母親を救え、イクト ハグルモンの檻

 脚本:山口亮太 演出:佐々木憲世 作画監督:竹田欣弘
★あらすじ
 野口邸へとやってきた大たち。
 母親・美鈴へ強く惹かれるものを感じながら、しかしイクトは受け入れられずにいた。
 野口博士は、息子を失ったショックからようやく立ち直りかけたばかりの妻を案じ、このまま立ち去ってくれと大に懇願する。

 やがて降り出した雷雨の影響でハグルモンが現れ、ブリキ人形に取り憑き家までも取り込んで暴れはじめた。
 その人形は赤ん坊のころのイクトがゲートへ消えたとき抱いたままだったもので、デジタルワールド調査で発見された遺留品だったのだ。
 ハグルモンは、母親とはなればなれになったイクトの強い想い……残留思念を吸収していたのである。
 敵の巨大な体の中には美鈴が閉じこめられていて、手が出せない。大はライズグレイモンが敵を押さえている間に、イクトへ母親の救出を託す。

  かくして美鈴は無事救出され、ハグルモンも倒された。ついにイクトと美鈴、母と子の対面が果たされる。
 ところが、そこに突然羽柴長官が現れた。野口夫妻に理不尽な咎をかけ、連れ去ろうとする。
 それを見たイクトは、騒ぎを起こしたのは自分で負債とは関係ないと叫び、ファルコモンとともに姿を消してしまうのだった。

 一方デジタルワールドには、新たなる脅威の影が……。



★全体印象
 20話突入です。
 わずか10話前にソウルモンあたりと小競り合いしてたのが、ずいぶん前のことのように感じますね。

 前回につづいてイクト中心のお話。…なんですが、まだ正式な仲間入りはしません。
 まあ、まだ何とかしなければいけない問題が山ほどあるので、うまく運んだとしたってそこからがまた難しいんですが。
 それにイクト自身にもたくさんの葛藤が残っていますから、母親へ素直に歩み寄れるようになるのはもっと後ってことなんでしょう。
 このぶんだと2クール目いっぱいは引っ張るかなぁ。そこから段階を経てゆるやかに、というのが王道かと。

 美鈴ママはとうてい二児の母とは思えないほど若くてエロエロなんですが、見ててちょっとゾッとする瞬間が何度かありました。
 子供たちへの想いがこの上なく強いのはたしかなんですけど心の傷が原因なのか、 狂気と紙一重な描写があったように見えます。
 その一方で成長したイクトを瞬時に見抜いたり、二面性がありました。大ママといい、この作品の母親はみんな存在感がおそろしく大きい。
 というかこの作品って漢アニメと見せかけてママアニメなんじゃ…(^^;)

 最後でいきなり出てきた国家機密庁の連中も気になります。なぜ今になって、野口夫妻を連行しようというのでしょうか?
 どうも一連の事件、われわれが思っていた通り根がだいぶ深そうです。
 ラストでは新たな究極体も登場で、2クール目収束をむかえる9月末にかけ、仕込みは着々と進んでいるようですね。

 作監は開始10秒でわかる竹田欣弘氏。何かタガでも外れたみたいに女性キャラがエロくなってます。
 淑乃も美鈴ママも服がいやにピッチリしてて影バリバリ。いったい作画チームに何があったんだ。リミッター解除の許可でも出たのでしょうか?
 それでいて長官あたりは見るからに手抜きなので、わかりやすいというかなんというか…。

 まあ大ならともかく、長官なんぞ綺麗に描いたって誰も幸せになれませんが。



★各キャラ&みどころ

・大
 何かすっかりイクトの兄貴分。いいセリフも吐いてます。イクトメインなのでこれでも押さえてるほうですが。
 あの一喝には、多分に自分自身の気持ちも含まれているのでしょう。

 それにしても、体格があからさまに上な屋敷ハグルモンを相手に一歩も引けを取らないとは……もはや物理法則を無視してます。
 やはり兄貴の熱きデジソウルはデジモンにとって諸刃の剣というか、一歩間違えると閃華烈光拳なのかもしれません。活性化しすぎて毒というか。
 たぶん人間相手には普通のパンチで、だから彼と互角以上に打ちあえるトーマであっても、ああした芸当はできないんじゃないでしょうか。

 ……まあ、やってみないとわからないけど。


・アグモン→ライズグレイモン
 細かいところでお茶目な仕草を披露してくれます。
 戦闘では美鈴ママを盾にとられて多少手間取ったものの、まともにぶつかれば楽勝レベルでした。
 さすがに成長期レベルでは、たとえ体格を補ったとしても彼を相手にするにゃ荷が重すぎるようです。


・淑乃
 上にも書きましたが、作画の関係でやたら描線にリキが入ってます。
 しかも普段より胸が強調されてて、制服の上だというのに谷間まで見えるほど。やりすぎです竹田さん(^^;)

 ストーリー上ではたいした出番がないんですが、そういった意味で印象に残ってしまいました。むしろ、だからああいう作画に走ったのかなあ。


・ララモン
 今回はたいしたことをしておらず、セリフも通り一遍なものばかりです。
 線が少ないので淑乃のような違いも出づらく、ほぼ空気。


・トーマ&ガオモン
 1クール目のおさらい気味にちょっと発言しただけでした。ガオモンに至ってはセリフ無しで、クレジットもありません。
 ちなみに、DATSの他のみなさんは隊長が妄想と司令シーンへちょろっと出ただけです。


・イクト
 深層意識に強く強く刻まれた母親への思慕。それを初めて意識した回になりました。

 憶えていた…と、いうことは……語弊はあるけど、彼はずっと錯覚をしていたのかもしれません。
 いちばん必要だったはずの時期に、失ってしまった母親の愛。背景からみて、拾ったのは十中八九、ユキダルモンでしょう。
 彼は自分自身を守るために、無意識のうちユキダルモンを母親の「代替」として自身を最適化した…そういう面もあるのではないでしょうか。
 片言なのは、知らないうちどっかで無理が出ていて……それで、どっかが欠落したまんま育った結果なのかもしれません。

 でもそれだと、ユキダルモンは結局「母親の代わり」でしかなかったということになってしまいます。
 それはあまりに寂しい結論ですし、否定されるべき要素でしょう。イクトにとってはどっちも母親で、どちらが欠けても成り立たないはずです。
 代わりとして片づけるには、ユキダルモンとあまりにも長い時間を過ごしたでしょうから。

 ただでさえややこしい事態がよけいややこしくなってるのは、人間にユキダルモンが殺されている?からですね。
 両方が健在であったなら、事はもう少し単純だったでしょう。どっちみち時間はかかるでしょうけど 。
 回想シーンでは、離別のシーンが断片的に描かれるばかりでした。もう一人の母親との出逢いや暮らしは、どんな風だったのでしょうか。
 16話でちらっと出てはきましたけど、もうちょっとこう、ありませんかね。今後に期待したいです。


・ファルコモン
 大たちとともに戦ったこともあるでしょうが、何よりもイクト自身の気持ちと幸せを考えているのが感じられます。
 誰より彼を近くで見ているだけに、美鈴ママを認めたとき、ひと目で「似ている」と直感したようですし。

 兄のようでも姉のようでもあるちょっと性別不祥なところは、いかにも人外っぽい。
 

・野口夫妻
 人里離れたところに住んでますが、別にイクトがいなくなったから隠棲したわけじゃなく元からみたいですね。
 まあ設備が大規模ですし、実験をするんなら都市部は都合が悪かったのかもしれませんね。

 イクトが消えたことで美鈴ママは自分を責めていたそうですが、これは超空間研究なんて始めなければよかった、という気持ちでしょう。
 事実、野口邸では長らく実験の行われた形跡がありませんでした。美鈴ママがぱったりと研究をやめてしまい、旦那も妻の気持ちを慮って
 研究から遠ざかっていたのでしょう。もう少し言うなら、研究者として長じていたのはむしろ奥さんのほうだった可能性があります。
 つまり旦那としては、イクトを探したくてもそもそもできなかったことになります。奥さんを養うだけで精いっぱいだったでしょうし。

 …それでもやることはやってたみたいですけど…だからこそ、なのか。イクトの代替をあてがってやろう、という。
 …そうか、親も子も代替をもうけることで、現実から目をそらそうとしていたんですね。
 じゃあユキダルモンやイクトの妹(弟?)が不幸せかといえば、それはこれからわかることなのだと思います。

 ただ、旦那の気持ちもわからなくはありません。
 私としちゃ、男というのは子供も大事ですが、妻だって同じくらい大事だと、守りたいと思っていると考えるものです。
 何もかも忘れて子供を追おうとしたり、自分よりもまず真っ先に幼いわが子を差し出す野口夫人とは、そこが決定的に違う。
 母親はなかば本能的に子供を最優先に考えるけれど、父親はその母親を含めた家族全体のことを考える。
 そういった意味でいうと、これは「親父の気持ち」というひとつの布石でもあるわけで、大の物語を考えるうえでの材料にもなりえるでしょう。

 野口博士を演じていた中博史さんは「ガンダムX」のテクス・ファーゼンバーグがまず浮かぶ人です。渋さのなかに苦悩を感じさせる声質。
 美鈴ママの熊谷ニーナさんは幅広い活躍をしていますが、ナレーションが多めみたいですね。


・ハグルモン
 はなわ氏が演じてましたが、怪音奇音しか発しないのもあって結構いい感じでした。
 でも、なかば事故のような形で登場したのを思うとちょっと気の毒な個体でもあります。

 母親をつかまえたのは、取り込んだイクトの思念がそうさせたのかもしれません。


・メルクリモン
 言い分と矛盾してますけど、イクトのことはホントに信頼してるんだなあと思いました。
 側近の証言でもにわかに受け入れられぬくらい可愛がっていたんだろうなと思うと、行き違いが悔やまれてきます。
 続いてのセリフも長としての慎重なもので、ここへ来ていよいよ好感度が上がってきました。

 直接一戦をまじえ、その成長ぶりを肌で感じた立場からすれば、警戒したくもなるのでしょう。


・ ゴツモン
 悪役を請け負っている立場。そのぶん、考え方は首尾一貫しています。
 彼が肩代わりすればするほどメルクリモンの好感度が上がるのは、たぶん計算された仕掛けでしょう。
 そう考えると、大切なキャラです。


・ サーベルレオモン
 14話の回想にも出てきたデジモンです。単なるイメージではなかったということか…。
 表舞台に出てくる究極体としては、2体目になりますね。当面のボスキャラということになりそうです。
 メルクリモンとはマブダチみたいですが、かつては森の覇権を争った仲でもあるんでしょう。

 声は上別府仁資(びふ ひとし)さん。
「ふたりはプリキュアMax Heart」のサーキュラスや「甲虫王者ムシキング」のグルムと、ここ最近の活躍がめざましい方です。
 渋めで締めるよりも高音域でこそ特色が発揮されますが、サーベルレオモンはサーキュラス型ですね。渋さを活かしたギャグもいける口です。
 まあ、サーベルレオモンはたぶんギャグはやらんでしょうけど。


・羽柴長官@国家機密庁
 空気の読めない人たち。デジタルワールド側のゴツモンにあたる立場なのでしょう。
 なぜ今になって、しかもこのタイミングなのか……推測するまでもなく、なんらかの作為が秘められていますね。
 大門博士についての項目が隠されていることといい、何かよほど隠蔽したい不祥事のようなものを抱えているのかもしれません。
 どっちにしても、ろくなもんじゃありますまい。

 そのうちお抱えの新組織でも出してきそうな勢いですね……いや、冗談抜きで。



★名(迷)セリフ

「傷ついたときに…お互いかばいあって一緒に生きていくのが、家族なんじゃねェのかよ!」(大)

 真っ当なセリフですが、いまだ行方不明な父親へのやり場のない怒りも混じってるように思いました。
 そーいえば子供の頃の記憶を語ってましたけど、あれも微妙に伏線っぽい。


「よくお聞き、イクト……これから先、つらく悲しい運命が待っているかもしれない…
 だけどイクト、決して人間を憎んじゃいけないよ……なぜなら、お前は…… 」(ユキダルモン)


 人間なのだから。
 そう言いたかったのでしょう。
 イクトへの想いが本物だからこそ、同じ人間の親のところで暮らすのがいちばんいいはずだと、ずっと信じていたのかもしれません。
 母親は、なによりも我が子が幸せであることを願うものですから。形は違えど再三、美鈴ママとも重なる要素です。

 そしてだからこそ、イクトは強く人間を憎むようになってしまった。
 それ自体が、彼とユキダルモンの絆がほんとうに強かった証左でもあります。まあ、今さら言われても難しいというのはあるでしょうね。


「自分の気持ちを誤魔化そうとするんじゃねェ!
 たとえ顔を見たことがなかろうと…子供は自分の親への気持ちを、消せやしねェ!
 子供なら……人間なら、それが当たり前なんだよ!!」(大)


 なんといっても彼自身がそうだから、ですね。
 顔に出したり言葉にしたりするタイプじゃないけど、彼の父親への思慕は確かなものです。
 もし彼がいなかったなら、かわりにトーマが言っていたかもしれません。もう少し理性的な物言いで、ベクトルも少し違うでしょうけど。


「勘違いするな…! デジタルゲート開いたのも、こいつらの家壊したのも、みんなこのおれ…!
 デジタルワールドの戦士、イクトさまだ!! 」(イクト)


 気づいているのかいないのか、結果的に両親をかばう形になっている発言です。
 と同時に、長官らへの嫌悪がそうさせたとも言えるわけで、ユキダルモンを殺した連中と同じ匂いを感じたのかもしれません。
 問題は、国家機密庁がどこまであのあたりの問題を知っているのかということですが…

 半分かくれてるファルコモンの表情がポイント。



★次回予告
 急展開。ここからは一気に2クール目ラストへなだれ込みそうですね。
 ちなみにデジモン名が入っていない初のエピソードなので、特定のデジモンと戦う展開じゃないのかもしれません。
 画面では、プテラノモンとボアモンが多数確認されています。