昆虫使いの罠!!
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脚本:まさきひろ 演出:川田武範 作画監督:竹田欣弘 |
★あらすじ
諸悪の根源であるダークタワーを破壊してまわる子供たち。
紅衣の女は激怒し、挑戦状をたたきつけてきました。誘い出された場所は巨大な家・ギガハウス。
ふた手に別れてまずは大輔、伊織、やや遅れて到着した賢が偵察へ入りますが、待ち受けていたのは大量の昆虫型デジモン。
待機していた京、タケル、ヒカリのもとにもフライモンの大群がおそいかかってきました。
わけがわからぬまま逃げまどう大輔たちでしたが、ふしぎな笛の音をたよりに紅衣の女のところへ辿りつきます。
悪意を剥き出しにする謎の女は、携える笛の音でスティングモン、つづいてディグモンを操りはじめました。
女は昆虫型デジモンだけに作用する笛を使う、昆虫使いだったのです。
気付いたときには一歩遅く、ドクグモンの巣へたたき落とされてしまう大輔たち。
一方京やタケルたちも、次々とおそいくる昆虫たちに追い詰められていたのです。絶体絶命のピンチ……!
★全体印象
28話です。タイトルコールは木内レイコさん(大輔)。昆虫の部分は「バグ」と読みます。
影絵は謎の女こと、元身をあらわす前のアルケニモン。サイケデリックな背景は何かウルトラシリーズのようです。
この回と29話は完全に連続したお話になっており、シチュエーションの特殊さからギガハウス篇といっていいものになってます。
当エピソードは異常な舞台設定をぞんぶんに堪能させ、紅衣の女の特技を紹介、そこから危機に持ち込んで来週へという
前編と呼ぶにふさわしい仕立て。どう切り抜けるのか? と、次回が楽しみになってくる終わりかたでしょう。
そういえば、ここまでハラハラさせるような引きは02じゃ初めてです。
それだけ敵側の攻撃が熾烈で悪辣になってきているということでしょう。もう後半ですしね。
ただ、アクションが多いわりに意外と語ることが少ないお話という気もしますね。
気にかかるとすれば、あの状況下においてもむやみな攻撃をためらう子供たちでしょうか。あの昆虫型たちは操られていただけなので
結果的には正しい判断でしたけど、こうした彼らの甘さが悪い方へ事態を転がしかねぬ示唆になっていますね。
大局的に見ると、このギガハウス篇でアルケニモンを仕留めきれなかったのはたいへん手痛い失態だったかもしれないのです。
そこらへんは次回にでもくわしく語るとしましょうか。
作画は竹田氏。あいかわらず濃いというか、耽美というか。絶対テイルモンの脚線に命を賭けてますこの方。
演出は川田氏でしたけど、作画と演出助手の地岡氏のおかげでわりと見れるものになってます。
ただ走ってるだけの場面が多いのは納得のクオリティですが。
★各キャラ&みどころ
・大輔
この頃になるとようやく描写が安定してきたといいますか、ズッコケもできる切り込み隊長としての立場を
確固たるものにしてきた感があります。反面、ヒカリを慕っているという設定や姉と仲が悪いという弱点が薄まり、
特に後者についてはほとんど無かったことになってます。微妙に路線変更でもしたんでしょうか。
そもそもジュンがぜんぜん出なくなるので、いわば捨て設定になってしまったんでしょう。
それにしても賢ちゃんへのストレートなフレンドリーさときたらどうでしょう。
やたらジョグレスをしたがるのは、新しいパワーを試したくてしかたがないオトコノコならではの感情でしょうか。
その面はわからないでもありません。
・チビモン→ブイモン→エクスブイモン
わりと珍しいパターンとして、チビモン状態でのセリフがけっこうあります。
でも前後編通してみると、一番ソンな役どころだったかもしれません。そんなところがブイモンらしさなんですけど。
しかしディグモンのドリルでも簡単には通らないなんて、どんだけぶ厚くて丈夫な表皮なんでしょう。
いや丈夫でないと困るんですが。
・京&ホークモン→アクィラモン
次の29話で大活躍するコンビなんですが、今回はほぼ逃げ回ってばかり。
大輔についで賢への好意的態度が目立つあたりは、ポイントといえるでしょうか。
・伊織
考えるより先に賢を助けたりと、根本的にはもちろん良い子なわけです。
しかしまだまだ感情が邪魔して、お礼を言われても素直に応じることができません。助けたことについても理由をつけようとします。
それについて大輔が(天然に)本質を衝いてきたのを、ややムキになって否定するあたりが見どころ。
でもひとりぐらいは彼みたいな例がないと、やはり変ですしドラマ的にもおもしろくはないでしょう。
必ずしも得な立場とはいえないかもしれませんが、長い目では伊織という少年に厚みをつける糧となっているのではないでしょうか。
彼がこのスタンスに立ったからこそ、大輔があの位置にいられたともいえますね。
なんだかんだで、02メンバーには決して欠くことのできない存在なのです。
たまにゴキモンをブッ叩いて満面の笑みを浮かべたりもしますが、それもたぶん愛嬌というやつでしょう。
・アルマジモン→アンキロモン→ディグモン
こちらは伊織ほどかたくなではないというか、礼を言われたら喜んでしまうマイペースな素直さが見どころ。
あんまり口には出しませんが賢やワームモンについて明らかに拘りを持っておらず、30話ではワームモンと意気投合しています。
思えば彼らパートナーは、相方のほんとうの気持ちを写す鏡だったのでしょうね。
いちおう進化形態を一通り披露しており、特にサブマリモンがどう見ても飛んでいるので度肝を抜かれました。
最後は伊織の選択ミスで操られてしまい、エクスブイモンにドリルを向けることになってしまうのですが…
ちなみにアンキロモン状態ではじめて技名を口にしたのも、この28話です。
・タケル&パタモン→ペガスモン
後詰めのリーダー格。といっても、本来先にいこうと言い出したのはタケル自身です。
しかし伊織が先鋒をつよく希望したために、あっさり引いて控えに回りました。一見あまり意味のない場面ですが、
たぶん彼なりの意図があって大輔&賢に同行しようとしたのでしょう。
あまり考えたくはないことですが、やはりそれとなく賢を見張るつもりでいたのかもしれません。
信用していないというより賢にまだ危なっかしいものを感じていて、そうすると今いちばん近いポジションにいる
大輔が巻き込まれかねないとか、そういう老婆心が出た可能性はあります。
伊織にまかせたのは、そこらへんで押さえをきかせてくれるだろうという期待からでしょうか。
あるいは、伊織が名乗り出ると見越して提案をしたか……だとすれば、子供らしからぬ狸ぶりです。
しかしこの空気を読み過ぎる性格もまた、29話における大きな失態につながってしまうのだから皮肉といえるでしょう。
・ヒカリ&テイルモン→ネフェルティモン
美人ぶりへさらに磨きがかかってます。テイルモンの脚がまた伸びてるし。
でも絵的な魅力以外はやっぱり目立たないコンビ。31話を思えば、この自己主張の弱さもひとつの重要ポイントなのですけど。
というか、彼女たちが目立つとシリアスになるのはいいとして、どうにも電波が入ってきちゃうんですよね(^^;)
・賢
彼とてまちがいなく、大輔の言う「一体感」を味わっているはずなんです。
それでも今回ためらいを見せたのは、ワームモンの言っていたとおり罪の意識のほうがまだ強いからなのでしょう。
ジョグレスの感覚はむしろ今の彼にとり、味わってはならぬ甘さなのかもしれませんね。
救いそのものであるがゆえ、かえって恐れをなしてしまうような。
過去よりも今の気持ちと、これからどう生きるかを重要視する大輔はまさにうってつけの相棒といえるかもしれません。
そこから生まれるものこそ、一組ずつでは実現できぬジョグレスという力の源泉なのでしょう。
・ワームモン→スティングモン
そんな賢ちゃんの気持ちをよく理解している虫くん。パートナーですから、言われるまでもなくわかってしまうのかもしれません。
しかし、理由なく他者に力をふるうことのない彼ですら紅衣の女の虫笛は操ってしまうのです。
パートナーの絆を引き裂き利用するやり方はまさにデジモンカイザーを受け継ぐものですが、それを賢自身が味わったのですね。
因果応報といいますか、これもひとつの罰だったのかもしれません。
・紅衣の女
やたらと自分が大人であることを強調していますが、ハッキリいって大輔たちのほうがよほど大人です。
上手いのはせいぜい、揚げ足を取って煽る手腕ぐらいのものでしょう。
だいたい厳密な実年齢だってまだ5歳にも届いてないんじゃないでしょうか?
彼女のああした幼児性というのは、そのまま及川という男の悪い意味での子供っぽさに通じるものです。
そういう意味じゃ02という物語は大人になり過ぎた子供と、子供を捨て切れない大人の対決ともいえるんですね。
前者は時に哀しいものですが、後者はただひたすらに醜いものだと思います。そういえば倉田もその類でした。
私ももっと大人にならないといけませんね……
・ゴキモン、フライモン、スナイモン、クネモン、ドクグモン
ギガハウスにいた面々。紅衣の女によって操られ呼び寄せられたものと思われ、ダークタワーデジモンではないようです。
この中だと集団とはいえ、クネモンの意外な強さが目立ちますね。
ところで蜘蛛は厳密にいうと昆虫ではないのですが、笛の音はその程度の差異ならおかまいなしみたいですね。
もっともドクグモンはデジモンとしてみればあくまでも「昆虫型」なので、問題そのものが無いともいえそうです。
より大きなカテゴリで見れば節足動物どうしですし。
ところでガニモンは甲殻類型ですが、果たして笛は通じるんでしょうか。
水の中へ逃げられたらそれまでという気もしますけど。
★名(迷)セリフ
「言いたいことがあんなら、ハッキリ言えっ」(大輔)
この人がハッキリ言いすぎという気がしないでもありませんが、伊織がああした口ごもりかたをするのも珍しいです。
理性と感情の齟齬がうまいこと折りあいつけられずにいるのでしょう。
前後で挙げられているジョグレス例は、わざとなのでしょうけど実際のケースとはことごとく外れたものでした。
「賢ちゃん……嘘だけはつけないんだね。
わかってる。まだ彼らと仲間になることに抵抗があるんだよね。
いいよ。ボクは待つ。賢ちゃんがその気になるときまで……」(ワームモン)
待つのは慣れているでしょうからね。ちょっと納得した言葉でした。
以前にくらべれは状況ははるかによくなっているわけですし、もうちょっとぐらいは何でもないんでしょう。
「大人は子供とちがってチャチな演出はしないのよ。
倒すと思ったら容赦なく倒す……手加減はしないわ!」(紅衣の女)
あのギガハウス自体がすでにもうけっこうな演出に見えるのは気のせいでしょうか。
しかもそれを逆利用されて窮地に追い込まれる結果を思うと、彼女のほうが策に溺れまくっていたりします。
まあその詰めの甘さというか間抜けさも、うまく使えば愛嬌なのですけど。
「一乗寺さん、勘違いしないでください。
以前サンダーボールモンに襲われた時、助けてもらった借りを返したまでです」(伊織)
「そうかぁ?」(大輔)
「そうです!」(伊織)
率直な感想を口にしただけであろう大輔の言葉がポイント。
彼にとっては、伊織がそういう気持ちで助けたようには感じられなかったということなのかもしれません。
だからこれは伊織にとってはどちらかというと、自分に言い聞かせている言葉なんでしょう。
「どーして…どーしてボクでなければならなかったんだ… 一生悩んでなさいっていうの。バーカ」(紅衣の女)
この幼稚な物言い。煽り文のテンプレみたいです。
わざわざ賢の口ぶりを真似してみせるあたりがまた嘲笑的です。
ただ相手を怒らせる以外には何の役にも立たないものの言い方でしょう。言葉には気をつけないといけませんね。
いや、ホント。
★次回予告
ついに謎の女がその元身をあらわします。つまりはアルケニモンですけど。
それほど出番のないマミーモンもけっこう目立ってますね。
もしもここでケリをつけられていたら、以後の展開が変わってきたかもしれないというある意味重要な回でしょう。