奇跡を呼ぶ歌声 ライラモン進化
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脚本:山口亮太 演出:今沢哲男 作画監督:伊藤智子 |
★あらすじ
悪夢にも似た過去の記憶に苛まれる淑乃。回復した後も、彼女の気持ちが晴れることはなかった。
道程はいよいよ無限氷壁に肉薄するが、そこへイクトとファルコモンが襲撃してくる。そのうえ乱戦に乗じて、ゴツモンがマンモンを呼び寄せ雪崩を起こし、裏切り者とみなしたイクトらもろとも葬り去ろうと画策する。かくて一行は分断されてしまった。
仲間を探そうとする大とアグモンの前には、イクトとファルコモンの執拗なる追撃が。
殴り合いのなか、大はイクトの恨みの理由を知る。
淑乃をかばったトーマは負傷し、ガオモンと分断されてしまっていた。対処できるのは淑乃たちだけだったのだが、過去の記憶と最近の突発事が重なり弱気を導かれていた彼女は、戦うことに音をあげようとしていた。襲いくるマンモンへ、ララモンが単身果敢に立ち向かう。その歌声に、淑乃はパートナーとの出逢いを思い出した。どんなに辛いときでも傍にいてくれた、いちばんの友のことを……。
迷いを吹っ切った淑乃の力により、ララモンは完全体・ライラモンに進化。大きく花開いた潜在能力で、マンモンに圧勝を飾る。
そして、ついに無限氷壁にたどりついた大たち……そこに現れたのは、何とデジヴァイスのおっちゃんだった!?
★全体印象
17話です。山口脚本はあいかわらずアバンが長め。
ついにこの時が来ました。淑乃&ララモン組の完全勝利です。
しかも、相手はパワー型で大柄なマンモン。体躯でまさる敵を圧倒するのですから、どれほどの力を手に入れたか推して知るべしです。今までの展開も、この時のためのものだということなのでしょう。何より、淑乃が自分の力不足を自覚していたのは良かった。強さ関係の話題は、このシリーズだと案外スルーされがちなものですから…とにかく、初勝利おめでとう。今回はもう、それに尽きます。
ただ、合間に大組対イクト組がちらほら挟まっていてやや分散していた感は捨て切れないものがあります。
これは8話にもみられる現象で、山口脚本においてはたとえ他キャラメインであっても、大の出番だけは最低限確保されているようですね。山口氏としてはとにかく大が主役であって、どんな場合でも一定のセリフと出番は与える方針なのかもしれません。8話よりはよほど押さえられてますけど。
とはいえ、次がはやくもメルクリモンなので、ここでイクトについて布石を打っておくのは必要なことです。
前回でだいたいの事情は見えているのでその復習プラス、大にそのことを知らせるというねらいがあったのでしょう。
淑乃とララモンについては、思ったより象徴的な描写が多くて想像の余地が残ったかたちになっていますね。このあたりは後述。
しかし問題もあって、作画はともかく演出がもうひとつ抜けてません。
同じ演出でも、8話のときは八島作画のパワーでカバーしていましたが今回はそういうわけにもいかず、少々ヤバいショットも散見されてます。
そのためせっかくのライラモンデビュー戦でしたが、ライズ&マッハに比べ迫力不足は否めず。ここは残念でした。
でも進化バンクは美麗で、特に見得切りのカットは他2体をも凌ぐほどの完成度です。
★各キャラ&みどころ
・大
イクトの蹴りを出合い頭で難なく受け止めたり、あいかわらずの臨機応戦ぶり。
パートナーとデジモン同士が別々で各個にやりあってる場面は、なかなか珍しいものがあります。
ファルコモンに何のコメントもなかったのがちと寂しいのですけど、これは演出段階で削られた可能性ありです。
淑乃組のほうへその分を少しでも割いたのなら仕方のないところかもですが、一言はほしかった。イクトへは説得をしてましたけれど。
まあ兄貴のことだから、ファルコモンの立場はわきまえていて敢えて何も言わなかったと補完することもできなくはありません。
最後に戦闘現場へ駆けつけましたが、今回ばかりは淑乃らに締めを譲る形になりました。
というか、ライラモンの登場に面食らって進化さえ忘れていたのかも…。
・アグモン
こちらはファルコモンと殴り合い。なんだかギャグ風味です。
16話を見ていると、さぞ喧しいケンカ友達になれそうな予感がしますね。いや、これは確信だ。
・トーマ
前回につづき、目立った活躍といえるほどの事はしてません。
でも淑乃をかばったり擁護したり、いいところは見せています。むしろ、その性格ゆえに損をしたケースだったのかな、今回は。
ただ、山口脚本のトーマは多くの場合、脇や裏方にまわることがほとんどのように思います。
別に山口氏がトーマを嫌いなのか、などと根拠の無い邪推を語るつもりは毛頭ありません。単に、トーマについては大和屋氏や横手脚本にまかせている側面があり、且つ山口氏の担当がほぼ大と淑乃なので、トーマまで描く余裕が無いだけなのでしょう。テイマーズで構成をつとめる小中氏が留姫を吉村氏、インプモンを前川氏に概ね任せていたケースと似たようなものかもしれません。
まあまだ2クールなので、そのうち山口脚本でトーマメインの回が見られるかもしれませんけど…。
・ガオモン
たまに八島作画になったり戻ったりと忙しいです。
淑乃を説得する場面があり、むしろマスターよりセリフが多いですね。
さてあそこの長セリフ、なぜガオモンなのでしょう? 流れのうえでは、トーマでも良かったはず。
でもあの場合、駄目なんだと思います、トーマでは。あの場にはいませんでしたが、大やアグモンじゃもっと駄目でしょう。
まずガオモン自身、トーマにも劣らないくらい淑乃やララモンとの付き合いは長いはず。加えて、彼はデジモンです。
自然、同じパートナーデジモンであるララモンと会話を持つ機会がトーマより多くなるはず。だからある側面においては、淑乃以上にララモンのことを理解しているといえます。
淑乃とある程度以上の付き合いがあり、パートナーデジモンの視点から彼女へ声をかけられる者といえば、やはりガオモンしかいないでしょう。
それにガオモンは、精神的にいえばある意味あの中でいちばん大人ですから。
・淑乃
過去の一部が明かされました。予想に反し、彼女のトラウマ自体にララモンは絡んでなかったようです。
ララモンの役目は、過去に長く落ちる影に差しかかった向日葵であり、未来へ薫る紫のハシドイでした。
…要するに、彼女にはとっくにできていたのですね、フルチャージが。あとはキッカケだけがあればよかった。
でも、その一歩が踏み出せずにいた…あの若さで家族と別れ、DATSに入ったのももしかしたら、半分は逃げだったのかもしれません。それでもしばらくの間は良かったでしょう。しかし、デジモン犯罪の激化とともに肝心なところで結果を出せないケースが続き……人知れず悩むようになっていったと。その悩みがストレスとなり、連日の激務とともに知らず、彼女の体を消耗させていたのですね。そして体は治っても、心は回復しないままだった。
とりわけ、メタルファントモンに食らった精神的ダメージが堪えたでしょう。一人で抱えこんでいては、答えの出ない問題ですし。
抱え切れない苦しみは、ふたりで分け合えばいい。力が足りないなら、ふたりで強くなればいい。
鈍重ささえ感じさせるサンフラウモンから華麗に、力強く進化を遂げたライラモンの姿はまさに、開花した彼女の可能性をあらわすものでした。
他のどの組み合わせより、写し身の側面が強いふたりだったのですね。
命の花、咲かせましょう。思いっきり。
・ララモン→ライラモン
私が「実はもういつでも完全体になれていたのでは?」と思う根拠が淑乃の心に聞こえてきた声で、その時もうすでに演技がライラモンのものになっていました。眠っていた力が待ち切れなくて、光を求め淑乃へ語りかけてきたかのようです。
しかも入魂の子守り歌が、完全体のマンモンさえをも眠らせるほどの効果を発揮! これはすごい。底力の大きさを感じさせます。
進化してからは驚くほど一方的でした。トーマらさえ仰天するくらいで、溜飲の下がる一瞬です。待ってて良かった。
ゆかなさんの演技も愛らしく凛々しい得意のノリに変わり、自信を漲らせた雰囲気ですね。というか、キュ○ホワ○トですが…
この人はやっぱりこのあたりの演技がいちばん好きかもしれません、私。
それにしてもララモン→サンフラウモン→ライラモンと、全部イメージが違うのは凄すぎます。
淑乃の新垣さんもずいぶん上手くなったと思いますが、脇にこれだけ上手い人が揃ってるなら自然なことなのかも。
・イクト
…それにしてもこの子、見かけによらず大も真っ青の猪突猛進ですね。デジモン少年というより、イノシシ少年だ。
自分のことを人間ではなくデジモンだと宣言してましたが、むしろ人間じゃない相方より頭が弱そうに見えてしまってアレでソレな。
片言なのは山口氏に言わせればツッコミ待ちだそうですけれど。
…まあ普段どんな様子なのかまだハッキリしないので、見境がなくなるのは人間がらみだけかもしれませんが…。
それはそのまま、母親代わりだったユキダルモンへの愛情の裏返しなわけですし。
まあ、今後語られる側面も増えてくるはずですから待つとしましょう。
・ファルコモン
今回ちょっと無口でしたが、ギャグっぽくなっていてあんまり怖くありません。もともと悪党じゃない上、前回を経ていますしね…。
でもお前、登場当初の超絶スピードはどこに置いてきた?(^^;)
・おっちゃん
苦慮する薩摩隊長のもとにふらっと現れました。意外に早い再登場。
しかも、ラストシーンではいきなりデジタルワールドに来てます。…なんでこんな正確に先回りできるんだろう?
次回でそのへんの秘密が明かされるといいんですが。
あ、カメモンがパートナーだと確定しましたね。予告でガワッパモンへの進化シーンが挿入されてます…が、バンクは無しかな。
デジヴァイスは黒字に緑。どんな活躍を見せてくれるのでしょうか。
…ひょっとしたら、メルクリモンとは面識があるのかもしれないなあ。
・メルクリモン
ずいぶん遠くからでも人間の存在を感知できるんですね。さすがというべきなのか…。
再戦がこれまた、思ったより遥かに早くめぐってきそうで軽く驚いてます。今の展開はまだまだ前哨戦ということなのでしょうか。
こうなると、予想される真の敵は想定を上回る規模と脅威を秘めているのかもしれません。
・ゴツモン
今回も勝手に判断して勝手にイクトらを粛正しようとしてました。なんというか、前から思ってたけど妙に働き者です。
それもこれもメルクリモンへの忠誠心から来るもので、立場としては正しい事をしているのですが。
ぶっちゃけ、なーんか憎めないんですよねぇ……。
・マンモン
02以来の登場。アニメに出る場合は言葉をしゃべらせてもらえません。今回も例外じゃなく、あの印象的な嘶きを上げるばかりです。
やはり言葉をしゃべるよりは、パオーッと一声あげて巨体を揺らすほうが迫力があるって判断なのでしょう。たぶんそれは正しい。
でもよく見ると、必死だったとはいえ成長期の技で眠らされ、起きたと思ったらライラモンにボコボコにされるので全然いいところがありません。
パーティを分断したまではよかったのですが、後がつづきませんでした。
それでも初進化の相手として選ばれたのですから、まだいい方なのかもしれませんが…。
そういえば、直系の進化体であるスカルマンモンはまだ一度もアニメに出た事がありません。何故?
★名(迷)セリフ
「そんなことはない、淑乃さん! 君はよくやってる!」(トーマ)
あんまり出番のなかったトーマから一献。
いや、なんか心に残ったもので……気休めじゃなく、心の底から出た言葉なんじゃないかなあ、と。
やっぱり年上ってこともあるし、トーマとしては頼りにしてる部分が大いにあると思うわけです。
でも、「さん」付けなのに「君」なのか。
「ララモンは独りで戦っているのですよ? あなたを守るために……
ララモンは、進化できなくても精いっぱい戦っている……
DATSの一員として、自分にできることを精いっぱいやっているのですよ!」(ガオモン)
上述のとおり、ガオモンでなきゃこのセリフは言えないと思う私です。
こうして見ると今回のトーマ組は出番のわりに、良いセリフが多いですね。
さらに、DATS隊員という肩書きが乱れ飛んでいます。それも誇りのひとつなのでしょう。まさにPride of DATS。
どうでもいいんですが直前のローリングアッパーがアッパーでもなんでもなくて笑いました。
「ララモン!! ごめんね…! 私、忘れてた…
どんなに苦しいときも、私の傍にはいつも、あなたがいたことを…!」(淑乃)
このへんのセリフ聞いてると、新垣さんも上手くなったなあと思わされます。感情の込め方は最初っからできてましたけどね。
それにつけても、淑乃とララモンの付き合いってマジで10年来なのですね。大親友ですな。こんなに長い付き合いのパートナー同士は珍しい。
You're my best friendってか。
「さあ…かかってらっしゃい!」(ライラモン)
咲き誇る花のように、凛とした宣言。
このセリフを聞いた瞬間、私の頭の中には冬月先生がいました。
「…勝ったな」と。
★次回予告
完全体が揃い、戦力アップしたと思ったのも束の間やっぱり究極体にはボコられるみたいです。ちょっと無謀だったかぁ…。
せめて一体は究極体がいなきゃ、十二神クラスを相手にするのは厳しいのかもしれません。
気になるのはおっちゃんの動向ですが……。