謎の遺跡ホーリーストーン
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脚本:まさきひろ 演出:佐々木憲世 作画監督:信実節子 |
★あらすじ
向かうものすべてを蹴散らし、次元世界を歪めながら歩みを進めていくブラックウォーグレイモン。
しかしその心は、呪われた力にそぐわぬものでした。敵を葬り去るたび、彼は痛みを感じていたのです。
そして罪と力なきものに感じる説明のつかない感情に、ずっと悩まされているのでした。
そんなとき、彼はアグモンと出会います。
心をもったことに大きな意味があるはずだと説得する小さな竜に心を許しかけるブラックウォーグレイモンでしたが、
謎の遺跡・ホーリーストーンをめぐっての戦いに反応し、姿を消します。
ふたたび現れたとき、彼はホーリーストーンの目の前にいました。
立ち向かうもの皆を叩きのめし、巨石を破壊するために。大輔たちには為すすべがありませんでした。
しかし、黒き竜人はいまだ疑問のなかにいたのです。これが本当に自分の存在意義なのかと。
★全体印象
32話です。タイトルコールは珍しく、坂本千夏さん(アグモン)。
当エピソードを象徴するように、影絵もそのアグモンとブラックウォーグレイモンで構成されています。
今回の主役は完全に黒ウォさんとアグモン。かろうじて大輔が存在をアピールしている程度です。
そのため描くべき項目はかなり少ないものとなっていますね。
ひょっとしたら、物足りないと感じた向きもおられるかもしれません。そういう構成です。
しかし、黒ウォ好きにとっては避けて通れないお話なのもまた事実。
結果だけみればホーリーストーンはあんまり意味のない設定なので、この32話からは黒ウォ篇といってもいいでしょう。
彼の存在感やでたらめな強さからみれば、守護対象であるあれらの巨石は刺し身のツマにしかなりえません。
だいたい、防衛線ってものは破られるものと相場が決まっているので別の意味で盛り上がらないんですよね。
そう、マイナスの意味で結果が見えていることによっても人気がないエピソード群なのだと思います。
お話の多様性をかんがみれば黒ウォさんにはむしろ遠慮してもらって、どこかで一気にホーリーストーンを壊してもらったほうが
もしかしたら良かったかもしれません。その場合、彼のキャラ立ちは半減することとなりますが。
と考えていくと、彼を人物としてある程度確立するために長く尺を取ったとも考えることができます。
なぜ構成がたがそうしようと思ったのか、それはわかりませんが……出せる究極体に制限でもかかってたんでしょうか?
他がけっこう大盤振る舞いなのに02だけああなんですよね。もしかしたら、ほんとうにそういう方針だったのかもしれません。
めったやたらに究極体は出さないという。それ自体への賛成はやぶさかじゃないんですが。
あんまり出すとありがたみ無いしネタも枯渇するし。
絵は信実さんなので安定していますが、演出まわりについて語ることはほとんどありません。
シナリオ重視のエピソードといえましょう。
★各キャラ&みどころ
・大輔
珍しく、テレビゲームに興じている姿が見られます。
見たところドラクエ風味のRPGのようす。たぶん製作側としてはドラクエのつもりで描いたんでしょうね。
2007年11月現在はリメイク版の4が出たばかりなので、ネタとしてはなかなかタイムリーです。
後半は戦闘を長引かせて尺を稼ぐ係。
彼をふくめ、今回の選ばれし子供たちにはほとんど活躍といえる場面がありません。
・ ブイモン→エクスブイモン→パイルドラモン
ナイトモン戦などで多少善戦が見て取れるものの、やはりいい所がありません。
せっかくパイルドラモンになったのにたいして戦わないまま瞬殺状態で、踏んだり蹴ったりです。
・京組・伊織組・タケル組
この方々にいたっては出てきただけ。
アンキロモンがちょっとだけ目立ってましたけど、それだけです。
・ヒカリ&テイルモン
いちおう大輔に準ずるぐらいは目立っていました。
真面目な顔でボケをかますヒカリも見ることができます。
・アグモン
ほぼ20話以来となる出演。
ずっと黒ウォを探していたそうです。進化後の姿が色違いなので、他人とは思えなかったのでしょうか。
ほんとうの理由は実のところわからないのですが、単に親近感と捉えても問題はなさそうです。
黒ウォとの問答では太一との絆を根拠に心の意味を力説してましたが、太一の名前自体は出していません。
そもそもこのお話は太一が回想シーンにしか登場せず、アグモン単身でのやり取りがなされているのです。
たぶん、パートナーに言われてやったことじゃないと思いますね。彼の独断でしょう。
太一なら、黒ウォについてもう少し冷徹な見かたをするはずです。アグモンの意志は尊重するとしても。
正反対の性格とか基本的体格の落差などで、黒ウォとはこれまた良い組み合わせだと思います。
最終的にあんまり強調されなかったのが残念。
・ジュン
ひっさびさに少しだけ登場。ヤマトのことはまだあきらめていないようです。
出番の最初っから最後までバスタオル一枚のあられもない姿だったので、いちおうサービスシーンにあたるのかもしれません。
あれほどの軽装であれば、深夜放送ならまずズリ落ちているところです。
・ブラックウォーグレイモン
今回の主役。
結論からいって、彼は存在自体が反ホーリーストーンなんでしょう。言わば調和の破壊者なのです。
遺跡に反応したのがいい証拠。いつも反存在としての衝動に突き動かされているのかもしれません。
心を得たことは偶然ではない、とアグモンは語ります。
たしかに、偶然じゃないのかもしれません。反存在としてのちからを十二分以上に発揮するためには操り人形であるより
悩みや苦しみ、そしてそこから解放されることへの渇望が大きな役割を果たすこともあるでしょう。
彼にあたえられた心は冷徹な言い方をすれば、そのための増幅装置のようなものでもあると思います。
しかし彼の精神そのものは見るかぎり、邪悪なものとはいえません。
だから弱いものへの憐憫と無為な殺戮への虚しさや自分にあたえられた心の意味を考え、悩むことになってしまうのだと思います。
ひょっとしたらそのプリミティブな精神じたい、彼という存在そのものに課せられた罰なのかもしれません。
世界を傾かせるという大それた所業に心が邪魔であるなら、それを重荷に持たされることこそある意味で残酷ではありませんか。
とはいえ、チンロンモンの出現にともない彼は本来の存在理由を失うことになります。
そこから彼の旅は、自分の意志を持つものは自分で生き方を選ぶことができるということに気付くためのものへと変質しました。
「我思う、ゆえに我あり」とはデカルトの有名な言葉ですが、これは自分が何故ここにいるのかと思うそれこそが自己の証明である、
というもの。どちらかといえば心を持ったロボットにこそハマる命題です。
それが似合うという自体、彼がデジモンではないという事実の裏返しなのでしょうね。
デジアド世界じゃデジモンの心は当たり前にあるもので、何故なのかとことさらに問いなおす必要がないのですから。
むしろテイマーズに出ても違和感のない人物だと思います。
・アルケニモン
そういう意味では彼女たちとて必ずしも邪悪、とはいいきれないのかもしれません。
もし悪といえる要素があるとすればそれはきっと思考停止。自分が本当は何がしたいのか、何を求めて生きているのか。
そういう疑問について、彼女は考えるのをやめてしまっています。
面倒くさいという一念だけで。
でも、そんな彼女たちを何の屈託もなく笑い飛ばせるかと聞かれたら、それはどうだろうと考えてしまうかも。
ほんとうの意味で心の赴くままに生きている者なんて、きっと数えるほどしかいません。
誰しもひとりでは生きていけないし、自由の裏には責任が生じるのですから。
彼女たちに感じるどことなしな悲哀は、そういう一種サラリーマン的なところにあるのかもしれないと思いました。
もっとも、一連の行動で彼女たちがどんな見返りを受け取っていたのかはわかりません。
そもそも見返りが欲しいとすら考えたことがなく、それどころか見返りがあるということ自体を知らなかったのかも。
・マミーモン
彼の場合は一番ハッキリしていて、アルケニモンのために働くことが無上の喜びなのだと思います。
自分が自分である理由なんてそれだけで充分だと答えるでしょう。厳しい言い方をすればそれも一種の思考停止かもしれませんが。
アルケニモンが自由意志での行動を放棄している以上、彼もまた縛られているのと同義なのですから。
しかし心の主君をアルケニモンだけに定めたからこそ、彼女に危害がおよべば相手が誰であっても牙を剥くことができたのだと思います。
だから少なくとも、及川やベリアルヴァンデモンの意志からは最初から自由だったのかもしれません。
・マンモン
01の29話や、セイバーズ17話にも登場したデジモンですが、この02では確かダークタワーデジモンとしてしか出演しません。
しかもブラックウォーグレイモンに蹂躙されるばかりなので、お世辞にもいい扱いとはいえず。
もとからやられ役ばかりだし、上位にあたるスカルマンモンもゲームにしか出てこないんですが。
生成に使用されたダークタワーは200本。
一体につき5〜10本を使ったとして、総勢2〜30体ぐらいでしょうか。ぜんぜん相手になってませんでしたけど。
しょせん意志をもたない上、作り主の指示もアバウトで連携がまったく取れていませんから当たり前なんですが。
この時点での子供たちが相手だったらいい線いったでしょうけど。
・ナイトモン
ホーリーストーンの近場にあったダークタワーから作られました。アニメにはこれが初登場。
大剣ベルセルクソードを操って子供たちを苦戦せしめましたが、ホーリーストーン破壊にやってきた黒ウォの巻き添えで破壊されます。
扱いがまるっきり超人型戦闘獣。もともとボルトモンにぶった斬られたり、インセキモンにまとめて屠られたり、
ロイヤルナイツの物言わぬ先触れだったりと、出番が多いわりにわりとひでえ扱いなんですけどね。
登場した頃には完全体そのものがすでに二線レベルへ落ちている場合がほとんどなのも、たぶん大きな原因でしょう。
考えようによっては、当エピソードこそこのナイトモンが一番活躍した例かもしれません。
いちおうアルケニモン、マミーモンとの同時展開で子供たちを大いに手こずらせ、黒ウォ召喚のきっかけを作ったのですから。
現時点での大輔たちにとっては決して楽な相手じゃなかったと思います。黒ウォが強すぎるだけで。
・ホーリーストーン
マミーモンがずっと探していたという遺跡。テイルモンの耳にも噂だけは届いていたみたいです。
いったいどのくらい前からあったんでしょう? 01のころは単に表に出ていなかったということで説明がつくのですが、
スパイラルマウンテンの時も壊されてなかったんでしょうか? それともホーリストーンの破壊だけはダークマスターズにも不可能で、
反存在かもしれぬダークタワーデジモン、ひいては黒ウォにしか壊せなかったのでしょうか。
でも01終盤では、デジタルワールドが現実世界と繋がりかかってるんですよね。
ひょっとしたらもともとのホーリーストーンは、そのときぶっ壊されていたのかもしれません。
だから現在のホーリーストーンは再構成のときにもう一度打ち込まれたいわば二代目で、これにより調和が修復され、
そのときデジタルワールドの時間軸もまた現実世界と同じフィールドに乗ったのではないでしょうか。
だとすれば、そこに四聖獣がかかわっているのも納得かもしれません。
のこり三体の聖獣がなぜ出てこなかったのか、それはわかりませんが。あ、番組の都合は抜きで。
★名(迷)セリフ
「手こずらせやがって……
こいつらを作るのに使った貴重なダークタワーは200本だぞ! 200本!」(マミーモン)
なんか印象に残ったセリフ。
ただデジタルワールドを破壊したいだけなら、それでもう二体ぐらい同類のダークタワーデジモンを作って
黒ウォと戦わせるのが早いような気がするんですが、自分たちの保身もふくまれているから得策じゃないですね。
彼らのボスとて、できるだけ無傷で足を踏み入れられるものならそうしたいでしょうし。
そこらへんが破壊者としての半端なところであり、面白いところでもあったんですが。
ベリアルヴァンデモン登場までは。
「倒しても……倒しても……倒しても虚しい……
決して弱い相手ではない……それなのに……この虚しさはなんだぁぁあああぁっ! 」
(ブラックウォーグレイモン)
檜山シャウト第1弾。
強い敵と戦うことが彼の最終目的ではないということが、すでにここで示されています。
あるいはそれは反存在としての衝動の正体がわからず、力を持て余しているだけなのかもしれません。
しかし同時に知ってしまってもいる。力を振り回し、無為に殺戮を繰り返しても得るものはないのではないかということを。
力のもっとも意味ある発現とは戦いを知らず、その手段を持たぬものの盾や剣となることなのではないかということを。
けれど稚くさえある彼の心は、それが優しさであるということにさえまだ気がついていないのでしょう。
「お前たち……ほんとうに何も感じないのか…? 心を持っていないのか…?
答えてくれぇええっ!」(ブラックウォーグレイモン)
檜山シャウト第2弾。怯むことすら知らずに向かってくるマンモンの群れに向かって。
彼が偽りの巨像たちに向けた感情は怒りでも憎しみでも敵意でもなく純然たる興味と憐憫、そして羨望でした。
この苦しみに意味はあるのだろうか。この痛みさえなければどれほど楽になれるだろう。虚無への憧れです。
だからでしょうか、ヒカリが黒ウォを気にかけることがあるのは。
いっそ狂ってしまえたらどんなに良いかと、彼女自身考えたことがあるかもしれないと最近思うんです。
それでいて同時に、すべてを失うことへの底知れぬ恐れもかかえている。心をなくしてしまうことへの恐怖を。
ですが黒ウォには、ヒカリに対する京のような存在がいません。なまじ力が強過ぎるがゆえに。
アグモンだったらきっとその役になれたはずなのですが……46話で一喝したのは虫くんだったけど。
「ところで、おれたちにも心ってあるのかな?」(マミーモン)
「ハッ。そんなめんどくさいこと、考えてみたこともないね」(アルケニモン)
だから破壊をつづけているのでしょう。はじめっから得るものなど期待もしていなきゃ得られるとも思っていないから。
行く末にあるものが何か、だからきっと見えないのでしょう。笑えない話です。
「だあーっ! なにしやがる、このバカ姉貴ー!」(大輔)
ひさびさに「バカ姉貴」の称号が飛び出しました。そういえば、まさき脚本です。
まあ、4話以降外でジュンについて必要以上に何か言った憶えがないので、本当に言うのをやめちゃったのかもしれませんが。
ヒカリに嫌われたくないという一心で。
「優しさ…か…」(賢)
紋章をながめながら。黒ウォの疑問との対比となるセリフです。
戦闘においては見るべきところのない今回の子供たちですが、彼に連絡をしてきたのがヒカリだったりと
地味に関係の進展が示されています。文面がヒカリらしい。
ところで優しさの紋章ですが、本編じゃとうとう一回も使われませんでしたね。もったいないなあ。
ドラマCDではなぜかデジメンタルに変化してましたけど。
「なにやってんだ、あいつ? 剣の練習か?」(大輔)
「でも、あれじゃ刃がぼろぼろになっちゃうよ」(エクスブイモン)
「逆に、刃を鍛えているのかも」(ヒカリ)
お話を知っていると非常に間抜けなやり取りです。
目の前にあるものがホーリーストーンだとまだ気付いていないのだから、しょうがないんですが。
ネフェルティモンだけは感づいてましたが。
この場面の大輔はヒカリ組と二組っきりだったためか、ちょっとテンションが高めです。
残念ながらジョグレス不可なので、完全体相手には不利な顔ぶれですけど。
「心とは本当にあるものなのか? もしかして、それは錯覚なのではないのか?」(ブラックウォーグレイモン)
現実そのものが実は夢なのかもしれないという意見は目にしたことがありますが、この質問に答えられる人はいないでしょう。
黒ウォのこうしたマジレスぶりは、デジモン大事典で思いっきりネタにされてましたっけ。
ものすごく些細なことで一日中悩んだり。
「ぼくたち、友達になれると思う。いや、きっとそのために君は心を持ったんだ!」(アグモン)
心が錯覚などではないと断言したうえで。
もし自分が曖昧でも友がいるなら、それだけでも生きる理由、心があって幸いだと思える理由になるはずです。
黒ウォに心が生まれた理由が何であれ、その有り様までが完全に縛られているわけではないのですから。
たとえ黒い衝動に襲われるとしても。
やはりアグモンは、ブラックウォーグレイモンにとってかけがえのない存在になる可能性があったのだと思います。
結果はご存知の通りですが、46話などを見ればその希望は確かにあったとわかるはず。
ケースによってはヒカリや伊織にも可能性があるでしょう。
★次回予告
ヘビーな話がつづいたところで次回はちょっと箸休め。
それにしても本編との落差がすごいなあ。