ブラックウォーグレイモンの封印

 脚本:吉村元希 演出:川田武範 作画監督:伊藤智子
★あらすじ
 及川の逃走により打開策を見失った大輔たちは、暗黒の種を植え付けられた子供たちの監視を続けていました。
 そんな折、伊織はふとした事からアルマジモンのことを祖父・主税に知られてしまいます。
 しかし主税は薄々気づいており、伊織の父・火田浩樹がデジタル世界の存在を信じていたことを明かしました。

 さらに偶然の遭遇から、及川がその火田浩樹と友人だったことが明らかとなります。
 しかし及川は、ひと足早く暗黒の種を芽吹かせた川田のり子を狙い、その力を吸収していきます。
 子供たちは食い止めようとしますが、人質を取られた形になっていてうかつに動けません。

 そこへ及川を止めるためブラックウォーグレイモン、さらに主税が現れました。
 主税の説得に心を動かしかける及川でしたが、何かの闇が彼の意志を覆い隠していきます。
 それが破壊の意志となって主税を襲ったとき、盾となったのはブラックウォーグレイモンでした。
 致命的な傷を負ったブラックウォーグレイモンはみずからの体を使い、光が丘のデジタルゲートを封印します。

 ふたたび姿をくらました及川の目的。それは、デジタルワールドに行くことでした。
 それは彼の意志なのか、それとも……



★全体印象
 47話です。タイトルコールは浦和めぐみさん(伊織)。
 影絵はブラックウォーグレイモンの上半身トリミングで、かなりシンプルなレイアウトです。

 この回で重要な事項はふたつ。
 ひとつは、及川の過去と目的のハッキリとした提示。
 そしてもうひとつは、3クール目のレギュラーだったブラックウォーグレイモンの退場です。

 このふたつの要素のうち大きい扱いと言えるのは及川のほうで、黒ウォさんの登場と退場はついでのようなもの。
 そのうえ演出がフォローのしようのないレベルなので、総合としてどうしても評価が低くなる回です。
 戦闘も無理に捩じ込んだような形なうえに面白みがないし、状況をセリフだけで説明してしまうケースばかりだし……

 いくらなんでも手抜き過ぎではありませんか。手抜きじゃないんだとしたらよけー悪い。
 元から川田演出、中でもアクションで良いものをあまり見たことがないのですが、これは群を抜いてますね。
 正直、このような回での黒ウォさん退場が惜しまれてなりません。一時はあれだけ目立ってたキャラなのに。

 せめてベリアルヴァンデモンに挑んで散るという展開であれば、まだ華を持たせられたものを……
 命を賭けた封印が次回予告の時点ですでに意味合いゼロというところにも悲しさがつのります。

 ああ、もったいない。
 本放送時点から黒ウォさんのことは嫌いじゃなかったので、よけい残念でしたよ。
 
 
 
★各キャラ&みどころ

・大輔、京、タケル、ヒカリ
 基本的に見てるだけの人々。
 強いて言えば、タケルが黒ウォさんの死にコメントを寄せていたことでしょうか。
 いちおう、伊織の次ぐらいには黒ウォさんと縁があったので妥当な人選ではあります。
 
 
・伊織
 今回の主役その1。
 アルマジモンのうっかりでカミングアウトと思った次の瞬間カミングアウト返しを食らって戸惑ったり、
 及川に剣道の試合を挑もうとしたり、かと思えば丸腰で突っ込んでいって5メートルぐらい吹っ飛ばされたり、いろいろ大変でした。

 それにしてもラストボス候補と縁があるだなんて、本気で主役そのものみたいです。
 セイバーズで言うなら大の兄貴と同じポジションですよ。そう書くとマジで凄いことなんじゃないかと思えてきました。
 もっとも、あちらのような燃える状況へ繋がるものではなく……むしろ、悲しくて重苦しい繋がりなのですが。

 自分よりはるかに背の高い及川へ果敢に剣を構える姿は勇ましくも愛らしく、絵になります。
 運命がわずかでも違っていれば良い関係を築けていたのかもしれないと思うと、切なくなりますが。
 
 
・賢
 大輔たちよりはセリフが多いのですが、特に注意するほどの見せ場はもらえてません。
 それでも同じ境遇に片足を突っ込んだ川田のり子との会話は、貴重な場面として特筆に値すると思います。
 
 
・太一
 なぜかウォーグレイモンと一緒に表をうろうろしていました。黒ウォさんを探していたんでしょうか?
 ウォーグレイモンが先行したため、セリフは一切ありません。
 
 
・デジモンたち
 パイルドラモンどころかウォーグレイモンまで来ていながら、状況の悪さでろくな結果を出せていません。
 特にウォーグレイモン、あんた何しに来た。その上これが最後の出番って……(^^;)
 ディグモンも出ましたが何もしないうちにダウンを奪われており、今回はもう踏んだり蹴ったりです。

 またこの回は、ウォーグレイモンのセリフがいらん物議を醸したエピソードでもあります。
 こんな初歩的とすら言えないミスをかますなんて、吉村氏は何か悪いものでも食っていたのでしょうか?

 その他前回につづいてガブモン、ちょっと久々にピヨモンやテントモン、ゴマモンたちの姿も見ることができます。
 デジタルワールド限定ですけど。
 
 
・火田主税
 43話以来の登場。声優さんが大御所だからなのか、出番の散発的な人です。
 アルマジモンの身バレを機会に、伊織へ重要な過去を明かしてくれました。
 回想シーンの中で、少し若い姿を見ることができます。

 今は老成してますが、昔は血の気の多いところがあったのか、時として息子につらく当たった節がありますね。
 そのことを後悔しているらしいセリフもありました。この人も長い人生の中でいろいろあったのです。
 幸いだったのは、浩樹パパがグレずにまっとうな大人へ育ってくれたことでしょうか。

 それにしても、アルマジモンがデジタル世界の存在だと気づけたのは何故なのでしょう。
 息子が夢想していた電子の生命体と趣が似ていたからでしょうか? それは偶然だったのでしょうか?
 または、必然だったのでしょうか……
 
 
・火田浩樹
 火田主税の口から、かつてデジタル生命体の存在を信じていたという別の一面が明かされました。
 見えないものが見えていたという証言もあるので、デジタルワールドの片鱗を垣間見ていたのかもしれません。
 どうあれ、伊織が選ばれし子供としてデジタルワールドに導かれた事実を必然として裏付ける話でしょう。

 ただその後の経緯や職業を見るに、やはりそのへんはある程度割り切って大人になっていったものと思われます。
 及川との友人関係は続いていたでしょうし、自分のあり方を押しつけるような人でもなかったと思うのですが、
 及川としては何となく置いていかれたような気持ちになっていたのかもしれません。
 
 性格的には、真面目な熱血漢だったろうと容易に想像がつきます。加えて、顔つきからはどこか豪放な印象も受けますね。
 きっと伊織に大輔の要素を加えたような好青年だったに違いありません。
 及川とは何もかも正反対でありながら、ウマが合った。そんな親友同士だったのでしょうね。
 
 
・川田のり子
 暗黒の種を植えられた子供として、はじめて賢と直接的対話を果たした人物です。
 光子郎と同じ仕様の黒目なので、瞳にハイライトが無いのは元から。芽が出るとその黒目にグラデーションが懸かります。

 暗黒の種と相性が良かった(つまり、それだけ心に強いマイナスを抱えていた?)のか、一人だけ先に花を咲かせました。
 傲慢な物言いはデジモンカイザーそのもの。賢にとっては鏡を見ているようで、いろいろ胸が痛んだでしょう。
 この高慢さこそが弱さを覆い隠すための鎧であり、他者を傷つける棘だと一番思い知っているのは他ならぬ彼なのですから。

 ちなみに声は伊織と同じ、浦和めぐみさん。
 許せなーいとかダギャダギャ言ってる横で及川さまお願いしますとかやってたわけで、想像するとものすごい光景です。
 メイン格ふたりとまったく違う険のある演技はプロの面目躍如といったところ。

 そういえば浦和さんは、ゼノサーガEP2のちびアルベドでもかなりイッちゃった演技を見せておられたなあ……凄い人だ。
 
 
・及川
 火田浩樹と並行するように過去が明かされました。今回の主役その2。
 親友と夢を語っていたころの輝いた瞳がなんとも痛々しい。とうてい同じ人物とは思えません。
 涙を流し過ぎたせいで、心を引き裂かれすぎたせいで、顔までも変わってしまったのですね。

 彼の心は、あの時点で止まっているのでしょう。
 そして今も、あの頃の夢を追いつづけている。過去へ消えた輝きに希望を抱きつづけている。
 そこにはもう、思い出しか残っていないというのに。背負う荷物があるだけなのに。

 なぜ彼を語るに当たって伊織の父親が引き合いに出されたのか、今ならわかります。
 子供から男になり、大人になり、父親となり、伊織というりっぱな息子をもうけた火田浩樹にくらべ、
 及川は男にも大人にもなれず、歪んだ形でしか父親になれず、命をどう扱っていいのかすらわからずにいます。

 彼はいつまでたっても子供のままなんです。影を引きずったまま、殻を捨てられないまま年だけとってしまった。
 夢はいつしか我執に変わり、憧れはいつしか嫉妬に変わり、喜びはいつしか嘲笑に変わり、熱意はいつしか妄執に変わり、
 掴もうとしているものの本質さえわからなくなる。そんなドロドロの闇こそ、真の邪悪の好むところなのでしょう。

 でも、本当は違うんです。
 
 世界はただそこにあるだけのもので、誰かひとりだけを拒絶するなど本来あり得ません。
 孤独であるかどうかを決めるのは世界のほうではなく、やはり自分自身ではないでしょうか?
 黒ウォさんの足掻きはそのまま彼にも当て嵌めてよいものなのではないかと、おじさんは思うのです。
 
 
・アルケニモン&マミーモン
 刻々と最期の時が近づいてきています。

 思えば彼女たちも壊れた心の卵から生まれた、不幸な命というヤツだったのかもしれません。
 むろん上で書いたとおり、孤独や不幸というものを最終的に決めるのはその人自身……なのですが、
 二人ともがてんから深く考えようとしていません。その時点で、ああなるのは必然だったのかもしれませんね。

 マミーモンの方はアルケニモンの存在という確固たる立脚点を持っているし、意外なほど考えてはいるので、
 なんぼかマシに見えるんですが……それも、アルケニモンが消えた瞬間に土台から崩れるわけですし。
 
 
・ブラックウォーグレイモン
 こちらは今週で退場。
 が、なんとか自分という存在を刻もうと塞いだデジタルゲートも次回であっさり破られるので、事実上無意味。
 彼こそ踏んだり蹴ったりです。あんまりだ(T_T)

 それにしても、まさか彼ほどの強者がああもあっさりと葬られてしまうとは……
 01のダークマスターズもハデな登場のわりにあっさり目な退場でしたけど、あちらとは登場期間が違いすぎます。
 強敵が味方になると弱くなるといいますが、いくらなんでも弱くなりすぎではありませんか。

 もちろんアレはラストボスたるベリアルヴァンデモンの影と実力の一端を示す格好のケース……なのでしょうけど、
 シチュエーションや映像、演出など、あらゆる意味でお世辞にもうまくいってるとは言えません。
 むしろ黒ウォさんだけが激しくデフレを起こしてしまってます。

 結局、敵対をやめた彼にシナリオ上の存在意義なぞないということなのでしょうか。
 悪い言い方になってばかりですが、まるっきり不良債権処理みたいな最期でした。扱いかねて消したような感じです。
 より正確に言えば、本家ウォーグレイモンや及川と絡ませるためだけに再登場させたのでしょうけれど。

 まあこんな言い方になってしまうのも、もとを正せば私が黒ウォさんを気に入ってるからなんですが。
 単なる色違いのはずなのに、何であんなにカッコいいんでしょう。たまらん。
 願わくば、次は本当のデジモンとして生まれ変わってきてほしいものです。

 なお以前、彼に心が宿った理由として「黒ウォの魂=火田浩樹」を想像したことがありましたが、
 今回見返してみて軽く「ねーな」と思ったことを記しておきます。材料はあるんですけどね。
 
 
 
★名(迷)セリフ

「今後、怪物を未確認生物体として扱うという見解が示され……」(アナウンサー)

 何てことないシーンですが、聞き逃すわけにはいきませんでした。こんな所にも「クウガ」パロが。
 第4号は誰なんでしょう。ワームモンだったりして。
 前後のシーンには太一のほか、空たち残りの先輩組も顔見せをしています。

 ヤマトパパもちょっとだけ登場。
 奈津子さんへのいやに他人行儀なメールが生々しいですね。
 
 
「いくらお前が選ばれた子供だとしても、どうすることもできないだろう? どうだ、歯がゆいか?」(及川)

 どうやら及川は、「選ばれた」子供である伊織たちを翻弄することにも一定の昏い喜びを感じているようです。
 大人が子供に嫉妬するというのは、なんとも格好の悪い話ですが。
 
 
「優秀な人間というのは、人から羨まれるかどうかではなくて……
 多くの人の役に立てるかどうかで決まるんです! あなたの言っていることは、間違っているッ!」(伊織)


 そんな及川へ大上段からの反論。やっぱりこの子、論客に向いてますね。
 
 
「違うよ……オレはそんなに弱い人間じゃないよ……!
 弱くなーーーーーーーーーーーーい!!」(及川)


 必要以上の否定は肯定の紙一重。いろんな意味で初期のキャラが完全崩壊した瞬間です。
 大人になった後の姿が回想にあまり出てこないのが象徴的というか、何というか。
 
 
「よけいなこと考えるんじゃないよ。考えても……始まらないだろ?」(アルケニモン)

 彼女は徹頭徹尾、この姿勢でした。
 
 本当は自分たちが何も知らないだけで、だから創造主の命令通りに動くしかないということぐらい、
 とっくにわかってはいるのでしょう。けれども、そこから抜け出そうとは思っていない。
 自分たちが空っぽだと認めることになるから。

 それでも時には「なんでこんなことしてんのかなあ、あたしら」なんて、
 つい思うことがあったのかもしれません。
 
 
「だけど僕は今のほうが……天才と言われていた時より、ずっといいと思っている」(賢)

 これは賢ちゃんの実感でしょう。
 一度ドン底を知って、そこから這い上がってきた彼にはこれを言う資格があります。
 もちろん、これを言った相手である川田のり子嬢には一笑に付されることになるのですが、それも想定のうち。
 
 
「賢ちゃん大変だ! 種から芽を出した!」(ワームモン)

 笑っていいのかハラハラしたらいいのか全くわからないシーンとフレーズです。人それを迷セリフと言う。
 このあたりから進化バンクまでの画面はとにかく単調な流れで、川田演出の真骨頂。
 ワンカットに四つも五つもセリフを入れるなんて……凄いカワタっぷりだ。
 
 
「これは全て子供たちの意志なのだ……!」(及川)

 子供の行動をタテに自らを正当化する。ダメな大人のテンプレみたいな言動です。
 勝手にルールを作って、その中に自分も他者も閉じこめてしまうのですから。
 彼自身もそのやり方が正当なものじゃないということぐらい、わかってるはずなんですけど。
 
 
「先に行ってます!」(ウォーグレイモン)

 問題のセリフ。相手は太一です。なぜ敬語??
 
 
「お前は力が欲しいのか? 一人の寂しさを紛らわせるために……
 そんなことをしても無駄だ! 力をかき集め、この世の全てを自由にすることができたとしても!
 それはお前を孤独にするだけだッ! 違うか!」(ブラックウォーグレイモン)


 いろいろ唐突な気はしますが、言ってる人が言ってる人なので説得力はえらいレベルに達してます。
 
 
「今さらこんなことを言うのもなんじゃが……わしの友人になってくれんか?
 浩樹の子供のころのことを話す、相手が欲しいんじゃ」(火田主税)


 自分は孤独だと、認めはしなくてもそう思い込んでいる人間にどう接するべきかは難しい命題です。
 それでも、孤独を埋めようという好意には一定の効果があると考えるのが自然でしょう。
 事実、及川の心の壁をゆるめさせることに成功しました。

 しかし、本当に討つべきものが彼の向こうにいたのです。壊れた夢を、野望の毒漿に変えて。
 
 
「お前……! お前だったのか……!」(ブラックウォーグレイモン)

 そういえばこの人、なんでベリアルヴァンデモンのことを知ってたんでしょう。
 なんか結構な敵愾心を持ってるようですし……どっかで会ったんでしょうか?
 
 
「ブラックウォーグレイモン! ブラック……ウォーグレイモン!!」(ウォーグレイモン)

 誰よりも生きる意味にこだわり、最期まで証を求めた漆黒の龍戦士、ここに散る。
 そして、誰よりもその死を悼んだ者がここに一人。

 あいにくともうラストバトル手前なので、顧みる余裕さえないのですが。
 
 
 
★次回予告
 ほとんどオーラバトラーと化した新生ヴァンデモンが偽誕。
 と思ったらある意味もっと怖い男が大地に立った!