暗黒究極体 ブラックウォーグレイモン |
脚本:浦沢義雄 演出:今村隆寛 作画監督:直井正博 |
完全敗北を喫した子供たち。アルケニモンは意気揚々と次の命令を下そうとしますが、
自我を持ってしまったブラックウォーグレイモンはこれを拒絶。ただひとり、空の彼方へ消えていきました。
かくて孤独なる暗黒の魂が今、デジタルワールドに解き放たれたのです──
★全体印象
30話です。タイトルコールは檜山修之さん(ブラックウォーグレイモン)。
抑えたトーンに滲み出る力。これを聞いた当時、テレビの前でひっくり返りました。うわあ、そう来たか。
このキャスティングはハッキリ言って反則です。反則過ぎる。というかネタバレが過ぎます。
影絵は当然、ブラックウォーグレイモン。設定画ではなく、デスペラードブラスターを仁王立ちで受け止める
あの無気味なシーンからの流用でしょう。
というわけで第3クールの主役のひとり黒ウォこと、ブラックウォーグレイモンが登場しました。
この回は実のところ、それだけのお話です。伊織と賢を筆頭とする子供たちの足並みの乱れは描かれてますが、
どれもこれも黒ウォのための前フリにしか見えないのがつらいところ。
浦沢脚本にしてはめずらしく、シリアスな雰囲気のエピソードなのでそこは特筆すべきですけど。
作画・演出に関していえばかなりの出来になっています。
もともと腕ききである直井氏に加え、ほぼ映画専門スタッフの山下高明氏が原画へ参加しているので、
ところによって驚くほど動きがよかったりするんですね。特に敵側パートには注目でしょう。
それらを今村演出が纏め上げているため、バトルについてはかなり印象的な回になっているのです。
しかし、テレビシリーズにおける今村演出はこれが最後となります。
今村氏は映画「ディアボロモンの逆襲」の監督でもあるので、30話を最後にそちらへ専念したのでしょう。
いわば今回は、映画スタッフをまじえての肩ならしといったところ。
ある無しで、映画の出来じたいも少し違っていたことでしょう。
今村演出はデジアド、とりわけそのテレビシリーズの持ち味でもあったので寂しいものがあります。
そういえばセイバーズには参加してませんでしたね。今どこで何を演出なさってるんでしょう。
★各キャラ&みどころ
・大輔
何やらひさびさな感のあるヒカリへのラブラブ光線ですが、それでも今までよりは抑えめ。
賢と伊織の間を取り持つつもりで意図バレバレなあたり、つくづく人を騙せるようにできていません。
しかも相手が両方とも利発で誤魔化されにくいから始末におえない。
後半では全員がジュースを噴きそうになる重量級の一言を吐きます。
つうか君ら何もそんなに驚かなくたって。
・フレイドラモン→ブイモン→エクスブイモン→パイルドラモン→チコモン
浦沢脚本においては負けず嫌いな面が強調されているように感じます。
フレイドラモンの出番は26話で終わりかと思ってたら、ちゃんとここにもありましたね。記憶違いだったようです。
このぶんだと今後もちまちま出てくるかもしれません。
・京&ホークモン→アクィラモン
今日の京は賢と伊織の間を気にしたり、離れて動いていた賢を引きずってきてジョグレスを促したりする最大の活躍株。
……なんですが、もうひとつ空回ってる印象も受けました。特に前半。
ホークモンはほぼ、その京さんのアッシー状態です。
・伊織
何の前ぶれもなく賢とおたがい背を向けあっていましたが、原因は推測することができます。
大輔か京あたりがいっしょに活動する手配をしたものの、彼と賢ちゃんのコミュニケーションがどうにもうまくいかず、
お互い声をかけづらい状態になってしまったのでしょう。両方ともその方向は違えど、意固地になっている。
そのうえ京や大輔の思惑も見透かされてしまって、ますます事態がややこしくなった感じです。
伊織としては、賢ちゃんへすでに仲間として迎えるだけの貢献とメリットを見出しているのでしょうが、
過去の所業を思うとどうしても納得できず、態度が硬化したままなのでしょうね。悪意ではなくてそういう問題。
だから彼らしくもなく、状況の悪さから目をそらして五組だけで戦おうなどと言い出すのでしょう。
感情が先行してしまって、現実が見えづらくなってしまっています。
どうあれ相手が黒ウォじゃ、いまの子供たちにはどうしようもなかったでしょうが……
・ディグモン→アルマジモン→アンキロモン
こちらはすでにワームモンと意気投合しているため、伊織には複雑な想いを抱いているようです。
まあそのことで伊織になんか言ったことはないんですが、間接的な示唆はしていました。
やはり伊織の気持ちについては、彼の言動や態度も考慮したほうがいいのかもしれません。
・タケル&パタモン→ぺガスモン
19話を頂点になんだかだんだん影が薄くなってきてる気がしないでもない方々。
今回はいきなりノックダウンされてしまい、黒ウォと殴りあうことすらさせてもらえませんでした。
ジョグレス話でも伊織のほうが目立ってた気がするし……これも半OBの宿命でしょうか。
アルケニモンに対しては敵意丸出しです。
前回逃がしてしまったことへの後悔と苛立ちが全部向けられているかのよう。
・ヒカリ&テイルモン→ネフェルティモン
ネフェルティモンの活躍をデジカメへ収めるシーンがありました。ヒカリにこの設定が適用されたのは久々です。
PCのフォトアルバムにはこの手の写真がいっぱい入ってるんでしょう。キメラモンとか込みで。
こちらのコンビもタケル組同様、戦う前にノックアウトされました。
黒ウォの攻勢を察知して絶叫するヒカリのカットは、この30話でいちばん著名なもののひとつかもしれません。
同様の価値があるカットとしては、黒ウォさん生誕の雄叫びが挙げられます。
・賢
彼にとり大輔らの関係は、さぞ心地のよいものでしょう。
ちょっと前は侮蔑の対象でしかなかったものが、今ではとても眩しく見えているのだと思います。
だからこそ避けるように行動してしまう。自分には、まだその眩しさへ踏み込む資格がないと思っているのですね。
ぶっちゃけ、自分が全部悪いと思ってるほうが今はまだ楽なのかもしれません。
肩をならべるほど、必要とされるほど逆説的に罪悪感が募っていき、距離をとってしまいがちなのではないでしょうか。
それはそれで理解できるのですけど、急転する事態にあってはもはや甘えになってしまいます。
たとえ辛くともいま自分に何ができて、何をすべきなのか見つけなければならない。その意志があるならば尚更。
このお話は、賢ちゃんから過剰なこだわりを振り捨てさせる最初のキッカケだったのかもしれません。
・ワームモン→スティングモン→パイルドラモン→リーフモン
そんな賢のパラドックスを承知しているのか、今回はいつになく押しが強いです。
パートナーとしては、賢に二度と後悔の道を進ませたくないのでしょう。だから時にキツい言い回しになる。
それもまた優しさなのですね。
無敵合体を銘打ってあらわれたパイルドラモンですが、本格的登場三回目にして倒れました。早っ。
しかし相手はボスクラスのうえ格上、あげくに初登場属性がかかっています。勝てるはずがありません。
危険な能力を持つアルケニモンを逃がしてしまったツケが叩きつけられたかっこうです。
それにしても、デスペラードブラスターのバンクがあいかわらず弱そうなのはなんとかならんのでしょうか。
あれじゃ効くもんも効く気がしません。
・アルケニモン
どういうわけか着衣のまんまで入浴していました。しかも断崖絶壁のきわなので、かなりシュールな光景です。
もしかしてあの服、脱げないんでしょうか? 服のように見えて服じゃないとか。
かのベターマンは体組織の一部を変化させて服のように見せかけるという一種の擬態能力を披露していましたが、
それと同じようなものなのかもしれません。
また、自分の能力についてやはり正確な把握ができていないように見えます。
わかっている範囲内についても曖昧な表現で、単純計算で10倍という見積もりもかなりアバウト。
何より、いちばん重要な懸案である「制御可能かどうか」へ重点を置いていない。
「たぶん大丈夫だろう」ぐらいの気持ちで黒ウォを作ったのだろうということがわかります。
あるいは知らなかったので、判断の埒外だったとか。
とはいえわずか100本の髪の毛と、100本のダークタワーが媒介というわりには強烈すぎる結果です。
現れた力のわりに代償が少なすぎる。制御可能であれ不可能であれ、やはり彼女の能力は危険すぎますね。
だからこそ異端の存在なのでしょうが。
・マミーモン
先週ですでにアルケニモンLOVEを隠そうともしてませんでしたが、今回でさらに強調されました。
蹴られてもぶん投げられてもボディに拳を入れられてもアルケニモンLOVE。Mな人です。
なんだかドロンジョ様に対するボヤッキ‐を思い出させる人物。
それだと黒ウォがトンズラーになってしまいますが……強すぎる。隠球四郎ばりに強い。
あれ? 前にもなんかこんなネタ書いたような……
・ブラックウォーグレイモン
ついに現れた02初の究極体にして、セミレギュラー。
今後、第3クール終了手前までお話の中心でありつづけるキャラクターです。
彼の登場はさまざまな効果を引き寄せました。ひとつは大輔たちと賢ちゃんの接近を早めること。
ふたつめは、バトルのすみやかな激化。なにせ究極体です。
そしてみっつめは、02世界の謎に迫ること。ほかに、自我を持ったダークタワーデジモンとして
一面では欺瞞ともとれる大輔たちの考え方へ一石を投じる役目もありますね。
とはいえ、その活躍期間はいかにも長い。長すぎるともいえるほどです。
しかも途中からホーリーストーンの守護へと話が切り替わり、何度か繰り返されるのでお話が画一化し、
そのうえ戦いのほとんどが子供たち側の戦略・戦術的敗北かいたみ分けに終わるというスッキリしない流ればかり。
これをより極端にした展開がフロンティアの第4クールだと記せば、わかりやすいでしょうか。
そんなわけで、ストーリーの上での評価が芳しくないであろう人物ということは認めねばなりますまい。
しかし単体としてみるとこれが実に美味しいキャラなのも事実で。
その扱いを抜きに、一発でツボに入ってしまったデジモンなのです。何より声がハマリすぎ。
彼の黒いイメージにはあの荒々しくもどこか艶のある檜山修之氏の声が、これ以上ないほどにピッタリでした。
まるでストームブリンガーとメルニボネのエルリックの間柄のように一体感がある。
私にとってはただ言葉を発し、立ち居振舞い、力を発揮するそれだけで価値のある存在でした。
やっつけとしか言いようのない退場がかえすがえすも惜しまれます。
・02最大の謎?
それにしても、アルケニモンたちはなんであれだけの好期にめぐまれながら子供たちを見逃したのでしょう。
考えられる理由を挙げてみます。
1.もはやいつでも倒せる相手と考え、あえてトドメは刺さなかった
いまひとつ弱い根拠です。このような思考に至るためには黒ウォを制御できているという前提が必要なのですが、
お世辞にも成り立っているとはいえない状態。そして、現時点で最強のちからを持つ黒ウォを操れるという保障も
何ひとつありません。であれば、今のうちに子供たちを始末しておこうと考えてもおかしくはないでしょう。
2.黒ウォの追跡を優先した
こちらのほうが信憑性はありますが、それでもまだ弱いです。
上で書いたように黒ウォを手なづけられるとは限らないため、念のため子供たちを始末しておけばすむ話。
極論、マミーモンがオベリスクをひと薙ぎすれば全部片付きます。
彼らの目的は本来デジタルワールドの破壊であって、子供たちの打倒そのものではないのですから。
3.ほんとうは子供たちを殺すなと命令されていた
28、29話で殺る気まんまんだったのでこれも根拠が薄い…と思いきや、のちのち明らかになる賢ちゃんの秘密を考えると
ひょっとしたらそうだったのかもしれません。デジタルワールドの平和の崩壊を見せつけるという悪意もあるでしょう。
しかしそれなら最低賢ちゃんだけ残せばいい話で、ほかを始末してはならない理由になりません。
4.気が動転していた
一見あんまりな理由ですが、案外これが当てはまるのかもしれず。
黒ウォの反逆が意外すぎたため、子供たちの始末を忘れてしまったという寸法です。
生半可な理屈よりは納得できるかも?
結論から言うと皆さん、いずれも決定的ではないのです。
これは02のなかでも最大級に不可解な出来事ではないでしょうか。
★名(迷)セリフ
「暗黒究極体…ブラックウォーグレイモン…!」(ブラックウォーグレイモン)
タイトルコールです。この類を名セリフに入れるのは初めてですが、やらずにはいられませんでした。
うわーうわーうわーと声をあげた記憶があります。そう来たかそう来たかそう来たかって。
「なんだよ、水臭い。悩みがあるんなら、相談にのるぜ?」(ブイモン)
ええ子や。
「いかがなものでしょー?」(大輔)
「いかがなものでしょー?」(ブイモン)
後ろに(棒)とつけたくなります。
どういうわけか、妙に印象に残ってる一言。ブイモンのカニ歩き込みで。
「アルケニモンに投げられるたびに、痛みよりもヨロコビを感じてしまうオレって…
もしかして、アルケニモンに恋してるのかもしれない…」(マミーモン)
アナタ、今さらなにを言っているのですか。
「伊織も、一乗寺も…もう少し大人になってもらわないとな…」(大輔)
全員が缶ジュース噴きそうになった瞬間。
でもこの件に関しては、彼のほうがふたりよりよっぽど大人です。思考がぶっ飛んでいるともいいますが。
「ウウウウ………ウオオオオオオオオオオオオ!」(ブラックウォーグレイモン)
黒ウォさんの第一声。生命を噛み締める自我の歓びではなく、怒号にも似た絶叫です。
生まれた瞬間に感じたものは敵意。湧き上がるは本能。みずからを脅かすものすべてに牙をむく、荒々しい原初の衝動。
刹那、彼は知ってしまったのかもしれません。自分は祝福されて生まれてきた存在ではないのだと。
世界は自分になど興味が無いのだと。しかし厳然と魂はここにある。自分自身がここにある。
ならば潰す。否定しようとするものすべてを。ならば破壊する。縛ろうとするものすべてを。
かくて生まれながらの戦竜は呪われた魂をもって、なによりも最初に爪を振るうことを選んだのです。
ただ生きるために。
「賢!」(スティングモン)
なにげにはじめての呼び捨てかもしれません。
成熟期に進化していることで、普段よりちょっとだけアグレッシブになっているというのもあるんでしょう。
もっとも、この後アグレッシブな行動に出たのは京なんですが。
「がんばりゃーせ! スティングモンはきっと来るぎゃ!」(アンキロモン)
賢を信頼したいという伊織のわずかな気持ちを代弁するものですが、同時に描かれているのはその怪力。
究極体のブラックウォーグレイモンをもいっとき煩わせるものがありました。パワー自慢の面目躍如です。
「わたしは誰の命令にも従わない……
お前たちも弱そうだ……わたしの戦う相手にはふさわしくない……
もっと強いやつを探そう……」(ブラックウォーグレイモン)
ブラックウォーグレイモンが最初に学んだものは、力の摂理でした。
弱いものから得られるものが何もないと知り、自分自身よりも強いものだけに耳を傾ける。
そこへ別のものを投げ込んだのが一輪の花であり、アグモンであり、伊織であったのでしょう。
★予告
第2のジョグレス進化。ヒカリと京の関係へ大きな一歩です。
それにしてもすごいタイトルだ。