今日のミヤコは京の都

 脚本:吉村元希 演出:角銅博之 作画監督:出口としお
★あらすじ
 待ちに待った修学旅行。京はポロモンを光子郎にあずけ、京都へやってきていました。
 ところがその最中、なんとブラックウォーグレイモンの姿を目撃します。彷徨い歩く彼の背後には、多数の影が…
 京が追いかけていくとひとつがハヌモンに変わり、興奮したのかあばれ始めます。
 それを連れ戻したのは、デジタルワールド経由で駆けつけた賢でした。彼らはそのまま大輔たちの援護へ行ってしまいます。

 賢のおかげで、思いがけずポロモンと合流した京。そこに現れたのは空の父・武之内教授と、丈の二番目の兄・城戸シュウでした。
 彼らは三年前の事件をきっかけにデジモンのことを知り、理解を示すようになっていたのです。
 京はふたりの車に同乗してデジモンたちの追跡を続行。途中でムシャモンに襲われますが、ポロモンのアーマー進化で強制送還します。
 やがて、黒い一団は溶けるようにかき消えました。時を同じくして、ブラックウォーグレイモンの姿がデジタルワールドに。

 一連の異常は、ブラックウォーグレイモンがふたつ目のホーリーストーンを破壊したために発生したものでした。
 残るホーリーポイントは五つ。すべて破壊されてしまったら、どれほど恐ろしい事態に陥ることか。
 子供たちは絶対阻止をあらためて決意するのでした。

 とはいえ、ブラックウォーグレイモンはあまりにも強い。対抗するためには新たなジョグレスが必要なのですが……
 
 
 
★全体印象
 33話です。タイトルコールはもちろん、夏樹リオさん(京)。
 ほとんどダジャレみたいなサブタイトルもさることながら、タイトルバックでくるくる回る京自身の影絵が実にシュール。

 内容としては中休みぎみなんですが、ホーリーストーンを破壊することによって発生する弊害が具体的に示され、
 さらにそれが京都の妖怪・邪霊パラダイスな側面や日本古来の付喪神にまで絡められているため、興味深いものがあります。
 メガテンや陰陽大戦記、さらには妖怪の世界観をも巻き込んだ大きなレベルでの設定ですからね。
 この良くも悪くもなんでもありな側面こそ、デジモンが今まで続いてきた最大の要因のひとつでしょう。
 世界観を固めすぎた作品というのは、たいてい長続きしないものですから。
 かのガンダムだって、GガンやSDなどいろいろな展開にたえうるものがあるからこそ今まで愛されつづけているのですよ。

 作画については出口さんなので推して知るべし…とはいえ、動きなど各所で光る部分はあります。
 京都の街を駆けるスティングモンや、古都を跳びまわるシュリモンとムシャモンの戦いはデジモンならではのもの。
 とりわけ後者はスピード感が尋常ではなく、なかなか見せてくれます。
 
 
 
★各キャラ&みどころ

・大輔&ライドラモン→エクスブイモン→パイルドラモン
 今回は京が主体を張ってるので、完全に出てきただけ。
 一応ジョグレス進化もしますが、戦闘といえるほどのものは見せていません。
 
 
・ 京
 よく考えてみれば彼女と伊織、それに賢はクラスや学校がちがうので、当然イベントも独立してるんですよね。
 しかし確か五年にも移動教室はあったと思うんですが……最近は違うのかな。
 ちなみに今回にかぎり、光子郎のことを名前で呼んでます。メール(たぶん)の文面だからかもしれませんけど。

 さておき、主役エピソードではあるもののこれといって特筆するほどの主体的行動はしていません。
 どちらかといえば後述の武之内教授や、シュウ兄さんとの会話のほうがメインといってもいいくらいのものです。
 彼女もスイッチ入ると止まらない性格ではあるんですが、入るところが教授とはまるっきり違っているので
 めずらしくというべきか、ほぼ聞き役に徹していました。研究者肌というわけじゃないから仕方ないんですが。

 彼女を助けに来たのが賢というのは、いちおう未来への振りといってもいい……のでしょうか。
 他方、親友ふたりとの仲良しっぷりもよくわかります。いっしょに写真にうつるくらいだからかなり仲がいいのでしょう。
 彼女たちふたりも、京とは長きにわたってヒカリとちがう意味での友人であり続けていくのでしょうね。
 
 
・ポロモン→ホークモン→シュリモン
 京と3日はなれただけで元気がなくなっていました。
 光子郎のところにいたときなどは、しゃべることすら億劫だったように見えます。
 じっさい、まともに口をききだしたのも京と合流したあとのこと。

 きちんと食事を摂っているはずなのにそういう状態になるということはつまり、パートナーがいないと
 現実世界に存在すること自体がむずかしくなるということなのでしょう。なんらかの情報を受け取っていて、
 それが存在するためのエネルギーになっているとでもいうか。

 そういえば、光子郎がデジタルワールドには人の想いを解析してかたちを組み上げる仕組みがあると言っていました。
 ということは、現実世界のパートナーデジモンたちはパートナーに想ってもらうことでかたちを維持しているのかも。
 人の認識や夢が現実をかたちづくっている、そういうことなのかもしれません。
 これが広がっていくと宇宙そのものが人間の認識でなりたっているとかそういう話にいきついてしまいますが、
 そりゃいくらなんでも人間すごすぎだろってことであんまり好きな議論じゃありません。
 観念的にいえば確かにそういう側面はあるのかもしれませんけど、それは認識であって物理法則じゃないし。

 要は感覚が物理法則に作用するということそのものにピンと来てないってことですけど。実際にはありえないことだし。
 なんて言っちゃうとデジモン、とりわけデジアドを否定することになってしまうんですけどね。

 バトルではひさしぶりに……ってほどでもないですが、シュリモンの活躍が見られます。
 相手が同じ和風で舞台が京都なので、これ以上ないほどのはまりっぷり。
 京が選ばれた背景にはこういう理由もあったってことですね。 
 
 
・伊織組・タケル組・ヒカリ組
 出てきただけの人たち。特にタケルと伊織などはここ二話ほど、メインキャラとは思えないほどの影の薄さです。
 いくら次回以降で目立つといっても、そのための仕込みをしておいてもよかったのではないかと思いはじめました。
 34話以降は三話連続といっていい展開になるわけですし。
 
 
・賢
 光子郎といろいろ意見や情報を交換していました。どういう経緯でこの状況になったかまでは不明です。
 デジモンカイザー時代の記憶はやはり曖昧なようで、あの衣装の意味もぜんぜん憶えてなかったようす。

 もともとあの頃の彼がどういう心境であんなコスチュームをまとっていたのかは、誰にもわからないんですよね。
 本人にすらよくわかってなかったのだとすれば、謎だとしてもセツメーはつきます。
 私としては、彼の不安定な心から解離して現れた治兄さんの表面を模した性格(つまり、デジモンカイザー)によって
 具現化されものだと解釈していますけれど。

 前半で京の要請にこたえたのは彼らだけでした。後のメンバーはそれどころじゃなかったというか、気付かなかったみたいです。
 で、その後あっというまにデジタルワールドへ戻って大輔たちと合流していますね。かなりの離れ業というかワープっぷり。
 まあ現実世界からなら場所を指定できますから、距離などあまり関係ないのでしょうけど。
 それに京都へ出てきたということは、はじめの座標時点で大輔たちとそれほど遠くなかったと考えることはできますね。

 ちなみに彼もこの時期にはめずらしく、大輔を(名字だけど)呼び捨てにしています。
 
 
・ミノモン→ワームモン→スティングモン→パイルドラモン
 ジョグレス後の出番がないのは同じですが、こちらにはハヌモンとの戦闘という見せ場があります。
 なぜかスパイキング・フィニッシュ予備体勢のまま格闘へうつっていましたけど、パワーを強化する働きがあるんでしょうか?
 
 
・光子郎
 他のOBをさしおいてまたまた登場。ただし、相方たるテントモンの出番はなし。
 今回は賢との対話で、デジタルワールドやデジモンについての興味深い話を聞かせてくれます。いわば前半の進行役のひとり。
 一連の行動はぶっちゃけ個人的興味の延長だと、ここまでイヤミや茶化しなく言えるキャラを私は彼以外に知りません。

 それにしても預ける相手が空ではなく光子郎というところに、京の信頼ぶりがうかがえます。
 このあたりにも空の出番より彼の出番が多い要因が隠されているんですよね。
 
 
・武之内春彦
 なんの前触れもなく登場した空の父。
 01で出てこなかったのは違うところにいたからというフォローがついていました。

 小説版を読み返してみると、不在がちな父を母が蔑ろにしていると空が思い込んだことがあの反発につながったとあります。
 でもそれは裏を返せば母……淑子さんのダンナへの不満でもあったのかなあ、と今は思えて。
 夫になかなかかまってもらえないという愛情をもてあましたような心地が、まちがった形で空に伝わったとか。
 べつの方面からみれば、空がかなりのお父さんっ子だったと仮定することもできるでしょう。

 京との会話では狐狸精や付喪神、妖怪を例にとってデジモンについての別の見方を披露してくれました。
 キュウビモンとか四聖獣を見たら喜びそうです。そういえば、四聖獣の伏線も張ってくれてましたね。
 じっさいに出てきたのはチンロンモンだけでしたけど。

 声はおそらく遠近さんの掛け持ち。
 遠近さんは空役の水谷さんよりだいぶ年下なので、春彦さんまで若く見えます。
 というか2000年時点だとまだ20代なのか、遠近さん。若い。
 
 
・城戸シュウ
 こちらもいきなり登場した丈の二番目の兄。
 ただし01の時点でしっかり「兄さんたち」という言及があったので、存在は示唆されていました。
 まあ、あれは「兄と両親」と解釈することもできるんですが、それなら「父さんたち」か「母さんたち」と言うはずです。

 経歴としては医者をめざす途中、武之内教授と出会って人文学部へ鞍替えしたという変わり種。
 25年後の世界では教授や光子郎とともにデジモン研究機関へ入り、活躍している姿を見ることができます。
 物語上での役割が大きいわけではありませんが、世界観を広げるうえでは教授とならんで重要なポジションにいるでしょう。

 初登場ではなぜか自主製作ビデオのようなものを撮ろうとしてましたが、いったい何がテーマだったのでしょうか。
 
 
・アルケニモン&マミーモン
 黒ウォを遠目に見物してるだけで、特になにもしてませんでした。大輔たちとの戦いはホーリーストーン破壊のあと。
 いまのところ絶対有利を確信しているようですが、黒ウォが動いてくれなかったらどうするつもりだったんでしょう。

 どうにも虎の威を借る狐に見えてしまいますね。それもヒョウタンから独楽というか棚から牡丹餅だし。
 
 
・ブラックウォーグレイモン
 そんな黒ウォさんは今回たいしたセリフ無し。前回と真逆ですが、バランスを取る意味では当たり前の展開でしょうか。
 いまのところは、反ホーリーストーンたる衝動に突き動かされているようです。
 
 
・ハヌモン
 以後あちこちに出てくる「迷いデジモン」の元祖。
 自分がどこにいるかよくわかっていなかったようで、苛立ちからか邪魔になるものを壊してまわっていました。
 しかし目的が無いためか実力を発揮しきっておらず、スティングモン相手には歯が立ちません。
 羽交い締めにされたまま、デジタルワールドへ強制送還されてしまいました。

 その後のアルケニモン&マミーモン戦では姿がなかったので、賢たちに説得されて去っていったか、
 または見慣れた環境にもどったと認識して勝手に消えていったと思われます。
 
 
・ムシャモン
 こちらは追跡をつづける京たちの前にあらわれたデジモン。古都には似付かわしい姿です。
 同じく和風なシュリモンと激闘をくりひろげ、水中にたたき込まれたところで強制送還されました。
 ノートパソコンで送り返されたデジモンとしては、彼が初めてになります。

 ぱたんと閉じられるノートパソコンは、魔術で言うところの封印の書を彷彿とさせますね。
 
 
・二つ目のホーリーストーン
 いきなり黒ウォにぶっ壊されます。封印はすでに割られたのか、どこにも見当たりません。
 そのせいで、まるっきりそこらへんの岩にしか見えないのが悲しい。
 
 
・京都〜千年の夢〜
 言わずと知れたかつての日本首都にして、世界有数の観光都市。
 まあ、東京育ちである私にはもう一歩馴染みがないところなんですが、京と同じように修学旅行で訪れたことはあります。
 今をときめく任天堂の本山としても知られ、そのためか一部では任天堂を指して「御所」と呼称する向きも。

 さて京は本編で言われているとおり、古くから狐狸妖精、妖怪、鬼などとのかかわりが枚挙山積する都でもあります。
 これを反映するように、デジタルワールドの歪みがまっさきにあらわれる土地として描写されていました。
 京都のこうした面について記憶に新しいところでは、映画「陰陽師」が挙げられるでしょう。
 あの映画にこめられたイメージこそ、日本人がいだく古きもの、見えざる群神鬼神への畏怖と憧れそのものです。

 それはロマンであり伝統であり歴史であり、ひとつの宇宙とさえいえるもの。
 人の想いが世界をつくるとすれば、京都はその代表的な例、といえるかもしれません。
 安倍晴明や役小角などはもはや本来の人格をはなれ、ヒーローとして一人歩きしているとさえいえるでしょう。

 こうしたイメージをアニメ乃至ゲーム的エンターテイメントとして昇華したのがたとえば「女神転生」や「陰陽大戦記」ですが、
 もちろんデジモンに当て嵌めてもよいものが作れるでしょう。四聖獣など、東洋系の個体もたくさんいますし。

 ふむ、京都を舞台にしたデジモンというのもありなんですね。ウィザードリィ外伝4みたいに変わり種で終わりそうですが。



★名(迷)セリフ

「デジタルワールドでは形が集合するときに、まず形をきめるシステムがあるようなのです」(光子郎)

 さらっと言ってますが物凄い設定です。イメージの具現化にひとしい。デネブさんもびっくりだ。
 賢はその傷ついた心を利用され、いままでとは違う能力を付与されたデジヴァイスをその想いによって生み出したのでしょう。
 暗黒の海には、そうした実態に変換される前の膨大なソースが混沌とねむっているのでしょうか。

 このセリフには、最終局面に出てくる「意志を具現化する世界」への伏線も仕込まれています。
 デジタルワールドで何かが灰色から鮮やかに具体化するときにこそ、あの世界のちからが使われているのでしょう。
 ということはあの黒い海も同じ仕組みか、それ自体が具現化のちからを持っているということに…?
 
 
「選ばれし子供は、僕たちだけじゃない。世界じゅうに、かなりの数がいるんです」(光子郎)

 ここでマイケルの存在が生きてきますね。
 きっかけは99年の事件だそうですから、たぶん02以前にもちらほら名乗りをあげる子供がいたんでしょう。
 後につづくセリフのとおり、大多数は選ばれし子供というよりデジモンと出会い、意気投合した子供なのでしょうけど。
 そうした人びとが増えていくことは自然のなりゆきでしょうから、選ばれし子供というのは裏を返すと
 意外に貧乏籤なのかもしれません。得られるものは大いにあるとしても。
 
 
「知りたがりだからですよ」(光子郎)

 02の光子郎では一、二をあらそう名セリフだと思います。
 賢のためだとか使命のためだとか、そういう理由ではなく、ぶっちゃけ個人的興味が最大の動機。
 にもかかわらず、そこに自然なものを感じてしまうのが光子郎という人物の大きなポイントではないでしょうか。
 
 
「違うのかい? そこにそうやって存在している以上、ただのデータの塊じゃないだろう」(武之内春彦)

 古い家具や小物が付喪神となるように、デジタルデータも単なるモノから別のなにかに変化するのかもしれない。
 学者としての興味深い見方ですね。たしかに別の角度からは妖怪なのです。なんたってモンスターですから。
 逆にいえば鬼太郎にだってそういう生粋の電脳妖怪が出る余地があるし、近いニュアンスの邦画もありますからね。

 テイマーズ前半のタカト君に聞かせてあげたいセリフです。いやホント。
 
 
(がんばれ……ポロモン…!)(京)

 ラスト、クラスメートにもみくちゃにされるポロモンを見ながら。
 いや、そこは助けたげましょうよ(^^;)



★次回予告
 いよいよ最後のジョグレスにむけ、三連続の仕込みです。実質は35話までで8割ですけど。
 ボコボコにやられるエンジェモンは珍しいです。相手が悪いからしょうがないんですが。