ヨシノ玉の輿ゲット!? クリサリモンの影

 脚本:山口亮太 演出:今沢哲男 作画監督:八島義孝
★あらすじ
 歌手・華村祢音と淑乃に熱愛発覚!?
 しかし、それは潜入捜査のカモフラージュだった。祢音が悪性デジモンを匿っているという疑いがかかり、祢音の幼なじみである淑乃が調査を進めていたのだ。果たして、祢音は自宅に隠したケラモンの力を使い、自曲の大量ダウンロードやプロモーション配信、ランキング操作までをも行っていた。
 そして、ついにDATSの強制捜査が敢行される。だが、追いつめられた祢音の感情に反応したケラモンがクリサリモンへ進化。
 ガオガモンをも退ける強敵だったが苦戦のすえ、駆けつけた大らの手によってなんとか粉砕される。

 淑乃は祢音の記憶処理を行い、彼の記憶から事件のすべてを葬り去った。自分との再会と、ともに過ごした思い出さえも。
 朝焼けに浮かぶ淑乃の横顔は、強さと寂しさを秘めて遠くを見つめていた………。



★全体印象
 8話です。7話よりもさらにアバンが長く、9分近くもの長さ。もはやアバンとは言えません。
 このへんは後でもうちょっと考察したいです。

 さて、淑乃が主役ではありますが戦闘には参加せず、戦闘シーンそのものも短いのでそういった意味での見どころは期待できません。では淑乃と祢音の刹那的な交流とすれ違いに主眼が置かれているのかといえば、それもちょっと弱い。想像はできますが、アピール度がさほどでもない感じ。大とトーマのほうにも多少尺がとられているので、淑乃自体のセリフも多いとはいえない結果になっています。ララモンはもっと少ない。
 はて、これは一体?

 既にあちこちで言われているとおり、淑乃の声を担当する新垣結衣さんの経験があさいため、そのカバーをする意味合いがあるのかもしれません。戦闘までも大とトーマに出番を譲ってしまっているのはさすがに驚きましたが、この番組は男児むき。昔から女の子テイマーのデジモンは商品価値が高いとはいえず、なんとか一石を投じようとして出来た留姫はジーンズを履いた気性のはげしい、男性的側面もあるキャラでした。これは宿命なのでしょうか。出番が無かったわけじゃないけど、フェアリモンなんかも悲惨でしたっけ。

 ただ別の見方をすると、あえて戦闘には出さず「祢音=ヒトシとの決着」に見せ場を集中させたのは一つの落とし所でしょう。へたに出戦してやっぱり勝てませんでした、というオチよりはマシとさえ言えます。そりゃ戦闘に勝って記憶処理の見せ場もこなす形になれば言う事はないんですが、なにしろまだ8話。究極体は確定しているんだし、結論を出すのは早すぎるでしょう。7月に完全体が登場しはじめるという情報がほんとうなら、正念場はそこです。

 脚本は2話以来の登板となる山口亮太氏ですが、なんか妙に詰め込んでた感。それ以上に淑乃へは『叫び』の演技が要求される場面をあてがっていないので、本当に脚本か、または演出レベルでフォローが入り、トーマと大の出番が増えた可能性はありますね。特に、大がビルへ闖入するシーンは無くても成り立ちそうなので、それで分散した印象になっているのかもしれません。

 そんでもって今回ばかりは八島作画でなく、上野作画か清山&竹田作画で見たかったところです。
 このシリーズは作監によってもだいぶ受ける印象が変わるので、それだけでも違った雰囲気になったでしょう。



★勇者アバンの謎
 前シリーズ、ガッシュベル三年めから採用されたアバンパート。ここへ来て、箍が外れたみたいに拡大をはじめていますね。
 そもそも、猫も杓子もアバンパートを採用しはじめたのはここ数年と記憶しています。それ以前はたいてい

 OP→CM→Aパート→CM→Bパート→CM→ED

 という形式が採用されていて、違いといえば本編とED(あと、次回予告)が繋がっているかいないか程度のものでした。一話や最終話で変則的に構成をいじってくることはありましたが、区切りだから演出の意味あいが大半と思われます。それが拡大して、番組全体に広がっていったのでしょう。今や、作品によってかなり幅が出てきてます。パート分けが細かかったりアバンがあったり無かったり、EDが無かったり、タイトルの入る位置も千差万別。これは恐らく、デジタル化によって編集がラクになったからでしょうね。

 そんな中にあって、当シリーズの構成はかなり特殊なもののひとつだと思います。

 アバン→OP→CM→本編→CM→ED

 という感じで、CMが2回しかありません。
 ガッシュベルの頃はそれでもまだ「導入」の体裁を保っていましたが、セイバーズになってからは製作方針が変わったのか、回によって驚くほど大きな時間的バラつきがあります。今回はその最たるもので導入どころか、起承転結のうち「起」「承」までを一気に詰めています。これはもう、事実上のAパート括りといってもよいほど。これ以上やると最終回演出みたいになってしまいます。

 なんでどこもOPより先に本編を押しだすのかと言えば理由はいくつか考えられて、例えばドラマ性を構成そのもので主張できるという利点がひとつ。さらに、お話のさわりをいきなり持ってくることによって食い付きをよくする狙いがあると推測できます。それがどの程度視聴率や人気に貢献しているかはイマイチ判断がつかないのですが、ひとつの大きな流行から定番として根を下ろしているのはたしか。

 セイバーズの大胆な構成は、導入どころか全部見たくなるところまで視聴者をテレビの前へ釘付けにする目的がありそうです。皆がOPやEDを区切りと考え、そこでチャンネルを変えるかどうか決めているであろう以上、それを可能な限り遅らせる実験をしてみているとしても不思議じゃありません。導入だけしたいのなら、しろうと目に見ても二回くらい切れる箇所がありました。あえて切らなかったところには、なにがしかの理由があるんだと考えてます。

 …いや、どうでもいいことと言われりゃおしまいなんですけどね。



★各キャラ&みどころ

・大
 あいかわらず拳で語ってますが今回も脇役。ただし、7話よりは遥かに出番が多いです。
 目の前で淑乃があんな事しても特に気にしてなかったのは単に淑乃が守備範囲外なのか、それとも色恋沙汰にはまだ興味がないのか、はたまた天然なのか…。
いずれにせよ、だいぶ淡泊でした。あと、祢音は彼の基準からすると全然かっこよくないみたいです。

 知香に泣かれる場面がありましたが言ってることは間違ってません。
 女3人に茶々を入れるシーンもあったし、ミーハーなのはあんまり好きじゃないんですね。というか今回はなんだか妙にオヤジ臭いです。

 そーいえば、結局6話みたいなデジソウル自然発生はみられませんでした。やっぱり殴らないと出ないみたいです。今後はわからないけど。
 …もしかして殴らなくても悪性デジモンに触れていれば出るとか…?


・ アグモン→グレイモン
 ひたすら白々しい態度でパピコ吸ってるあたりが最大のチャームポイント。
 戦闘シーンはあっという間に終わったので、特に記すべきことはありません。


・トーマ&ガオモン
 仕事はこなしてますが大チーム以上に脇役。
 クリサリモン相手にはあんまりいい所見せられていません。次回に期待しましょうか。


・淑乃
 大人だな、と思いました。
 祢音を信じたいという気持ちはありましたが、決してDATS隊員としての本分までは見失っていません。想いは胸に秘めながらも、あくまでクールに事件の後処理へあたっています。ひさびさに会った幼なじみと過ごした時間はたとえ捜査のためとはいえ、楽しくないわけがなかったでしょうに。忘れてしまうより忘れられてしまうほうが、きっとなによりも辛いでしょうに。

 そこにあるのはもう幼い女の子じゃなく、立ち位置をさだめた大人の女性の姿でした。多分にガキっぽいところの残ってる祢音とは対照的。
 いろんな意味で今までのヒロインとは決定的に違うんだなと、そう思ったものです。 

 戦闘でこそ目立ちはしませんでしたが、彼女自体への私の評価は下がっていません。むしろ現状維持、事によると上がってます。
 これからも、よいお姉さんでいてください。


・ララモン
 ……まあこの子のほうにまで出番は回らなかったわけですが……。


・薩摩隊長&クダモン
 なにげにDATS二課って言ってましたが、やっぱり横浜以外にも部署があるんでしょうか?
 それとも大のいる隊が一課で、内偵専門の二課が横浜のどこかに?

 それはともかく、隊長が珍しいギャグ顔を披露してくれています。


・オペレーターさん達
 普段はマジメに仕事してるふたりですが、ことが男がらみとなると目の色が変わるようです。しかも相当のミーハーで、おまけに二人揃っての主張がやたら多いところからして、見かけはずいぶん違うけれど根っこがそっくりなのかもしれません。
 ………ああ、そーいえばこのふたりのパートナーって、同じポーンチェスモンでしたっけ…。

  あと白川女史のほうに何となーく大食い属性疑惑があります。6話とか見てるとなんかそんな予感が…。
 バーガモンあたりと絡んだら面白そうな。


・華村祢音
 昔は太っていたという淑乃の幼なじみ。現在はシンガーソングライター。
 気になるのは「ケラモンを飼うようになってから人気が伸びた」のか、「ケラモンのお陰でもともと人気があったのをさらに伸ばせた」のかという点です。後者であればわざわざケラモンの手を借りるまでもなさそうですが、人の欲望とは箍がはずれやすいもの。簡単にデータを操作できると知ってしまった以上、もうそれ無しではいられなくなるでしょう。

 でもオペレーターさんたちの反応からみて、前からそれなり以上には売れてたんじゃないかなぁ、とも思えまして。
 そうであれば、記憶と一緒に気持ちも入れ替えて再び多忙な日々を送れる目は充分あります。

 クリサリモンが消えたあとは、何やら憑き物が落ちたような顔をしていました。彼の激昂が進化を促したのは確かでしょうが、同時にケラモンの方からもなんらかの影響を受けていたのかもしれません。2話のタカシも、気弱そうな性格からは考えられないような態度を見せていました。人の悪意が悪性デジモンを進化させ、悪性デジモンの悪意が憑かれた人間の負の感情をより煽っていく。これはひとつの法則ですね。
 今後にも大いにかかわってきそうな要素なので、憶えておかねばなりますまい。

 声を演じていたのは関智一さん。いちゲストにしては随分と名のある人を連れてきたもんです。
 ビジュアル系?だけあって非ッ常に甘く演じてますが、叫びともなると「ああ、イザーク関智一だ」とわかる仕組み。


・ケラモン→クリサリモン
 言わずと知れた、ネット上のデータ操作をとくいとする根っからの悪性デジモン。あのオメガモンがデビュー戦を飾った相手でもあります。
 そんな有名人?ですが、今回はまぁこんなもんかな程度の強さ。ネットを荒らせるといっても、初代がみせた破壊的なまでの能力は完全に陰をひそめています。もう完全にレギュラー種ですね。でないと困るんですが。

 クリサリモン〜ディアボロモンはテイマーズに出ていますが、 ケラモンがTVシリーズに出るのはたしか初めて。
 ついでに言えば、この系列が敵役としてメインに置かれたのも今回が初めてです。あれからもう6年か……。



★名(迷)セリフ

「なにが有名にしてくれるだ! そんなの、お前の実力じゃねェじゃねぇか!
 歌で天下を取りたかったら、自分の実力で取ってみせろよ!」(大)


 体格5倍以上の相手も迷わず殴りに行く兄貴が言うと、なんだか妙な説得力があります。


「だいじょうぶ。私が覚えていてあげるから…」(淑乃)


 嘆くことも、ことさらに明るく振る舞うこともなく、ただ静かに朝日を見つめる彼女は正直、かっこいいと思いました。



★次回予告
 なにやら今回と似たようなパターンのお話っぽいなあ。
 それとも宇宙刑事シャリバン13話「強さは愛だ 英雄たちの旅立ち」みたいなお話になるんでしょうか?

 トゲモンが悪性デジモンに見えない……(^^;)