母さんの思い出 吠えろマッハガオガモン

 脚本:大和屋暁 演出:畑野森生 作画監督:八島善孝
★あらすじ
 メルクリモンがいるという、彼方の無限氷壁。そこを目指し出発した大たちは、ビルが一面に突き出す奇妙な谷に突き当たった。
 そこで彼らは多数のドクグモンに不意打ちを受け、捕らえられてしまう。
 さらに、谷の主であるメタルファントモンが現れた。人の心を絶望で食らいつくすという、恐ろしい魔物だ。その能力によって無理矢理眠らされた大たちは、心の奥底に眠る恐怖や痕が具現化した悪夢を見せられる。

 そんな中幼い日のトラウマ──目の前で母が死んだ光景──を、追体験させられたトーマ。
 彼の胸中に沸き上がってきたものは絶望ではなく、激怒だった。彼にとって母は過去の痕であると同時に、かけがえのない思い出だったのだ。それを利用したメタルファントモンへの憤りが、彼の全身に新たなデジソウルを溢れさせる。ガオモンが完全体進化! マッハガオガモンの登場だ。

 圧倒的なスピードとパワーで、メタルファントモンを粉砕するマッハガオガモン。大たちも目を覚まし、ドクグモン軍団を倒す。
 ところが再び出発しようとした矢先、淑乃が突然倒れてしまった……いったい彼女の身に何が!?



★全体印象
 15話です。もうこのままいきなりサブタイトル出す形式で通すのでしょうか。
 
 今回はあれこれあって結構ひさしぶりな気がするトーマメインのお話。筋立てそのものはシンプルで、密度的にもこのシリーズとしては並ですが、やはりトーマの過去が明かされたというのは非常に重要なポイントです。しかもあれはたいせつな要素でありつつ、全てではない。あの後彼はどうしたのか、父親はどんな人なのか、なぜ日本のあんな小さな一軒家で暮らしていたのか? ガオモンとの出会いは? 色々とわからないままです。

 そこまでは明かされないかもしれないし、あるいは明かされるかもしれない。ただ、あれがトーマの心の中だけの出来事であって、大や淑乃はもちろん、ガオモンでさえあずかり知らぬところなのは確かです。「次」に注目すべきなのは、やっぱりガオモンとの関係でしょう。楽しみです。

 というお話なので大のウェイトが弱められてますが、淑乃については悪夢のシーンやラストに今後へのヒントが乗せられており、彼女にとっても重要な回です。このあたりがライラモン登場に絡んでくる可能性はたかいので、覚えておきましょう。

 作画は八島氏の一人原画。動画はあいかわらず手慣れたもんですが、今回は止め絵シーンが多かったので少々きつかったかな?
 竹田氏か清山氏麾下の作画で見たかったという人も少なからずいることでしょう。

 大和屋氏は今回を入れると、何と3連続でトーマメインを担当。もはやトーマ専属といっても過言じゃありますまい。



★CM
 早くも9月にDVD1巻が出るとの告知がされました。
 しかも異様に安い1900円。…1話しか入ってないなんてこたぁないでしょうね?
 2話入りの場合だと2巻以降でも3800円ということなので、少し売り方を変えてきたようです。普及効果かな?

 まあどうだろうと買いますが。ええ、買いますとも。



★各キャラ&みどころ

・大
 今回は完全なトーマメインなので、サブの立ち位置でした。前半あんまりいいところがありませんでしたが後半で多少ばん回。
 それでも相当ヤバい目に遭った自覚はあるようで、トーマのおかげで助かったことも素直に認めていました。

 なんか彼の悪夢がいちばんギャグ入ってていまいち緊迫感ありませんでしたが、本人は凄くイヤそうな顔でその表情が妙に印象的です。
 そして彼だけ普段着だったので、DATS隊員であるということ自体にはあんまり意識がないようですね。やっぱりか。

 しかし、あんなところで知香が出てくるとは意外でした。メタルファントモンGJ。


・アグモン→ジオグレイモン
 大がシナリオ上あんまり喋らせてもらえない分、中盤は彼ががんばっていました。
 捕まってるときもガオモンたちがわりに見てるだけだったのに対し、一人なんとか自由になろうと足掻いていたりします。
 

・淑乃
 悪夢のシーンのアレは…彼女の背丈からして、10年前くらいでしょうか?
 14話で母親と話しているシーンがあるのでいちおう和解はしてるようですが、本来なら大学に行ってるべき彼女がなぜ父母のもとを離れDATSで働いているのか、そこのところが鍵になりそうな気がします。気になるのは、ララモン誕生の事例が所謂「ファーストイリーガル」であるという事実。果たしてそれは、どのくらい前のことなのでしょう? あの光景がデジモンと関係があるのか無いのか、まだ判断はつきません。

 最後で病に倒れましたが、アレも多分完全体進化への布石になってるんでしょう。


・ララモン→サンフラウモン
 サンシャインビームをデスパーサイトよろしく振り回して、めでたく撃墜数確保。ドクグモン7体の撃破を確認しました。
 しかし連中はしょせん刺し身のツマ、副菜です。このレベルをいくら倒したところで結局は30話以降のイブキさん状態なので、やっぱりここは完全体進化に期待するしかありますまい。そのときこそ、メイン敵の首をとれるはずです。祭りはもうすぐそこだ。

 ちなみに2クール目に入ってから雑魚撃破で初白星というと、チャックモンが思い出されます。
 フェアリモンに至っては26話を待たねばなりませんでしたが、さすがにそれよりは早いでしょう。たぶん。


・トーマ
 そもそも、彼はなぜあそこで悪夢から抜け出せたのでしょう?

 1.とっくに彼の中でケリがついている問題だった

  ただ胸の中にあまりにも大事に仕舞われていたため、メタルファントモンが勘違いして引っ張り出したという考えです。
  とすれば、ヤツはへたに触れてはいけないものに触れてしまったのか。人の心を甘くみたようですね。

 2. 母親の霊が守ってくれた

  これはちょっとオカルト度合いが強すぎるのであんまり支持できません。
  あのシーンは単にイメージと取ることもできますし。

 3. トラウマを見せつけられた怒りが悲しみを凌駕した

  読んだまんま。なかば無理矢理に捩じ伏せてデジソウル覚醒まで持っていったという捉え方です。
 
 4.メタルファントモンが思っていたほど深い傷ではなかった

  これはまあ、とりあえず論外。

 私としては1と3の折衷ぐらいで考えています。
 触れて欲しくない話題ではあるけど、でもそれは同時にトーマにとって代えがたい思い出で、誰にも穢されたくはなかった。だから、ただ彼を苦しめるためだけに母の思い出を利用しようとしたメタルファントモンが絶対に許せなかったのだと思います。貴様に何がわかる! という具合で。

 思えば、本質的にはトーマのデジソウルも出どころが大と似ているんですね。
 あのとき、消えてゆく母の命を目の前にしてトーマの抱いた悲しみと絶望はどれほどだったことでしょう? 自分の小ささ、無力さもイヤというほど思い知ったにちがいありません。なんとなく雰囲気の似ている小百合さんへの態度からみて、母親に抱いていた思慕はとても強いものだったはず。それほどまでに慕っていた母が目の前で死んでいこうとしているのに、どうすることもできない……子供にはつらすぎる経験です。

 そこから彼の心に生まれたものはやっぱり「強くなりたい」という一念だったのかもしれません。
 となれば、あそこでもう1回追体験したことで現在の精神のまま感覚だけが再生され、それがむしろ新たなデジソウルの引き金となった……
 と解釈することもできなくはありませんね。

 何のことはない。
 メタルファントモンは、彼の手伝いをしてしまったことになります。


・ガオモン
 どうやら、トーマがどんな夢を見ていたのかは断片的にすら知ることができなかったようです。聞こえなかったのかな。
 推測すらできてないようなので、 トーマは自分の過去を彼にさえあんまり詳しく話してないのかもしれません。
 そうでなければ、もしかしたら…という素振りくらいは見せていたはずです。

 そしてこれにより、パートナーとの関わりという大事な要素が温存されました。
 究極進化においてはパートナーとの出会いがさぞ濃く描かれるのでしょう。前フリもあると思うので、見逃さないようにしないと。


・マッハガオガモン
 マッハとはいいますが、どちらかというとパワーのほうが目立つ演出でした。
 吠えるシーンも多く、むしろガオガモンより野性的ですらあります。ビルを投げ飛ばす場面は圧巻。
 ライズグレイモンに対し近接技がメインである点も、メタルグレイモンとワーガルルモンの関係によく似てます。同時展開が待たれるところ。


・トーマの母
 こりゃまた美人ですね。しかも、トーマを女手一つで養っていたことになります。
 なにゆえ日本の、どこにでもありそうな一軒家で母子家庭だったのか、謎が残りますが…幸せそうでした。
 おそらくけっして豊かな生活ではなかったのでしょうが、それでも幸せそうでした。
 7話で見せたあの高級指向はむしろ幼少時の反動から来てる部分があると思えば、そんなには不自然じゃないかもしれません。

 お母さんの声を演じていたのは相田さやかさん。少年役以外は聞いた事がなかったので、すごく新鮮でした。
 (アバレンジャーで顔出ししてた覚えがありますがアレは特撮だし……)

 チビトーマも主役経験のある佐藤ゆうこさんなので、なかなか豪華です。

 
・イクト・ファルコモン・ゴツモン
 今回はクラモンの目を通して見てるだけでした。
 ゴツモンがいままで以上の長セリフで、しかも声優じゃないという色眼鏡を通すようになったため少し厳しい判断基準になりましたが、
 辛めにみても演じ切ってます。本職じゃないのを考えたら上出来だと思います。

 まあ、もともとモノマネ芸人やお笑い芸人は人にもよりますが声量と演技力をあわせ持ってますから、カバーがきくのでしょうね。
 たとえば「ボンバーマンジェッターズ」もお笑い芸人がレギュラーでしたが、一年の長丁場をみごと乗り切っていました。
 (アニメに一家言ある人たちだったというのもあるんでしょうけど)


・メタルファントモン
 シリーズ初登場。てっきり究極体だと思っていたら、別種あつかいでした。グレイモンとジオグレイモンのようなものでしょうか?
 わざわざ人間とデジモンを選り分け、人間の方の魂を食おうとするということは、味をよく知っているという証明。人間の心の影響を受けたある個体が、受け身になるのではなく積極的に人間を捕らえ、その心を食らって強くなることを覚えて進化していった存在なのかもしれません。

 しかし、彼は人間を甘く見ていました。人は心の弱さを撥条にして、限りなく強くなることもできるのだということを。
 あるいは、一面的にしか人の心を捉えられなかったところにこそ彼がこのような進化をした遠因があるのかもしれませんね。
 そう考えてみると、なんだか哀れな存在です。

 声は山口健さん。かつては「ダイの大冒険」で氷炎将軍フレイザードを演じていた人です。デジモンシリーズの「TVアニメ」には初登場なのですが、以前にも出演経験あり。「デジモンフロンティア 古代デジモン復活」のムルムクスモンがそれですが、それより前PS用ゲーム「バトルエボリューション」にゴクモン役で出ていました。このゴクモンもメタルファントモンと同じように骸骨そのものの顔をしており、雰囲気がちょっと似てます。


・ドクグモン
 メタルファントモンの手下として大量に登場、大たちを捕まえました。
 フロンティアを除く全作に出たことになりますが、出るたんびに弱体化してる種でもあり今回はとうとう有象無象になりはてました。
 01のときは成熟期3体を縛り上げ、ワーガルルモンが出てきてやっと倒せるほどの相手だったというのに…これも時代の流れか。



★名(迷)セリフ

「母さんの悲しい思い出を僕に見せたのは…メタルファントモン! 貴様だな!
 母さんの思い出を利用して僕の心を食らおうとした事…絶対に許さん……!!
 人の心を弄ぶ者は…その報いを受けるがいい!! 」(トーマ)


 誰よりも慕った母。自分を守るために、わが身を犠牲にした母。
 その母の思い出をあろうことか、自分の心を殺すために使おうとする、その悪辣が許せない。そんな感じですね。

 「おまえはその拳によって俺の精神を破壊しようとしたつもりだろうが、逆よ…!
  おまえは俺の一番大切なものを無惨に踏みにじり、俺の全神経に怒りを張り巡らせた! もはやお前を葬るのに、なんのためらいもない!」

 というキグナス氷河のセリフを思い出したのは秘密です。
(…そういえば氷河とトーマって同い年でした。というか氷河この後負けるんじゃ……)。



★次回予告
 意外に早くファルコモンとの共闘エピソードがやってきました。
 ブロッサモンが敵としてメインを張るのはたしか2度目ですが、02のときはダークタワーデジモンなので実質これが初めてかも?