その一撃を楽々とかわすスピードはわかります。
直撃も受けてましたが大して効いていないみたいなので、防御力も一級品ですね。まさに完全体、どこにも穴がありません。
弱点があるとすればおそらく水中戦ぐらいでしょう。
問題はデスペラードブラスターで、そのへんの小銃かなにかのような描写。これはどうにもしょぼいものがあります。
連射系はしっかり描写しないと凄さが伝わらないということが、逆によくわかる結果に終わっていました。
うまく描けば無情ともいえるほどの殺傷力を見せられると思うんですが……
まして、この技はあの巨大要塞をも粉々にしてしまうほどの破壊力があるはずなのです。
さて、かように大きな力がある形態ですから一度進化すると、パートナーたちは幼年最初期にもどってしまいます。
これは39話でチンロンモンの力が上乗せされるまで続くため、ジョグレス進化には通常以上のエネルギーが必要みたいですね。
ただ初進化のわりにはかなり長く戦えていたため、二体ぶんのスタミナがあるのかもしれません。
むろん、新しいデジヴァイスの恩恵でエネルギー効率が上がっているというのもあるでしょうね。
声は基本的にハモりですが、たまにそれぞれの進化前が単独でしゃべることがあります。
融合していつつも、それぞれの意識は残っているようですね。ガーディオンとビルドタイガーの間ぐらいなイメージでしょうか。
突然のことで、彼ら自身もあふれる力に驚いているようです。
・京&ホークモン
今回はわりに驚き役専門。
ホークモンには要塞内でちょっとだけ見せ場があります。
・伊織&アルマジモン
伊織はというとまだまだ賢への怒りが収まっていないので、ジョグレスを前にしてもコメントが辛口です。
その一方で事実を事実として受け入れたり、理性では賢がもう敵ではないと理解したがっていることがわかりますね。
今の俗語で言えばまさにツンデレ状態ってやつでしょう。
ただ、そういった迷いを隠さないというか、隠せないのが伊織の幼いところであり、また真っすぐなところでもあるのでしょう。
裏表というものがないことになりますから、信用を得られたかどうかがハッキリ見えるタイプだと思います。
アルマジモンもホークモン同様、要塞内で少しだけ活躍場面があります。
・タケル&パタモン
いっぽうで、腹芸にもほどがあるのがタケル。
表面上は特に態度へあらわしてないのですが、誰にも聞こえないようにつぶやいた言葉が心情をあらわしています。
その言葉さえ表面的というか…本当のところ、もう賢のことは特に拘るというほどでもなかったりして。
闇に魅入られる愚かさを悟ったというだけで、とりあえず充分だったのかもしれません。許す許さないは別にしても。
こう見ていくと伊織とは正反対なんだなあ……確かに、ジョグレス相方としてはうってつけと言えますね。
パタモンとテイルモンには今回、特筆すべき事項がありません。
・ヒカリ&テイルモン
ヒカリはジョグレスや賢について、わざわざ特筆するほどのことを言っていません。
なんつーか本当に主張ってものをしないなあ。自分の気持ちより、みんなが仲よくやることのほうが大事なのでしょうか。
少なくとも、自身の意見が優先順位としてかなり低い所にある子なのは前からわかってることですけど。
ただやはり、賢についてはタケルほど腹に一物持ってるようには受け取れないんですよね。
どっちかというと同情的というか、共感できるものを感じていそうです。
・賢
すっかり我に返って、大輔のプッシュから逃げるかのように立ち去っていきました。
仲間を欲していると前回の感想で書きましたが、彼自身はまだその資格があるとも思っていないようで。
むしろあんまり急に仲間だと言われて、心の準備ができずにうろたえてしまったということでしょう。
つまり、まだ自分には罰が足りないと思っているんですね。
激しくなる一方な敵の攻勢の前では、そんな自戒の暇すらもなくなっていくのですけれど。
・パイルドラモン→リーフモン
ジョグレスの片割れということで、大輔と賢の橋渡し気味なことを発言しています。
彼は実のところ賢ちゃんと違って手を下した本人というわけではないので、その意味においては多少気がラクなのかもしれません。
もともと心情的にはブイモンたちに近かったわけですし、下地はあったと思います。
・光子郎
外部からの状況報告のほか、後半においてえんえんと設定の説明を行う役どころです。
極論すればただそれだけ。ラスト手前では京に押しのけられるシーンまであり、本格的世代交代を感じました。
それはさておいて、たまにテントモンが自宅に来ているか、モニタを通して会話しているようです。
光子郎ママはそれを見ていたのでしょう。
・光子郎ママ
二度目の出演。先代の親御でありながら、その登板率と印象度ではどの02組ペアレンツにも劣りません。
上回っているのは一乗寺夫妻ぐらいのものでしょう。
スタッフに気に入られているか、舞台が光子郎宅という局面が多いからか、視聴者の人気が高かったからか、またはその全部か。
少なくとも、なぜ出張るのかがある程度類推できる人ではありますね。
私自身もファンですし、チャーミングな人だと思ってますけど。なんか若妻っぽい。
・謎の女
アルケニモンと表記したくてしたくてたまらんのですが、29話まで我慢の子。
いろいろ煽ったり勝ち誇ったりしてますけど、実は今回特に何もしてなかったりします。
オオクワモンがやられた時もこれといって次善策を打たなかったし、早くも詰めの甘さを露呈している気がしますな。
もっとも、ダークタワーをデジモン化できるのは一日に一回だけだとか、そういうオチなのかもしれませんが。
一回につき一体ではなく「その現象を起こせるのが一回だけ」だと考えればわからなくはありません。
分散して成熟期を作るか、集中させて完全体以上を作るかは彼女の任意という感じで。
ただ、100本を収束させた場合になにが起こるのか把握してなかったあたり、彼女自身
自分の能力をよくわかってなかったんじゃないかと推測することもできます。
生まれてからそんなに経ってるわけでもなさそうですから、むしろ当たり前なのかな。
・オオクワモン
パイルドラモンのデビュー戦を飾る役どころです。
正面からでは太刀打ちできないとわかるや、クワガタのくせに地中に潜って不意打ちするという奇策で善戦するものの、
やはり実力差は埋められずにデスペラードブラスターで粉々にされてしまいました。焼け残った前肢がちょっとグロい。
結果だけ見れば、じゅうぶんな足止めすらできなかったというところでしょうか。
とはいえ、相手がジョグレス体では仕方ないところです。
むしろ二体分の力を使って進化したパイルドラモンが、ダークタワーデジモンとはいえ同じ完全体に勝てないようでは
あまりにも効率が悪すぎます。なんのためのジョグレスかということになってしまうでしょう。
パイルドラモンを倒すためには完全体を群れでくり出すか、格上を引っ張り出してくるしかないはずなのです。
だからこその黒ウォなのですが、そこまではアルケニモンの手にあまったようですね。さすがに究極体。
…あれ? じゃあ39話でトリケラモンに苦戦していたパイルドラモンは幻覚?
ま、まあアレはダークタワーデジモンじゃないので手加減しなきゃいけないし、ほかに気をとられてもいたし……
うん、そういうことにしときましょう(^^;)
・巨大要塞
思いっきり紋章の形が刻まれている動力炉に噴きました。魔方陣リングじゃあるまいし。
それにしても、一種の次元連結システムだったんですねえ。賢ちゃんも構造はある程度記憶していたものの、
どうやってこんなもんを作ったかまではもはや見当もつかないでしょう。
使われた方向はどうあれ、デジモンカイザーの発揮した才能がものすごいものだったことだけは確かのようです。
そしてどうやら、繋がれていた次元はダゴモンの海と同質の波動を持っていたようですね。あるいは、波長が一致していたのか。
奇跡のデジメンタルは動力などではなくて、闇の力の抑制と制御を司っていたのでしょう。
★名(迷)セリフ
「…事実を言っただけです。光子郎さんのパソコンにハッキリとあらわれていたんですから…」(伊織)
いかにも理性の人らしいツンデレ台詞です。
それにしても伊織と名前がつく子はツンデレばかりなのか。
「粉々にしてくれ……跡形もなく」(賢)
むしろ感慨がこもったセリフです。
間違いだったし記憶が曖昧とはいえ自分がつくったものを壊すのですから、思うところあったのでしょう。
「お前も気付いたろ!? デジモンたちが合体したとき、おたがいの気持ちや考えてることが、こう…体ん中に流れてきてさ…
心臓の音がいっしょになって、すごい一体感を感じたんだ! その瞬間、オレたち仲間だって、そう思ったよ
」(大輔)
なんという恥ずかしいセリフでしょう。
これを堂々と言えるのは12人の中じゃ、大輔だけだという気がします。
「資格ってなんだよ? あの一体感があれば、それで充分だろ?」(大輔)
ああ、ここでも考え方が示されていたんですね。選ばれし子供に資格などというものはいらないという、
最終話の流れにつながるものはここにもあったわけですな。
「ストレート過ぎるのよ、大輔くんは。そんないきなり迫られたって、すぐに答えは出せないんじゃないの?」(ヒカリ)
これを言ったのがヒカリっつーのはどういう皮肉なんでしょうか。
むしろ自分が感じたことをそのまんま繰り返してねえですかあなた。
「その頑張りが…自己満足で終わらなければいいけどね…」(タケル)
誰にも聞こえていません。
ええい、言いたい事があるならもっぺん賢ちゃんと殴り合ってみたらいかがですか。
大のアニキならきっとそうするはずです。無理な注文だということはわかってますけど。
「僕にはおまえしかいないと思っていたのに…本宮のデジモンと合体するなんて…」(賢)
戸惑うと同時に、ちょっと置いてかれたというか先にゆかれたような気持ちなんでしょうか。
彼としてはもっとこう時間をかけて、少しずつ認めてもらおうという構えだったのかもしれません。
急にペースが早まって、やはり少々浮き足立っているのですね。
「デジタルワールドの歪みをもとに戻すには、
闇の力によって封じ込められたデジタルワールドを守護する力を解き放つ必要があったんです
」
「8人の紋章のちからでデジタルワールドの封印を解く。それが、僕たちが選ばれたほんとうの理由だったんです」(光子郎)
後付け設定の瞬間。
守護ということは境界線の強さをあらわすものでしょうか。セイバーズ的にいえば次元の壁の強さかな。
そこに紋章が必要というあたり、思念をリアライズする世界のちからを使っている証でしょうか。それもまた後付けなんですけど。
各世界の間はつねに闇というか、混沌で満たされているのかもしれません。
「泉センパイ、ちょっとどいててください!」(京)
こちらは本格的世代交代の瞬間。
もっとも先代の子供たちもまだまだ若いので、自分で役目を見つけていく段階へ入ったというだけなのかもしれません。
「あら? 今日はテントさん、来てないの?」(泉佳恵)
光子郎が心配するほどのこともなかったよーな気がしてなりません。
それでも目の前で消えられたらビックリするかもしれないと思えば、避けたいと思うのもわかりますけど。
★次回予告
見るからに竹田作画。
ゴキモンの群れとは、生半可なデジモンよりよっぽど恐ろしい集団ですな…