恋とボルシチ大激戦!

 脚本:吉田玲子 演出:芝田浩樹 作画監督:清山滋崇
★あらすじ
 賢とヤマトは、デジモンたちを捕まえるためメキシコのマヤ遺跡に足を踏み入れていました。
 そこで出会ったのは選ばれし子供の少女、チチョス。彼女は賢のことを気に入り、一時ワームモンと張りあうようになります。
 すったもんだを経てともあれ遺跡からデジモンたちを追い出し、力を合わせて鎮圧していく一行。
 戦いの中でチチョスとワームモンの気持ちも丸くおさまり、一件落着となります。

 一方、ロシアでは京と空がロシアの選ばれし子供たちと合流し、デジモン遊撃隊を結成していました。
 京が知っている限りのロシア語で音頭を取り、つぎつぎと空中デジモンたちを制圧していきます。
 しかしマンモンたちとの戦いでは吹雪のせいで、思わぬ苦戦をしいられることになってしまいました。
 そこへ仲間たちを拾ってきたインペリアルドラモンが駆けつけ、形勢は逆転。こうして、世界の混乱は回避されたのでした。

 同じ頃、日本では……
 
 
 
★全体印象
 42話です。タイトルコールは賢・ヤマト・空・京の声優さんがた……かな?
 影絵はチチョスとロシアの子供たち、およびそのパートナーたちの詰め合わせです。

 流れ的にはだいたい前回といっしょ。ほぼ真ん中で場面が飛ぶのもいっしょです。
 しかし前回よりも演出が良いので、こちらのほうがだいぶおもしろく見られるものになっています。
 おかげでワームモンの奇矯ぶりも笑って見られる仕上がりでした。
 後半もギャグ風味ですが、状況的にはいちばん厳しいものでしたね。皇帝龍が間に合ってよかった。

 このお話をもって、世界篇(角銅氏によればワールドワイド篇)は打ち止めとなります。
 なんでまた3話もかけてこんな展開をやったのか本当のところはわからないんですが、ひとつにはファンサービスがあるでしょう。
 度合いの差こそあれ、先代組の完全体をもう一度見られるというのは嬉しいものです。
 もうひとつは、ラストに向けての仕込み。ここでデジアドの物語をひとまず打ち切るのですから当然といえば当然です。
 最終話になると全員揃って出てきますからね。

 最後は私の推測というか勘繰りなんですが、話数をかける必要があるような敵がもういないからだと思います。
 黒ウォさんでは引っ張れないし、アルケニモン&マミーモンではもう真正面からじゃ相手にならず搦め手は何度も使えない。
 といって最後の敵を出すにはまだ早いし、完全に穴が開いてしまっているんですね。
 次回で取ってつけたようにデーモン軍団を出してきたのも良い証拠。ああでもしないと間がもたなかったのです。

 思えば、アルケニモンが黒ウォさんを作ったときから予兆はありました。
 あれ、裏を返せば彼女たちにより強い仲間がいないという証拠にしかなってないんですよね。
 それに黒ウォさんの宿命が原因で、展開の幅もせまくなっていきましたし。それでもやりようはあったでしょうけど。
 せめて第3クールのうちにデーモン軍団の存在を匂わすか、先触れを出せていれば……
 
 そりゃまあ究極体をホイホイ出さないのは好感が持てるんですけど、いくらなんでも出なさすぎですよ。
 味方をのぞくとわずか三体しか出ていません。しかも第4クールの場合、黒ウォさんがあっというまに敵役を降りるうえ
 デーモンも放置されるので、実質ベリアルヴァンデモンの孤軍奮闘になってしまっているありさま。
 同時期の01を思うと、どうしてもしょぼさというか貧弱さ、デフレ具合が目立ってしまいます。
 
 私がむしろ「出し惜しみ」を感じた理由がここにあるんですね。全部テイマーズに回されたんじゃないかという。
 あっちはあっちでリバウンド気味に究極体が出すぎなきらいがあったんですが……
 (セイバーズに至っては数えるのも億劫なぐらい出てきてインフレ起こしてたので、02の真逆ですね。確信犯だろうけど)

 それとも終盤は戦闘をメインに置かず、デジタルワールドの世界観や子供たちの描写に時間を割く方針だったのでしょうか?
 でなければちょっと説明がつかないような流れです。それなら一応、01との差別化もできるわけですし。
 うまくアピールできたかどうかは別としても。 
 
 
 
★各キャラ&みどころ
 
・大輔
 危機に陥った京たちをインペリアルドラモンで救いに現れました。
 でも賢と別れて行動していたので、あの時点からみんなを迎えに行くのはかなりタイトなスケジュール。
 40話で示された時刻が今回における合流時間だというなら、かろうじて辻褄は合いそうなんですが。
 
 
・賢

 スペイン語を話せることがわかったのはこの回です。
 普通に考えて、カイザー時代に身につけたものがそのまま残ったってところでしょう。
 もしそうだとしたら、ほぼ完璧に話せるはずです。あの態度は謙遜してたというより、引け目からだったのでしょうか。
 まあ、よく考えてみたら証拠がないんですけど。ひょっとしたら、カイザーになるよりも前に学んでたものかもしれませんし。

 もちろん性格はカイザー時代とぜんぜん違いますから、押しの強いチチョスには振り回されっぱなしでした。
 というか彼、大輔といい押しの強い相手には弱いですよね。京さんにもその流れで押し切られた形なのかな。
 それでも告白は彼の方からだったと思いたいですけど。男として。大の兄貴も言ってました。脳内で。

 
・ヤマト
 それなりに年長っぽいところは見せてましたけど、ビミョーに存在感示せてなかった感じです。
 ヒカリの例からみて彼、年下の……特に女の子の扱いが苦手なのかもしれません。
 同年代か年上を相手にしてたほうが気が楽なんじゃないでしょうか。空も同年代ですし。

 ジュンが言っていたとおり、クールな顔して気持ちが表に出やすい側面も描かれてましたね。
 遺跡探検をワームモンと同じくらい怖がってたのは、ひょっとしたら彼だったのかもしれません。
 
 
・京
 「ピロシキ」で右旋回、「ボルシチ」で左旋回、「キャビア」で攻撃というシグナルを編み出し、
 先輩の空をさしおいて陣頭指揮をとっていました。これが意外なほど効果的で、またたくまにフライモン軍団を撃破。
 が、その後のバトルでは不覚をとり、インペリアルドラモンに助けられるという流れになってしまいます。

 とはいえ、状況を思えばしょうがないんですよね。というか彼女たちだけ条件が悪すぎます。
 何しろロシアですもの。あのナポレオンもヒトラーもかなわなかった冬将軍が常駐している国ですよ。それこそ今まさに。
 うえに後半ではろくに休憩やカロリー摂取をしないまま吹雪の中に飛び込むという、たいへん厳しい作戦を強いられています。
 あげく敵が完全体軍団ですから、どう考えてもこれで何とかしろってほうが無理でしょう。

 これは彼女たちのせいというより、戦力配分のミス。香港組に至っては戦ってなかったりするので完全体の意味がなかったですし。
 何が起こるかわからない以上、均等配分が無難なのはわかるんですが……やっぱりどう考えてもロシアだけ過酷すぎるんだよなあ。
 せめてもう一人ぐらい投入するべきだったんじゃないでしょうか。
 
 となれば寒さに強いズドモンあたりが最適なんですが、そうするとオーストラリアが手薄になるし……これは悩ましい。
 すいちゅうデジモンに対応できる味方は限られますし。

 って、何か話がずれちゃいましたね。  
 
 
・空
 わりと京の後ろでどんと構えてた雰囲気。
 と同時にお茶目なところもけっこう見せていて、なにげに新たな側面があらわれた回だったのかもしれません。
 やりすぎてキャラ崩壊してた場面もありましたけど。

 その反面地形の過酷さのせいで反撃に遭い、ガルダモンから転落してあわや惨事という局面がありました。
 アクィラモンのフォローがなかったら危なかった。世界篇では一番貧乏籤を引いた人物でしょう。ええ、間違いなく。
 一緒だった京はともかく、他地区のメンバーは誰も命にかかわるようなピンチに見舞われてなんぞいないというのに……
 お姫さまだっこされてるだけだったヒカリとか。
 
 
・チチョス
 メキシコの選ばれし子供。三つ編みにした黒髪とちょっと大きい口、ハッキリした目鼻立ちが特徴の女の子です。
 かの国は混血がだいぶややっこしいことになってるようですが、少なくとも生粋の白人系じゃないのは確かと思われます。
 お母さんが金髪だったので、白人種の血は濃いかもしれませんが。

 母国語はメキシコのご多分にもれずスペイン語。それを流暢に話すうえ、顔が良くて優しそうな賢が気に入ったようです。
 わりあいに惚れっぽい性格みたいですね。おかげでワームモンと不毛な対立をすることになってしまうんですが、
 最終的にはどうやらスティングモンにも惚れたというか、憧れの対象になったものと思われます。

 背丈から賢より2歳から3歳は年下と思われるのですが、上記のように結構マセていますね。
 家を抜け出してきたという発言から、やはり行動力も相当のものがあると見てよさそう。
 声は夏樹リオさんの掛け持ちなので、さや当てがあったとしたら負担がものすごいことになりそうです。
 まあ賢にどの程度惚れたのかわからないので、これ以上の想像はよしておきましょうか。

 パートナーはゴツモン。進化することでモノクロモンになります。
 声は木内レイコさんの掛け持ち。これもわりとわかりやすい方ですが、あんまり喋りませんでした。
 01のときとは違い、完全な味方になりました。フロンティアやセイバーズでも目立ってましたね。
 
 
・アンナ&ローラ&ユーリ
 ロシアの選ばれし子供。それぞれユニモン、スナイモン、クワガーモンと空中戦に長けたパートナーを連れています。
 三人一組のイメージが強く、母国語のセリフすらもないので一人ひとりの印象は強くありません。
 例の突飛な号令のおかげで「ああ、あのとき一緒だった三人ね」と思い出してはもらえそうですけれど。
 でもよく見ると、マンモン戦には参加していません。どこ行った?

 作戦の合間、京たちに本場のピロシキとボルシチをご馳走しようとしていましたが、いろいろあって叶いませんでした。
 ただ、ラスト前の描写からみて携帯性のあるピロシキの方だけはお土産にできた可能性があります。
 
 
・その他の選ばれし子供たち
 賢のセリフから、メキシコにはチチョスのほかにも数名がいるものと思われますが既に夜遅いため、登場しません。
 アメリカでは派手に動き回っていたのに。門限がきびしかったりするんでしょうか?
 そのかわり、賢たちが到着するまでの間に人気の少ない遺跡のほうへミノタルモンたちを追い込んでいてくれました。

 ロシアでも、アンナたちのほかに数名が確認されました。
 全員ユキダルモンがパートナーなので、スティーブと被りまくってますね。
 

・パートナーデジモンたち
 とりあえずワームモンは外せません。悲鳴をあげたり怒ったり嫉妬したりわざと転んでみせたり、
 前半とはだいぶ違った意味でキモカワイイ。必見ですね。たぶん、これが素の彼でしょう。
 それでいて、進化するといつも通りにキリリとした所を見せるギャップもポイント。
 にしても君、その照明をいったいどこから持ってきた。

 前半のバトルはスティングモン、ワーガルルモン、モノクロモンの活躍度合が均等でした。
 モノクロモンは得意の大角攻撃で、ドクグモンを叩き伏せるパワーを発揮。大いに貢献しています。
 流用とはいえレギュラーに近い形式の進化バンクをもらっているし、優遇されてますね。
 
 後半ではアクィラモンとガルダモンを中心に、かなり強力な空中戦闘集団が形成されました。
 敵にまわるケースばかりだったクワガーモンやスナイモンが、この時ばかりは大変たのもしく見えます。
 彼ら昆虫系はカブテリモン同様空中機動力がたかいし、基本的能力のバランスもいいので、味方につければ心強いんですよね。

 そんな中にあって、登場しただけでマンモン軍団を一網打尽にしてしまう皇帝龍の強さはやはり別格中の別格でした。
 京たちは焦らずに、この本命の到着を待ってもよかったんじゃないでしょうか。
 まあ、そういうわけにもいかなかったんでしょうけど。
 
 
・ホセ&イリヤ
 言わずと知れたエージェント軍団のみなさん。そろそろ細かい説明を省略してますが、アレで賢たちは納得したんでしょうか。
 まあデジアドという物語が小説であるという視点から考えれば、タケルのほうで省いたという見方もできるでしょうけど。

 イリヤの方は京と空のカロリー補給を妨害したあげくもっと寒いところに行かせるという、冷静に考えなくても
 かなりヤバいことをさせていました。へたすりゃ死ぬぞ。流されてるけどじっさい死にかけたし。 
  まあ色々まずいと思ったのでしょう、大輔たちには早めに拾いに行ってもらうよう計らったと思われるんですが。
 
 
・ミッシェル翁とカトリーヌ
 ラストシーン手前にちょっとだけ登場。夜遅いクリスマスパーティで杯を傾けあっていました。おいしいなあ、お爺ちゃん。
 この場面にはチチョスやアンナたちのほか、ディンゴも登場していました。メニューは前回に引っ掛けたもの。
 アメリカの選ばれし子供は出てませんが、ミミがその代わりをつとめているようですね。
 
 
・迷いデジモンのみなさん
 メキシコにはドクグモンにミノタルモンと、面積のわりに二体しか現れていませんでした。
 一方ロシアは世界最大の領土にふさわしく、フライモン軍団にマンモン軍団と出てくる数も強さも半端ではありません。
 やっぱりどう考えても一番過酷なエリアです。エージェントたちも相手の種類と数までは把握しきれてないのかな。

 そういえば、ミノタルモンはここにも出てたんですね。
 前に出たのはダークタワーの産物だったので、これがほんとうの初登場ということになるのかな?
 
 
・芝田浩
 アルケニモンに拉致された子供。この手合いでは最後の名前つきです。
 名前はいままでと同様、演出をつとめる芝田浩樹氏の名前を捩ったもの。
 
 
・アルケニモン
 今回もセリフなし。予告からわかるとおり、画面に映る以上の活動をしていたようですね。
 こういった社会にまぎれての暗躍は一番やっかいなもの。それこそが彼女たちの本領なんでしょう。
 性質が悪いという意味では究極体にも負けてない気がしてきました。
 
 
・マヤ遺跡
 メキシコには20を越える世界遺産があるそうで、今回出てきたのはパレンケのものでした。
 賢のセリフ通り、王の墓でもあったということでマヤのピラミッドの常識を打ち破った建造物として知られているそうです。
 それまではピラミッドといっても、マヤ文明のものは王墓を指す建物ではないと思われていたようで。

 となると、賢たちが入ったのはパレンケ遺跡の顔「碑銘の神殿」ということになりますね。
 まともに全体図が写るシーンがあんまり無いのですが、まあ十中八九間違いないでしょう。ロケーションとしては最高です。
 ワームモンが怯えたあの仮面も、碑銘の神殿から見つかったというヒスイの仮面をもとにしたものでしょうね。
 本物は博物館にあるはずだから単にシナリオの都合か、または模型か。

 なお、世界遺産であることを強調したのはこのパレンケ遺跡だけです。
 ただし41話のグレートバリアリーフについてはちゃんと戦場にするのを避けてましたし、 
 後半にも大クレムリン宮殿がちらっと登場して「おっと危ない」と衝突を避けるシーンがありました。

 ベルサイユ宮殿がいちばん派手に壊されたような……まあ、壁の一部だけではありますが。
 
 
 
★名(迷)セリフ
 
「賢ちゃん、スペイン語もできるんだ(はぁと)」(ワームモン)
 
 機種依存文字回避。うーん、キモカワイイ。
 チチョスとのケンカや照れるシーンとか、別の意味で魅力が炸裂しています。
 
 
「賢ちゃん、闇が苦手だから……ボクが明るくしてあげる!」(ワームモン)
 
 しかし八つ墓村。BGMも鬼太郎と間違えそうなおどろ系です。
 気のせいか闇のトラウマが暗所恐怖症に置き変わりかかってる気がしましたがおそらく考えすぎでしょう。
 いや、そんなこと言ったら暗所恐怖症の人に悪いんですが。

 ところで八つ墓村ならやっぱり77年度版が最高だと思うんです。祟りじゃ〜っ。
 
 
「gusano!」(チチョス)
 
 ワームモンに向けた悪態。
 意訳すると「このクソッタレの虫けら野郎!」になります(そこまで言ってないって)。

 なんでも、メキシコではイモ虫を入れた竜舌蘭酒(メスカル)を滋養強壮に珍重しているそうで。
 そこで用いられるのは竜舌蘭に寄生するタイプの芋虫だそうですから、チチョス的には転じて
 「このうすぎたねえ寄生虫野郎!」 になりますか(ますます酷くなった……)。
 
 
「ピロシキって言ったら右旋回! ボルシチって言ったら左旋回! キャビアで攻撃ーっ!」(京)
 
 言葉の壁がギャグに使われてる例ですが、やはり回によって描写がまちまちですね。
 前回のカトリーヌなんて日本語がわかるという設定にされちゃいましたし。
 
 
「GO! GO! デジレンジャー!」(京)
 
 なぜか印象に残ったセリフなので掲載しました。電脳戦隊?
 
 
 
★次回予告
 なんとも突然すぎるデーモン軍団の襲撃。
 しかしながら、次々現れる暗黒デジモンの威容は迫力満点!