猛攻倉田軍団 聖なる都を守れ

 脚本:山田健一 演出:畑野森生 作画監督:上野ケン
★あらすじ
 エルドラディモンは、湖という地の利を失った。ギズモンの大軍団が続々とせまる。

 各員決死のたたかいが熾烈をきわめる中、淑乃とララモンはイワンと相対していた。淑乃へ熱烈なモーションをかけるイワンだが、
 これにララモンが奮起。ロゼモンへ進化して、本人を置き去りに壮烈な淑乃争奪戦を繰り広げた。
 しかし、戦闘中にイワンの冷徹な側面を知った淑乃は彼を拒絶。苦闘の末、ロゼモンと二人三脚で辛勝をおさめる。
 ところが、イワンが心を鬼にしていた理由は家族を養うためだった。裏で糸を引く倉田に、淑乃はあらためて怒りをつのらせる。

 いっぽう、大とイクトはようやく倉田のところにたどり着くのだが、コウキが立ちはだかった。
 その間にも倉田の策略は着々と進み、エルドラディモンの足元で時空振動爆弾が炸裂する。口を開けた巨大なデジタルゲートへ、
 自重に負ける形で引き込まれていく聖なる都。大たちもあわてて追跡にうつる。

 こうして、エルドラディモンは数多くのデジモンたちを乗せたまま、人間界にその巨体をあらわしたのである。
 倉田のねらいとは、一体……!?



★全体印象
 32話です。アバンパートが「そんなところで切るな」とツッコミを入れたくなる引き。
 いやはや、この段階で地上に行くとは思いませんでした。つくづく楽しませてくれます。

 「聖戦士ダンバイン」の「浮上」を思い起こさせるエピソードですが、偶然なのかどうなのか、奇しくも同じ32話。
 ロイヤルナイツもいるので、今後ずっと地上…じゃなかった、人間界ってことはないでしょうけど。
 この一大イベントで霞んだかと思いきや、淑乃組対イワンもなかなか盛り上がりました。タイマン勝負はやはり燃えます。
 合間にギャグもビシバシ入っていたので、30話代ではトータルにおいて上位に来そうなエピソードかもしれません。

 別の方面ではトーマの動きも気になりますが、これでまた状況が変わったといえます。
 次回からどういう風に転がっていくのか、ますます読めなくなってきました。ハラハラしつつ楽しみも増えていますね。

 作監にはひさしぶりに上野ケン氏が復帰。おおよそ半年ぶりです。
 景気付けというわけじゃないのでしょうが、原画にはほかにも作監クラスの名前がズラリ。作画レベルは極めてたかいです。
 デジモンシリーズとしては現在までの最高レベルに達しているといって過言ではないでしょう。

 今シリーズになってからは演出の層も厚くなってるんですが、ここへきてますます強化されつつありますね。
 大詰めに向け、スタッフの総力も結集しつつあるのだと実感させられます。

 これでガッシュにも参加していた大塚健氏が来てくれたら最高なんですが、それは贅沢というものですね。
 氏は東映だとビックリマンとプリキュア。あと、ダンクーガノヴァにも参加しているようです。



★CM
 東京では、この枠でもついにWiiの宣伝がはじまりました(たまごっちのピカピカだいとーりょー)。
 今のままだとデジモンゲームはこっちに投入される可能性がたかそうなので、その意味でも押さえないといけません。



★各キャラ&みどころ

・大
 淑乃が目立っていたので出番はあんまりなく、その少ない中でもそれほど良いところはありません。
 特筆するならトーマへの信頼を見せるシーンと、目ん玉グルグルの場面でしょう。


・アグモン→シャイングレイモン
 アバンにのみ戦闘シーンがありましたが、これだけでもかなり満足の出来映え。
 良作画に支えられ動きまくりでした。半分ギャグとはいえ、ポンポン必殺技を撃ってるだけだった前回がウソみたいです。
 見せ方次第でこうまで変わるものなんですね。

 それにしても、翼からのバーニア炎がつくづくディスティニーガンダムのよう。


・淑乃
 彼女も動きまくり。というか、作画の重点は半分以上が彼女たちのパートです。わかってるなぁというか。
 竹田作画丸わかりなシーンもあって、思わず笑ってしまったものです。

 ここ最近、さらにいろんな意味で強くなってきてる彼女ですが、今回はとうとうギズモン:XTに生身で立ち向かうまでになりました。
 それだけでは飽き足らず、究極体と化したイワンを面と向かって糾弾するほど。なんというか…ホントに強くなったなあ、と。
 ここへきてトーマが壁にブチ当たっているように見えるのとは、きれいな対象を描く右肩上がりです。
 いま思えば、トーマへの言葉も大と同じく成長を続けているという実感からくる、一種の余裕だったのかもしれませんね。

 比例して、声を演じる新垣さんにもハッキリと成長がうかがえます。今回であらためて確認できました。
 長セリフや叫びに破綻が目に見えて少なくなってきています。平たい話、叫べるようになってきているというか。
 とりわけ、長いセリフが板についてきているというのは大きいですね。こちらの慣れというだけじゃないと思います。
 だって、一話あたりの演技とはあきらかに差が出てきていますもの。

 最終話を迎えるころにはどうなっているか、今からいよいよもって楽しみになってきましたよ。
 


・ララモン→ロゼモン
 「真性」認定されそうな数々の言動はしかし、ギャグもシリアスもこなせる万能ヒロインとしての立ち位置をさらに決定づけるもの。
 一部、Vテイマー01を思い起こさせてくれたりもしましたね。というかこのコンビ、なにげに歴代ヒロイン最強クラスじゃないでしょうか?
 …別ベクトルで敵に回したくないのは何人もいますけど。

 戦闘では、精彩を欠いていた前回のトーマ組と異なり互角からの押し切りという形。
 あの体格で巨体を誇るスピノモンに勝つのですから、つくづくデジモンは体の大きさじゃはかれないものを持ってます。
 勝負を分けたのは、 守るべきものをすぐ背中に負っているかどうかってところでしょうか。

 それにつけても、ゆかなさんの演技が実にいい。
 アダルティに見せて熱く、クールと見せてお茶目で、だけどあくまで格好良く。これぞロゼモンといっていい演技です。
 ライラモンのときのはじけるような、健康的お色気という風情の演技とまったく次元を変えているのがとにかくすごい。
 今さらになって、なぜララモンに起用されたのか心の底から理解しました。実力がなきゃできませんよ、こんな演じわけ。

 ところで、腕のイバラは攻撃だけでなく防御にも使えるようですね。直撃コースだったのか、削り負けしてましたが…。


・トーマ&ガオモン
 今回はひどく動きが鈍いです。この非常時に何をやっているんだ君らはとツッコミたくなってしまったくらいのもの。
 まあ、今回の事象のうち何割かが同時進行なのでしょうけれど……最後の方でトーマの見せた表情は、どうにも気になりますね。
 次回で人間界に行くとなると、ますますどんな事態が振りかかってくるのか予想がつきません。台風の目になりつつある。


・イクト&ファルコモン
 まだまだ究極体進化はおあずけ。ヤタガラモンも今となっては、すでに力不足の感があります。
 しかし、ラスト前にびゅんびゅん飛びまくりで回転しまくりな大立ち回りを見せてくれたため、それほど地味な印象はありません。

 倉田を攻撃しようとするたんびにコウキに蹴られていたのは気の毒でしたが、ちょっと笑ってしまいました。



・湯島のおっちゃん&カメモン→ガワッパモン
 淑乃がイワンと相対していたので、その間は戦慣れしてないデジモンたちを鼓舞して奮戦していたものと思われます。
 地味ですがきわめて重要なポジションのひとつ。大があとを託したのは、このコンビの存在もあったからだったんですね。
 見たところかなり持ちこたえていたようなので、よほどに的確な指示を出していたのでしょう。亀の甲より年の功。

 ガワッパモンもひさびさに登場。すでに雑魚化したとはいえ、ギズモンを殴り飛ばす強さを発揮していました。
 あいかわらず顔のわりにやたらとカッコいい声が笑えます。作画にはめぐまれてませんがそれもご愛嬌。


・聖なる都のみなさん
 ほとんどはギズモン軍団を相手取って奔走してますが、何体かは淑乃対イワンの現場にも居合わせています。
 そのうちの一種がタネモン。ジュレイモンといい、植物系の登板率が妙にたかいですね。懐かしいです。

 で、Bスピノモンを無謀にも背後から襲おうとしたのがヤシャモン。フロンティア映画にも出ていて、妙にアクションが多めでした。
 Bスピノモンに殺られたとき、デジタマになった様子がなかったのは…やっぱり、消滅したんでしょうね。
 倉田軍団(どうでもいいけど、微妙な呼び名です)にやられたデジモンは、すべからくデジタマになれないと思っておくのが妥当でしょう。

 人間界に放り出された彼らがどんな反応をみせるか、今から気になってしょうがありません。


・ギズモン:XT
 はい、とうとう淑乃にやられました。もはや何も言うまいというやつです。


・イワン
 もとKGBであり、かつ愛妻家という裏設定は一言も語られてないので、たしかに消滅したようですね。
 かわりに、27話で見せた惚れっぽいサトラレ体質という側面を強調する方向で一致したようです。
 かならずしも当初の設定通りにはキャラが転がらない、という好例かもしれません。

 その一方で今回際だったのがもうひとつの設定、傭われという身分。
 アニメの設定でいうなら彼はロシアの市場経済化にともなう恩恵を受けられなかった、いわば「負け組」なんでしょう。
 最近知ったことですが、もとKGBは現在のロシアにおいてもつよい影響力を持っています。でもイワンはまだまだ年齢が若いし、
 設定が生きていたとしてもドロップアウト組なのかもしれません。
 となれば、食べていくために傭兵をやっていた時期もあるのでしょう。あの冷徹な側面はそこで養ったのだろうと考えます。

 そんな彼がわざわざ祖国を出て日本はおろかデジタルワールドくんだりまで来るのだから、倉田はかなりよい額を示したのですね。
 ロシアは物価と収入のバランスが必ずしも良くないようなので、それをも埋められるだけの金額を約束されたのかも。
 それプラス、彼自身に適性があったから誘われたってところでしょう。
 淑乃にモーションをかけていたのはアレでしょうか、普通に惚れたというのもあるんでしょうが、経済力のある日本人の彼女と
 懇意になることによって、一石二鳥の効果をねらっていたというのはあった気がします。

 でもああして見ると、ほんとうに語りたくないことは心の奥に封じ込めるタイプだったのかなあ、なんて思ったり。
 その弊害で、知られてもいいことはペラペラ喋るようになっちゃったのかも。

 さて、生活のために傭われて兵士をやるというのは世界レベルでみればそれほど珍しいことじゃありません。
 結果、汚れ仕事をやることもあるでしょう。末端レベルであればなおさらのことです。
 イワンにとってはむしろその延長線上で、相手が人間でないぶんだけひょっとしたら気が楽だったのではないかとさえ思えます。
 問題はその相手が、虐殺されなければならないほどの不利益を人間界にもたらしていないこと。

 だからまあ結論をいえば、もうちょっと仕事は選びなさいってあたりに落ち着くんですが。
 死んだようには見えないので、ナナミ同様まだ出番はあるかもしれません。


・バイオスピノモン
 バイオハイブリッドとはいえ、アニメ初登場。もしやと思ってましたが、やっぱりステゴモンの上はこの姿でした。
 進化シーンではわざわざ克明に変形シークエンスまで描いていて、彼らの異質さを際だたせてくれています。演出かもしれませんが。
 見たところシリンダーらしきものは無くなってるし、技術の進歩はたしかに伺えます。

 とはいえ説明の一兆度には「ちょっと待てー!」と全力でツッコミを入れてしまいましたが。
 いや、なんというか……ゼットン火球を嘗めるなと。
 しかも直撃じゃないとはいえ、ロゼモン倒せてないし。植物は火に弱いのに。

 たしかに強くなってますが、ロトスモンのときほどの脅威は感じない仕上がりでした。
 まあ、前回はいろんな要素が重なってこそのあの強さだとは思いますけど。


・コウキ
 倉田のそばに控えており、大&イクトと激突しました。ということは、倉田は大がここへ来ると見切っていたことになります。

 身体能力的にハッキリ向上してますね。あの大をあそこまで完璧に迎撃するくらいですから。
 これはナナミにもみられた現象で、融合していたデジモンの戦闘力が上がったので生身でも強くなったという単純な計算でしょう。
 どう見ても10メートル以上は跳躍してヤタガラモン蹴っ飛ばしたりしていたし、アバレまくりでした。

 ただ、注力をはずれていたのか彼の出てる場面はあんまり作画がよくありませんでしたけど…。


・ナナミ
 トーマに背負われてましたが、よく見るとミラージュガオガモンの手の上にも寝てました。
 つまり、死んでないってことになります。死んでるなら、わざわざ背負って移動したりはしないはず。
 似たような理由で、イワンも恐らく死んでないでしょう。やっぱり、デジモンのデータがリアクティブアーマーになってくれたんですね。
 皮肉にも、道具として使っていたデジモンの力に救われたってことですな。


・ 倉田
 ここへ来て、またまた視聴者を煙に巻くような行動に出ました。
 デジモンたちを皆殺しにしたいなら、デジタルワールドだけで完結すれば済む話。それをわざわざ人間界に持ち込んだということは…
 推測通りなら、なんとも悪意のある行動に出ました。しかも、まだベルフェモンの存在がある。

 そのうえ、主人公らを目の前にするとすぐに逃げてしまう、あの妙な引き際のよさ。お前はセレブ・カーナか。
 視聴者の怒りとフラストレーションを募らせるのが悪役の存在理由なら、彼はそれをじつに有能にこなしているといえるでしょう。
 どういう落とし所を迎えるにせよ、大にぶん殴られるのは確実なわけですから、これでますます楽しみになったというものです。

  …でもホント、一体なにを狙ってるんでしょうね? 期待させてはくれます。たぶん、いまが絶頂期でしょう。
 フタを開けるまでが華という説もありますし。



★名(迷)セリフ

「…いや…エルドラディモンの守りは、トーマに任せてんだ。大丈夫。オレたちは、倉田の所へ急ぐぞ」(大)

 あとでトーマも似たような発言をしているのですが、これを信頼関係が切れていないとみるか、
 信頼関係のようにみえて空転しているとみるかで、のちへの解釈が少しずつ変わってくるような気がします。


「その勝負乗ったわ! そのかわり、わたしが勝ったら二度と淑乃には近づかないでッ!」(ララモン)


 映画といい、ここの所とみに表情豊かになりまくりな彼女。 
 と思いきや裏にはしっかり計算もはたらいているあたり、黒いですララモン。
 なんというか、女は怖い。


「はっはっはっ、どうだ! いまのオレはステゴモンにくらべてスピードは10倍、パワーは100倍…そして!
 ハニーへの愛は、無限大だ…!」(バイオスピノモン)


 よりによってこのセリフでアバンパート終了。
 そしてまさかこんな形でスピノモンが出てくるとは、わたくし夢にも思いませんでした。


「心配しないで。淑乃はぜったいに渡さないからねっ」(ロゼモン)

 おう、これこれ。Vテイマー01を思い出したのは、このカットです。


「負けられないんだ…! もう…! もう絶対、誰も殺させないんだーっ!!」 (淑乃)

 初期の彼女には見られなかった類のセリフ。
 同時に、新垣さんがいままでで最高の叫びを聞かせてくれた場面でもあります。エコー補正はあるにしても。


「イワンのばか!」(淑乃)

 あまりにベタすぎて不意打ちぎみに噴いてしまった。
 だが、そんなことは口が裂けても言えない。←これも名セリフですね。今さらながら。


「フフフ……すべては私のシナリオ通り…」(倉田)

 またまたベタなセリフです。眼鏡系陰謀キャラにはかかせないコーディネート。
 ただしこれが出てきたら寿命が縮むという、リスキーなカードでもあります。彼は手札をうまく使えているのか否か。



★次回予告
 たった一人の相手を殺すために立つ男がひとり。
 目の前の敵が所詮通過点でしかない男がひとり。勝つのはどっちだ。

 小百合ママと知香の意外に早い再登場のほうが楽しみだなどとは口が裂けても言えない。