親子の絆を取り戻せ イビルモンの幻惑

 脚本:稲荷明比古 演出:山田徹 作画監督:竹田欣弘
★あらすじ
 大の友人・耕一郎の家は行列のできる饅頭屋だ。ところが、耕一郎の父でもある店主の多助がやる気を失い、賭博に溺れる毎日を送っていた。

 そんな多助が突然賭博でバカヅキし始め、外車まで乗り回すようになる。どうも様子がおかしい。
 まるで金の亡者になってしまったような父のようすに、耕一郎は嘆いていた。父のあとを継ぎ、和菓子職人になる夢を持っていたのだ。
 不審に思った大が蔵に踏み込んでみると、そこには石像にばけたピコデビモンとイビルモンが…彼らがギャンブルの結果を操作していたのだ。さらに、デジモンたちは逆上した多助の意志に反応して破壊活動をはじめた。が、淑乃らのフォローもあって敵は倒される。

 こうして職人親子は絆を取り戻したのだが、大も気づいていた。デジモンは人の欲望に反応するのではないかと。
 そこへ、休暇の名目で姿を消していたトーマが戻ってくる。アメリカで調査を進めていたのだ。彼の口から放たれた驚くべき警告とは…。



★全体印象
 一週あけての11話です。今回のタイトルも始まってすぐ表示される形式。これで固まるかな?
 
 10話を受けてトーマが姿を消すところから始まり、最後にこれからの急展開を宣言するかのようなセリフを発するので溜めのイメージもあるお話なのですが、そんな中で今度は父と子の絆ってものを題材に持ち出し、父がいない大へ絡めることで二重の仕込みがなされてますね。彼がいつも肌身離さず持っているネームプレート(でいいのかな?)も、父に関係あるものらしいということが明確になりましたし。
 しかも次週が知香がらみ、その上どうやら13話で早くもライズグレイモン登場みたいなので、これは父親について語られるのもそう先のことじゃなさそう。全部が明らかにはならないでしょうが、断片的な手がかりぐらいなら出てきそうな気がします。

 と、メインの流れにおいても重要な回となりうるわけですが単体としてみても悪くない出来。
 主人の没落とギャンブルへの耽溺や金の亡者っぷりがなんだか無闇に生々しく、真面目に考えさせられてしまいます。金で人の心が買えると誰かが言っていましたが、別の人はこうも言っていますね、金の切れ目が縁の切れ目だと。金があればなるほど、なんでもできるかもしれませんが、なんでも叶うかどうかというとやっぱり半分は嘘だと思うわけです。だったら、金をかけたものはみんな売れなきゃおかしいということになりますもの。

 とりわけこの日本はモノづくりの国であって、それ以上にモラルと情の国です。崩壊が叫ばれて久しいとはいえ、まだまだ。
 実体のない金を掴み、ひけらかして憚らないタイプの人間はどっかで嫌われるのだと思っておいた方がいいんでしょう。表に出さないだけです。

 閑話休題。
 今回からひさびさに竹田欣弘氏が作監へ帰りざきました。原画としてなら出っぱなしでしたが作画監督はホントに久しぶり。デジモンシリーズとしては、02の49話以来ということになります。影とハイライトのつけかたにあいかわらず特徴が出ていてひと目でわかりますね。
 どうも上野ケン氏が別の番組で総作画監督として抜擢されたみたいなので、その穴を埋めるための起用っぽいです。もともと多少濃い目の絵柄がウリの人ですから、旧シリーズよりは今回のセイバーズのほうが相性はいいでしょう。そのぶん、個性は発揮しづらいですが。

 しかし所によっては、デジモンたちの線だけが三倍ぐらい太いカットも……あれは一体?



★各キャラ&みどころ

・大
 ああして見ると、ただの気のいいロンゲ中学生なのだけど喧嘩番長。
 大人も投げ飛ばしてしまいますが、デジモン殴り倒すのにくらべれば全然大したことしてるように見えません。感覚が麻痺してるなあ。
 でも、やはり父親というものの意味は常づね噛みしめているようで、そのへんの親父よりよほど考えているといえます。
 主人にかましたあの説教も、説教なんてつもりじゃなくてふだんから考えているような、ただ自然に出てきた言葉かなぁとも思えたり。

 でも饅頭にありつけたのはある意味結果オーライというか、デジモンがらみの事件でなかったらどうやって解決する気だったんでしょう。
 腕ずくで作らせるなんて方法を兄貴がとるとは思えないし、根気よく説得するつもりだったのかなぁ。
 必要となればいっときの恥をしのんで土下座くらいはやってのけそうな気がしてなりませんが、どんなところでしょうか。

 そして今回も瞬時に壁を駆け登って拳。あいかわらずの足腰とパンチ力です。


・ アグモン
 開けるときまで気づかれないというなにげに高度なつまみ食いテクニックを披露しています。
 あの爪はハシも持てるし、なまじな人間よりはるかに器用なのかもしれませんねぇ。刺したりはできないようだけど…PL法?
 というか饅頭自体、アグモンの手足のボリュームには小さいので普通にハシを使ってつまんで食ったのかもしれません。

 そーいえば今回もデジヴァイス内での待機が主体でした。まあ狭いだけで負担がかかるわけじゃないので、時と場合によって考慮なんでしょう。とりわけ今回は第三者が貼り付いていたり人が大勢いる場所に行ったりしていたし、何よりDATS本部や自宅にいる場面が少ないので。
 おかげで初のリアライズ・コールが聞けた回にもなっています。


・淑乃
 竹田作画なのでポーズや体型など、より可愛らしく強調されていますが今回も本格的戦闘はなし。
 でも仕事はちゃんとやってますね、相変わらず。前回といい、女性キャラでありながらドライバーとしての出番が目立ちますが、これは彼女だけ18歳だからで、大やトーマにやらせちゃいけない法律上というか設定上の縛りがあるんでしょうね。でなきゃ大はともかく、トーマあたりが運転をしてておかしくないはずですし。昔のアニメじゃ割におかまいなしだったもんですが…。

 とはいえ、そろそろ戦闘で一発かます場面が見たいのもたしかです。
 ライラモンの登場がいつになるのかにも依るところでしょうけれど……丈とミミみたいに一人だけ遅れたりして。


・ララモン
 ああ、やっぱり日光浴とか好きなんですね。どうしたわけかサングラスかけて浜辺で寝転がっているイメージが脳内に。
 大を助ける場面もありましたがピコデビモン相手には逃げ回ってばかりで、でも何だか微笑ましいのが不思議。
 作画の裁量なのかだいぶ表情ゆたかで、ビックリ顔も惜しみなく披露してます。



・トーマ&ガオモン
 前回につづき、戦闘には参加せず。アメリカへ調査に行ってます。
 アメリカでの場面にはガオモンが出てませんが、これは研究所が大学にあるからでしょうか。でも、DATSアメリカとかは?
 あの国のことだから、デジモン研究でもトップであろうとしていて然るべきなんですが……

 …ああ、そもそもアメリカには事例自体があんまり無いのかもしれないなあ。だから本格的施設とテイマーが日本に偏っているとか。


・DATSのみなさん
 また作画の話になりますが、そのおかげで普段よりオペレーターさん方の出番が多いように感じてしまいます。
 いや、実際に黒崎さんと白川さんの出番は多めだったと思うんですけどね、普通に。
 …しかしどうでもいいんですがこのお二人、出てくるたんびに何かしら食べてるようなイメージが離れがたく。
 とくに白川さんの執着が強いように見受けられるのは、黒崎さんとちがって平時の印象が温和だからギャップって奴でしょうか?

 それにしても時々ポーンチェスモンの存在を忘れます。そんくらい影が薄い。
 カメモンといい、一切しゃべらないのは何か理由があるんでしょうか?

 隊長はいつもの隊長でした。今日も今日とて、クダモンのほうがよく喋っています。 おっちゃんはまだ出てきません。


・白鳥多助&白鳥耕一郎
 なんとなく名が体をあらわしてる人たちです。外見じゃなくて、ストーリー上の役回りが。
 お父さんの多助は、若い頃けっこう破天荒だったように見えます。なんとなく髪形がそう言ってる。 そうした情熱が変な形で戻ってきて、結果的に悪いものでも出したみたいな具合でモトサヤという顛末。なんだか護くんに浄解でもされたみたいな顔をしていました。でもこれは祢音もそうでしたっけね。
 そんなお父さんにくらべると眼鏡で地味な耕一郎くんですが、逆にそのきまじめさが個性になっています。
 多助に苛立ちを隠し切れないながらも同じ父への憧れを口にし、なんだかんだで必死に助けようとしたり励ましたり、清涼剤のような役割でした。

 一話かぎりのキャラ立てをベテラン・主役級経験済みの声優さんがしっかり固めていて、特に小野健一氏の真に迫った演技は聞かせます。
 小田久史氏は高音域だと微妙に山口勝平氏っぽい。


・イビルモン&ピコデビモン
 4体ひと組。進化という形ではなく共生関係みたいな間柄でした。多助ともいちおう共生が成り立っていた…のかな? 歪んではいましたけど。
 知能も高くて休眠状態を装いレーダーから身を隠したり、普通に口を聞いたりします。だんだん高度になってきているというべきですかね。
 メラモン、ドリモゲモン、エレキモン、ボンバーナニモンあたりもしゃべってましたけど、一つ覚えの域でしたもの。

 ただ知能が高いぶんなのかどうなのか戦闘力はあんまりありません。ジオグレイモンが出てきた時点ですでに勝負はついていました。
 興味深いところでは、ピコダーツの技イメージがエネルギー弾形式になっていて旧シリーズのような実体弾(?)じゃありません。

 しかしそれより興味深いのはなぜ「サー、イエッサー!」なのかという点です。インパクトはありましたが。




★名(迷)セリフ

「男に二言はねぇ!」(大)

 いつか言うだろうと思っていた類のセリフですが、よもやこんな微妙な場面でだとは思わず。
 それもひとつの用法ではありますが…。


「子供ってのは、親の背中を見て育つもんだ…けどな、だからこそ! 親が子供の夢に背を向けちゃいけねぇんだよ!」(大)


 かと思えばどうコメントしていいかわからないくらいマトモなことを言ったりします。
 殴り合い上等のくせにやたら真っ当に育ってませんかこの人。瞼の父と、あのお母さんのおかげか…
 妹がいるというのも大きいでしょうね、やっぱり、次回でまた違ったアプローチがあるようだし。


 

★次回予告
 お気楽ムードから突然シリアスモードに移ってピヨモンを返そうという大の物言いは勝手といやあ勝手ですが、場合が場合。
 経験不足を度胸と腕っぷしで補ってる彼とちがい、知香は本物の素人ですからねぇ…頭の回転は早そうだけど。

 画面にファルコモンが写っているのも気になります。もしやピヨモンがより戦闘的に進化した姿…?
 成熟期→アーマー体なら例があるし、可能性はあります。そして私の予想通りなら、ちょっと悲しい話に…?