爆進! ブラックウォーグレイモン

 脚本:前川淳 演出:川田武範 作画監督:海老沢幸男
★あらすじ
 ブラックウォーグレイモンの進撃はなおも続いていました。
 子供たちの策もむなしく、ついに第五のホーリーストーンも破壊されてしまいます。

 力の差は歴然。作戦を立て直そうと顔を突き合わせる大輔たちでしたが、タケルは独り輪をはなれます。
 伊織もまた、そんなタケルへ少しでも近づこうとヤマトに話を聞いていました。
 そこで伊織は初めてタケルの過去を知ることになります。三年前のファイル島の戦いのことを。

 一夜明け、同志を集めてブラックウォーグレイモンの迎撃にあたる子供たち。第六のホーリーストーンは海の中です。
 サブマリモンら水中デジモンたちの活躍もあって一時は優位に立つのですが、ガイアフォースが海に炸裂。
 剥き出しのホーリーストーンへ肉薄する黒い戦士の前に立ちはだかったのは、伊織でした。
 破壊活動の中止を訴える伊織を前に、ブラックウォーグレイモンは躊躇います。なぜ自分は心を持ってしまったのか?

 しかし苦し紛れのブラックトルネードによって、ホーリーストーンは破壊されてしまいました。
 残る聖石はたった一つだけ。子供たちはいよいよ、背水の陣を強いられることになったのです。



★全体印象
 35話です。タイトルコールは檜山修之さん(ブラックウォーグレイモン)。2回目ですね。
 青をバックに、黒ウォと伊織が対比構図でゆっくり動く影絵はそのまま両者の対比を示しているのでしょう。

 当エピソードは最後のジョグレス進化、三部作の真ん中です。
 34話がタケル中心だったので、今度は伊織が中心という具合。というか積極的に動いてるよーに見えるのは結局伊織だけで、
 タケルのほうからはあんまり近づいてませんね。絵面としては伊織が勝手にくっつきにいった風に見えなくもありません。
 ヤマトに話を聞いた時もビミョーに自己完結でしたし。

 バトルは今日も今日とて専守防衛。そろそろワンパターンぶりにキレる視聴者が増えてきた頃です。
 勝つとわかってるお話と負けるとわかってるお話とでは、やっぱり前者のほうが長く楽しめるということなのでしょう。
 前回書いたとおり黒ウォさんがああいうタイプなので、誰を憎まれ役にしたらいいかわからないわけですし。

 おまけに川田演出と海老沢作画が地獄の二重奏を奏でており、ところによってはギャグにしか見えないのが泣きどころ。
 今回はアップですら諏訪さんパートが少ない(体感)ため、視聴者はエッビエビにされます。
 タイトル通り爆走してくるブラックウォーグレイモンとか(君はアラレちゃんか)、バレリーナにしか見えない
 ブラックウォーグレイモンの幅跳びとか、「このポーズに絶対の自信を持っている」とデビルご満悦なブラック(略)

 ……まあとにかく、シリアスな敵役が見てていちばん笑えるというある意味楽しげなことになっています。
 そのあたりで損をしてる回かもしれないと書いてて思いました。

 ところでこの回は賢ちゃん初お泊まりのお話でもあるんですが、描写も少ないしここでは大きく取り扱いません。



★各キャラ&みどころ

・大輔
 主役らしくブラックウォーグレイモンに闘志を燃やすシーンがあります。でもあんまり強調はされません。
 賢との交友はだいぶ前進したようなんですが、いかんせん時期が悪いというか、脇エピソードで終わっていますね。
 このあたりの流れで一話くらい取っても良かったんじゃないでしょうか。
 
 
・京
 黒ウォさんのアホみたいな強さへ愚痴をこぼしたりしてますが、彼女もあんまり特筆ポイントがありません。
 後半はほとんど出番なしです。
 
 
・ヒカリ
 京以上に影が薄く、完全に脇でした。特筆すべきセリフもありません。
 
 
・賢
 大輔の提案にいっとき陰のある表情を見せるものの、素直に受け入れる場面が印象的でした。
 過去の罪に引きずられるよりも、得たものと失ったものを胸に今と未来を見据えていく、その姿勢へシフトしつつあります。
 ほんとうの意味での更生へ一歩、また一歩と近づいていっているのでしょう。
 
 
・伊織
 将を射んと欲すればまず馬からと言わんばかりに、ヤマト経由でタケルへの接近を試みました。
 なぜこんな行動に出たのかといえば、本人に聞いてもたぶん教えてくれないと思ったからでしょう。
 聞くだけだったら実は前回ラストでやっているので、その時に「こりゃあ埒があかない」と判断したのかも。

 なんかミもフタもない書き方になってきましたが、別の見かたをすればタケルを知るために奔走しているのがこの回です。
 答えをつかむためにさまざまな方面から考え、興味をいだいた事柄を少しでも理解するための努力をし、
 誠実に向きあおうとする。それが伊織という少年ですから。

 ここで重要なのは、アレだけでタケルを理解したとはハナから本人自身が思っていないだろうということ。
 タケルが何を憎み、何がタケルを駆り立てるのか直接の原因を知り、それをもとにして自分なりに納得したかったのでしょう。
 彼らの場合は気持ちが通じあうかどうかより、それが重要だったのかもしれません。

 ただ、ジョグレスのためにはどうやらもうひとつ、彼自身の問題を軽減する必要があったみたいです。
 それについては次回。
 
 
・タケル
 なぜかミーティングを避けて独りになるタイミングがありました。
 シナリオのうえではその理由がいっさい語られてません。

 賢と同席するのが嫌だったのではとか穿った意見もありますけど、私としては頭を冷やすためだったと考えてます。
 34話からこっちずっと熱暴走気味でしたから、チームの和を乱してしまいかねないと思ったのかもしれません。
 なんせ彼がなんか言うたんびに思いっきり注目を集めてるような状態でしたし。

 それにしても上で書いたとおり、彼の方にこそ伊織を知ろうという努力がみられません。
 ひょっとしたらもう理解していて、伊織のほうから歩み寄ってくるのを待っているような状態だったのでしょうか?
 腹のうちを見せないので、どうもそこのところがピンと来ないのはたしかです。

 とはいえ伊織の率直さはタケル自身にくらべ、よほどわかりやすいでしょう。慎重だけど、思ったことは正直に言おうとするし。
 タケルとしては賢がらみで見せた伊織の一連の行動を見て、すごいなあと好感を寄せていたのかもしれません。
 そういうことをやっぱり何にも言わないから、想像すんのが大変なんですけど。

 なんとも難しい人物です。これほど理解しづらいキャラも珍しい。
 
 
・デジモンたち
 34話とあんまり変わらない展開なので、さほど書くことはありません。
 黒ウォさんには前回以上に善戦してるんですけど、本気にさせただけでほとんど効果は上がっていないし。
 力の差がありすぎると、いくら作戦を立てても押し切られてしまうんですよね。知略をトンデモで捩じ伏せられるというか。

 ところで先週からなにげにペガスモンではなく、エンジェモンがデフォになってきています。
 ジョグレスのとき唐突にならないようにという配慮でしょう。戦闘となればやはりこっちの方が強いでしょうしね。
 
 
・ヤマト

 光子郎以上にひさしぶりとなる登場。厳密には三年前の姿で回想に出ていたりするんですけど、アレをカウントしていいのかどうか。
 出番としては伊織にタケルの過去を教えたというだけなんですが、重要な役どころではあります。
 これ以上ないくらいドラマチックに情感こめて語ってくれました。
 
 にしても、17話であれこれ情報交換したときには抜けてた事件だったんですね。先輩たちが気をきかせたのかな。
 いったいどうやって端折ったのか気になるところです。
 
 
・賢ママ

 なにか出るたんびに泣いている気がします。やっぱり印象に残る人だ。
 
 
・モジャモンたち
 冒頭での登場。大輔たちの頼みでホーリーストーンを隠したものと思われます。
 なぜか先行してアルケニモンたちと戦うことになりましたが、当然のように歯はたたず、すぐ選手交代となりました。
 デジモンカイザーに操られていた個体もいるのでしょうか?
 
 
・ホーリーストーン防衛隊
 イッカクモンの音頭で駆けつけてきたメガシードラモン(サブマリモンのセリフから、16話で出てきた個体と同一でしょう)と、
 多数のルカモンらからなる軍団です。防衛戦では、これにサブマリモンが加わりました。

 ルカモンはここ以外だと、ほぼフロンティアのEDぐらいにしか出てきません。アニメ版においてはたいへんなレアキャラです。
 ……使いやすそうなモンスターなのに、なぜでしょう。やっぱりすいちゅう型というのがいけないのかなあ。
 サブマリモンでさえ数回しか出番がないくらいだから、局地戦用のデジモンはなかなか登場チャンスを貰えないのかもしれません。
 イッカクモンは水陸両方に適応してるからこそ活躍できたわけですし。

 さてメンバー中、戦力としてもっとも高いものがあるのは恐らくメガシードラモンでしょう。
 彼のサンダージャベリンがなかったら、ブラックウォーグレイモンにあそこまでのカウンターは与えられなかったはずです。
 黒ウォさんが唯一不得手とするのはおそらく水中戦。あのままだったら地形効果でかなり持ち堪えられたでしょうね。

 …まあ、最大出力のガイアフォースで海ごとぶっ飛ばされてはどうしようもありませんが。
 京さんの言葉じゃありませんが、ありゃ反則です。

 
・アルケニモン&マミーモン
 出番といえるのはほぼ前半だけ。そろそろ戦闘員としての登板も減ってきました。
 次回は露出が多いけどあんまり戦ってませんし。
 ただ、ダークタワーや黒ウォの使命について興味深い発言は残していました。
 
 
・ブラックウォーグレイモン
 論調が微妙に「強いヤツと戦いたい」へ傾いてる気がしますが、反ホーリーストーンたる衝動に折り合いをつけた感じでしょうか。
 今はただホーリーストーンを砕いて巨龍=チンロンモンと相まみえることしか考えられず、自分でもそう言っています。
 なぜなら彼の求める答えは過程になく、その先にこそあるものだから。

 あるいは強い者と戦ってみたいというのも、確かにあるのかもしれないと思いました。
 敵が強いということは、存在を賭けて戦わねばならないということです。子供たちではまだその器じゃありません。
 大きすぎる自分の力をも凌駕するものとぶつかってみて初めて、おのれの生きる意味を感じられるのかもしれない……
 黒ウォさんがそういう考えを持っていたとしても、まあ不思議ではありますまい。

 ただ、心を持ったものの生きる意味は戦いの中だけにあるものではありません。
 彼はそれを知るだけの感受性を持ってはいるんですが、昇華できるだけの経験をまだ積んでいないのです。
 積むことすら許されないまま、使命たる衝動に振り回されている。

 そんな彼ですが、46話と47話では少し変わったように見えます。
 しばらく姿をくらましていた間に、たぶんいろんなことを見聞きしたのでしょう。
 
 
・ホーリーストーン
 今回もふたつ登場。氷の山と海の底に隠れていました。
 属性が似ているからか単にネタ切れなのか、どちらも地面から直接突き立った岩のような形をしています。
 そして両方とも、一発か二発の必殺技で破壊されてしまいました。これは黒ウォの力が上がってると見るべきでしょうか。

 次回でいよいよ最後の一個なんですが、いったいなんだってまたあんな所にあったのやら……
 
 
 
★名(迷)セリフ

「これでまた一歩やつに近づいた……!」(ブラックウォーグレイモン)

 なぜかさるまんを思い出しました。
 もちろんアイゼンガルドの老練サルマンのことではありません。つかあの人けっこう間抜けですよね。
 
 
「どうしても…ヤツに勝てねえ……!」(大輔)

 むしろ全面的主役エピソードで言いそうなセリフ。
 作品によってはどっかへ七つ目のボムスターでも見つけに行きそうな勢いです。
 
 
「いくらなんでも強すぎ。あんなの反則よ」(京)

 妙に心に残っています。
 敵は弱いより強いほうが緊迫感が出ますけど、強すぎると話づくりがワンパターンになってしまうのかもしれません。
 せっかくのジョグレス進化も強さをアピールできなくなってますし。
 三体そろっても勝てないなんて、まさにどんだけって奴です。
 
 
「許せない……闇のちからを使って不幸な命をつくりだした、その行為が許せない!」(タケル)

 微妙に説明口調ですがわかりやすい。前回ラストの言葉から直接つながっています。
 不幸かどうかを決めるのは彼じゃなくブラックウォーグレイモン自身ですが、今はそう見えるのでしょう。
 
 
「フッ……あいつ、そんなことおれには一言も言わなかったな」(ヤマト)

 ちょっとさびしそう。
 しかしまあ、タケルの性格なら言うはずがありません。それもたぶん今のヤマトならわかってると思います。
 ところで、賢のことは一乗寺君っていうんですね。呼び捨てかと思ってた。
 
 
「あるはずのない心を持ったために、思い悩むあいつを倒すのは抵抗あるきゃ?」(ウパモン)

 これもかなりものすごい説明口調。
 しかし、伊織の心境を端的に言い表しています。伊織の価値観からみて、黒ウォには同胞の資格があるのでしょう。
 じっさい、黒ウォさんは見返してみても邪悪とまではいえない性格をしています。
 
 
「わざわざお兄ちゃんのところに行かなくても、ぼくに聞けばいいのに……」(タケル)

 聞いても答えてもらえそうにないから兄貴に聞きに行ったんだと思います。
 そして彼がいないので大輔がすごいリーダー風域を発生させている。
 
 
「わかってるの!? ホーリーストーンを全部こわしても、ダークタワーを粉々にされたんじゃ意味ないのよ!」(アルケニモン)

 どうやらそういうことらしいです。
 デジタルワールドの平衡をたもっているのがホーリーストーンというのは疑うべくもないところですから、
 ダークタワーはその逆の作用、つまり次元世界の境界を曖昧とさせ混沌へ導く役割があるのかもしれません。
 それはこの事件の首謀者にとって望むところですね。

 ただし一本では効果が足りなさすぎるのでしょう、デジモンカイザーを使って大量におっ立てるという「仕込み」が必要だったのですね。
 
 
「…あいつ、まだ気付いてないのかしら? 自分がなんのために生まれてきたのか……」(アルケニモン)

 それはつまり反ホーリーストーン。デジタルワールドを混沌に傾けるための走狗としての役割ですね。
 ダークタワーデジモンにはすべからくそういう役割というか、能力があるのかもしれません。
 黒ウォさんはたぶん用法・用量をまちがえたので過剰にその力がたかいのでしょう。
 
 
「なぜだ……なぜそんな目でオレを見る……なぜあの花を思い出す……!?」(ブラックウォーグレイモン)

 逆境にあっても懸命に輝く荒野の花と、伊織の勇気が重なったのかもしれません。
 そんな命はきっと黒ウォさんにとって理解しがたいものであると同時に、とても眩しいのかもしれませんね。
 花はただただ純粋に原始的にだからこそとても美しく、命を咲かせているものですから。命ってたくましいってな感じで。
 
 
「オレは……オレは心など欲しくはなかった!」(ブラックウォーグレイモン)

 それはきっと、黒ウォさん自身がみずからの破壊活動に痛みをおぼえているからなのでしょう。
 しかし、 彼には反存在としての衝動を抑えることはできません。だから余計苦しい。
 本当に邪悪な心のもちぬしなら、こんなことは言いません。伊織には二度も警告しています。
 
 
「命にはね、いいも悪いもないんだ。命はただそこにいるだけですばらしいものなんだ」(タケル)

 01におけるゲンナイさんに通じるものがあるせりふですね。
 同時にデジゼヴォにもつながってるあたりがちょっと面白いかも。



★次回予告
 見るからにぜんぜん絵がちがいます。そしてラーメン進化と揶揄されがちな鋼の天使がついに登場。