ブラックウォーグレイモンvsウォーグレイモン
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脚本:まさきひろ 演出:吉沢孝男 作画監督:直井正博 |
★あらすじ
及川は賢の父の同僚でした。
それがなぜアルケニモンたちを操れるのか? 暗黒の種を使って何をたくらんでいるのか?
謎が解けぬまま、暗黒の種を移植されたと思われる子供たちとの接触がはかられるのですが、すでに種は活性化しており
被害者たちの性格も一変しはじめていました。こうなると、次に及川が行動を起こすときを待つしかありません。
そんなとき、突然ブラックウォーグレイモンが現実世界に現れます。彼は及川を創造主と看破し、
その命を奪うべく漆黒の爪を振りかざしました。彼自身同様、存在してはならぬ異物だからだと。
弾き出された存在。及川の顔に、はじめて動揺の色が走りました。
しかし、いま及川を殺させるわけにはいきません。進化の力を得たアグモンがウォーグレイモンとなって立ちはだかります。
及川たちへの追跡も続いていましたが、ふたりの龍戦士の争いはそこらじゅうを巻き込んでいました。
戦いを止めるため、インペリアルドラモンが割って入ります。空中大激突の末、ブラックウォーグレイモンはついに敗れました。
が、及川たちには一般人を盾にされて逃げられてしまいます。
長い旅の末、自分の存在に絶望しかけていたブラックウォーグレイモン。
ですが敗北を知り、アグモンたちの言葉を受け、生きていくという苦しみに向かいあおうと決意するのでした。
しかし……
★全体印象
46話です。「VS」は「対」と読みます。タイトルコールはその「VS」までが檜山修之さん(Bウォーグレイモン)で、
「ウォーグレイモン」からが坂本千夏さん(アグモン=ウォーグレイモン)。影絵も当然、2大龍戦士です。
いよいよ02も残すところあと5回。DVDも最終巻に突入し、気合が入りますね。
さて、今回は姿を消したままだったブラックウォーグレイモンの伏線消化。
事実上、敵キャラとしての役目をこれで完全に終えたことになります。次は戦いませんからね。
ぶっちゃけ、彼に関してはほとんどやる事が残ってなかったんでしょう。
もちろん彼と及川の関係性、類似性など後へつながる要素もあるんですが、いささか唐突ではありました。
そんな今回いちばんの目玉はやはり、ウォーグレイモン対ウォーグレイモンという垂涎もののシチュエーション。
極論、黒ウォさんはコレをやるためだけに戻って来たといっても過言じゃないと思います。
それほど、この2体の対決は美味しい顔合わせだと思うんですね。
とりあえずやっとけ臭がするのもまあ事実なんですけど、やってくれたこと自体は素直に喜びたいです。
作画は直井正博さん。奇しくも黒ウォ初登場と再登場、両方の作画監督をつとめることになりました。
八島氏に負けず劣らずクセのある絵ですが、シャープさもあって個人的には今でもお気に入り。
竹田氏が描くとテイルモンの脚が伸びるのは暗黙の事実ですが、この人が描くとウォーグレイモンの脚が伸びます。
★各キャラ&みどころ
・大輔
ちょっと中休みぎみ。今回はパートナーのほうが目立っています。
ブラックウォーグレイモンを止めるか、及川たちを追うかという厳しい選択を強いられる場面がありましたが、
あの場合はアレが賢明でしょう。アルケニモンたちが相手なら、シルフィーモンとシャッコウモンだけで充分です。
真っ正面から戦えば、という条件はつきますが。
・京
わりに音頭を取る局面が多かった印象。それに加え、賢とやや親密さを感じさせる会話を見せていました。
拾っていけば、所謂ケンミヤへの材料はそこそこありそうに思えます。
そういえば友人の一人は、最初っからケンミヤを予想していましたっけ。見る人が見れば、というわけか。
・伊織
今回はあんまり書くことがありませんね……
相方のほうは自衛隊をわりに実力行使で止めるという、短いながらも特筆すべき見せ場があったんですが。
まあ次回で目立つので、問題はありません。
・タケル
実はここからの彼、見せ場がもうあんまりありません。
最後を締める役ですから存在感はあるんですが、伸び悩んだ感じです。大輔にだいぶ食われちゃいましたね。
逆に言えば、それだけ大輔が主役らしくなったってことなんですけれど。
・ヒカリ
中盤で一時太一と行動していました。その後は及川の追跡に専念することになります。
でも、よく考えてみたら何でヒカリが行く必要があったんでしょう。アグモンに一番関係している事象ですから、
本来は太一だけでいいはずなのに……ああ、デジタルゲートを開く必要があったからか。
私としては、黒ウォさんに感じるところあった彼女もじゅうぶん関係性が深いとは思いますけれどね。
黒ウォさんとの会話を見てみたかった。彼をよい方向へ引っ張っていけるかどうか、それはわかりませんが……
……無理でしょうね、残念ながら。黒ウォさんも彼女も、真逆ベクトルの持ち主がいなきゃダメだと思うので。
・賢
自分と同じ過ちを繰り返させないため、決意の表情で場を締めるシーンがありました。
その目は確実に未来へ向こうとしています。大輔が言ったとおり、もう立派な選ばれし子供の一員ですね。
彼の悲しいドラマはこの回と次回を踏まえ、49話でひとまずの着地点を迎えることになります。
・デジモンたち
映画をのぞくとほぼ一年ぶりの登場となるウォーグレイモンが筆頭です。
場面やお話によってけっこう強さが乱高下しがちな彼ですが、今回も黒ウォさんとタイマン勝負に持ち込んだまではいいものの、
終始押されっぱなしというイメージが拭えません。最後には皇帝龍の助けが必要でしたし。
しかしまあ、これは仕方ないでしょう。
まず、01のときと違ってあれは完全な進化と言えません。使い慣れた道具をレンタルで間に合わせているようなものです。
第二に、ダークマスターズの時とは違って殺意も殺気も感じられません。戦いの最中に説得までしようとしています。
第三に、そもそもあの姿で生まれた黒ウォに勝つためには、彼の力を上回っていなければなりません。
互角ではダメなんです。初めはいい感じでも、スタミナの差が如実に現れてくる。
以上の点により、残念ながらウォーグレイモン一体だけで黒ウォに勝つのは難しいでしょうね。
皇帝龍が乱入せねばならなかったのもやむなし。黒ウォさんを止めるためには、そのぐらいしないといけなかったのでしょう。
もちろん、最後は02キャラで締めるというシナリオ上の不文律もあるんでしょうが。
……それにしても、虫くんにあの啖呵はちょっと似合わないような。
その後のセリフは彼らしいんですけど。
その他見どころがあるとしたら、飛行パートナー総出でのカーチェイスでしょうか。
一般人を盾にされたり交通誘導をしたり、現実世界ならではの描写が物語に深みを添えていました。
・親御さん方
会社では係長らしい賢パパと、奈津子さんが情報集めをしてくれています。
地味ながら、子供では難しいこうした活動こそ親御さんがたの経験がモノを言うというわけですね。
・及川軍団
とある雪山のロッジに潜伏していました。場所的にはどのへんなんだろう。
文句を言いながらも及川にだけは逆らわないアルケニモンが、なんだか面白いですね。
料理もこなせるマミーモンといい、これまた現実世界ならではって感じの描写がなにげに多い方々です。
そして及川は今回はじめて、感情の動きらしいものを視聴者に見せてくれました。
というか、ここから先の崩れっぷりがそりゃもうものすごいことになります。
あの不安定っぷりもまた、いろんな意味で忘れられぬ彼のもうひとつの側面なんですけれどね。
・ブラックウォーグレイモン
なぜか流星に乗って現実世界にやって来ました。どこのメタルエテモンだ。
そういえば、メタルエテモンの登場も46話でしたっけ。
もっと不可解なのは、何故か自分のそもそものルーツが誰かということを知ってるっぽい点。
その生みの親のいる場所へ、かなり正確にたどり着いたという点。
そしてどういうわけか、わざわざ生みの親を殺しに現れたという点などがあります。ぶっちゃけ、わけがわかりません。
絶望した被造生命体が造物主を殺しに来るというのは、まんまフランケンシュタインの怪物をなぞった構図。
これがボルトモンだったら非の打ち所もなく完璧な絵面だったでしょう。あっちも究極体ですし。
そのようになった背景には、自分と同じように心を持ち、それゆえ絶望をも抱いてしまう異物を
もう二度と生みだして欲しくないという想いがあったのかもしれません。とすれば、これは賢との対比になります。
ひいては、それが黒ウォさんなりの優しさでもあるんでしょう。
ただ実際には及川を殺すのではなく、たくらみを止めようとする方向へ軌道修正していますけれど。
さて、今回で2対1の変則マッチながら遂に敗北を経験しました。
37話でもそうとう追い込まれてましたがアレは痛み分けですし、戦況面でも彼のほうが押していたのでカウントできません。
この敗戦が彼に与えた影響は大きいと思います。基本的に、自分より弱い相手の言葉は聞かないタチですし。
もちろんアグモンは例外なんですが、この二人、通じ合ってるのか通じ合ってないのか……
上で書いたとおり、性格が逆だからこそいい友人になれる可能性はあったと思うんですけどね。
・27日
なんとまだクリスマスから3日と経っていません。
たった数日の間に世界中を回って、デーモン軍団とドンパチやらかしてたんですね。忙しすぎ。
賢パパの勤め先は、どうやら27日が仕事納めだったようです。
★名(迷)セリフ
「ありがとう、パパ。これ、もらっていい?」(賢)
及川の資料を示してくれた父に。
不思議と引っかかりました。悪い意味じゃなく。外でもパパって呼ぶんですね。
エドワード・エルリックや運び屋シロップなど、強気で斜に構えた役が多いイメージもある朴さんですが、
こうした穏やかな声音もやはりいい感じです。名前を知ったのはロラン・セアックからですし。
「あいつらにとっちゃ、デジモンもUFOも同じなんだ。ようするに、信じたくないのさ」(及川)
まあ確かに宇宙人はいる、と思うけど、実際に出てこられたらすごく困るかもしれません。常識がひっくり返りそうで。
われわれはきっと、価値観のちゃぶ台返しを無意識に恐れているのだと思います。
「蹴った…!」(伊織)
猫に蹴りを入れてエリアルレイブ状態にした川田のり子ちゃんを見て。
ひと目で傲慢かつ攻撃的性格に変質していることがわかる例ですが、言いたい事が山ほどあります。
というか種割れしてる人ってどうしてこう足癖が悪いんでしょうか。
「どうしてあたしが……(ブツブツ)」(アルケニモン)
及川の命令で車にチェーンをかけながらの発言。なのに、表立って逆らったりはしません。
プライドの高い彼女にしては、信じられないほど従順です。生みの親だからなのでしょうか?
それとも、実はすでに及川の中に潜む何者かの力を感じていて「逆らわないほうがいい」と判断しているとか……?
「ごめんね、他に方法が思いつかなくて……」(京)
「僕のことなら、気にしないでください」(賢)
後手にまわってばかりの状況を憂いて。
上ではああ書いたものの、実際この二人がこーゆー風に言葉を交わすシーンはかなり希少なんですよね。
だからイキナリだって言われるんでしょう。
「お前も異物だ。現実世界に存在してはならない異物!」(ブラックウォーグレイモン)
本人そのものがそうでなくても、自分のような存在を増やす可能性がいくらでもある時点でもうすでに異物……
そのあたりが黒ウォさんの言い分ってところでしょうか。
彼はどこかでそのことを悟り、すべてを終わりにするためにやって来たのかもしれません。
もしくは、それこそが最後に自分がなすべきことだと判断したとか。
居場所がどこにもないのなら、せめて幕引きは自分の手で行いたい。自分を生み出したものすべてを葬り去って。
それがこの時点での彼の意志であり、自分にできる最大のことだという認識だったのでしょう。
「憐れみなんかじゃない! 心の底から言ってるんだっ!」(ウォーグレイモン)
それでも、声をかけてくれる者がいる。されど、死さえ決意している暗黒の悲愴にはまだ届きません。
「かっこつけるんじゃねえよっ……!
それって死にたいって意味!? きみが強い敵を探していたのは倒したいからじゃなく、倒されたいから?
死ねば悩むこともなく、楽になれるから!?
でも、楽にはさせてあげない……!
もっと悩んでよ。もっと苦しんでよ。だって、生きるってそういうことだもん! 何でもうまくいくとは限らない……
みっともない……もうみんなの前に顔を出せないと思ったって、それでも我慢して生きていかなきゃならないんだ! 」
(ワームモン)
死を望む黒ウォに啖呵切り。初見ではひっくり返りました。ねえよって。ねえよって。
ところでこれ、明らかに賢のことを言ってますね。今までの賢を踏まえた上で言ってるんでしょう。
確かに悪役度だったら黒ウォさんより前半の賢ちゃんのほうがだんぜん上ですから、そりゃ鬱にもなるってものです。
それでも、賢は過去を背負って未来へ歩みだそうとしている。なぜなら、自分の意志があるから。
意志さえあれば、人でもデジモンでも生き方は自分で決められる。そして、その生き様自体が自分自身のあかし。
生きるとは、自分という存在を作っていくこと。そうなのですね。
「オレも、無様な生き方をしてみるか……
感謝する。お前たちと話せて良かった。さすがは、オレを打ち負かしただけのことはある……」
(ブラックウォーグレイモン)
ワームモンたちの説得を受けて。
最後の一言はこの役じゃはじめて聞くほど優しいもので、必聴です。
答えはすべておのれの中にあった。 自分を負かすまでになったブイモンたちやアグモンの言葉から、
ブラックウォーグレイモンは悟ったのかもしれません。
生きていくのに意味などいらない。生きることそのものに意味があるのだと。
かくて、黒い龍戦士がたどった千年の夢はひとつの終点を迎えました。
その行く手には、新たな旅が枝葉を広げていたはずなのですが……
★次回予告
黒ウォ退場エピソードと見せかけて及川の過去話。
ついでみたいな扱いの黒ウォさんが不憫です。